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ものがたり

『絶体絶命ゲーム3 東京迷路を駆けぬけろ!』【新刊発売!リプレイ連載】第2回


◆9 確率は1/2
 

 バスは高速道路を出て、一般道を走っていた。

「あと数分で荻窪駅だけど、春馬はどちらにいくか、決めたのか?」

 亜久斗が、とうとつに話しかけてきた。

 なにか企んでいるのだろうか?

 警戒する春馬を見て、亜久斗はとってつけたように微笑んだ。

「怖い顔をするな。行き先を決めたか聞いただけだ」

「……人に意見を聞くときは、まず自分の意見から言うんじゃないのか?」

「あぁ、そうだったな。それなら、おれから言おう」

「だますつもりじゃないだろうな」

「人聞きの悪いことを言うな。おれはそんなに意地悪じゃない」

「亜久斗がほんとうにラッキーカードを持っているのなら、ぼくたちをチェックポイントとは逆に誘導するだろう」

「それなら、おれの意見とは、反対にいけばいいだろう」

 しかし、それも考えているとしたら、その反対……。

 いや、それも考えているとしたら……。

「さっきの話をきいて、鬼太郎茶屋か哲学堂公園、どちらにいくか、決めた人はいるか?」

 亜久斗が聞くが、答える者はいない。

「どうやら、おれは嫌われているようだな。……まぁ、いいか。憎まれっ子、世にはばかるっていうからな。それじゃ、おれの考えを言おう。チェックポイントの場所は……」

 そこで、亜久斗はじらすように深呼吸する。

「……哲学堂公園だ」

「根拠はあるのか?」

 春馬が聞く。

「第2チェックポイントが鬼太郎茶屋だとしたら、8人のヒントの中に、水木しげるの代表的キャラクターである、目玉おやじ、砂かけばばあ、子泣きじじい、このあたりがないのはおかしい。つまり、消去法で哲学堂公園だ」

 春馬の考えも同じだった。

 哲学堂公園にはいったことがないのでよく知らない。でも、『ゲゲゲの鬼太郎』ならアニメを観ていた。ヒントの中に『ゲゲゲの鬼太郎』だという決め手がない。ということは、哲学堂公園になる。しかし、亜久斗と同じ場所にむかうのは危険な気がする。

「それで、春馬はどこにいくつもりなんだ?」

「ぼくも、哲学堂公園だと思っていたけど……」

 春馬は自信なさそうに答えた。

「その顔は、おれと同じ場所にむかうのに不安を感じているんだな」

 当たっているけど、春馬はこたえなかった。

「未奈はどう思う?」

 これまでの経験上、勘のするどい未奈の意見を聞きたい。

「妖怪のことはよく知らないけど、あたしも哲学堂公園だと思う。勘だけど……」

 亜久斗、春馬、未奈が哲学堂公園を選んだ。

「わたしは、未奈さんと春馬くんと同じところにいきます」

 理子が言うと、大樹、奏、竜也も哲学堂公園を選ぶと言う。

 残りは、サオリだけだ。

 彼女はいっしょに行動していた慎太郎の死がショックだったのか、バスに乗ってから、ほとんど口をきいていない。

「サオリはどうする?」

 春馬が聞くと、彼女は肩をビクッと震わせた。

「え、ええ。……みんなが哲学堂公園なら、アタシも……」

 命がけのゲームなのに、ぼうっとしているんだろうか。

「全員が哲学堂公園を選んだわけだな。もし、まちがえていたら7人が死んで、ラッキーカードを持っている1人が優勝だ」

 亜久斗は、他人ごとのように、かるい口調で言った。

 もしかして亜久斗は、全員が哲学堂公園を選ぶように誘導したのか?

