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【レッドの実行役のアスカと、ナビ役のケイ。この2人だからこそ、できることがある!】
楽しい学園祭準備が、ちゃくちゃくと進む中……近所では、不気味な爆破事件がたてつづいていた。
その現場で、アリー先輩のすがたを見かけてしまったアスカは、胸さわぎが止められず…。
アスカとケイの「2人1組ならでは」の絆を感じる最新刊を、どこよりも早くためし読み!
(毎週木曜日更新・全3回)
【このお話は…】
学園祭には、3年生のアリー先輩のクラスと、2年生のアスカやケイのクラスが合同で屋台を出すことに。
気になるのは、アリー先輩がわきあいあいとした準備から、わざと距離をおいているように見えること……。
いっしょに盛りあがれたら楽しいのに……どうして?
アスカは、爆破現場でとおりがかったアリー先輩のすがたを思いだしてしまい……!?
5 ドローンの「目」
合同クラスでの話し合いが終わり、わたしは家に帰って制服から着替えると、すぐに家を出た。
この間の「爆弾事件」――と仮によぶけど、その次のターゲットになりそうな候補地として、ケイが挙げてくれた場所の1つにむかう。
ターゲット候補の1つ、公園の近くにやってくる。
あたりはもう日が暮れて、暗くなりはじめてる。
この時間だと目立つから、レッドのユニフォームじゃなくて、ふだんの動きやすい服だ。
わたしは、散歩のような雰囲気で公園の中をぐるりとまわって、異常がないことを確認してから、公園のまわりの道路を歩く。
でも、それらしいものは見当たらない。
「――ケイ? ほかの場所の様子はどう?」
わたしは、インカムを通じてきく。
『今のところ、あやしいものは見当たらない。ただ、ドローンでの捜索は人の目よりは行き届かない。そのつもりでいてくれ』
ケイは、わたしが行けなかった残りの4か所に、ドローンをむかわせて調査してくれているんだよね。
ドローンっていうのは、無人航空機のこと。
今回だと、直径30センチぐらいで、小型のリモコンで操作できる、航空機だ。
ケイが、自分で設計して組み立てた、特別製なんだって。
しかも、同時に4機を操作して、監視もして、インカムでわたしと会話もしているんだから、ケイの頭の中ってどうなってるのって感じだよね。
それができちゃうのが、不思議じゃないと思えるのが、ケイらしいけどさ。
そんなケイでも、ドローンのカメラ越しでは、異変を見つけにくいって感じるみたい。
それに、もし異変を見つけても、そのあとも、ドローンだけでは対処できないしね。
だから、できればわたしがいるこの場所で、なにか見つかってくれるといいんだけど。
とはいうものの、そもそも、探すのがなんなのかも、わからないんだよね。
爆発物がどんなものかわからないし。
犯人が直接爆発させているのか、それとも遠くから操作しているのかも、わからないから。
とにかく、あやしいものがないかと、注意するしかない。
そんなふうに、公園の中を行ったり来たりしてみる。
あたりは、もうすぐ暗くなりそう。
う~ん……。
とくに、なにも見つからない。
まだ人気が少しあるし、公園に、時間をかけてなにかをしかけるなんて、目立ちそうだしなぁ。
ここじゃなかったのかも。
わたしが、そう思ったとき――。
パンッ!
前きいたのと似た破裂音が、きこえてくる。
公園にいた高校生ぐらいの人たちが、「なに?」とびっくりして、キョロキョロしている。
「ケイ、破裂音がした。音のしたほうにむかうよ」
『わかった。おれはほかの場所も引きつづき警戒しておく』
ケイから返事があって、わたしは音がしたほうに走りだす。
今回は、前より音の場所が近くにきこえた。
公園を出て、住宅街の中を走る。
道路で、おどろいた顔で足を止めている人はいたけど、1回しか音が鳴らなかったせいか、そのまま歩いていってしまう。
わざわざ確認しに行くのは、よほど近くで音が鳴ったとかじゃないと、ないのかも。
破裂音がしたらしい場所を見つけた。
マンションのゴミ捨て場の壁に、前見たのと似た、丸い焦げあとがついてる。
焦げくさいにおいもするから、ここでなにかが爆発したのはまちがいない。
幸い、今回も人気のない場所だったから、ケガ人は出ていなくて、ほっとする。
……って、安心している場合じゃない!
