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特別ためし読み 『こども六法ノベル その事件、こども弁護士におまかせ!』第2回 「落とし物」をめぐる問題 答え合わせ編

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自分を守る力がつく法律エンタメ、ためし読み2回目は「落とし物」をめぐる問題の答え合わせ編!


第1回「チー先生のなぜなに裁判教室 その①」問題編はこちら▶

チー先生のなぜなに裁判教室 その① 答え合わせ編


「では、裁判所が出した判決を見てみましょう」

 言いながら、チー姉がまたホワイトボードにペンでさらさらと数字を書きこんだ。

 ──874万9879円。

 そう書いてある。

「一言で言えば、判決はこれです。裁判所は、銀行側にこの金額をお礼として支払うよう、命じました」

 あ。じゃあ、

「ボクの答えって当たり?」

 金額がちゃんと減ってるし。

 チー姉は軽く笑って、

「支払い金額が減らされたっていう点に関しては、確かに当たってますね。ただし、減らされた理由は、祐君が言った『2億円は高すぎる』みたいな話じゃないですよ」

 そう答えて、チー姉はまた、ホワイトボードに何か書きこんだ。

 ──特別な小切手。

 今度はそう書いてある。

「小切手というのは普通、現金に換えられるものです。けれど、このケースで、銀行員がカバンごとなくした小切手は、ちょっと特殊な小切手だったんです。銀行の関係者でもない人が持っていても、まず現金には換えることができない特別な小切手で、裁判所はここに注目しました。つまり──」

 またまた、チー姉がボードにさらさら。

 ──損害を受ける可能性。

 並んだのは、そんな文字。

「この小切手を誰かが拾ったとしても、普通は現金に換えられない……言い換えると、銀行側から見れば、この小切手をなくしたとしても、それによって何か金銭的な損をする可能性はかなり低かったんです。現金をそのまま78億円、道端に落としたわけじゃなく、落っことしたのは、お金に換えにくい特別な小切手だったんですからね。とすれば、この小切手、紛失した時点での『価値』は、額面通りの金額じゃない、大体、額面の2%くらいと考えるのが適当だろう。報労金はその金額と、もう一つの落とし物である株券から計算して、874万9879円とするのが正しい──これが裁判所が下した判断です」

 ははあ。

「要するに」

 と、ボクは考え考えしながら、また口を開いた。

「物を落としたとしても、それで自分が損害を受ける可能性が低ければ低いほど、払わなきゃいけない報労金も安くなるってこと?」

 現金を落とした時は、それを拾った人にそのまま使われたりしたら、その分の損害が確実に発生する。だから、落としたお金を全部計算して、報労金が決まる。だけど、現金じゃない落とし物の場合は、額面通りに使えるとは限らないから、計算が変わるってことかな? この問題の小切手みたいに。

 ボクがそう言うと、チー姉は楽しげな顔になって「大体、そんな感じですね」とうなずいた。

「ちなみに、この考え方は、他の遺失物の裁判でも採用されることが多いです。なので、さっき祐君が言っていた、『現金じゃない物の報労金の計算』は、それこそ『状況によって変わる』が唯一の正解でしょうね」

「てことは、松木さんのスマートフォンの場合は──」

「実はそれに関しては、絶対確実なことは言えません。そもそも、スマートフォンを拾ったからといって、その報労金が欲しくて裁判を起こす人はまずいませんから」

 そりゃそっか。

 裁判って、なんだかんだでお金も労力もかかる。

 仮に拾ったスマートフォンの価格が10万円だったとして、その額から、もらえる報労金を最大の20%で計算しても、せいぜい2万円。中に入っている電子マネーにだって、チャージ限度額がある。そう考えると、裁判を起こしても割に合わないことの方が多い。

「なので、ここからはあくまで『もし、裁判になったら?』っていう、私個人の予想ですけど──」

 そう言って、チー姉は少し間を置いた。

「多分、松木さんのスマートフォンそのものの機種代金は、報労金の対象になるでしょう。ただし、人が使っているスマートフォンはその時点で中古品扱いになることが多いですから、新品価格じゃなく、市場の中古品価格から報労金を計算するケースが多くなると思います。そして、スマートフォンで使える電子マネーについてですが、これはまさに条件や状況によって、答えが変わるんじゃないでしょうか。例えば、松木さんがご自分のスマートフォンにロックをかけていたかどうか、とか」

 スマートフォンやタブレットの電子マネー機能には、持ち主である自分にしか解除できないロックをかけることができる。そして、そのロックがかかった状態なら、たとえ、誰かに拾われても、簡単に電子マネーを使われたりしない。とすれば、さっきの裁判の考え方で言えば、落とし主が損害を受ける可能性は、現金に比べれば低いということになるから、チャージされている電子マネーの額をそのまま報労金の計算に入れたりはしない、ってことになる。

「ああいうのは、やっぱり、きちんとロックをかけた方がいいってことだね」

 と、ボクはうなずいた。

「なくした時、悪用もされにくくなるわけだし。面倒くさがる人も多いけどさ」

「もちろん、これは私の予想ですから、本当に裁判になったら、裁判官がどう判断するか、分かりません。ただ、どんなことでもそうですが、対策をきちんとしておくことには意味があるでしょう。スマホをなくしたことに気づいた時点で、電子マネーの利用停止手続きをするのも大事なことでしょうね」

「念には念を入れよ、ってやつ?」

「備えあれば憂いなし。拾い主に高い報労金をふんだくられるのがイヤなら、やっておいて損はないと思いますよ」

 そんな話を、ボクとチー姉はえんえんとしていたのだけれど。

「お二人さん」

 不意の声はエリカさんだった。

 さっきもそうだったけど、きれいな顔には苦笑が浮かんでいる。

 そうして、エリカさんはこう言葉を続けた。

「言ってることは間違ってへんと思うけど……。落とし物を拾ってもらった時は、わざわざ届けてくれた人への感謝の気持ちだけは忘れんようにな。あれって、拾った側は結構大変やで」

 ──あ。

 ボクとチー姉は互いの顔を見合わせた。

 う、うん。

 それはそうだ。ボクも経験あるけど、落とし物を拾って警察に届けた時って、書類の手続きとか、かなり面倒くさい。それはつまり、拾ってくれた人にはすごく迷惑をかけてるってことでもある。

「まあ、なんにしても」

 と、エリカさんが笑いながら、さらに言った。

「落とし物を拾ったり拾われたりした時は、変に揉めたりせず『ありがとう』、『いえいえ、どういたしまして』の心で、お礼とかも決めたいもんやねえ」

「はい……」

「まったくですね……」

 ぐうの音も出ませんでした。

 

チー先生のなぜなに裁判教室・おわり


第3回は「いじめられている!」という訴えを相談されて…?(7月7日公開予定)


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