7 ファイアー&オクトパス!?
「わたしたちの屋台って、このあたりになるんだね!」
放課後、わたしは、「チームファイアー」の有志で、屋台を建てる予定地にやってきていた。
校舎と体育館の間ぐらいの位置で、屋根がないところだけど開けてる。
ここなら、テントがいっぱいならぶと、気持ちよさそう。
屋台はまだ建っていないけど、どの場所になるかは、生徒会が配置を決めてくれている。
その場所に行ってみると……。
「あーっ、アスカ先輩! 緋笠先輩!」
ツインテールを跳ねさせながら、白里奏が走ってくる。
奏は1年生で、わたしになついてくる、かわいい後輩なんだよね。
……まあ、あの高校生探偵の白里響の妹だっていうところは、ちょっと複雑なんだけど。
「ほら奏、アスカにとびつかないよっ!」
「んぐぅ!」
わたしに飛びついてこようとした奏の襟を、うしろから水夏がぐいっとつかむ。
水夏は、わたしの友達で、同じ演劇部の副部長をしている。
キツい子だって誤解されやすいんだけど、しっかりしてて、たよれる子なんだよね。
「引っぱらないでくださいよお、水夏先輩!」
「とびつこうとするのが悪い」
水夏は、奏相手でもきっぱりと言い切って、うまくおさえてる。
最近の水夏は、副部長になったせいか、面倒見がいい。
後輩相手に、演劇部でも部活が終わったあとに、いろいろ教えたりしてるんだ。
あれ、でもこの2人がいっしょにいるってことは……?
「私のクラスと、奏のクラスがチームになったの。だからしかたなく、私が奏のブレーキ係をやってるわけ」
「ひどいです、水夏先輩!」
「ほんとのことでしょ」
言いあう奏と水夏のまわりにも、クラスメイトのすがたがある。
「もしかして、奏や水夏たちのチームも、屋台なの?」
わたしは、2人にきく。
「そうだよ。こっちはたこ焼き屋台になったんだ」
「だから、うちはチームオクトパスって名前なんですよー!」
奏が得意そうに言う。
オクトパスは、タコっていう英語だっけ。ちょっとかわいらしい名前だ。
「アスカたちも屋台? なにをやるの?」
水夏がききかえしてくる。
「じゃがバター屋台だよ」
「わっ、じゃがバターも、おいしそうですね!」
奏が身を乗りだしてくる。
「そうだよ。ほっくほくのじゃがいもを、いっぱい用意するつもり。バターもね!」
「いいなぁ~食べたいなぁ~…………って、ちがいました! 今回はライバル同士ですからね、アスカ先輩! じゃがバターには負けませんよっ!!」
ふらふらとよろうとしてた奏が、ぐっと踏みとどまる。
「こっちだって負けないよ! どっちが売れるか競争だからね!」
もちろん、わたしたちの合同クラスだって負けてられない。
「奏、ライバルと油を売ってるヒマはないんだから」
水夏がそう言って、奏のえり首をつかむ。
「んぐぅ! だから水夏先輩、そこつかまないでくださいよ。猫じゃないんですから」
「気がつくと、猫みたいにちょろちょろとしてるからよ」
「そんなぁ……」
意外と、奏と水夏はなかよくやっているみたい。
でも、2人がおとなりなら、強力なライバルになりそう!
わたしが、あらためて気合を入れていると、会話にまざらずにいたアリー先輩が、ほんの少し、首をかしげたのが目に入った。
アリー先輩は、一応みんなといっしょに、行動はしているんだ。
っていっても、少し距離をおいて「そこにいる」っていうだけなんだけど。
でも、一応「クラス行事に参加している」ことに、わたしはほっとしている。
わたしがしつこく話しかけたら、逆にめだちそうで、あまりしないようにしているけど……。
「あの、アリー先輩。どうかしましたか?」
わたしはさりげなく、声をかけてみる。
すると、わたしへの返事という感じでもなく、アリー先輩が、ぽつりと言う。
「……いっしょに、やらないの?」
え? 「いっしょに」って……。
もともとわたしたち、2学年合同のチームだけど……。
わたしがとっさに意味がわからず、とまどっていると、奏がすかさずアリー先輩に食いつく。
「さすがアリー先輩! それ、ありですね!!」
えっ? えっ?
