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つばさ発の単行本「怪盗ファンタジスタ」ができるまでの裏話

つばさ発の単行本「角川つばさBOOKS」の新刊、『怪盗ファンタジスタ』が大好評発売中!
つばさ文庫の人気シリーズ「怪盗レッド」からの、完全新作スピンアウトが生まれるまでの話を、作者の秋木真さんと担当編集者にたっぷり聞きました!


怪盗ファンタジスタ、満を持して登場!?


――とうとう出ました、『怪盗ファンタジスタ』の本が!

秋木(以下、秋):みなさん、お待たせしました。思ったよりも、時間がかかっちゃいましたね。
「いつかファンタジスタを主人公にした物語を書きたい」とは、「レッド4巻」で、恭也が初登場したころから思っていたのに。


担当(以下、担):8巻あとがきの「キャラクター座談会」に、ファンタジスタが電報を送ってきてるくらいですからね。シリーズ乗っ取りの犯行予告を!

秋:恭也自身は、そのつもりだったんじゃないかな(笑)。
そのあとじつは、「少年探偵 響」シリーズを始めるときも、さらに『怪盗レッドTHEFIRST』を出すときも、「恭也が主役のストーリーはどうですか?」と、担当さんと相談してましたよね。
でも残念ながら、そのときは実現しなかった。

 


響が主役のミステリーシリーズと、アスカとケイのお父さんたちが主役の単行本、THE FIRST。



――なぜですか? 恭也は主役クラスの魅力の持ち主なのに!

担:うーんそれは、恭也のキャラクターが、角川つばさ文庫の対象読者に対して、少しおとなだったから……かな? ちょっとかんたんにはいかなかったんです。
じゃあ、なぜ今『怪盗ファンタジスタ』を出せたのか?と言うと。
つばさ文庫を読んでいる人が、小中学生だけじゃなく、もっと上の年齢の方にも広がってきたからと言えるかも。
最近読んでファンになってくれた方と、ずーっと前から応援しつづけてくれているみなさん、両方そろったからこそ実現したのが、この本なんです。


自由すぎるよ、主様!!


――『怪盗ファンタジスタ』には「怪盗」という言葉がついていますが、「怪盗レッド」とは、読んで受ける印象がけっこうちがいますね。ふしぎです。

秋:はい。なぜそうなったかと考えてみると……レッドとファンタジスタって「怪盗としてのポリシー」が、正反対なんですよ。


――ポリシーが正反対?

秋:はい。というか、「怪盗」という言葉に対して、正統派なのは、むしろファンタジスタのほうじゃないかなと。
レッドが、異色なんです。アスカとケイは、怪盗だけど、「正義を行う」ことに、こだわっているので。
でも、恭也は正義についてはあまり考えていなくて、「自分がやりたいこと」に、とことん正直に動くんです。
だから、レッドとファンタジスタでは、事件に対するむきあい方がちがう。
そこが2つの作品の印象の差になっているんじゃないかな……。


「だれも傷つけたくない」レッドの2人と、「みんなを楽しませたい」ファンタジスタ。
2組の怪盗の戦う動機は、正反対…!



担:なるほど。でも恭也って、正義については考えてなくても、性格の根っこに気品があって、人を悲しませたりおとしめたりは、決してしないんですよね。
そこは、さすが「元・花里家の跡取り息子」だなって思います。
お姉さんの花里琴音さんと、共通するものがありますよね。


秋:『怪盗ファンタジスタ』の主人公、15歳の恭也は、事件に対して、まず自分で動くし、戦うときも最前線に立つタイプ。
レッドは、実行担当のアスカと頭脳担当のケイが、力を合わせて「二人で一組の怪盗をやっている」ところがポイントですが、恭也は、即断即決、そして即行動します。
おかげで、レッドにくらべると、冒険活劇っぽい要素が多くなったかな。
ぼくは、恭也のスピードに、敵だけでなく読者も踊らされてほしいな……と思いながら書いていました。


