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5月10日発売予定『さよならは、言えない。(2) ずっと続くふたりの未来へ』を、どこよりも早くためし読みできちゃう先行れんさいスタート!
切ないキュンがいっぱいの感動ストーリー、読んでみてね!(全6回)
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◆第3回
玲央(れお)と凪(なぎ)との関係を問いつめられて、切ない気持ちをよりつのらせてしまった心陽。
きずついた気持ちのまま、親友の香奈(かな)にあやまろうとがんばる心陽に、意外な展開が……?
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆
失恋同盟
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結局、朝は田沢(たざわ)さんの足止めで、香奈と話ができなかった。
ホームルームの予鈴(よれい)のあと、すぐに担任の先生が教室に来ちゃったんだ。
休み時間のたびに、あやまる機会をうかがっていたんだけど……。
今日は、午前中に小テストが続くから、休み時間に席を立つ人はほとんどいなくて。
香奈も、ずっと席に座って勉強していた。
その後も、話しかけるタイミングをのがしたまま、あっという間にお昼休みになってしまった。
香奈、今日もいっしょにおべんとう、食べてくれるかな。
きのうメッセージでもらった『話したいこと』も気になるし、不安でいっぱいだよ。
とにかく、香奈とおべんとうを食べながら、きのうのことをあやまろう。
そう思い直して、席を立とうとすると。
「心陽、きのうはメッセージもらってたのに、返事しないままでごめん」
香奈が私の席までやってきて、そう声をかけてくれた。
私もあわてて立ち上がり、首を振る。
「ううん! 私こそ、おそい時間に送ってごめんね」
「今、ちょっといい? 話があるの」
「えっ。う、うん」
いつも明るくて元気な香奈の表情が、暗いように見えるのは気のせいかな。
「教室じゃちょっと話しにくいから……。おべんとう持って、中庭に行こう」
「うん……」
やっぱり、おこってるんだよね……。
ざらりとしたイヤな予感が、胸の内側に広がっていく。
香奈になんて言われるんだろう。すごくこわいよ。
でも、逃げちゃダメだ。ちゃんと向き合おう。
きのうのことをあやまって、香奈の話をしっかり受け止めよう。
まとわりつく恐怖(きょうふ)を振りはらって、私は香奈のあとを歩き出した。
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆
中庭のすみっこにある、小さな切り株にすわると、香奈はふーっと息をついた。
「心陽……」
「うん」
「きのうはありがとね」
「へっ!?」
予想外の言葉に、私はマヌケな声を出してしまった。
ちょっと待って。今、「ありがとう」って言われたよね?
なんでだろう。私、香奈に感謝されることなんてした覚えがないよ。
目をぱちくりさせると、香奈はふふっとてれ笑いを浮かべた。
「きのう、心陽のおかげで、健介(けんすけ)とふたりで、たくさん話せちゃった。気を使ってくれてありがとね」
「えーっと……」
香奈は笑顔だし、聞きまちがいじゃないみたい。
「でもさ……。私、健介のこと、あきらめることにしたんだ」
「えっ。あきらめるって……」
それって、つまり……。
「もしかして、香奈、健介のこと……」
「うん。野球部に入部してからずっと、健介のことが好きだったんだ」
「そうだったんだ……」
香奈が、はじめて打ち明けてくれた恋心。
おどろきもあるけれど、「やっぱり」って気持ちの方が大きい。
なんとなく、そうなんじゃないかなって思ってたんだ。
香奈と健介は、いつも軽口を言い合うくらい仲がいいから。
部活をがんばる健介を、香奈はいつもまぶしそうに見つめていたしね。
「あいつ、野球バカだしさ~。それに、私の事、ぜんぜん恋愛対象じゃないんだもん」
あっけらかんとしてるけど、香奈の目は少し赤い。
昨日、たくさん泣いたのかもしれない……。
――私と、いっしょだ。
そう思ったら、香奈に打ち明けたい気持ちがこみあげてきた。
「……私も、あきらめることにしたんだ」
昨日から、心の中でヒリヒリしてるそのことを、思い切って口に出す。
香奈は、「えっ!?」と目を丸くした。
「心陽、好きな人いたの!?」
「うん……。好きって気づいたのは、すごく最近なんだけどね」
「それって……健介?」
気まずそうな顔の香奈に、私はブンブンと首を振る。
「ち、ちがうよ! この学校の人じゃないんだ」
「そっか。ていうか、心陽も恋してたんだね。しらなかったよ!」
「うん。でも、恋って気づいたとたんに、失恋しちゃった感じなんだけどね」
「そうだったんだ。ということは、健介も失恋したってことだ」
「えっ。健介も!?」
どういうこと?