「ありって、どういうこと? 奏。わたし、わかってないんだけど」
わたしが奏にきく。
「だから、アスカ先輩と緋笠先輩のチームファイアーと、わたしと水夏先輩のチームオクトパス、2チームで、いっしょにやろうよってことです!」
奏が力をこめて言う。
ええっ!?
「いいけど、4クラス合同でっていうのは、さすがにむずかしいんじゃない……?」
水夏が、けげんそうに言う。
だよね……2クラス合同チームってだけでも、去年とは大ちがいなのに、さらに倍って。
話しあうメンバーが多すぎない……?
「2つの屋台を『ライバル』じゃなく『姉妹店』にしようってってことですよ!」
あっ、そうか!
競いあうんじゃなくて、2つの屋台で協力したほうが、絶対楽しいよね!
「でも、メニューはたこ焼きとじゃがバターでしょ? 食べ物がちがうし、協力するっていっても、なにができるのかなあ?」
わたしは、腕を組んで考えこむ。
「食べるスペースをいっしょにしたら? おもてなしを、合同にするの」
水夏が、さらりと意見を出す。
「「あっ、それだ!」」
わたしと奏が、水夏につめよる。
「すごいよ、水夏!」
「私たちだけで盛りあがっても、しょうがないの。みんなに同意を得ないと」
水夏は、あきれたようにわたしと奏を見る。
「なら、すぐにみんなに話しましょう、水夏先輩! 鉄は熱いうちに打て! ですよ」
奏は、水夏の手を引っぱって、自分のチームのほうにむかおうとする。
「はいはい。そっちのチームも、アスカから話しておいて」
奏に引っぱられながら、水夏がわたしに言う。
「うん、わかった!」
わたしはうなずくと、アリー先輩といっしょに、合同クラスのみんなのところにもどる。
「ねえ、みんな。ちょっといいかな?」
わたしは、屋台の場所を下見していた、チームファイアーのみんなに声をかける。
「どうかした? さっき、となりのチームの子と、なにか話してたみたいだけど」
3年生の女子の先輩は、わたしたちと奏たちが話していたのを、気にとめていたみたい。
「はい! おもしろいアイデアがあるんです」
わたしはさっそく話をする。
「それ、いいじゃん!」
「でも、ただいっしょのイートインスペースをつくるだけだと、いっしょにやってる感じは伝わらないかなあ? どういう工夫をしたらいいか……」
よかった。うちのチームも、前向きみたい。
一気に、共同のイートインスペースをどうするかの話になってる。
「おそろいのユニフォームを着るのは、どうですか?」
わたしは、提案してみる。
おそろいを着てると、統一感がぜんぜんちがうし。
「それいいね!」
うんうん、ってみんなうなずいてくれる。
「むこうはたこ焼き屋なんだっけ。なら法被は?」
「オリジナルってなると、どこかの業者に発注して、つくってもらうの?」
「それは、お金がかかりすぎるよ……」
3年生たちが、不安そうな顔になる。
それに対して、2年のわたしのクラスメイトたちは、動じない。
だってわたしたち、去年も喫茶店で、やったもんね。
「自分たちで服をつくりましょうよ! それだったら、細かいところまで工夫できますし」
わたしが、2年生を代表して言う。
「えっ? でも、法被なんてつくったことないよ? つくりかたもわからないし」
3年生たちが、ぶんぶんと首をふってる。
それは、わたしも知らないし。
でも、うちのクラスには、たよれるあの子がいるんだよね!
「優月、できそうかな?」
わたしがたずねると、優月は小首をかしげながら、ひかえめに言った。
「うん、大丈夫だよ。そんなにむずかしくないから、みんなでできるんじゃないかな」
やった!
「そうだった! そっちには、春川さんがいたんだ」
「あの家庭科部のエースだもんなぁ、心強いよー」
3年生たちに口々に言われて、優月がこまったような顔をしてる。
家庭科部の活躍ぶりは、うちの学園の生徒ならみんな知ってるもんね。
演劇部の衣装だけじゃなく、運動部の応援Tシャツのデザインとか、他校の部活からも、衣装づくりのときに、デザインの相談を受けたりしてるくらいなんだから!
