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11月9日発売の最新刊『絶体絶命ゲーム12 ねらわれた歌姫を守れ!』には、初代・絶体絶命ゲーム王者の「あの人」が、ふたたび登場!
あの熱いゲームを全文もう一度ふりかえり読書して、準備をカンペキにしておこう!(全4回)
毎週月曜日更新予定!
◆第1回
[これまでのお話]
絶体絶命ゲームは、小学生の間で都市伝説のようになっている、命がけのゲーム。
勝つとどんな望みでもかなえられ、負ければ命に保証はない――。
そんなゲームなのに、ギリギリのところで2回も勝ちのこってしまった春馬。彼のもとへ、いま新たな招待状が!?
(この小説は『絶体絶命ゲーム3 東京迷路を駆けぬけろ!』に収録されています)
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◆1 渋谷に集まれ!
『─爆発まで、あと10秒、9秒、8秒、7秒、6秒……』
館内放送のカウントダウンが、つづいている。
武藤春馬は、長い塔の螺旋階段を駆けあがっていた。
どうしたんだ。
足をあげているのに、思うようにのぼれないぞ。
「春馬、助けて!」
階段の下から、聞きおぼえのある声が聞こえてきた。
中央の吹きぬけから下を見ると、滝沢未奈が手をふっている。
「どうして、ここにきたんだよ!」
春馬が大声で聞いても、未奈は答えない。
もう時間はない。でも、未奈をおき去りにはできない。
『……3秒、2秒……』
引きかえそうとしたが、あがってきた階段が消えている。
どういうことだ!?
『1秒、0……。この塔は、爆発します』
爆音とともに、壁や階段がくずれる。
─もうダメだ。
ぼくは死ぬんだ。なら、せめて……。
未奈にむかって、春馬が手をさしのべようとしたとき、
『次は……渋谷、渋谷……。お出口は右側でございます。……』
─あれ? この放送はなんだろう?
体がゆれて、春馬は目がさめた。
乗っていた電車が、渋谷駅に到着した。
……なんだ、夢だったのか。
座席で眠って、不吉な夢を見てしまったようだ。
まさか、正夢じゃないだろうな。
電車から降りた春馬は改札をとおり、渋谷の街に出た。
派手なファッションの若者。
背広すがたのサラリーマン。
おしゃれな少女たちに、外国からの観光客。
この街は、曜日に関係なく、いつもにぎわっている。
3月最初の日曜日は、雲ひとつない晴天だ。でも、春馬の気持ちはどんよりとしていた。
昨日、携帯に1通のメールが届いた。
武藤春馬くんへ
明日、『絶体絶命ゲーム』が開催されます。
これまでのゲーム参加者は、な、な、な〜んと、審査なしで参加することができます。
今回の勝者には
『絶体絶命ゲーム』初代チャンピオンの称号が与えられ、
副賞として、願いを1つ、かなえてもらうことができます。
ゲーム中は、ほかの参加者たちと、楽しく会話ができます。
参加希望者は、『新聞 破る 桜 数個 手』の下に集まってください。
ただし、参加者の命の保証はないよ。
─『絶体絶命ゲーム』は、あなたの人生を変える。
ゲーム主催者
『絶体絶命ゲーム』とは、小学生の間で都市伝説になっている、命がけのゲームだ。
どんな手段を使っても、お金がほしい者や、人生を変えたい者が参加できて、勝ち残れば1億円がもらえたり、希望をかなえてもらえたりする。
ただ、負ければ、命の保証がない。
春馬は、思いがけず、2回も参加することになり、何度も危険な目にあった。
─どんなことがあっても絶対に、もう二度と、『絶体絶命ゲーム』には、参加しない!
春馬はそう心に決めていた。しかし、メールには興味を引く一文がある。
ゲーム中は、ほかの参加者たちと、楽しく会話ができます。
昨年の10月に転校して以来、ゆくえがしれない、親友の上山秀介。
ゲームで知りあった滝沢未奈、2人にも同じメールが送られているはずだ。
2人はどうしているだろう?
ゲーム後、ほかの参加者に会うことは禁止されている。
このままだと一生、2人には会えない。そんなのはイヤだ。秀介や未奈も同じ気持ちのはずだ。
2人はゲームに参加するのだろうか?