「それじゃ、本題に入ろう」

 いつもの冷静な口調で亜久斗は、静かに参加者の顔を見た。

 「─この中に、ウソをついている者がいる」

 

「ウソだって? どういうことだ?」

「おや、春馬は気づいてないのか?」

「それは……」

 口ごもった春馬に、亜久斗はさらに嫌味をつづける。

「今日は調子が悪いようだな。これは『絶体絶命ゲーム』なんだぞ。東京観光かなにかと、かんちがいしてるんじゃないのか」

「そんなことはない」

 むきになって否定した春馬だったが、亜久斗の指摘は、はずれてもいなかった。

 3回目の『絶体絶命ゲーム』で、恐怖に麻痺してしまったのかもしれない。

「しっかりしろよ。今回はほんとうに殺されるんだぞ」

 たしかに、そのとおりだ。

 最初に参加したときは、こんなに恐ろしいゲームだと思わなかった。

 2回目は強制参加だった。

 今回は、勢いで参加したことを後悔している。逃げたい気持ちでいっぱいで、現実逃避しようとしているのかもしれない。こんなことだとほんとうに殺されてしまう。しっかりしないと……。

「おまえ、東京タワーで、なにを見てたんだ」

 亜久斗に言われて、春馬の記憶の一部が、ゆっくりよみがえる。

 東京タワーで見たもの……? 展望台からの東京の景色、モンスターの蝋人形、ガラス張りのエレベーター、1階の人ごみ、売店のおみやげに……。

 ああ。あれか。……そういうことか。

「思いだしたみたいだな」

 春馬は、うなずいた。

「でも、どうして彼女は、ウソをついたんだ?」

「彼女?」と未奈が眉をひそめて聞いた。

「この中に、1人だけ、第2チェックポイントのヒントを、見せなかった者がいるんだ」

 春馬が言うと、大樹が首をかしげる。

「みんなのヒントば、見たけど……」

「いいや、スマホのディスプレイで、ヒント画像を見せあっただけだ。ぼくたちは、それを第2チェックポイントのヒントだと思いこんだ」

「どういうことですか?」

 理子もわかってないようだ。

「その人だけ、第1チェックポイントのヒント画像を見せたんだ」

「その者に、ほんとうの第2チェックポイントのヒントを見せてもらおうじゃないか。それで、目玉おやじでも出てきたら、どんでん返しだ。行き先が変更になる。……どうかな、土屋サオリ」

 サオリの顔色が変わった。

「な、な、なによ。アタシはちゃんと、第2チェックポイントのヒントを見せたわよ」

「往生際が悪いぞ。あれは東京タワーのヒントだ。みんなは見過ごしただけで記憶に留めなかった。おれと春馬は、見ただけじゃなく、記憶にしまったんだ。そうだろう、春馬」

「そんなにおおげさなことじゃないけど、ぼくもおぼえていた。売店にグッズが売られていたよ。サオリが見せたのは、東京タワーの公式キャラクターのノッポン兄弟だ」

「そ、それは……」

 サオリが口ごもる。

「ほんとうのことを話してくれ」

 春馬がやさしく声をかけた。

「……わかった、そのとおりよ。でも、『絶体絶命ゲーム』ってだましあいもありでしょう。それなら、少しでも自分に有利なほうがいいと思って……。でも、それだけよ」

「そんなことより、ほんとうの第2チェックポイントのヒントを見せろ」

 亜久斗が強い口調で言った。

「これよ」

 サオリはスマホのディスプレイを見せた。

 地面に尻をついた子どもの石像の写真だ。これはなんだろう?

「あやうく、だまされるところだったな」

「この石像がなにか亜久斗はわかるのか?」

「あたりまえだ。『ゲゲゲの鬼太郎』に出てくる、子泣きじじいじゃないか」

「えっ?」

「子泣きじじいは見た目はおじいさんで、赤ちゃんのような泣き声を出すんだろ。これは、ただの子どもの石像だ」

「妖怪は、地方によって多少のちがいがあるんだ。赤ちゃんに化けていて、背負ったら石のように重くなるという話もある。この写真の子どもは、子泣きじじいだ」

 亜久斗の言うことが正しいのだろうか……。

 ほんとうに、これが子泣きじじいだとしたら、行き先は鬼太郎茶屋になる。

「サオリはこの写真を見て、第2チェックポイントが鬼太郎茶屋だと気づいたんだ。それで、おれたちに見せなかった」

 自信満々で、亜久斗が言った。

「そうじゃないわ! アタシは写真をまちがえて見せただけで……」

「おかしいな。さっきは少しでも有利なほうがいいと思って、かくしたと言ってただろう」

 亜久斗はまるで刑事のように、話の矛盾点を指摘する。

 サオリは、ヒントを見せたくなかったようだ。でも、どうして?

