KADOKAWA Group
ものがたり

【先行連載】『さよならは、言えない。』2巻ためし読みれんさい! 第2回 世界にひとりぼっち


5月10日発売予定『さよならは、言えない。(2) ずっと続くふたりの未来へ』を、どこよりも早くためし読みできちゃう先行れんさいスタート!
切ないキュンがいっぱいの感動ストーリー、読んでみてね!(全6回)

発売中の1巻をまだ読んでいない人は、期間限定の1巻まるごとためし読みページをチェック!



◆第2回

玲央(れお)への恋に気づいたけれど、気づいた瞬間、あきらめることを決めた心陽(こはる)。
さらに、心陽には気になっている『あること』があって……。

 


☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆

 

世界にひとりぼっち

 

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆

 

 次の日の朝、私は重い足どりで学校に向かった。

 

 きのう、病院に香奈を置いてきてしまったこと、あやまらなくちゃ。

 玲央のことで頭がいっぱいで、香奈が健介の病室にいることを忘れて、帰ってきちゃったから。

 家に帰ったあともしばらく泣いて、ようやく落ち着いたころに、あっ!って思い出したんだ。

 すぐにスマホを見たら、香奈からメッセージが入ってた。

『明日、話したいことがあるの』

 ……って。

『もちろん! 話、聞くよ! それと、今日は本当にごめん』

 そうメッセージを送ってみたけれど、返事はないまま。

「はぁ……。自分がイヤになるよ……」

 何度目かのため息をつきながら、ろうかをトボトボと歩く。

 香奈、おこってるよね……。

 いなくなった私を心配して、病院中を探し回ってくれたかもしれない。

 教室に行ったら、まず香奈にあやまろうって決意して、階段をあがる。

 教室のある階に着くと、とつぜん、目の前に人影があらわれた。

「ねぇ、ちょっと待ちなさいよ」

「えっ」

 顔を上げると、田沢(たざわ)さんたちが通せんぼをしていた。

「聞きたいことがあるの。4日前のこと」

 ……4日前?