首をかしげる私を、香奈がじーっと見つめる。
「ねぇ心陽。まさか、気づいてなかったの?」
「なんのこと?」
「健介の好きな人、心陽なんだよ」
「えええっ!?」
思わず大きな声を出してしまって、あわてて口を押える。
「ごめん、香奈。大きな声だして」
「あははっ。その反応からすると、本当に気づいてなかったんだね」
「まったく知らなかったよ! まさか……」
健介が私のことを好きだなんて!
なにかのまちがいじゃない? 香奈のかんちがいとか?
でも、そういえば……。
玲央に会いにひとりで病院に行った時に、健介にかんちがいされたことがあったっけ。
『すげーうれしいよ。まさか心陽が俺のこと好きなんて』
今思えば、そう言っていたときの健介、すごくうれしそうだったな……。
ということは、本当に本当に健介は私のこと……!?
うわわわっ。気まずくて、冷やあせがふき出てしまう。
だって、香奈が健介のことが好きなのに……。
でも、「私のせいで」とか、「ごめんね」って言うのは、おかしいよね。
逆に香奈を傷つけてしまいそう。
じゃあ、こういうときって、なんて言ったらいいんだろう。
私は、どんな気持ちでいたらいいんだろう。
どうしたらいいかわからなくて、目が泳いじゃうよ。
ひとりでアタフタしてる私に、香奈はいたずらっぽく笑った。
「気にしないで。健介の態度、あんなにわかりやすいのに気づいてないなんて、心陽らしいよ。っていうか、3人いっぺんに失恋って、笑うしかないよね。失恋同盟でも組んでおく?」
「失恋同盟!」
「ふふふ。すっごくフクザツな同盟だけどね」
ふんいきを明るく変えてくれた香奈の優しさに救われて、私もようやく少し笑顔になれた。
こういうとき、とっさにこんな言葉が言える香奈は、やっぱりすごいよ。
私も、香奈を笑顔にできるようになりたいな。
「よし、おべんとう食べちゃおうか!」
「わっ。そうだね! お昼休み、あと20分しかない!」
私たちはいそいそとおべんとうを広げて、「いただきます!」と手を合わせた。
「心陽のお弁当、いつもきれいな色だね~」
「そうかな?」
「そうだよ! 私のなんて茶色だらけだよ。まぁ、私の好物ばかり入れてくれる結果なんだけど」
「香奈のおかず、いつもおいしそうって思ってた」
「じゃあさ、失恋同盟記念で、一番お気に入りのおかずを交換(こうかん)しちゃう?」
「いいね! 私の一番のお気に入りは……花形の卵焼きかな」
「かわいい~! まん中にソーセージが入ってる! 私は、お母さん特製のからあげ!」
「わ~。おいしそう!」
おたがいのおかずを一品交換して、私たちは楽しくおべんとうを食べた。
――キーンコーンカーンコーン……
授業5分前のチャイムを聞きながら、香奈が、力強くこぶしを突き出す。
「失恋の痛みは恋でしかいやせないって言うし、私、新しい恋をがんばるわ! 心陽もがんばれ!」
「うん」
私も手をにぎって、香奈のこぶしにコツンと合わせる。
自分だってつらいのに、おうえんしてくれる香奈が本当に大好きだ。
新しい恋は……しばらくできそうにないけれど。
香奈みたいに、少しでも前向きになれるようにがんばろうって気持ちになってる。
玲央にバッジを返すって約束は、果たすことができなくなってしまったけど……。
それでも、玲央を超(こ)えるっていう目標は、そのままにしておきたい。
目標を失って、これ以上心がからっぽになったら、私はきっと、なにもかもがんばれなくなってしまいそうだから。
「香奈、私もがんばるよ」
そう宣言して、私たちは教室に向かって歩き出した。
私、世界中にひとりぼっちなんかじゃなかった。
恋も勉強もがんばろうって、はげまし合える香奈がいる。
