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ものがたり

【先行連載】『さよならは、言えない。』2巻ためし読みれんさい! 第4回 恋を忘れるために


5月10日発売予定『さよならは、言えない。(2) ずっと続くふたりの未来へ』を、どこよりも早くためし読みできちゃう先行れんさいスタート!
切ないキュンがいっぱいの感動ストーリー、読んでみてね!(全6回)

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◆第4回

玲央への恋をあきらめる決心をした心陽(こはる)と、ねむったままの玲央(れお)の目覚めをまちながら『玲央と心陽の特別な関係』に気づいた凪(なぎ)。
ちがう場所で玲央のことを考えてすごすふたりの関係が、変化するきっかけが近づいているようで……?

 


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恋を忘れるために

 

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 全国模試まであと2週間弱。

 そんな中、無事に退院した健介(けんすけ)が、松葉杖(まつばづえ)で登校してきた。

「おはよ、健介。やっと退院したか~~~」

「おう。今日から部活復帰するから! しばらくは見学だけど。エース候補がいないと困るだろ」

「はいはい。そーですねー。ていうか、リハビリもしっかりやってよ~」

 久しぶりに教室で見る、香奈と健介のやりとりがほほえましくて、思わず笑ってしまうけれど、香奈の気持ちを考えると切ない。

 でも、香奈は、つらそうなそぶりをいっさい見せないんだ。

 今までどおり、健介と軽口を言い合ってる。

 すごいな。やっぱり香奈は強いよ。

 そんな香奈からたくさんパワーをもらって、私もなんとかがんばれている。

 玲央への恋心を忘れるために、私は今まで以上に全国模試の勉強に集中していた。



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――凪②

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 その日、凪はひとりで玲央の病室を訪れていた。

「玲央、再来週は、2回目の全国模試だよ。模試、受けるんだろ?」

 枕元で、いつものように語りかけても、やっぱり反応はない。

「そろそろ起きないと、俺か星羅が、玲央の全国1位の座をうばうことになるけど、いいの?」

 いたずらっぽく言ったあと、凪は小さく息をついた。

 別に、玲央は全国1位にこだわってるわけじゃない。

 それが玲央の『生きる理由』にはならないことを、凪は知っている。

 それよりも……。星羅が、玲央の生きる理由だろ?

 星羅に、なにも伝えないままで、いいはずがないだろ。

 凪はそんな想いをこめて、玲央を見つめた。

「玲央がいなくなったら、お前がずっと大切に持っていた想いが、全部なくなってしまうんだぞ。伝えなくていいのか?」

 玲央の枕もとでささやいた、その時だった。

「こ、はる……」

「っ!?」

 かすかに聞こえた声に、凪はおどろいて、まじまじと玲央を見る。

「玲央……!? 意識がもどったのか?」

 ぎゅっと玲央の手をにぎると、かすかに指が動いた。

 そして……玲央の目が、ゆっくりと開く。

「玲央!」

 あわててナースコールを押し、玲央が目覚めたことを看護師(かんごし)に伝える。

 なにかを探すように、視線をさまよわせた玲央の口が、かすかに動いた。

「……心陽は?」

「えっ」

 星羅(せいら)じゃなく、僕でもなく、心陽ちゃん……!?

 どうしてその名前が最初にでてくるんだ。

 うろたえる凪に視線を向けて、玲央が「凪……」とつぶやく。

「ああ。ここにいる」

「倒れる前に、心陽を見た気がするんだけど……。本物か、まぼろしかわからない」

「……」

 何度も玲央の口から出る『心陽』の名前に、凪は口ごもる。

 なんでそこまで心陽ちゃんにこだわるんだよ。

 その答えを知りたくなくて、凪はそれ以上、考えるのを止めた。

 玲央の視線からのがれるように目をふせて、短く息をすう。

「……まぼろしだ」

 そう言ってしまったあと、凪はすぐに後悔した。

「やっぱりそうだよな……」

 玲央の表情が暗くなったのを見て、心がぎゅっと痛んだ。

 玲央のためとはいえ、ウソをついてしまった。

 後ろめたく思いながら、凪の心に、疑問がわきあがる。

 玲央にとって、心陽はいったい、どんな存在なんだろう。

 ふたりが北海道でいっしょに過ごしたのは、そんなに長い時間じゃないはずだ。

 ふたりの間に、特別ななにかがあるのか……?

 星羅や僕のほうが、過ごした時間も思い出の数も多いのに。

 もやもやと考えていた凪の前を、白衣が横切った。

 病室に駆けこんできた担当医の大久保(おおくぼ)先生と石田(いしだ)さんが、玲央の顔をのぞきこむ。

「玲央くん、わかるか?」

「……はい」

 診察が始まると、凪はホッと胸をなでおろしながら、部屋の外へ出た。

「ムリはしちゃダメだけど、玲央くんのやりたいことがかなうよう、全力でサポートするからな」

 聞こえてきた大久保先生の言葉に、ハッとする。

 たしかに玲央は、自分の運命を受け入れるみたいに、なにもかもあきらめていた。

 そんな玲央が、ゆいいつ、突拍子(とっぴょうし)もないことをしたのは、凪の知る限り、『あの時』だけ。

 心陽の手を引いて走る玲央の姿が、頭の中に浮かぶ。

「先生、俺……生きたいです」 

 かすかに聞こえた玲央の声が、凪の胸をふるわせた。

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 診察が終わり、凪が病室に入ると、玲央はまたねむりについていた。

「意識がもどってよかった。凪くんが毎日話しかけたおかげかな」

 口をつぐんだままの凪をちらりと見て、主治医の大久保先生が続ける。

「まだ安心はできないけど、玲央くんには、生きる理由ができたみたいだね」

「……生きる、理由……」

「苦しさに耐えることだけが闘病(とうびょう)や治療(ちりょう)じゃないからね。充実した時間が過ごせているか、人生に幸せを見いだせているか……それは、人にとって、とっても大事なことなんだよ」

「幸せ……」

「ああ。今の玲央くんにとっての『幸せ』って、なんだろうな」

 そうつぶやいて、大久保先生は病室を出て行った。

 玲央の『生きる理由』は、なんだろう。

 玲央にとっての『幸せ』って、どこにあるんだろう。

 大久保先生が出ていった扉から目を離せないまま、ずっと考えこんでいた凪は、ため息をついてベッドのそばのイスにすわった。

 ベッドでは、玲央が静かに寝息をたてている。

 その寝顔を見つめていると、罪悪感がふくらんだ。

 玲央が倒れる直前に見た心陽はまぼろしだと、思わずウソをついてしまった。

 あのウソは、はたして、正しいウソだったのだろうか。

『玲央には、想い合っている星羅と幸せになってほしい』

 ――ずっと、そう思っていたけれど。

 玲央の気持ちはどこにある?

 玲央は誰を想っている……?

 そんな疑問が消えなかった。

 考えても答えは出ない。だけど、凪が一番大切にしなければならないのは、ひとつだけ。

 ――なによりも、玲央の命が最優先だ。

 玲央が『会いたい』と望んでいるかもしれない人を、連れて来てみようか。

 星羅の手前、できることは限られているけれど、玲央に生きる気力を与えられるなら……。

 そう思い至った凪は、大きな決断をした。
 



凪のした『決断』とは……? それは、心陽にいったいどんな影響をあたえるの??
気になる続きは、次回 第5回「取り消された言葉」をおたのしみに!


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作:高杉六花  絵:杏堂まい

定価
770円(本体700円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322166

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