――映画を観ているような、どこに連れていかれちゃうんだろうと思うスピード感ですよね。


担:従者であるマサキとツバキさえ、「主様」に踊らされちゃってますもんね~(笑)

秋:『怪盗ファンタジスタ』は、「恭也が2代目を引きうけて、それほど経っていない」という時間設定なので。
マサキとツバキが、「新ファンタジスタ」恭也の自由すぎる行動に慣れてなくて、ハラハラしているんです。


――「怪盗レッド」の中でずっと、恭也の忠実な部下ぶりを見せてきたマサキが、恭也の行動に当惑をかくせていないあたりが、かなりおもしろいです(笑)。


マサキとツバキの間に、みなぎる緊張感。
次に「主様」がどう動くのか、従者2人にもまったく予想不能!


 


ファンタジスタの従者コンビ・マサキとツバキに注目!


担:「怪盗レッド23巻」で初登場したツバキが、本格的に物語に出てきましたね。

秋:じつは、ぼくが書いた順番としては、「レッド23巻」より『怪盗ファンタジスタ』のほうが先だったんです。
ツバキは、はじめて書いたときから、ごく自然に「これまでもマサキとともに、恭也のそばにいた人」として、すんなりとハマったキャラクターでした。


担:あの「レッド10巻」の裏側、フラワーヴィレッジ城にいたお客さんの中に、ツバキがいたのか!と。驚きつつ、納得しました。
 


レッド10巻挿絵より。じつは、このパーティー会場の中に、ツバキが潜んでいた…!!



秋:ツバキは本来、けっして表には顔を現さず、裏方に徹しているので、レッド本編の中には絶対に登場しないキャラクターなんです。
でも、「レッド23巻」は『怪盗ファンタジスタ』とリンクする本だったし、あの10巻フラワーヴィレッジ城の裏側でなにがあったのかという謎をみなさんに明かしたくて、本編とは別の短編として書きました。
『怪盗ファンタジスタ』と「怪盗レッド23巻」は、もちろん別々に読めるのですが、自分の中では完全にリンクした物語として書いています。


担:マサキとツバキの関係が興味深いですよね。
「主様」の恭也の部下としてライバル関係でもあり、小さいころから恭也とともに育ってきた幼なじみでもあり。
マサキには、もう1人、14巻以降ふしぎな距離感のある桜子という女子がいますけど、ツバキは桜子よりもずっと前から、だれよりも近くにいた人でもあるわけで……。
とにかく、マサキとツバキのいがみ合いと息の合い方が絶妙なので、ぜひ注目してほしいです。

 


15歳のときも今も、2人の関係は変わらない…!


 


初代・怪盗ファンタジスタは、やはりかっこよかった!

秋:恭也の師匠であるアルフォンスを書けたのも、よかったです。


――そうですね。『怪盗ファンタジスタ』が、アルフォンスが子どもの恭也を救うシーンからはじまったのには……驚きました。
その後の本文中にも、小さいころの恭也と「師匠」であるアルフォンスのエピソードが、はさみこまれていますね。


秋:この本から読みはじめる人にも伝わるように書きつつ、怪盗レッドシリーズをこれまで読んできた恭也ファンが、知りたかっただろうエピソードを入れてみました。
アルフォンスは、命の危機にあった幼い恭也をかくまい、さらに育てあげた「師匠」。

そして今は、「ラドロのボス」として活動していて、アスカとケイとも繋がりが深いです。どうしてなのか……。
アルフォンスの行動の裏側には、こういう設定があったので……やっと書けました。
アルフォンスは、「人としてのやさしさと厳しさが同居しているおとな」として書いています。


担:恭也は、アルフォンスから「2代目ファンタジスタ」を引きうけることを、まったくためらいませんよね。それは、師匠がこういう人物だったからなのか……と納得しました。