そう考えると、いても立ってもいられない。
気がつくと、メールの暗号を解いていた。
『新聞 破る 桜 数個 手』の5つの言葉に関連性はなさそうだ。それなら、アナグラムか。
5つの言葉をカナにしてみる。
『シンブン ヤブル サクラ スウコ テ』
メールの文面から、答えは場所だと推測できる。
じっと文字を見ていると、ある地名が隠されていることに気づいた。
シブヤだ。渋谷で有名な場所といえば、ハチ公前広場だけど……。いや、ちがうようだな。
ほかには……。そうか、わかったぞ。
秀介と未奈は、『渋谷スクランブル交差点』にくるだろうか?
渋谷スクランブル交差点に着いた春馬は、小首をかしげた。
ほんとうにここでいいのかな?
まだ集合の8時より前だけど、ここが『絶体絶命ゲーム』の集合場所とは思えない。
もう一度、メールを確認して、勘ちがいに気づいた。
集合場所は─渋谷スクランブル交差点の下だ!
JR渋谷駅の地下には、小さな商店街と、3本もの地下鉄の駅がある。
階段を駆けおりていると、「春馬!」と声をかけられた。
ふりむくと、秀介が駆けてくる。小学校入学からの親友だ。それが、前回の『絶体絶命ゲーム』のあと、いきなり転校してしまった。正確には転校させられた、かな……。
「秀介、元気だったか?」
「うん、久しぶりだな。春馬、少し背が伸びたんじゃないか」
「そうか、自分では気づかないけど……サッカーはつづけてるんだろ?」
「やってるよ。県の大会で準優勝したんだ」
「すごいな。こっちは秀介がぬけて得点力がガタ落ち。1回戦負けだよ」
「そんなことより、春馬はあのゲームに参加するつもりなのか?」
そうだった。今はそのことが重要だ。
「……参加するつもりなんだな。春馬の顔にそう書いてある」
親友だけあって、秀介には春馬の考えていることがわかるようだ。
「まだ決めたわけじゃない。でも……。そういう、秀介はどうなんだ?」
「おれは参加しない。ここに来たのは、おまえを止めるためだ」
「ぼくを?」
「このゲームが危険なのは、春馬が一番知ってるだろう。すぐに帰ったほうがいい」
そうしたいけど……。ぼくが帰ったら、未奈はどうなるだろう。未奈がくると決まったわけじゃないけど……。
春馬が考えていると、人ごみのむこうに、見知った仏頂面が見えた。
ほんとうは笑ったらかわいいのに、未奈は、いつも不機嫌そうな顔をしている。
「未奈だ。止めないと!」
春馬は駆けだした。
「待て、春馬! いったらダメだ」
春馬は人ごみをかきわけて走るが、人が多くてなかなか近づけない。
「未奈!」
大きな声を出したが、雑踏にまぎれて聞こえないようだ。
彼女が、ある店に入っていくのが見えた。
「あそこは?」
地下の一角に、壁一面が唐草もようの、あやしげな店がある。
『ゲームセンター・危機一髪』と、派手な看板が出ていて、店の前に着物すがたの大男がいる。
危機一髪とは─絶体絶命、ということだ。集合場所はここにちがいない。
未奈を連れもどさないと……。
「待て、春馬。そこに入ったら、ゲーム参加ということになるんだぞ」
遅れてやってきた秀介が、春馬を止めた。
こまった。でも……。
「未奈を1人で、参加させるわけにはいかない」
春馬が言うと、秀介がため息をついた。
「そう言うと思ったよ……わかった、いけよ。タイムリミットになるぞ」
「……秀介、もっと話したかったけど……」
「死ぬなよ、春馬。生きていたら、また会える」
おおげさではなく、このゲームは命がけだ。
久しぶりに会えた親友なのに、長話できなかった。
「未奈を、守れ」
「ごめん、秀介。ありがとう……」
秀介を見おくって、春馬はゲームセンターの前へいく。
「招待状は?」
着物の大男に言われて、携帯画面を見せる。
「入りな」
映画館の入り口のような、ぶあついドアが開き、春馬は覚悟を決めて、店に入った。
薄暗い照明のがらんとした広い部屋は、床、壁、天井まで緑と白の唐草もようだ。入り口のドアが1つあるだけで、窓はなく、ゲームセンターと書かれていたが、ゲーム機は1台もない。
まるで唐草もようの箱に入れられたようだ。
室内には、春馬と同じ歳くらいの男女が数人いる。
すぐに目についたのは、体の大きな強面の男子だ。彼からは殺気のようなものを感じる。
そのとなりに、小柄でつぶらな瞳の女子がいる。
春馬はその女子に見おぼえがある気がした。だが、どこで見たかは思いだせない。
「オレがどないしようと、勝手やろう!」
「竜也までくる必要はなかったんや!」
強面な男子と小柄な女子が、どなりあっている。2人は知りあいのようだ。
春馬は、ほかの参加者に視線をむける。
さらさらの髪に、すんだ瞳の女子は、緊張しているようで、何度も大きく深呼吸している。
四角い顔の、ぼさぼさ髪の男子は、床に座りこんで、じっとしている。
おしゃれなシャツを着た丸顔の男子は、うつむきながら、みんなを観察しているようだ。
ほかの参加者には目もくれず、ダンスのステップを練習している色黒の女子もいる。
やさしそうな笑顔の色白の男子は、ほかの参加者に話しかけている。
部屋の奥に、未奈がぽつんと立っていた。
春馬が未奈に声をかけようとしたとき、
ゴ───ン と鐘の音が鳴りひびいた。
8時になったのか。
どこからか、みやびな笛や太鼓の和楽器の調べが流れてくる。天井から、桜の花びらがはらはらと舞い、つややかな着物すがたの女性があらわれた。
カーン!
