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ものがたり

【先行ためし読み!】最新・怪盗レッド24 第3回 サイコロの目に従って


【レッドの実行役のアスカと、ナビ役のケイ。この2人だからこそ、できることがある!】

楽しい学園祭準備が、ちゃくちゃくと進む中……近所では、不気味な爆破事件がたてつづいていた。
その現場で、アリー先輩のすがたを見かけてしまったアスカは、胸さわぎが止められず…。
アスカとケイの「2人1組ならでは」の絆を感じる最新刊を、どこよりも早くためし読み!
(毎週木曜日更新・全3回)

【このお話は…】
「まさか、アリー先輩があの爆発物をしかけてるんじゃ……」
そんな考えが頭をよぎってしまったアスカ。
真実を見きわめるには――次に爆発がしかけられるかもしれない場所をつきとめて、それを阻止することだけ。でもどうやって?
そこでケイがアスカに提案した、意外な方法とは……!?



8 サイコロの目に従って

「サイコロをふれ」
 ……え?
 いきなりケイに言われて、わたしは目をしばたたかせる。
 ケイが、手をつきだしている。
 学校から帰ってきたあと、家のリビングにいたら、急にケイが部屋から出てきて、言ったんだ。
「え~と。なに?」
 わけがわからないけど、ケイがふれっていうなら、やろう。
 わたしは、ケイからサイコロを1つ、受けとると、テーブルの上にころがす。
 コロコロとテーブルの上をころがったサイコロは、コロンと最後には2を出して止まった。
「2番だな」
 ケイがそれだけ言って、納得したようにスタスタと部屋にもどろうとする。
「え――――――っ!?」
 ちょ、ちょっと待って!
「いまの、なに!?」
「今夜アスカが行く、爆破予定の候補地を決めたんだ」
「そ、そんな決め方でいいの?」
 前よりもっといいかげんで、完全に運まかせなんだけど!?
「確率は同じだ。なら、サイコロで決めても問題ない。それに、アスカの強運は知ってる。今年も、初詣のおみくじでも大吉を出していただろう」
 おみくじの大吉って、関係ある!?
 ……まあ、確率が同じなら、本当に、どうやって選んでも結果は同じなのかもしれないけどさ。
 わたしは首をかしげつつも、出かけるための準備をはじめた。

    *

 夜の街を、わたしはレッドのすがたで走っていく。
 ケイが導きだした、爆弾事件の次の予測候補地の「2番」の場所にむかっている。
 時間は、昨日までより暗い、夜の8時すぎだ。
 犯人もそろそろ話題になっていることを意識して、見つかりにくい時間に変えてくるだろう、というケイの予測があったから。
 闇夜にまぎれられる時間だから、わたしも怪盗レッドのユニフォームに着替えているっていうわけ。
 ただ、この時間だと、わたしが夜目がきくっていっても、さすがに暗がりや、遠くまでは見通せない。
 なにかを探すには、むいてない時間帯だ。
 ほかの候補地には、この前と同じようにケイがドローンを飛ばしているみたい。
 そっちにあやしいものが見つかれば、わたしもすぐに移動する予定だ。
 そして、気になることは、もう1つ。
「今のところ、だれも見かけないけど……」
 住宅地の屋根の上を移動しつつ、わたしは道路を見下ろす。
 こうやって高いところを移動すれば、あやしい人かげがあれば目にとまる。
 爆弾そのものは、さすがに見えないけれど、暗い中で、どこにしかけられているかわからない爆弾を見つけるほうが、むずかしい。
 だから今夜は、思いきってあやしい動きをする人間だけを探すことにしたんだ。
 それに、レッドのすがたで道路を走ってたら、暗くなっているとはいえ、この時間だとさすがに人目につくしね。
 わたしは、ビルの上にしゃがんで、道路をゆく人を注意深く、見ていく。
 スーツすがたの会社員の男女や、制服すがたの学生が帰宅するためか、足ばやに歩いていく。
 この時間でもまだ暑いから、道端で話しこんでいる若い人もいる。
 どの人も、あやしい気配はない。
「今日の場所は人が多いなぁ……」
 人を探すんじゃなくて、やっぱり爆弾を探すべきだったのかな……。
 それとも、ほかの場所に行ったほうが……。
 わたしがそう迷っていると――。