わたしは、あたりを見まわす。
音がしたのはついさっきだし、もしかしたら、犯人がまだ近くにいるかもしれない!
わたしは、焦げたあとのあるゴミ捨て場を中心に、近くの道路を走って見てまわる。
すれちがう人がいない。
犯人は、もういっちゃったあとなのかな。
それとも、遠距離から操作するタイプの爆発物だったのか……。
でも、機械の部品はなかったように思うから、時間差とかなのかも。
そのあたりは、ケイに調べてもらわないとわからない。
そんなことを考えながら、1本はなれた通りに出る。
うそ……?
わたしは足を止める。
――まさか。
わたしの視線の先にあるのは、道路を小走りにとおざかって行く、アリー先輩のうしろすがた。
銀色の髪が、揺れてる。
まるで、なにかから逃げているみたいに、いそいで。
どうして……?
わたしは、ショックで立ちすくんだまま、アリー先輩を見送ってしまう。
また、アリー先輩がいた……。
以前破裂音がした場所にいたのは、ぐうぜんだって思ってた。
でも、2度つづいたら、ぐうぜんとは言いづらい。
どっちもアリー先輩の家から近くないし、破裂音のあとに、立ち去ってる。
………………まさか、アリー先輩があの爆発物をしかけてるんじゃ……。
わたしの頭の中に、そんな考えがうかぶ。
そう思うと、学校で見た、アリー先輩のうわの空の様子とか、学園祭に興味がなさそうな様子とか、重なりあうように頭をよぎる。
そんなはず……
――ない。
そう言いたいのに、言い切れない。だって――。
『アリー先輩は、ノアの双子の妹』。
その言葉が、大きくのしかかってくる。
どうしていいのかわからずに、とぼとぼと、マンションのゴミ捨て場にもどると、焦げあとのまわりに、人が集まっていた。
スマホで写真をとってる人もいる。
「最近、こんなことがあったってきいたけど、同一犯か?」
「知ってるよ。SNSでウワサになってたから、見に行ったんだよ。なんかそのときより、これって焦げあとが大きい気がするんだよな」
野次馬の男の人2人が、話している声がきこえる。
たしかに前のより、焦げあとが大きい。
男の人が言っていたみたいに、もしかして、威力があがっている?
でも、犯人はなんのために、こんな爆発をおこしているんだろう?
前回とくらべても、場所もちがうし、ビルとマンションのゴミ捨て場で、2つが関係があるところのようにも思えない。
共通点も、なさそうなんだよね。
いたずらなら、そういうこともあるかもしれない。
それとも、わたしには思いつかないような共通点があるのかな?
わたしの見つけた共通点は、たった1つ。
2度とも、現場近くから走り去っていくところを見かけた――アリー先輩。
この爆発をさせているのが、もしもアリー先輩だとしたら……。
ううん!
まだ、そうと決まったわけじゃないよ!