秋:実際には、怪盗なんだから、「後を継がせる」必要はまったくないんですよ。
それはレッドも同じなんですけど。
恭也だって、アスカたちだって、怪盗をやりたければ、別の名前ではじめればいいんですから。
でも、それぞれの「初代怪盗」には、強い信念や、使命感がある。
それを見ていた若者たちが、名前とともに想いを受け継ぎつつ、自分らしくつづけていく。
それぞれの「初代」も、「あとは自由にやってくれたらいい」と、信じて、託す――。
その点は、2組の怪盗に共通するポイントです。

 


「ラドロのボス」となったアルフォンスと、彼に従う恭也。2人の関係が『怪盗ファンタジスタ』であきらかに……!



担:そういう関係、グッときますね!


ホームズさんと「子猫ちゃん」の存在


――新キャラクターとしては、「探偵ホームズ」が出てきます。

担:ホームズは、その名のとおり、ファンタジスタを阻止するかもしれない、若いけどかなり優秀な探偵さんで、今回も、ただ1人、ファンタジスタを追跡してきます。
そんなライバルなのに、恭也がホームズのことをぜんぜん嫌がってないというか……むしろちょっとうれしそう!?

 


一見、ふつうの青年に見えるが、じつはファンタジスタをおびやかす名探偵、その名もホームズ。



秋:恭也は「刺激のない盗みはつまらない」と考えているので。
できるものなら、どんどん邪魔してこいと思っていそうです。


担:マサキとツバキはきっと「わざわざ危険になるようなことはやめてくれ~」と思ってますよね(笑)。



――もう1つ注目なのは、ゲストヒロイン・サラの存在ですね。

担:ゲストヒロインというか、「ゲスト子猫ちゃん」(笑)。
追いつめられた子猫ちゃんをほうっておけないと、みずから事件に首を突っ込んでいく恭也……あ~本当にこまった人ですね、目がはなせません(笑)。

 


なぜか追いかけてきてまで、おせっかいをやこうとする恭也に、警戒心いっぱいのサラ。



秋:サラはこの本の「ゲスト」ではあるんですが、恭也たちと同じ裏の世界の人間なので、今回できた縁が切れるわけではありません。これからも、なにかしらの形で再登場するかもしれません。
 


ファンタジスタを描いた、新しいイラストレーターさん


――『怪盗ファンタジスタ』では、丹地陽子さんがイラストを描かれています。

秋:この作品が単行本になると決まったときに、担当さんとかなり話し合いましたよね。『怪盗レッドTHE FIRST』のときと同じく、しゅーさんにお願いするのか、あるいは別の方に?と。
迷ったけれど、これまで言ったように、レッドとファンタジスタではかなりテイストがちがうし、舞台もヨーロッパですし。あと書き上がってみたら、予想していた以上に、ひたすら恭也を中心に回っている世界で。
このちがいをはっきり伝えるためにも、思い切って別の方に描いていただこうということになりました。
もちろん、怪盗レッドシリーズは「しゅーさんだからこそ」です。
そして、あえて『怪盗ファンタジスタ』は、別の物語として。

担:『怪盗ファンタジスタ』の恭也は、レッドに登場する恭也とは少しちがって、15歳だからこその無敵感というか、おとなびていつつも、やけにこどもっぽいところもあるアンバランスなところが魅力なんですよね。
そこを丹地さんに絵にしていただきたいと思ったんです。
打ち合わせしたときに、
「目の前にいるんだけど、彼だけが地面から数センチ浮いているような。この人だけ重力がちがっているんじゃないかと感じるような少年を描いてほしいです」
とお願いしました。

 


おとなを相手にして「頭のかたいおとなにはできないことのすべてさ」とこたえる無敵感!



秋:……そんな抽象的なことを言われて、恭也という複雑なキャラクターも理解して、絵にできる丹地さんが、すごいですね。

担:そうですよね(笑)。カバーイラストをいただいたときには、華奢だけど、しなやかな強さを備えている感じ、ちょっとお茶目なところも、「まさに15歳の恭也!」と驚きました。


――――15歳だけでなく、5歳のチビ恭也の絵もかわいいんですよね!