「……もしかして。サオリがラッキーカードを持っているのか?」

 春馬がたずねると、サオリはサッと視線をそらした。

「気づくのが遅いぞ。やっぱり、今日の春馬は調子が悪いな。でも、おまえの調子がどうだろうと、おれは容赦しない」

「ぼくの調子は関係ない。それよりも、サオリの話だろう」

「そうだったな。サオリ、ラッキーカードを持っているだろう?」

 サオリは口を閉ざした。

「黙秘権か。それなら、おれが代わりに解説しよう。彼女はおれたちの話を聞いて、ある計画を思いついたんだ」

「どういうこと?」と未奈が聞いた。

「おれたちは哲学堂公園にいこうとしていた。全員がまちがえた場所にいけば、30分の延長のあるラッキーカードを持っている者が優勝になる。棚からぼたもちというやつだ。それで、サオリはこのまま本物のヒントを見せずに、みんなをまちがえた場所にむかわせようとしたんだ」

 ふだんは無口な亜久斗だが、しゃべりは下手じゃない。

 むしろ上手だ。引きこまれる。

「このゲームで、だます行為はあたりまえだ。だから、ほんとうのことを言う必要はない。ただ、そうなると、サオリは孤立するぞ」

 亜久斗はそこまで言うと、じらすように間をとってから、

「ここで、だれも脱落しなかったら、サオリはおれたち7人を敵に回すことになる。このあとのゲームで、だれかと協力しなければならないかもしれない。そうなると孤立している者は不利だ。この世界で、集団ほどおそろしいものはないんだ。なあ、サオリ。今ここでラッキーカードを見せてくれたら、第2チェックポイントのヒントを隠したことは根に持たない。むしろラッキーカードを持っていると名乗り出てくれたことに感謝するはずだ。……見せてくれ」

 ここまで言われたら、見せないわけにはいかない。

「わかったわ」

 サオリは力なく言った。

「……たしかにアタシは、ラッキーカードをもらったわ。アタシ、このゲームをあまく考えていた。運動神経には自信があったけど、こういうのは苦手なの。でも、もうやめられないし。そんなとき、ラッキーカードが届いた。これを使えば、なんとかなるんじゃないかと……でも……」