拍子木の音と同時に、静寂が訪れる。
「─花のお江戸で産湯をつかいィ、生まれたときから容姿端麗ェ。鳥肌タツとはァ、あァたァしィのォこォとォでェェェ! 縁あって『絶体絶命ゲーム』の案内役をやることになったよ、文句のあるやつァ、出ェてェおいでェェェ!」
……えっ、この女性が今回の案内人?
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◆2 願いをかなえてあげる!
「おやおや、どうしちまったんでェ? みんな、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてるじゃなィか。そんなことじャァ、『絶体絶命ゲーム』に勝てねェよォォォ!?」
タツは、歌舞伎役者のように見得を切った。
「あの、ここって『絶体絶命ゲーム』の会場にまちがいないですよね」
冷静な口調で質問したのは、やさしそうな笑顔の男子だ。
「そうだよゥ。ここにいる全員が『絶体絶命ゲーム』の参加者だァ。言っとくけど、もーう扉は閉まっちまった。あともどりァできねェからね。ここから先ァ勝つか負けるか、生きるか死ぬか、彼岸か此岸か、2つにひとつの世界だよ。勝者は『絶体絶命ゲーム』初代チャンピオンだァ!」
「勝てば、願いごとば、かなえてくれるっちゅうのは、ほんとうなんばいよね」
四角い顔の男子が、博多弁で言った。
「火星旅行がしたいとか、タイムマシンで戦国時代にいきたいとか、実現不可能な願いごとは却下だよ。でも、可能な願いごとなら、なんでもかなえてあげるさァ」
それを聞いて、四角い顔の男子は目を輝かせる。
「まずは自己紹介だァ。はしっこのアンタからだよ」
タツに指名されたのは、やさしそうな笑顔の男子だ。
「ぼくの名前は豊川慎太郎、小学5年生です」
「おっと、待った。ここにいるのは全員が小学5年生だ、学年は言わなくてもいいよ。ゲームに参加した理由と、願いごとはなんだぃ?」
「参加理由は、お金がほしいからです。両親は共働きだけど、うちにはお金がないんです。ワーキングプアというそうです。安い給料で長時間、働かされているんです。だから、お金がほしいんです」
「願いは金だね。で、いくらほしぃんだぃ?」
「ウワサでは、1億円をもらった人がいるって聞きましたけど……」
「実際に1億円もらった人がいるよ。あァ、めんどくせェから、お金がほしい人は1億円で統一だよ。次は、となりのダンサーちゃんだァ」
指名された色黒の女子は、くるりとバク転をしてみせた。
「アタシは土屋サオリ。趣味はダンスとスノーボード。ボードはワールドクラスよ。でも、海外遠征とかでお金がかかるから、両親からやめろって言われてんの。でも、自分でかせげば問題ないっしょ。1億円あれば、一年中ボードできるわ。ぜってぇ、ゲットするよ!」
サオリは親指を立ててやる気をアピールした。
「スノーボードかい、かっこいいねぇ。願いごとは1億円だね。次は、となりのおしゃれくん」
タツはチェック柄のおしゃれな服の男子を指名する。
「園田幸一です。父は会社を経営していて、はっきりいってお金には特にこまってません。でも、自分で会社を作ってみたくて。資本金が必要でしょう。親にもたよりたくないし……。それでゲームに参加したんだ。優勝したら1億円ください」
「わかったわ。それじゃ、次……」
四角い顔の男子が博多弁で自己紹介する。
「おれは、福田大樹。……大雨で川が氾濫して……建てたばかりん家が流しゃれたんや」
去年は大きな台風がいくつも日本列島を直撃した。特に九州では被害が大きかった。
春馬は、氾濫した川に家が流される映像をニュースで見た。
