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ものがたり

『絶体絶命ゲーム3 東京迷路を駆けぬけろ!』【新刊発売!リプレイ連載】第2回


11月9日発売の最新刊『絶体絶命ゲーム12 ねらわれた歌姫を守れ!』には、
初代・絶体絶命ゲーム王者が、ふたたび登場。
あの熱いゲームをもう一度読みながら、最新刊を待とう!(全4回)
毎週月曜日更新予定!

◆第2回
[これまでのお話]
絶体絶命ゲームの「初代チャンピオン」を決めるという招待状を受けとった春馬。
もう二度とゲームには参加したくない!と思っていたのに、未奈にもう一度会いたくて、ゲームに飛びこんでしまう。
そこには、ずっと因縁のあるライバル、亜久斗のすがたも!?
気がつくとゲームはスタート。いったいここはどこなのか? 春馬たちはまず第1チェックポイントをめざす!
(この小説は『絶体絶命ゲーム3 東京迷路を駆けぬけろ!』に収録されています)


◆5 うしろむきの鬼

 

 春馬は、東急大井町線・等々力駅の、南口にやってきた。

 チケットの販売機と自動改札が4機あるだけの、小さな駅だ。

 電車が到着したようで、親子づれや中学生のグループが楽しそうに改札から出てくる。

 みんな、等々力渓谷に遊びにいくようだ。

 奏と竜也、大樹が、人をかきわけながら、改札をとおっていく。

「あの3人は、ヒントだけでチェックポイントの場所がわかったのか……」

 あせる気持ちをおさえながら、春馬は駅の路線図を見た。

 チェックポイントの場所がわからないと、不用意に電車に乗れない。

 タツは「第1チェックポイントは、東京都内の有名な観光スポットだ」と言っていた。

 下り電車に乗ると途中の駅から、神奈川県に入ってしまう。

 都心へむかう、上り電車に乗る可能性が高いけど……。

 チェックポイントによっては、急行電車が止まる二子玉川駅で乗り換えたほうが早いかも。

「春馬くん、チェックポイントの場所、わかりましたか?」

 春馬の横にずっといた理子が、聞いてくる。

「ううん。ヒントが難しくて」

「わたしもです……ぜんぜん、見当がつかないんです」

 春馬は理子と話をしながら、あたりを見まわして未奈を捜した。

 おかしいな、未奈がいないぞ。駅までは少し前を走っていたけど……。

「あの、春馬くん。ヒントを見せあいませんか」

 理子の言葉に、春馬はむきなおる。

「このままだと2人とも、脱落しちゃいます。協力しませんか」

 一瞬ためらったけど、すぐに決断した。

「たしかにそうだね。協力しよう」

 春馬が言うと、理子はスマホの画面を見せてきた。

「わたしのヒントはこれです」

 

 画面に映っているのは、羊と猿の写真だ。どういう意味だろう?

「ぼくのは、これだよ」

 春馬も、送られてきたヒントを見せる。

「これは、鬼ですね……やっぱり、あそこなのかな」

 ヒントを見た理子がつぶやく。

「理子は、チェックポイントの場所がわかったの?」

「タツさんは有名な観光スポットって言ってましたよね。上野動物園じゃないかと思うんです」

「どうして?」

「猿も羊もいるし……、東京観光といえば有名でしょう?」

「鬼は?」

「オニヤンマとか……」

 ちがうと思う。

「でも、この鬼、どうしてうしろむきなんでしょう?」

 理子に聞かれて、春馬はハッとなった。

「そうか、あれのことか! 羊、猿、うしろむきの鬼に、共通するものがある!」

 そこまで言って、春馬はもう一度考えこむ。

「どうしたんですか?」

「……いや、そこは有名な場所ではあるけど、有名な観光スポットとまでは言えないんだ……」

「どこですか?」

「2つの情報から、導かれる答えは……増上寺なんだよ」

「お寺、ですか?」

「うしろむきの鬼は、裏鬼門を意味しているんだと思う。鬼門は丑寅という北東の方角で、裏鬼門はその反対の未申という南西の方角なんだ」

「わたしの情報の羊と猿ですね。……でも、鬼門とか裏鬼門って、なんですか?」

 春馬は頭をかいた。

 鬼門や裏鬼門を知っている小学生は少ない。春馬は怖いのは苦手だが、不思議な話や都市伝説は好きで、陰陽師の出てくる小説やマンガをよく読んでいた。

「鬼門や裏鬼門は、陰陽道で、鬼が出入りする場所だといわれて嫌がられているんだ。絵本などでよく、頭に角があって虎柄のパンツをはいてる鬼が描かれるだろ? あれは、鬼門の『丑寅』の方角から、牛の角と虎柄のパンツを連想して描かれたといわれているんだ」