 サオリがなにかを言おうとしたが、すかさず亜久斗がさえぎった。

「言い訳は聞きたくない。ラッキーカードを見せてもらおう。おれは疑りぶかい性格なんだ」

 亜久斗の独擅場で、ほかの者は口をはさむすきがない。

 サオリがこまっていると、タツが口をはさんできた。

「ラッキーカードの入ってる、隠しフォルダの開け方かい? スマホ所有者本人の操作なら、受信メールの添付フォルダをタッチすりゃ開けられるよ」

 タツの説明に従い、サオリがフォルダを開く。

 ディスプレイに、『ラッキー』と書かれた黄金のカードが映った。

 まちがいない。ラッキーカードはサオリが持っていた。

「ここでの脱落者はなしになったな。第2チェックポイントは、鬼太郎茶屋で決まりだ」

 亜久斗はそう言うと、すべてが終わったように深く席に座った。

「…………春馬、いいかな」

 小声で話しかけてきたのは、未奈だ。

「あたし、なにか納得できないの」

 勘の鋭い未奈は、亜久斗の言動に、違和感をおぼえているようだ。

「ぼくも同じだ。なにか引っかかる」

「タツさんが『実力も運のうち』って言ったの、おぼえてる?」

 春馬はうなずいた。

「自慢じゃないけど『絶体絶命ゲーム』で実力があるって言うなら、一番はあたしでしょう?」

 春馬が苦笑いするが、未奈の言っていることは、まちがいとはいえない。

 彼女は、このゲームで一度、1億円を手にしているのだ。

「それで?」

「実力も運のうちなら、実力のあるあたしが、ラッキーカードをもらわないとおかしくない?」

「そういえなくもないけど……。『実力』の定義がはっきりしないよ。今までの大会の勝者が、実力があるとは限らないし」

「じゃあ、どうしてサオリが実力があるのよ」

 たしかに、それは疑問だ。

「今回のゲームは始まったばかりで、まだ横一線でしょう」

「そうだな。まだゲームは1つしか……。あっ、そういうことか!」

 春馬のもやもやが晴れた。

 危ないところだった。これはワナだったんだ。

 なんとかしてこの状況からぬけ出さないと……。

 春馬はいそいでスマホのディスプレイを開き、使えそうなアプリを探す。

 あったぞ。メモ帳が使える。

 

 