それに、もう二度と会えなくても、恋しちゃいけなくても、玲央は私の心の中にいる。
玲央との思い出も、玲央の笑顔も、玲央がくれた言葉も、私の記憶から消えることはない。
玲央が、私の心の支えだってことは、変わらないんだ。
「よし。顔を上げて、前を向こう」
小さくつぶやいて、青空を見上げた。
この空の下で、玲央はきっと、せいいっぱいがんばってる。
だから私も、うつむいていないで前に進もう。
玲央への恋心を忘れられるくらい、勉強をがんばろう。
約1か月後、6月末にある2回目の全国模試を、全力でがんばろうって決心した。
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆
――凪①
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆
玲央が倒れてから1週間が過ぎ、6月に入った。
集中治療室を出て、特別室にもどれたけれど、ねむったままの状態が続いている。
凪(なぎ)は、星羅(せいら)といっしょに特別室に入ると、玲央に笑顔を向けた。
「玲央、来たよ」
「今日は私もいっしょよ」
学校帰りに、病院に来るのが凪の日課になっていた。
星羅も、バレエのレッスンの合間をぬって、週に3回は様子を見に来ている。
もしかしたら、今日こそは目を覚ますかもしれない。
来るたびにそんな期待をいだくけれど、今日も玲央は目を閉じたままだった。
「バイタルは、正常値にもどったんだけどね」
看護師(かんごし)の石田さんのつぶやきに、星羅が首をかしげる。
「バイタル……?」
「ああ、『脈拍(みゃくはく)』『呼吸』『血圧』『体温』のことよ。玲央くんに話しかけてあげてね。聞こえてるかもしれないから」
「……はい」
石田さんは玲央の点滴(てんてき)の残量を確認すると、病室を出て行った。
夕日に照らされた玲央の寝顔を見つめながら、星羅がしずんだ声で言う。
「もしかして、玲央は、目覚めたくないのかな……」
「そんなことないよ。玲央は今、がんばってるんだ」
凪は、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
そうだ。玲央は今、生きようとがんばってる。
目覚めたくないなんて、思っているわけがない。
星羅を置いていくなんて、玲央がするはずないんだ。
たしかに――……。
北海道の小学校を卒業して、東京にもどってきた玲央は、生きる気力を失ったみたいに、投げやりになっていた。
だけど、大鳳学園(おおとりがくえん)の入学式では、僕と星羅といっしょに楽しそうにしていた。
4月の模試だって、あいかわらず全国1位だったし、それに……。
久しぶりに街に遊びに行って、クレープを食べて、楽しそうだった。
「……」
ふいに、そのときいっしょにいた『もうひとり』を思い出して、凪は視線を床に落とした。
心陽の手を引いて、突然走り出した玲央の、生き生きとした顔。
公園で、楽しそうに話すふたりの姿。
――玲央のあんな表情、久しぶりに見たな……。
うつむいた凪に、星羅が心配そうに声をかけた。
「……凪?」
呼びかけられた凪は、記憶をふりはらうように軽く頭をふって、星羅に笑顔を向けた。
「だいじょうぶ。明日こそ、目覚めるかもしれないよ」
切なくて、つらいこともあるけれど、香奈と『失恋同盟』でさらに絆を深めた心陽。
そんなころ、凪は、玲央と心陽の関係が気になっているみたいで……?
次回、心陽・玲央・凪の関係に変化の予感!? 第3回 「恋を忘れるために」をおたのしみに!
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