   ドンッ!
 今までより、にぶい音があたりに響く。
 道路をゆく人たちが、おどろいた顔で足を止めた。
 爆発音!
 わたしは、すぐさま立ちあがって、家の屋根や低層のアパートの屋根を飛び移りながら、まっすぐに音がした方向にむかう。
 サイコロの目に従っただけだけど、やっぱり、これは「当たった」って言っていいのかな?
 そんなことを思いつつ、わたしは爆発音がした現場付近に着く。
 すると――。
 えっ……。
 わたしは、目をこらす。
 暗闇でもわかる、赤い火の手があがっているのが見える。
 燃えてるっ!?
 わたしは、いそいで火のもとへむかう。
 炎があがっているのは、広めの空き地らしい。
 住宅じゃなかったのは、ほっとしたけど、これから燃えひろがる可能性だってあるから、安心できない。
 燃えているのは、空き地に積まれていた廃材みたい!
 近づいていくと、わたしは目を見はる。
 燃えさかる炎の前に、人かげがあるっ!
 ああ……。
 熱風がおきて、銀色の髪がなびいている。
 アリー先輩、やっぱり……。
   タンッ
 わたしは、炎があがる近くの道路に下り立つ。
 すると、アリー先輩がふりむいて、少しだけおどろいた顔をする。
 わたしはいま、怪盗レッドのすがただ。
 後輩の、紅月アスカじゃない。
 そのことを、心の中で念押ししながら口をひらく。
「――あなたは、どうしてここにいるの?」
 アリー先輩にむかって、問いかける。
 本当は「どうしてっ!?」って問い詰めたいけど……。
「…………」
 アリー先輩は、なにもこたえない。
 炎に照らされながら、わたしとアリー先輩は見つめあう。
 アリー先輩は、まっすぐにこちらを見てくる。
 その目からは、はっきりとした意志を感じる。
 なのに、どうして、なにもこたえてくれないですか?
 後輩のアスカだったら、そうきけた。
 でも、今アリー先輩の前に立っているのは、怪盗レッドのアスカだ。
 そのまま数秒ぐらい、たっただろうか。
 先に目をそらしたのは、アリー先輩だった。
 そのまま、走り去ってしまう。
「ま……待って!」
 炎に背をむけて、いってしまった。
 追いかけたいけど、今は目の前の炎をどうにかするのが優先だ。
 わたしは、腰につけたバッグから、野球のボールぐらいの大きさの球をとりだす。
 それを燃えさかっている炎にむけて、投げる。
   シューッ!
 すると、ボールから白い液体が広がって、あっという間に炎の勢いが弱くなる。
 さらにもう1つ球を投げこむと、完全に炎が消えた。
 この球は、あらかじめケイにわたされていた、消火道具だ。
 ケイが作ったらしいけど……。
 こんな道具を持たせてくれたってことは、ケイもこういうふうに、炎があがる可能性を考えていたんだと思う。
 わたしは、焼けあとを見る。
 今までより、燃えてる範囲がかなり広い。
 もとの廃材らしきものが、少し残っているけど、ほとんど燃えつきてしまっている。
 壁に焦げあとをつけただけだった、今までの爆弾とは、わけがちがう。
 威力があがってきているんだ……。
 ケイの予想したとおり、「実験」が進んで、結果に結びついている。
 このままじゃ……それに……。
 わたしは、炎の前に立っていた、アリー先輩のすがたを思いだす。
 胸がギュッとなって、不安が大きくなる。
 まさか、アリー先輩が……!?
『――アスカ、人が集まってくる。引くぞ』
 ケイの声が、インカムからきこえて、わたしはハッとする。
「りょーかい」
 わたしは答えると、その場から飛び去る。
 去りぎわに、アリー先輩が走っていったほうを見わたす。
 とっくにすがたはなく、見えるわけがないけれど、走り去ったアリー先輩のうしろすがたが、くっきりと目に焼きついている。
 アリー先輩……どうして……。


9 「生きる世界がちがう」って……?

 次の日の放課後。
 いつものように、学園祭の合同クラスで集まって、話し合いがはじまった。
 じゃがバターの屋台をすること、オリジナル法被を作ること「チームオクトパス」と合同でイートインをやることは決まったけど、まだ決めなくちゃいけないことがたくさんある。
 チームごとにわかれて話し合いがはじまっている中、わたしは教室の中を見まわして、アリー先輩のすがたを探す。
 ええと……あ、いた!
 アリー先輩は、やっぱり、みんなの輪から少しはなれた場所に、ぽつんと立っている。
 まわりの3年生が、距離をおいて見えるのは、前と変わらない。
 そんな様子だからか、なんとなく2年生も近づけずにいるんだ。
 声をかけたかったけど、わたしはチームオクトパスとの連絡役になったから、今から奏や水夏の合同クラスに行かないといけない。
 わたしは、うしろ髪を引かれる想いで、教室を出た。
 ろう下を歩きながら、考える。
 昨夜は、「怪盗レッド」として顔を合わせたんだから、たずねることはできないけど……。
 思いかえしてみると、学園祭の準備がはじまったあたりから、わたし、ちゃんとアリー先輩と話せてない。
 それは、アリー先輩のほうが、さりげなく距離をおこうとしているからって気がするんだよね。
 夏休み中に、いっしょに旅行に行ったり、おでかけしたりして、打ち解けられたと思ってたけど……。
 もしかして、わたしが自分で気づかないうちに、先輩を怒らせたのかな……。
 ありえなくないけど、先輩を見ていると、まわり全員に対して、同じような態度だから、わたしだけにってことじゃないのかも。
 それは……。
 やっぱり先輩が、爆弾事件の犯人だから……?
 ううん、まだそうと決まったわけじゃない!
 わたしは、悪い考えをはらうように首をふって、歩きだした。