◆10 意外な脱落者
 

 春馬と未奈と理子は、路線バスに乗っていた。

 荻窪駅でリムジンバスを降りたあと、JRに乗り換えて3人がむかったのは─中野駅。

 大樹、奏と竜也が、ついてきていた。

「……ほんとうに、こっちで大丈夫なの、春馬?」

 未奈が心ぼそそうな声で言った。

 車内はすいていたので、春馬たち6人は、一番うしろの座席にまとまって座っている。

「わたしは春馬くんを信じています。……けど、どうしてこっちにしたんですか?」

 理子が念を押すように聞いた。

「おそらく、哲学堂公園が、正解だ」

「おそらくって……たよりなかね。亜久斗とサオリは、鬼太郎茶屋にむかったぞ。どっちが正解なんや! おれは、負けられんばい!」

「それは、大樹くんだけじゃありません。全員が同じです!」

 理子が怒るが、大樹の耳には入らない。

「おれの家は大雨で流された。そげな経験したやつが、ここにおるか?」

「大樹だけが特別だと思わないで! ここにいるほとんどの人はつらい経験をしているわ」

 未奈がめだたないように、おさえた口調で言うと、みんなが黙る。

「……おれは、こんゲームに勝って、家族が安全に暮らせる家ば手に入れるーったい」

「そういうのって、ほんとは、国の仕事ですよね?」

 つぶやくように言ったのは理子だ。

「国も政治家も、なんちゃしてくれん。ちっぽけな仮設住宅に押しこめて、あとは知らんぷりばい。世間が同情してくれるんも、災害後のせいぜい1カ月や」

 大樹の話を聞いて、春馬は暗い気持ちになった。

 子どもの暮らしは、親の能力で大きく左右される。

 大人なら自分のがんばりで生活を変えられるかもしれない。でも、子どもはそうはいかない。

 今の生活からぬけだすには、『絶体絶命ゲーム』のような危険を冒さなければならない。でも、そんな世界、正しいのか? 今は、考えてもしかたがないけれど。

「春馬が、メモ帳アプリに書いてたことは、ほんとうなんか?」

 たしかめてきたのは竜也だ。

 リムジンバスの中で、春馬は、スマホのメモ帳にあることを書いて、亜久斗以外の全員にそっと見せてまわった。

   『亜久斗にだまされるな。ラッキーカードは、亜久斗も持っている』

「あれを見て、オレは春馬についてきたんやぞ」

「じゃあ、サオリの見せてくれたラッキーカードは、にせものだったってこと?」

 未奈の質問に、春馬は首を横にふる。

「タツさんは、ラッキーカードが1枚だけだとは言わなかった」

「いいや、言ったぞ」

 大樹が言うと、未奈たちは首をかしげて考える。

「『カードを持っているのが1人』と言ったのは、亜久斗だ。彼はみんなに、ラッキーカードは1枚しかないと思いこませたんだ」

「どうして、そんなことをしたの?」

「ゲームに勝つためだ。全員をまちがえた方向にいかせて、ラッキーカードを持っていない者を脱落させる計画だったんだ」

「どうして、あいつがカードば持ってるってわかるんと?」

「タツさんが言っただろう。『実力も運のうち』だって」

「ええ、おぼえています。運も実力のうちと言いまちがえたのだと思っていましたけど……」

 理子が言った。

「ぼくもはじめはそう思ってた。でもタツさんそのあと『ラッキーは優秀な者にいく』と言ったんだ」

「優秀な人って……あたしだよね」

 未奈は、まだ不満そうだ。春馬は苦笑いする。

「実力っていうのは、今日の成績のことなんだよ」

「今日って、まだ1つしかゲームをしてないでしょう」

「そうだ。1つめのゲームのあと、最初に東京タワーに到着した亜久斗とサオリを、タツさんは『優秀だ』と言ってた。『ラッキーは優秀な者にいく』というのは、ラッキーカードは亜久斗とサオリにいくという意味だよ」

「ああ、そういうこと」と未奈は納得する。

「人間観察が得意な亜久斗は、サオリの変化を察して、彼女にもカードが届いたと気づいたんだ。サオリが第2チェックポイントのヒントを隠したことを利用して、ぼくたちを反対方向にいかせることを思いついた」

「春馬の話はわかったけど、問題なのは第2チェックポイントの場所やろう」

 大樹に言われて、春馬は小さくうなずいた。

「第2チェックポイントは、哲学堂公園にまちがいないよ」

 春馬は自信を持って、うなずいた。

 亜久斗は小さなミスをおかした。彼は、春馬に哲学堂公園にいったことがあるか確認した。

 春馬は、それが気になっていた。

 つまり、哲学堂公園にいったことがあれば、さっき見た8つのヒントで、チェックポイントがはっきりとわかるってことだ。

「哲学堂公園が正解なら、なんで亜久斗は三鷹行きの電車に乗っていったの?」

 首をかしげながら未奈が聞いた。

 

「ぼくたちを、疑心暗鬼にさせるためだ。自信満々に行動していれば、1人くらい亜久斗についていくかもしれないだろう」

「サオリはついていった……」

「サオリは、亜久斗といっしょにいれば脱落しないと考えたんだろう。あの2人はラッキーカードを持っているからな。三鷹ですぐ引きかえしてくれば、制限時間に間にあうはずだ」

 春馬たちは、『哲学堂公園入口』の停留所でバスを降りた。

 住宅街のまんなかに、広大な敷地の公園がある。

 園内は豊かな緑があり、グラウンドやテニスコート、ユニークな建物と奇妙な石像がある。

 グラウンドでは草野球の試合がおこなわれ、遊歩道を親子づれや老人がのんびり散策している。

「公園のどこへいけばいいのかわからないけど、とりあえず入ってみよう」

 正面口から公園に入っていくと、『哲理門』と書かれた、お堂のような正門がある。

「春馬くん、これ見てください!」

 理子が興奮した声を出す。

 哲理門の建物内に、大人くらいの大きさの不気味な彫刻がある。

 右は天狗で、左はホラー映画に出てきそうな女の幽霊だ。

 天狗は亜久斗のヒント、女の幽霊は理子のヒントと一致する。

 正門をくぐったとたん、ブルブルブル……とスマホが振動した。

  
第2チェックポイント到着

 時間は12時52分。

「第2関門クリアだ!」

 未奈、理子、大樹、竜也と奏にも、到着を知らせるメールが届く。

 春馬はほっと胸をなでおろす。

 到着メールは届いたが、第1チェックポイントのようにタツや鬼吉はあらわれない。

 春馬が考えていると、理子が案内板の前で手まねきしている。

「これを見てください」

 案内板の地図に、園内の建物や石像の場所がイラスト入りで描かれている。

 春馬たちが受け取った8つのヒントは、すべて公園内にあるようだ。

「ここにきたことがあったら、すぐにわかったんだ。それにしても奇妙な公園だな」

 春馬はあたりを見まわした。

 

 春馬たちが到着してから20分ほどがすぎたころ、悠々とした足取りで、亜久斗とサオリがやってきた。

 時間は1時18分。
 

「……ふん。かんたんに引っかかるとは思わなかったが、企みを見やぶられるのはくやしいね」

 哲理門をくぐった亜久斗は、悪びれない態度で言った。

「亜久斗も、ラッキーカードを持ってるんだな」

「その質問に答える必要はないだろう。春馬の推理したとおりだよ」

「ぼくがどう推理したか、亜久斗は知らないだろう?」

 亜久斗はふっと鼻で笑っただけで、それ以上は話そうとしない。

 そのとき、

「えっ、どうして?」

 サオリが、スマホのディスプレイを見て蒼白な顔をしている。

「どうしたんだ?」

 サオリがスマホを見せてくる。

  第2チェックポイント─土屋サオリ、脱落
  電気ショックまで、残り3分

 

 どういうことだ?