「春馬くん、よく知ってますね!」

 理子にほめられて、春馬は照れくさくなった。

「た、たいしたことないよ」

「でも、それで『裏鬼門』が、どうして増上寺なんですか?」

「徳川家康が江戸に幕府をひらくとき、町の繁栄を考え、鬼門の位置に寛永寺というお寺を、裏鬼門の位置に増上寺を建てたといわれてるんだ。だから、東京で裏鬼門といえば増上寺のことなんだよ」

 理子の顔がかがやく。

「第1チェックポイントは、増上寺で決まりですね」

「そう考えるのは、まだ早いよ」

 東京に土地勘のない大樹が、迷わずにチェックポイントにむかった。

 竜也もヒントを見て、すぐにその場所がわかったようだった。

 つまり、チェックポイントは、すごく有名な場所だ。増上寺だとは考えにくい。

 春馬はスマホのアプリで、増上寺の周辺のマップを開いた。

 マップの縮尺を広げると、ある建物が目に入る。

「わかったぞ。ここだ!」

 増上寺のとなりに、ほとんどの日本人が知っている、有名な観光スポットがある!

「第1チェックポイントは─東京タワーだ」

 大樹や竜也たちが受け取ったヒントは、もっと、わかりやすいものだったのだろう。

 それで、現在地がわかったあと、すぐにチェックポイントへむかったんだ。

 春馬はマップで東京タワーの最寄り駅を探す。

「ちょっと、なにやってるの?」

 この声は……。

 春馬が顔をあげると、未奈がいる。

「ホームで待っていたのに、ぜんぜん、こないからもどってきたのよ」

「未奈はもう、チェックポイントがわかったのか?」

「東京タワーでしょう」

 未奈はそう言うと、彼女のヒントを見せた。

 スマホの画面に、333と映っている。

「これ、東京タワーの高さでしょう」

「わかってたのに、先にいかずに待っていてくれたのか?」

「そうじゃないけど……。1人だと不安だから待ってただけ」

「3人でいきましょう。東京タワーの最寄り駅は、都営大江戸線の赤羽橋らしいです!」

 マップで調べていた理子が言った。

「いいかな?」

 一応、未奈に確認する。

「……いいに決まってるでしょう。いかないと脱落なんだから……」

 理子が、不機嫌そうな未奈と、春馬の顔を見くらべる。

「春馬くんと未奈さんは知りあいだったんですね」

「『絶体絶命ゲーム』でたった2回、会っただけよ」

 未奈はそっけなく答えた。

 いったい、なにを怒っているんだろう?

 春馬は、いつも以上に不機嫌な未奈が気になったが、今はそれよりも重要なことがある。

 11時までに東京タワーに着かないと、脱落だ。

 あと40分しかない。

 乗り換え検索アプリで、現在の時間10時20分、出発駅『等々力』、到着駅『赤羽橋』で検索する。

 一番早く到着するのは、10時21分の東急大井町線に乗り、二子玉川駅で10時31分の田園都市線に乗り換え、青山一丁目駅で10時55分の都営大江戸線に乗り換えるコースだ。

 赤羽橋駅に着くのは11時1分。

 「─まずい、間にあわないぞ!」

 春馬が言うと、未奈と理子もあわてて検索する。

 2人の結果も同じだった。

 東京タワーの最寄り駅に到着するのは、最速で11時1分。

 どうすればいいんだ、いきなり絶体絶命だ!