「アスカ、きいてる?」
「……え? あ、ごめん水夏。なんだっけ?」
 わたしは、水夏のクラスの教室にやってきていた。
 教室には、1年生の奏たちと、2年生の水夏たちの合同クラス・チームオクトパスのメンバーが集まっている。
 こっちも、順調に話し合いが進んでいるみたい。
 わたしは、イートインスペースについて、話しをまとめるためにきたんだった。
 だけど、自分でもわかってるけど、気が散って、集中できない。
「心配なことでもあるんですか、アスカ先輩。ちょっと顔色が悪いですけど」
 奏が心配した顔で、わたしを見てる。
「えっ、大丈夫。なんでもないよ」
「体調には、気をつけなさいよ。学園祭本番に寝こんでたなんて、つまらないんだから」
 水夏がクールな口調ながらも、気づかってくれる。
「ありがと。2人とも。でも心配ないよ」
 わたしは笑う。
 本当に心配なのは、わたしのことじゃないし……。
 なんとか、必要なことを決めて、わたしは奏と水夏と別れる。
 足ばやにわたしたちチームファイアーの教室にもどると、変わらずにみんなが教室のあちこちで、話し合いをしていた。
 屋台の装飾デザインや、じゃがバターのメニュー決めなど、役割ごとにグループに分かれてる。
 わたしは、連絡役として、どこかのグループには、入らないことになってる。
 そんなにぎわう教室の中でも、アリー先輩はどこのグループにも混ざらずに、窓ぎわにポツンと立っていた。
 さわがしい教室の中で、アリー先輩だけが、スポットライトに照らされたみたいに目立ってる。
「あのさ、緋笠さん。こっちの屋台のデザインを、手伝ってもらえないかな?」
 3年生の女子が、アリー先輩に声をかける。
 気になって、アリー先輩に声をかけたみたい。
 でも、アリー先輩はちらりと、3年生の女子のほうに目をむけただけで、
「……いそがしいから」
 と言って、そのまま教室から出て行こうとする。
「えっ……」
 部活や受験の準備で、学園祭準備に参加できないっていう生徒もいるから、それ自体は別に問題じゃない。
 でも……。
「なにか用事があるの?」
 べつの3年生の女子が、アリー先輩にきく。
「あなたには関係ない。――――わたしは、みんなと生きる世界がちがう」
 アリー先輩のその声は、さわがしかった教室を、一瞬、しんとさせた。
「ア、アリーせんぱ……」
 呼び止めようとしたけど、先輩は、1人で教室を出ていく。
 さっき話しかけた女子の先輩の表情が、けわしくなる。
「なにあれ?」
「用事があっても、時間つくって参加してる人だっているのに」
「生きる世界がちがうって、何様なのかな?」
 3年生たちが、次々に文句を口にする。
 うう……。
 あんな言い方をされたら、怒るのもわかる。
 でも、ふだんのアリー先輩は、あんな言い方しないのに。
 アリー先輩、どうしちゃったんだろう……。
「……っ、ごめんなさい! わたし、ちょっと行ってきます!」
 わたしはいてもたってもいられなくて、教室を飛びだし、アリー先輩を追いかける。
 校内は学園祭の準備で、たくさんの生徒が残っている。
 その人たちをよけながら、ろう下を進むと、アリー先輩が階段を下りていくところだった。
「アリー先輩、待ってください!」
 わたしは、アリー先輩に追いつく。
 アリー先輩が、横目だけでわたしを見る。
 だけど、アリー先輩は足を止めず、進んでいってしまう。
 しかたがないので、アリー先輩の横を歩きながら、わたしは話しかける。
「先輩、今日は、用事があるんですよね? だから先に帰るんですよね?」
「そう」
 アリー先輩は、小さくうなずく。
 返事があったことに、わたしはちょっとほっとする。
「それって、あの…………危険なことじゃないですよね?」
「…………大丈夫」
 そう答えた、アリー先輩の表情が、ほんの少し、変化する。
 不自然に、ゆがんだように見えたんだ。
 いままで見たことのない顔に、不安になる。
 やっぱり、危険なことをしてるんじゃ……!
「アリー先輩……」
 わたしは呼びかけたけど、アリー先輩はくつにはきかえ、そのまま校舎から出ていった。
 わたしは、くちびるをギュッとかみしめて、アリー先輩の背中を見送るしかできない。
 先輩……なにを考えているんですか?

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