わたしは考えをふりはらって、野次馬の輪からぬけだすと、家にむかって歩きだした。
6 ケイの推測
わたしは家に帰ると、すぐに部屋にむかう。
「ただいま。せっかくケイの予測してた場所だったのに、爆発をふせげなかった……」
予測が当たっていても、爆発をふせげなかったら意味がない。
パソコンの前にいたケイが、わたしをふりかえる。
「ふせげなかったことはしかたがない。今は、情報を集めることが重要だ。直接、現場を見た印象を教えてほしい――アスカ」
ケイがきいてくる。
すでに、次の爆弾がしかけられることを考えているみたい。
「……うん、わかった」
わたしも、うなずいて、頭を切りかえる。
反省は必要だけど、うまくいかなかったことを引きずって、前をむけないほうが問題だ。
見てきたことを思いだしながら、前見た焦げあとより、大きくなっていたことや、人があまりいない場所だったこと、焦げあと以外には被害は出ていないことなどを伝える。
ケイは話をきくと、考えこむ顔になる。
こういうときのケイは、なにか引っかかっているときだ。
「気になることがあるの?」
わたしはきく。
「……焦げあとが大きくなっているのが、気にかかる」
「威力があがってるのかな?」
焦げあとが大きくなってるってことは、単純に考えると、そうなるよね。
「可能性は高い。だが、威力をあげるのが目的だとすると……」
ケイが、ぶつぶつとつぶやく。
「どういうこと?」
わたしは、首をかしげる。
威力をあげるのが目的なんてこと、あるんだろうか。
「……これは、実験なのかもしれない」
ケイが顔をあげて、答える。
「実験?」
わたしは、ピンとこなくてけげんな顔になる。
「爆弾の威力を高める実験だ。おそらく、犯人は爆弾作りになれていない。現場の状況から、時限式の爆弾の可能性は高い。でも、正確な時間の指定はできない、もう少し原始的な仕組みのものだ。だから、少しずつ改良しながら爆弾の威力と性能を調整している可能性がある」
「! じゃあ、これからも爆発がおきるっていうこと!?」
目的が実験だっていうなら、これからもつづくってことになる。
しかも、威力を増して……!?
ケイがだまったまま、うなずく。
「そんな……」
今でも人が近くにいたら危険だったのに、これ以上爆弾の威力があがったら、今度こそケガ人が出るかもしれない。
そして、その犯人が……。
わたしは、ギュッとくちびるをかんでから、顔をあげる。
「あのさ、ケイ……」
わたしは、ケイにきく。
「…………犯人がアリー先輩ってことは、ありえるかな?」
口に出すのが苦しい。
そんなこと、信じたくない。でも……。
「また、現場近くにいたんだな?」
「うん……」
わたしは、小さくうなずく。
「ない、とは言い切れない」
「だよね……だって、アリー先輩は……」
ノアの双子の妹なんだから。
そうつづけようとしたけど、それより先にケイが言う。
「理由はそうじゃない。今の段階で、犯人を特定できるだけの情報がない。可能性として、緋笠アリーもありうる、というだけだ」
え……?
ケイは、アリー先輩のことを疑っているんじゃないの?
「じゃあ……!」
わたしは、身を乗りだす。
「どちらとも断言はできない。犯人については、まだなにもわかっていない。それよりアスカ、これからどうする? 爆弾事件を追うか、それともこの事件は警察にまかせるか」
ケイが、わたしを見てくる。
そんなの決まってる!
「もちろん追うよ! アリー先輩が犯人じゃないって、この目でたしかめたいし。それに爆弾がどんどん危険なものになっていくなら、ほうっておけない!」
ここで警察にまかせるなんて、落ちつかない。
レッドとして、事件がおきているのに、見すごすなんて選択はないから!
「わかった。引きつづき調査しておく」
ケイはそう言うと、パソコンにむき直り、キーボードをたたきだす。
――アリー先輩は、犯人じゃない。
わたしはそう口にしたものの、相反するように心の中では、不安が大きくなってる。
犯人は、爆弾作りの初心者。
そして、アリー先輩を現場近くで2度も見かけた。
ふつうに考えたら、やっぱりあやしい。
ううん。ちがう。
うたがってしまうのは、アリー先輩がタキオンとかかわりがあるから。
そうじゃなかったら、犯人かもしれないなんて思ってなかった。
ケイは犯人についてはわからないって言ってたけど、犯人候補の上位にアリー先輩がくる状況なのは、わたしにだってわかる。
もしも……万が一……アリー先輩が、爆弾をつくった犯人だとしたら……。
わたしが止めなくちゃ。
絶対に。