「春馬、あなたのせいよ」

 怒りのこもった声で未奈が言った。

「勝手に待っていたのは未奈だろう」

「あの……、けんかしている場合じゃないですよ」

 2人の間に入ったのは理子だ。

 

「そ、そうだな。冷静にならないと」

 春馬は頭を冷やす。

 1本前の電車に乗っていたら、間にあったかもしれない。

 でも、時間はもどせない。

 電車の速度をあげてもらうこともできない。

「バスならどうですか? タツさんは、ゲーム中はバス、電車すべて乗り放題だって言ってました」

「いや、ここからでは遠い。電車よりも遅いはずだ」

 いきなり脱落なのか……。

 いや、あきらめたらダメだ。なにか方法があるはずだ。

 春馬はスマホの、東京タワー周辺のマップをじっと見た。

「もしかして、ほかの電車でいけば……?」

 東京には、JR、私鉄、地下鉄など、たくさんの電車がとおっている。

 とくに都心には、まるで蜘蛛の巣のように、路線が張りめぐらされている。

 東京タワー周辺は、大江戸線のほかに、日比谷線、三田線、浅草線、JRもある。

 赤羽橋駅の次に、東京タワーに近いのは─都営三田線の、御成門駅だ!

「これだ!」

 出発駅『等々力』、到着駅『御成門』で検索する。

 10時21分の東急大井町線に乗り、大岡山駅で10時30分の東急目黒線急行に乗り換えると、10時47分に御成門駅に到着する。

「これに乗ろう!」

 いけるかもしれない!

 春馬たちはスマホをかざして改札をとおり、2番線に入ってきた電車に飛び乗った。

 日曜日の午前中、車内はすいていた。

 春馬たちは、必要最小限の会話しか、しないようにした。

 話をしていて注意されたり、だれかに話しかけられたら、イエローカードをもらってしまう。

 


◆6 モンスターから逃げろ!
 

 春馬たちの乗った電車は、検索どおり、10時47分に御成門駅に到着した。

 日本の鉄道は、時間に正確で、心強い。

 電車から降りた春馬たちは、足ばやに改札をとおる。

 長い階段をあがって外に出ると、やわらかい陽ざしが降りそそいでいた。

「あったぞ!」

 視線の先に、東京タワーの堂々たるすがたが見えた。

「今、10時48分です」

「いそごう!」

 リミットまでは、まだ10分以上あるけど、油断は禁物だ。

 春馬たちは日比谷通り沿いを歩き、角を曲がって芝公園に入る。

 正面に東京タワーがある。

 そのとき、3人のスマホが振動した。
 

  残りは10分

  まだ時間があるけど、答えを発表する

  第1チェックポイントは、東京タワー

  ゴールは、最上階の特別展望台
 

「11時までに、タワーの最上階に到着すればいいんだな!」

 ん? 未奈がいない。

 春馬がふりむくと、未奈が立ち止まっている。

 ……まずい、そうだった!

「理子、先にいっててくれ」

 春馬は、未奈の前に駆けもどった。

「未奈、東京タワーの最上階がゴールらしいけど……いけそうか?」

「………………建物の中だから、多分……」

 未奈は、真っ青な顔でこたえる。
 

「ぼくが、いっしょにいくから、がんばろう」

 そのとき、理子が駆けもどってきた。

「未奈さん、大丈夫ですか!?」

「あなたは先にいってなさいよ。単なる高所恐怖症。自分のせいなんだから……」

 未奈が、ぶすっとした声で言った。

「いいえ、未奈さんと春馬くんといっしょにいきます」

「理子、ほんとうに先にいっていいよ」

 春馬が言っても、理子は笑顔で首を横にふる。

「渋谷の地下で、わたしは春馬くんに助けてもらいました。今度は、わたしが助ける番です」

「助けるって、どうするつもり?」

 未奈の機嫌は、まだ直っていない。

「未奈さんは、目をつむっていてください。わたしと春馬くんで、かかえて運びますから」

 理子のアイディアを聞いて、春馬と未奈は顔を見あわせた。

 そして、2人は爆笑した。

「ど、どうしたんですか?」

「以前のゲームで、似たようなことをして、未奈を螺旋階段の上に運んだことがあるんだよ」

「えっ、そうなんですか」

「……ありがとう。なんだか元気が出てきた。いけそうな気がする」

 笑い終わると、未奈の顔色が、少しもどっていた。

「……いこう、2人とも」

 

 春馬たちは、東京タワー1階の、フットタウンにやってきた。

 そこには、レストラン、水族館などもあって、たくさんの観光客で、にぎわっている。

 売店には、ソーセージが服を着たような、東京タワーのイメージ・キャラクター、ノッポン兄弟の人形が売られている。

 エレベーター乗り場にすすむと、『特別展望台は本日貸切』と書かれた札が、かかっている。

 そして、春馬たちを待っていたかのように、エレベーターのドアが開いた。

 