その中に、大樹の家もあったのだ。
「ばってん、のうなったのは家だけやなか。50年ローンで建てた家がゴミになって、両親はすべての気力ばなくしたとよ。今は避難所で生活しよるけど、生きるぬけ殻ばい」
「願いごとはなんだい?」
「家族3人で安全で幸せに暮らせる家がほしか。それが、おれの願いばい」
「大樹の家は九州だったね。地元の安全な場所に、頑丈な家を建ててあげるわ。次は、彼女ね」
タツに指をさされたのは、さらさら髪のすんだ瞳の女子だ。
「二階堂理子といいます。2年前に、父が過労死しました。でも、会社は慰謝料も払ってくれないんです。父さんの命を奪ったのに、なにもしてくれない」
「理子は、妹が2人いるんだったね」
「はい、7歳と、5歳の妹と、母の4人暮らしです。今は、母が1人で働いて家計を支えています。贅沢は言えないとわかってます。でも、たまには家族で遊びにいきたい。それに、わたし、勉強も好きだから塾もいきたいです。だから、ゲームに勝ってお金がほしいんです」
「願いごとは1億円でいいね」
次に、小柄な女子といっしょにいる、ごつい体の男子に話を聞いた。
「赤城竜也だ。ゲームに参加したのは、こいつを守るためや。願いは、こいつを歌手にすること」
「ほーう、恋人のために参加とは、ロマンチックだねェェェ」
「こ、恋人やない。幼なじみや」
「まぁ、いいわ。それじゃ、その幼なじみさん、アンタは?」
竜也の横にいた小柄な女子が自己紹介する。
「鹿野奏や。アタシは貧しい暮らしをしてる。……でも、それは耐えられる。将来きっと、自分の力で、こんな生活から這いあがってみせる。生きていればやけど……」
「それは、どういう意味だい?」
「……義父の酒癖が悪くて、酔っぱらって毎晩暴れるんよ。警察に相談したけど、なんもしてくれへん。このままじゃアタシは殺される。だから、ゲームに勝って生きたい。願いは、生きることや」
「アホ、ちゃうやろう。おまえのことはオレが守る。だから、願いは歌手デビューやろう!?」
竜也が言葉をはさんだ。
「それじゃ、竜也が殺されちゃうでしょう」
「オレは多少のことじゃ死なねぇ。だから、おまえは歌手になれ」
そうか。どこかで見たと思ったんだ。
春馬は、どこで奏を見たのか思いだした。
半年くらい前、テレビのオーディション番組で、奏は最終審査に残っていた。
優勝を逃してデビューはできなかったが、その歌声は審査員も絶賛していた。
そのあとスカウトが訪れたが、両親が莫大な契約金を要求したせいで引きかえしたと、ネットニュースになっていた。
「はいはいはい、もういいわよ。やめな!」
タツが、奏と竜也の言いあらそいを止める。
「願いは、ゲームに勝ってから決めりゃいい。それより、このゲームは命がけだってことを忘れなさんな。と言うより、生きるってことは、本来、命がけなんだ。アンタたちは平和な日本に生まれたから、考えたことないかもしれないけどね、野生の動物なら、生まれたときから、生きるか死ぬかの戦いが始まるんだ。人間だって、紛争地帯に生まれたら、死ととなりあわせの毎日だよ。平和がどれだけありがたいか……。おっとごめんよ、あたしとしたことが興奮しちまった。まずはこのゲームで勝つことを考えな。次は、滝沢未奈ね」
「どうして、あたしの名前を知ってるんですか」
「アンタはゲーム経験者だからね。未奈も武藤春馬のことも知ってるよ。……三国亜久斗もね」
「なななななに!?」
春馬は、思わず大きな声を出した。
ここに入ったとき、亜久斗はいなかったはずだけど……。
部屋を見まわすと、入り口のドアのそばに、亜久斗がいた。
時間ギリギリに入ってきたのだろうか?
