連載

  1. ホーム
  2. 連載
  3. 小説
  4. 特別ためし読み 『こども六法ノベル その事件、こども弁護士におまかせ!』
  5. 特別ためし読み 『こども六法ノベル その事件、こども弁護士におまかせ!』第1回 「落とし物」をめぐる問題編

特別ためし読み 『こども六法ノベル その事件、こども弁護士におまかせ!』第1回 「落とし物」をめぐる問題編

73万部突破の『こども六法』、待望の小説版!
いじめ、ブラックバイト、DV……法律の知識と思考力で、事件を解決することはできるのか!?
自分を守る力がつく法律エンタメ、ためし読み1回目は「落とし物」をめぐる問題編!

チー先生のなぜなに裁判教室 その①


 梅雨って、忘れ物や落とし物が多い季節だと思う。

 そもそも、傘が忘れやすい物の代表だしね。しかも、その傘に気をとられてたら、今度は別の物を忘れちゃうこともあるし。

 これはそんな梅雨の日のお話─。

 

「あれ?」

 クッションの隙間に挟まっていた物を見つけて、ボクは素っ頓狂な声をあげた。

 事務所の窓から見える空は、今日もやむ気配のない雨がしとしと。

 一週間くらい前までは晴れた日も続いたのだけれど、最近はずっとこんな天気だ。

 事務所の応接スペースで、ボクはソファのクッションの間からそれを引っぱり出した。

「スマホだ」

 シックな黒いケースに収まった、いかにも大人の物って感じのスマートフォンだった。

 これって、

「松木さんのやない?」

 自分のデスクで書類整理をしていた秘書のエリカさんが、今日、法律相談で事務所を訪れた男の人の名前を挙げた。

「忘れ物やね。勤め先の番号は聞いてたから、私から電話しよか?」

「あ、いえ、ボクがやりますよ」

 エリカさんにそう答えて、ボクは自分のスマホで電話をかけた。

 相手はすぐに出た。

 ボクが事情を話すと、電話口の松木さんは『ああ、良かった』とホッとしたような声をあげたけれど、そこで急に声の調子が変わって、

『えっと、それで……いくらお支払いすれば、返してもらえるんでしょう?』

 さすがにボクはスマホを耳に当てたまま、ぽかんとしてしまった。

「はい?」

『え? いや、こういうのは遺失物? というやつだから、拾った人に報労金というのを払わないといけないんでしょ?』

 ああ。

 なるほど、そういう見方もできるのか。

 これを忘れ物じゃなくて、落とし物として見ると、確かに落としたのは松木さんで、拾ったのはボクってことになる。で、拾った人は落とした人に、報労金っていうお金を請求していいことは、『遺失物法』っていう法律にちゃんと書いてある。付け加えると、この法律は、落としたのがお金じゃなくて、スマホみたいな物でも適用される。

 けどまあ、そうではあるんだけど、

「いえ」

 と、ボクは笑って相手に告げた。

「忘れ物をお預かりしているだけですから。報労金をいただいたりしませんよ」

『そうなんですか?』

 松木さんがまたホッとしたように言った。

『いやあ、良かった。電子マネーも使えるようにしてあるスマホだから、その分も請求されるのかと心配になっちゃって』

 ん?

『すぐに取りにいきます』

「はい。お待ちしてます」

 電話を切った後、ボクは少し首をひねって、考えこんだ。

 すると、それに気づいたのか、給湯室から出てきたチー姉がボクに声をかけてきた。

「どうしたんです? 忘れ物、松木さんのじゃなかったんですか?」

「あーいや。そうじゃなくて」

 ボクはチー姉に、たった今の松木さんとの電話の内容を話して聞かせた。

「でさ。チー姉、前に言ってたよね。報労金の計算は、落としたお金の5%から20%の間になるって。けど、拾ったのがお金じゃなくて、こういうスマホみたいな物の場合は、どういう計算をするのかなって」

 これを聞くと、なぜか、チー姉の瞳がきらんと光った。

 妙に楽しげな口調になると、

「祐君、中々、面白いところに目をつけますね。では、そんな祐君の参考になりそうなクイズを、実際にあった裁判の中から出してみましょう。題して、『チー先生のなぜなに裁判教室』ですよ」

 なにそれ? ていうか、チー姉、実は今ヒマで退屈してて、遊び相手が欲しかったりする?

 あきれるボクと苦笑するエリカさんには構わず、チー姉は事務所の隅から、回転式のホワイトボードをガラガラと引っぱってきた。

 背伸びをすると、チー姉はボードの表面にさらさらと文字を書き連ねる。

 そこには、こんな「問題」が書かれていた。

 

 むかしむかし。

 あるところに、銀行員が落としたカバンを拾って警察に届けた人がいました。

 カバンの中身は小切手と株券でした。小切手と株券の額面は合計で、78億7087万9105 円です。

 カバンを拾った人は、銀行員が働く銀行に、拾ったお礼を要求しました。でも、銀行は払ってくれません。

 なので、拾った人は銀行を相手に、カバンを拾ったお礼として、1億9756万円を支払うよう、裁判を起こしました。

 さて、判決は──?

 

 うわあ。

 なんか、すごい数字が並ぶ裁判だなあ。前に浩二のお母さんが財布を落とした時、同じクラスの姫崎はお礼なんかいらないって断ったそうだけど、さすがにこれだけの額となると、裁判にもなっちゃうのかな。1億9756万円って、ほとんど宝くじ並み……ん? でも、待って。金額のすごさに圧倒されそうになったけど、これ、少し計算がおかしくない?

 法律で決められた報労金は、落としたお金の5%から20%の間。落としたのが約78億円の価値がある小切手と株券なら、最低でも5%、つまり3億9000万円くらいの報労金ってことになるはず。

 う〜ん。

 さすがに、カバンを拾った人も──というか、多分、その人についた弁護士さんなんだろうけど、カバンを拾って警察に届けただけで、3億9000万円のお礼を要求するのは無茶だと考えたんだろうか? というか、ボクの感覚だと、1億9756万円でも相当だけど。

「そうだなあ」

 ホワイトボードに書かれた問題を見ながら、ボクは思ったままのことを口にした。

「落とし物を拾ったのは確かなんだから、報労金を貰えるのは、法的には当たり前だと思うけど……。でも、2億円近いお金は無理ありすぎだから、もっと安い金額になった、とか?」

 訴えを全面的に却下はしないけど、支払い金額は減らしますよ、っていうやつだ。

 ボクの答えを聞くと、チー姉はますます楽しそうな顔になった。

「なるほど。それが祐君の出す『判決』というわけですね」

「うん」

 どうかな? 当たってる?


第2回「チー先生のなぜなに裁判教室 その①」答え合わせ編はこちらから▶


『こども六法ノベル その事件、こども弁護士におまかせ!』7月14日(木)発売!!


こども六法ノベル その事件、こども弁護士におまかせ!

  • 著:岩佐 まもる 原案:山崎 聡一郎 監修:飯田 亮真 カバーイラスト:佳奈
  • 【定価】1,320円(本体1,200円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】四六判
  • 【ISBN】9784041122112

紙の本を買う

  • カドカワストア
  • アマゾン
  • 楽天

電子書籍を買う


おすすめ!ためし読み連載☆


関連記事