「乗れそうか、未奈?」

 エレベーターはガラス張りで、外の様子がよく見える。

「乗れ……る。乗れる!」

 きっぱり言った未奈だが、足が震えている。それでも目をつむりエレベーターに乗る。

 春馬と理子は、彼女をはさむようにして乗った。

 ドアが閉まると、エレベーターは静かに上昇する。地上にいる人や車がどんどん小さくなる。

 まわりのビルや増上寺が、はるか下に見える。

 未奈が震えている。

 どうにかしないと……。

 春馬が未奈の手をにぎろうとすると、先に理子が未奈の手をにぎった。

「大丈夫です、未奈さん。わたしたちがついてます」

 理子の言葉に、未奈は小さくうなずく。

「ありがとう……理子」

 エレベーターは、45秒ほどで、特別展望台に到着した。

 特別展望台は、エレベーターのまわりを、5メートルくらいの廊下が、ぐるりとひと回りしているような作りだ。

 エレベーターを降りると、3人のスマホがブルブルブル……と振動する。

  第1チェックポイント 到着

 

 画面に表示されている。時間は、10時57分。

「時間内に着いたぞ! 第1関門クリアだ!」

 すでに亜久斗、サオリ、奏と竜也、大樹が、そこにいた。

 未奈は、窓の外が見えないように、エレベーターの横でしゃがみこむ。

 横で理子がつき添っている。

 地上250メートルにある特別展望台は、東京の街を一望できる。

 だが、外のきれいな景色よりも、春馬には、あるものが目についた。

「……あれは、なんだ?」

 フロアの隅に点々と、不気味な蝋人形がおかれている。

 少し前まで、東京タワーの3階には、蝋人形館があったけど……残りの人形を飾っているのかな……。

 フランケンシュタイン、ドラキュラ伯爵、狼男、ゾンビと、モンスターばかりだ。

 こういうのは苦手なんだよな。

 春馬は気を取りなおして、フロアにいるほかの参加者を見た。

 おかしいぞ。ここにいるのは8人だ。

 まだ、到着してない者がいる。

 そうだ、慎太郎がいない。

 彼はサオリといっしょに、亜久斗のあとをついていったはずだ。

「亜久斗、慎太郎はどうした?」

 春馬は、窓の外を見ている亜久斗に聞いた。

「おれは、あいつらの子守じゃない」

 亜久斗はふりむきもせず、そっけなく言った。それなら、サオリに聞こう。

「サオリ、慎太郎は、どうして到着してないんだ?」

 その問いに、サオリは顔をしかめた。

「……あいつに、してやられたのよ」

「どういうことだ?」

「アタシのヒントは最悪だった。どんなにがんばっても、アタシの頭じゃわからない。そうしたら、慎太郎が『場所がわかった人に、ついていけばいいんだ』って教えてくれたの。それで2人で、亜久斗のあとをつけることにしたんだけど……」

「どうなった?」

「亜久斗は青山一丁目の駅で、2番ホームの大江戸線、新宿方面行きの電車に乗り換えた」

「新宿方面だと、東京タワーとは逆方向だ」

「アタシらは、亜久斗についていくしかなかった。でも、あいつはドアが閉まる寸前に、電車から飛びだして降りたの。慎太郎はとっさに、ドアの横にいたアタシをつきとばして降ろそうとした。アタシはギリギリで、ドアにはさまれながら降りられたけど、慎太郎は……」

「間にあわなかったのか」

「そうよ。ドアにはさまれたアタシはイエローカードをもらい、電気ショックまでくらったわ」

「時間ギリギリの乗り降り」のマナー違反で、イエローカードか。厳しいな。

 サオリは必死で亜久斗のあとをついていき、いっしょにタワーに到着したそうだ。

「亜久斗って、怖いやつだよ」

「それなら、痛いほど知ってる」

「ねぇ、このゲームって、助かるのは1人だけでしょう」

「……そう言っていたな」

「アタシ、亜久斗がいるかぎり、勝てない気がする。あいつがなにか、失敗しないかぎり……」

 そのとき、11時の時報が鳴った。

 スピーカーから和楽器の調べが流れてくる。

 天井から、タツが、着物をひるがえして、ヒラリと下りてきた。

 わざわざ、派手な登場をする。

「タイムリミットの11時になったよ。間にあったのは8人ね。一番早く到着した三国亜久斗と土屋サオリ、お前さんたち2人は、優秀だよ。早ェことは、いいことだァなァァァ」

 タツは見得を切りながら、到着者の顔を見まわした。

「豊川慎太郎が到着してないようだねェ。彼はここで脱落でェェエ」

「慎太郎はどうなるんですか?」

 サオリの質問に、タツは陰湿な笑みを返す。

「それは、これからお目にかけるよぉ」

 ガガガガガ……音をたてて、天井からモニターが下りてくる。

 どこかの駅のホームが映っていた。慎太郎がうろうろしている。

「いくわよ。スイッチ、オ─ン!」

   ビクッ!