 ラッキーカードを持っているサオリは、リミットが30分延長されるから、1時30分までに到着すればいいはずだ。それが、どうして脱落なんだ!?

 春馬が考えていると、公園の奥から笛と太鼓の音色が聞こえてくる。

「タツさんだ。いってみよう!」

 春馬たちが駆けていく。

 中央の広場にある、『四聖堂』という正方形の建物から、笛や太鼓の音色が聞こえてくる。

 四聖堂をのぞくと、雅楽の演奏者をバックに、タツが優雅に日本舞踊を舞っている。

「タツさん、教えてください!」

 春馬が声をかけると、タツがじろりとにらんだ。

「邪魔をするんじゃないよ、無粋者!」

 タツが怒るが、春馬はひるまない。

 このままだと、サオリが電気ショックで死ぬ。

「タツさん、お願いです。話を聞いてください」

「しょうがないね」

 タツが舞をやめると、笛や太鼓の演奏も止まる。

「タツさん! アタシ、制限時間内に第2チェックポイントに到着しました! これはなにかのまちがいです!」

 泣き出しそうな声でサオリが言った。

「知ってるよ。あたしゃゲーム案内人だからねェ」

「どうしてアタシが脱落なんですか?」

「決まってるだろう、制限時間内に到着しなかったからさ」

「遅れてないわ!」

「お前さんが哲理門をとおったのは、1時18分。制限時間を18分オーバーしてるじゃないか」

「アタシ、ラッキーカードがあります!」

 サオリは、スマホをタツに見せようとするが、

「おッとざんねん、そのカードは使えないよ」

「えっ、どうして!?」

「お前さん、イエローカードをもらっただろ」

 春馬は、はっとなった。

 ゲームの説明のとき、イエローカードをもらうとペナルティーとして特典が受けられないことがあると言っていた。それじゃサオリは……。

「─土屋サオリ、お前さんはここで脱落だよ」

 タツが冷たく言いはなった。

「いや、そんなの……チャンスをちょうだい、チャンスを……」

 

 



 そのとき、サオリのスマホがブルブルブル……と振動する。

「3分経ったようだね。さようなら、土屋サオリ」
「ギャ─ッ!」

 叫んだサオリは、激しく体を震わせる。

「サオリ……!」

 思わず駆けよろうとした春馬を、未奈がおさえる。

「彼女に触れたら、春馬も死んじゃう」

 サオリは、口から泡を吹いてけいれんし、やがて動かなくなった。

「こんなの、ひどすぎる……」

 みんな、サオリから目をそらす。

「鬼吉、処理しておいて」

 タツに言われて、鬼吉はサオリの死体に黒い布をかける。

「お前さんたちは、あたしについてきな!」

 タツは、春馬たちを、公園の奥に連れていく。

 木々にかこまれた小道を3分ほど歩くと、木造平屋の古い建物がある。

 看板に『髑髏庵』と書かれている。

 名前は不気味だが、この建物は、ただの休憩所だ。

 春馬たちは、8畳ほどのがらんとした部屋に連れてこられた。

 ─幸一、慎太郎につづいて、サオリも死んだ。

 今回のゲームは脱落したら、すぐに殺される。

 どうして、こんなゲームに参加してしまったんだ……。

   ブルブルブル

 スマホが振動して、春馬は驚いて飛びあがりそうになった。

 全員に、同時にメールが届いたようだ。

  第3チェックポイント 制限時間は、午後3時00分 

  時間オーバーは─脱落 

『ヒント』のファイルを開いた春馬は、目が点になった。



 

 


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