秋:そうなんです。すでに本を買ってくれた方は知っていますが、実は『怪盗ファンタジスタ』には、本編とは別に、短編が1本入っています。チビ恭也の大冒険の物語です。この扉絵に、丹地さんがチビ恭也を描いていて……。

担:いたいけな子どもなのに、目がとても強いんです。これは、ぜひ本で見てほしいです!


ずっと待っていたみんなのために


――恭也は「怪盗レッド10巻」で一度、行方不明になりました。

秋:はい。それから、恭也が15巻で再登場するまでの間、たくさんの読者からメッセージをもらいました。
みなさんが、アスカやマサキといっしょに「恭也は、かならず生きている」と信じてくれた。
そのおかげで恭也は、思いっきり恭也らしくもどってきてくれました。
さらにその後の巻でも、しばしばアスカのまわりに姿を現す人物として現れて……。
恭也の過去のエピソードや、マサキたちとのやりとり、恭也のキャラの奥行きを書くことができたんです。
それが『怪盗ファンタジスタ』の本につながりました。
やっぱり、読者のみなさんのおかげです。

 


「レッド10巻」ラストで「わたしは生きてるって信じる」と断言するアスカ。
みんなも信じていてくれたよね。



担:『怪盗ファンタジスタ』のあとがきで、恭也も「待たせすぎだ」ってボヤいてましたね(笑)。

秋:でも、おかげで「角川つばさBOOKS」という単行本のかたちで本になったんだから、結果オーライとしてもらいましょう。

 


自由すぎる、恭也のこれから


秋:『怪盗ファンタジスタ』は、ぼくにとって「リミッター」を2つ3つ外して書いた作品です。
なにしろ、恭也は学校にも通ってないし、保護者もいない。彼をしばりつけるものが、まったくないんです。
さらに、舞台が海外であること。
読者の見知った日本の風景ではなく、ヨーロッパの風景を書けるのは新鮮で、楽しかったです。


――『怪盗レッドTHE FIRST』も単行本で、リミッターを外していましたが、さらに?


秋:「THE FIRST」は「2代目レッド」に繋がっている物語だけど、『怪盗ファンタジスタ』は、恭也が単独で、ひたすら好き勝手をやるお話なので。
書いているぼくも、最後の最後まで、どこにつれていかれるのかわからないくらいでした。
ふわふわ飛んでいかないように、おもりをつけないといけないくらい。


担:そこはマサキとツバキが、一生懸命つなぎ止めるんじゃないですか(笑)。

秋:思ったより、従者2人が苦労してましたね(笑)。
『怪盗ファンタジスタ』は、2代目ファンタジスタがスタートしてまもなくのお話。
ちなみに「怪盗レッド23巻」に収録されている「魔法使いの才能―外伝 怪盗ファンタジスタTHE SECOND」という短編は、『怪盗ファンタジスタ』の後のお話なので、また恭也とマサキ、恭也とツバキの関係性が変化しています。

 


恭也とともに飛ぶマサキとツバキ。この3人なら、なんでもできる!



担:短編では、恭也のペースに、マサキとツバキがついていってる……というか、もう2人があきらめて、恭也に合わせられるようになってるというか(笑)。
『怪盗ファンタジスタ』を読んだ後、23巻を、そしてまたレッド本編を最初から読み返すと、あらたな発見がありそうですね!


秋:なにしろ恭也のファンからすると、『怪盗ファンタジスタ』は、かなり情報量過多な本だと思いますので(笑)。
あらためて、みなさんの感想をいただけたらうれしいです。

担:「あなたの描いた怪盗レッド・怪盗ファンタジスタ」のイラストも募集中です。
ぜひお待ちしています!


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『怪盗ファンタジスタ』大量ためし読み公開中!



 


作:秋木 真絵:丹地 陽子

定価
1,430円(本体1,300円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784041136386

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