「知りあいが顔をそろえたようだね。積もる話もあるだろうが、あとにしな。未奈はどうして、また参加したんだい?」
タツに聞かれて、未奈はこまったような顔をした。
「それは……、ゲームで知りあった人がくると思ったから……。春馬とかメイサとか……あと、ゲームに勝って、願いごとをかなえてほしいから……」
「アンタ、一度ゲームに勝っただろ。ゲームのスリルが忘れられないんじゃないかい?」
「ちがいます!」
きっぱり言って、未奈はタツを睨みつけた。
「あたしの願いは………………自由です」
春馬は耳を疑った。
「『絶体絶命ゲーム』で知りあった友だちと、自由に会って話ができるようになりたい。それが、あたしの願いです」
彼女は、春馬たちに「会うため」にここに来たわけじゃない。
ゲームに勝って、「みんなと自由に会えるようにするため」に参加したんだ。
「なるほど、それが未奈の願いね。春馬はどうだい?」
「ぼくも同じです。未奈や秀介に、自由に会いたい」
「なんだい、つまらないねぇ。1億円もらうより、友だちと会えるほうがいいってのかい?」
未奈と春馬は大きくうなずいた。
「三国亜久斗はどうだい?」
「おれの参加理由は、ゲームに勝って初代チャンピオンになることだ。それは必然的に春馬や未奈に勝つことになる。願いごとは1億円にしよう。もらえるものは、もらっておく主義だ」
「よし。自己紹介が終わったね。今回の『絶体絶命ゲーム』は……おや、この煙はなんだい?」
どこからか、白い煙がただよってきた。
次の瞬間、火災報知機のベルが鳴りひびく。
『─火災が発生しました。火災が発生しました。すみやかに避難してください』
緊急放送だ。
照明が消えて、非常灯に切りかわる。
「火事とケンカは江戸の花って言うけどね。こりゃァ大変だァ! みんな、避難しな!」
タツに言われて、春馬たちは顔を見あわせる。
みるみるうちに、真っ白な煙が充満して、視界が悪くなる。
とりあえず、この部屋から出たほうがよさそうだけど……。
未奈はどこだろう?
春馬が、きょろきょろしていると、
「ドアが開かんばい!」
出口の前で大樹が叫んでいる。
まずいぞ、どうすればいいんだ。
火は見えないし、熱くもないが、煙で息苦しくなってきた。
「アンタたち、こっちの非常口から逃げな!」
タツが、大声で叫んでいる。
見ると、奥に非常口という照明が灯って、1人がとおれるくらいの小さなドアがある。
あんなところに、非常口なんてあったかな?
「春馬、どうする?」
考えこんでいると、未奈が声をかけてきた。
「非常口から逃げよう。いこう!」
奏と竜也、大樹、慎太郎、亜久斗が非常口に入っていくのが見えた。
「ぶつからないように、前の人と間隔を開けるんだよォ」
タツは大きな声で指示したあと、すばやく防護マスクをつけた。
どうして、あんなものを持っているんだ?
違和感をおぼえた春馬だが、今はそのことを考えている余裕がない。
「未奈、先にいって」
未奈を非常口に入れると、うしろで咳きこむ声が聞こえてきた。
逃げおくれている人がいるようだ。
煙の中から、理子がふらふらしながら歩いてくる。
「きみ、大丈夫かい? こっちだよ」
春馬が手を貸そうとすると、横から飛びだしてきた影があった。
「邪魔だよ!」
理子をつきとばしたのは、幸一だ。
「おい、なにするんだ!」
春馬は幸一の前に立ちふさがる。
「どけよ! ぼくの命は、お前たちのようなクズとちがって、貴重なんだ!」
「なんだって!?」
「力ずくでも、とおしてもらうぞ!」
幸一が殴りかかってくる。
春馬がサッと避けると、幸一はニヤリと笑って、そのすきに非常口に飛びこんだ。
「……なんだあいつ。ひどいやつだな」
春馬は、床に倒れた理子に手を貸す。
「大丈夫かい? 先にいっていいよ」
「う、うん……」
理子を非常口に入れると、春馬も頭がくらくらしてきた。
煙を吸ってしまったようだ。
頭がぼうっとする。早く逃げないと……。
非常口に入ると、そこははばの細い、真っ暗な廊下だ。
5〜6歩進んだところで、ふいに床がなくなった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
春馬は、穴の底に落ちていった。