 瞬間、慎太郎は大きく身震いし、床に倒れた。

 けいれんのように体を震わす。

 まわりにいた女子高生が悲鳴をあげている。

 助けを求めようとする慎太郎から、ホームにいた人たちは逃げていく。

 ホームの床で、慎太郎はのたうち回る。

 ホームの時計の時刻、逃げまわる人など、まわりの状況から見て録画画像ではなさそうだ。

「……こんなの、見てられない」

 理子が顔をそむける。

 大樹、奏、竜也も、モニターから視線をそらす。

 モニターの中で、慎太郎は白目をむき、口から泡を吹いて、動かなくなった。

「はい、これにて一件落着ゥゥ! 次は第2チェックポイントだよ」

 タツはなにごともなかったように、言う。

「待ってください! 慎太郎はどうなったんですか?」

 春馬が聞くと、タツは微笑する。

「なにがおかしいんだ!」

「ほかの者を心配している場合じゃないよ」

 どういう意味だろう?

「春馬、蝋人形が動いている!」

 未奈の声に、春馬は見まわす。

 身長2メートル以上のフランケンシュタインの蝋人形が、ギクシャクと動きだしている。

 狼男、ドラキュラ伯爵、ゾンビも同じだ。

「な、なんだ……どういうこと?」

 幽霊屋敷や怖いものが苦手な春馬は、怒っていたのも忘れて立ちつくす。

「せっかく、東京の裏鬼門にきたんだ。お前さんたちにも、鬼ごっこをやってもらうよ」

「お、お、鬼ごっこ?」

「モンスターに捕まったら脱落だよ!」

「そんな……!」

 4体のモンスターは、ホラー映画のように、ゆっくりと動きだす。

 「鬼ごっこの、幕開けだァァァ!」

 タツのかけ声と同時に、4体のモンスターがゆっくりと迫ってくる。

「ウソだろう。こういうのはやめてくれ!」

 みんなが、いっせいにエレベーターにむかって動きだすが、春馬は足がすくんで動けない。

 

 



 エレベーターのすぐ横にいた未奈が、いそいでエレベーターを呼ぶボタンを押した。
 しかし、なかなかエレベーターはやってこない。

 運動神経のいい亜久斗は、動きの遅いモンスターを、余裕でかわしている。

 ようやく、エレベーターの扉が開いた。

「春馬、なにやってるの。早く!」

 真っ先にエレベーターに乗りこんだ未奈が叫ぶ。

「うわぁ!」

 春馬の目の前に、狼男がいる。足が動かない。

 ああ、もうダメだ。終わった……。

 ─その瞬間、走ってきた大樹が、春馬の腕をひっぱる。

「逃げるっちゃん!」

「みんな、早く!」

 エレベーターに入った理子が叫んでいる。

 金しばりのとけた春馬は、大樹とエレベーターにむかって走る。

「あれ、蝋人形か!?」

「人に決まっとーやろう!」

 ドラキュラ伯爵とフランケンシュタインが、目の前に立ちふさがる。

 大樹はすばやい動きで、ドラキュラ伯爵をかわして、横を駆けぬける。

 春馬の前には、フランケンシュタインが長い両手両足を広げて待ちかまえる。

 こうなったら一か八かだ!

 春馬はいきおいをつけて、フランケンシュタインに体当たり……のふりでスライディングする。

 そのまま、長い股のあいだをくぐりぬけた。

「股ぬきか、やるやないか!」

 先に、エレベーターに入った大樹が叫んだ。

 奏と竜也も、すでにエレベーターに入っている。

 亜久斗が、のボタンに指をのばした。

 「まだ押すな!」

 春馬が叫ぶが、亜久斗は顔色を変えずに、ボタンを押した。

 エレベーターのドアが閉まる寸前、春馬は駆けこんだ。

「間にあっただろう」

 亜久斗は平然とした顔で言った。
 

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