 急に言われて、混乱してしまう。

 たじろいでいると、田沢さんは、いらだった声で続けた。

「あんたはいつも松本さんといっしょにいるから、話せなかったのよ。あんた、大鳳学園(おおとりがくえん)のレオ様とナギ様と、どういう関係なのよ」

 そう言われて、やっと気づいた。

 4日前は、玲央といっしょに出かけた日。

 玲央が倒れて、凪といっしょにタクシーで病院にもどった日だって。

 そういえば、玲央と凪(なぎ)が学校まで私をむかえに来たのを、田沢さんに見られたんだった。

『覚えてなさいよ……』

 あのとき聞こえた、田沢さんのいかりの声が頭の中によみがえってきた。

 どうしよう。なんて言えばいいんだろう。

「……」

 田沢さんは、だまったままの私にイラついているみたい。

「あんたさ、前に、ナギ様とは友達じゃないし、ぐうぜん会って、通りすがりに声をかけられただけって言ったよね。あれ、ウソだったってことだよね?」

「いや……。そうじゃなくて……」 

「じゃあ、なんなのよ。この前、あんたのことむかえに来てたじゃない。しかもレオ様まで! どういうこと?」

「ええっと、それは……」

 どう言ったらいいんだろう。

 言葉を探している私に、田沢さんはさらにたたみかけてきた。

「レオ様も、ナギ様も、あんたの名前を呼んでたの、聞いたんだから。絶対知り合いでしょ。ウソつくなんてサイテー」

「ウソじゃないよ。病院で凪に会ったときは、本当にぐうぜん会って、声をかけられただけだったの」

「『病院で会ったときは』ってどういうこと? 病院はぐうぜんだったけど、そのあと、友だちになったってこと?」

 友だち……じゃ、ないよね、凪は。

 凪にとって私は、玲央のためにならない、敵みたいなものだから。

「そういうわけじゃないけど……」


 言葉をにごしながら言うと、田沢さんは、はあ、と大きなため息をついた。

 ちょっと顔を上げてみると、みんな、なにが起こってるんだろうって、こっちをチラチラ見てる。

 私がまわりを見回していることに気づいたみんなは、巻きこまれたくないのか、そそくさと教室に入っていった。

 ――こんなとき、香奈がいてくれたら……。

 また香奈を探してしまっている自分に気づいて、ハッとする。

 香奈は、今まで通り、私の味方になってくれるのかな。

 いや、わからない。きのうのことで、おこってるかもしれないから。

 つらい気持ちになって、思わずうつむく。

 そんな私に、田沢さんの後ろにいたふたりが、明るい声で話しかけてきた。

「うちら、怒ってるわけじゃないんだよ」

「そうそう。どうして山口さんのことを、大鳳学園のふたりがむかえに来たのか知りたいだけ」

「レオ様って、大鳳学園内でも人気がすごいし、親衛隊みたいな人たちにガードされちゃって、なかなか会えないの。そのレオ様が里見中に来るって、すごいことなんだから!」

 ふたりは、口々に言ってもりあがってる。

「レオ様、ウワサ通りで超かっこよかったから、うちら感動しちゃって! 山口さんの友だちなら、紹介してもらいたいな~って思っただけ」

「私たちも、レオ様とナギ様と、お話してみたいなって」

「……えっと……」

 笑顔のふたりに、カベぎわまで追いつめられて、逃げることもできない。

 どうしよう。

 正直に、玲央とは知り合いなんだって、言ったほうがいいかな?

 この状況から逃げ出したくて、一瞬そんなことを考えたけど。

 すぐに、「言えるわけない」って、思い直した。

 だって、玲央との関係は、香奈にもまだ言えていない。

 香奈にまだ伝えられていないことを、田沢さんたちに言うことなんて、できない。

 それに、これだけ有名な玲央と私が知り合いだなんて言ったら、きっとウワサになって広まって、香奈の耳にも入ってしまう。

 香奈があこがれている『青山玲央』は、去年北海道でいっしょにすごした、私の目標の人なんだってこと、ウワサなんかじゃなくて、ちゃんと私の口から香奈に伝えたいよ。

 それに、私はもう、玲央に会うことができないんだから……。

 知り合いだなんて、もう、言えないよ。

「ねぇ、あのあと、ふたりとどこに行ったの?」

「連絡先とか知ってる? 次はいつ会うの?」


 なんとか玲央のことを聞きだそうってしているふたりに、私は意を決して口を開いた。

「ごめん。連絡先は知らないんだ。それに、もうふたりに会うこともないと思う」

 私が言える、せいいっぱいの本当のこと、なんとか伝えられた。

 でも、田沢さんたちは納得がいっていないみたい。

 笑顔だったふたりも、みるみるうちにふきげんになっていった。

「なにそれ。わけわかんないんだけど」

「せっかく優しく聞いてあげたのに。ほんと使えないね」

「ねぇ、どうでもいいから、レオ様とナギ様に会わせてよ」

 どうでもいいって……!

 その言葉に、胸が押しつぶされそうに痛む。

 今、玲央は病院で、苦しんでいるのに。

 きっと、治療(ちりょう)を受けて、がんばってるのに……!

 でも、そんなことを、田沢さんたちに言えるわけがない。

 ぐっとこぶしをにぎりしめて、こみあげてくる涙をこらえる。

 玲央……。

 ごめんね。私、ぜんぜんダメだ。

 玲央に教えてもらったこと、伝えてもらったこと、全部うまくできてない。

『ふたりのことはなにも教えられない』って、はっきり言いたいのに、言えないままだよ。

 香奈みたいに、心を強く持って、うまくきりぬけられたらいいのに。

 でも、私の背中を押してくれる玲央には、もう会えない。

 香奈との友情にも、ヒビがはいってしまったかもしれない。

 世界にひとりぼっちになってしまったみたいに感じる。

 私、結局、ひとりじゃなにもできないんだ。

 そんな自分が情けなくて、うつむいたその時、ホームルームの予鈴(よれい)が鳴った。

「あんたが本当のこと言うまで、絶対にあきらめないから」

 そう言い残して、田沢さんたちは、教室に入って行った。

 三人の後ろ姿が見えなくなると、無意識ににぎりしめていた指先から力が抜ける。

 やっとついた深いため息は、教室から聞こえるざわめきに消えていった。
 



玲央への恋をあきらめて、もう二度と会わないことにしたつらい気持ちに、さらにキズを負ってしまった心陽。
そして、香奈との関係は、どうなってしまうの?
次回 第3回「失恋同盟」をチェックしてね。


\期間限定! 発売中の1巻をまだ読んでいない人はチェック!/
『さよならは、言えない。』1巻のまるごとためし読み連載中!




 『一年間だけ。』の安芸咲良さん新作『ハッピーエンドはどこですか』先行連載中!




大人気作家・夜野せせりさんの『スピカにおいでよ』1巻冒頭が読める♪




\新シリーズを、先行連載でだれよりも早くおためし読み!/



作:高杉六花  絵:杏堂まい

定価
770円(本体700円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322166

紙の本を買う

電子書籍を買う


この記事をシェアする

ページトップへ戻る