「でも、春川さん、大変じゃない? むりしないでね?」
3年生の女子が、心配そうに優月にたずねる。
「大丈夫です。衣装をつくるのは楽しいし、みんなで分担すれば」
優月はそう言って、にっこりとほほ笑む。
その笑顔を見て、3年生たちも納得したみたい。
「なら、決まりだね! ……って、あっちのチームの意見はどうだろう?」
わたしは宣言しかけて、こっちのチームの意見しかまとまっていないことに気づく。
「わたし、ちょっときいてきます!」
わたしは、奏や水夏たちのいるほうにかけだす。
奏と水夏も、ちょうど話し合いが終わったのか、こっちにやってくるところだったらしい。
合流したわたしは、賛成で意見がまとまったことと、オリジナル法被についても伝える。
「いいじゃないですか! わーワクワクしてきた!」
「優月がついてるから、法被づくりの心配はいらないわね。それぞれのクラスからユニフォーム係を出してもらえばいいんじゃない、その案から全体で決めればスムーズよね」
水夏が、考えながら言う。
さすが、演劇部副部長だけあって、決めごとの手ぎわがいいっ!
「それじゃあチームファイアーとチームオクトパス、力を合わせて屋台をやるってことで決定!」
「はい、よろしくです!」
わたしと奏が、腕でタッチする。
盛りあがるわたしと奏に、水夏がやれやれと肩をすくめてる。
さっそく、それぞれのチームにもどって伝えることにする。
屋台のほうに行っていたわたしたちは、チームのみんなが集まっている3年C組の教室にもどる。
「衣装係……やってみたいかも」
「デザインかぁ。絵が描けないからな」
「アイデア出すだけだから、絵が描けなくてもいいんじゃない?」
話を伝えると、さっそく、チームで衣装係決めがはじまってる。
どんな法被になるか、今から楽しみだよ!
「アリー先輩は、法被って着たことありますか?」
わたしはそう言って、ふりかえったものの……あれ?
「アリー先輩?」
わたしは、キョロキョロと見まわす。
「緋笠先輩なら教室にもどらずに帰ったよ」
2年のクラスメイトが教えてくれる。
「あっ、そうだったんだ……」
盛りあがりすぎてて、気がつかなかった。
おいてけぼりに、しちゃったからかな。
ううん。それだけのことで、アリー先輩が、へそを曲げて帰っちゃうとは思えない。
きっと、なにか予定があったんだよね。
そこまで考えて、ヒヤッとする。
もしかして、先輩、また今日も爆弾を…………ううん、そんなわけない!
そんな考えがよぎって、わたしはくちびるをギュッとかみしめる。
そのとき、
「――アスカ、どうかしたの?」
声をかけられて、ふりむくと、いつの間にか、実咲がいた。
両腕に、学園祭の準備のものらしい資料をいっぱいかかえていて、忙しそうなのに。
「な、なんで?」
「なんだか、不安そうな顔してる気がしたから」
実咲が、じぃーっとわたしの顔を見てくる。
えっ。ほかのだれにも、言われてないのに。
「そ、そんなことないよ! 元気だし!」
わたしは、その場でくるりとステップを、ふんでみせる。
それを見て、実咲が小さくため息をつく。
「……まあいいけど。いつでも話、聞くからね」
「うん、ありがとう、実咲」
わたしはうなずく。
だけど、これは、親友の実咲にも話せない。
学園祭をとりしきってて忙しい実咲に、爆弾事件のことを話して不安がらせたくないし。
さらに、その犯人が、アリー先輩かもなんて……絶対に言えない。
だからこそ……。
わたしが、どうにかしなきゃいけないんだ!
第3回へつづく(9月7日公開予定)
『怪盗レッド24 うつくしき爆破犯を追え☆の巻』9月13日発売!
つばさ発の単行本『怪盗ファンタジスタ』もうチェックした?
▼みんなが書いたファンアート公開中▼