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ものがたり

特別れんさい『逆転の天下人 徳川家康』第7回 ~鳴くまで待とうホトトギス~


 徳川家康(とくがわ・いえやす)がひらいた「江戸幕府(えどばくふ)」は、約260年もの間、戦争がほとんどなかった時代。わたしたちが暮らす現代にもつながる、「平和のいしずえ」をきずきました。
 
 しかし、「平和の世」までの道のりは、大ピンチの連続!? はじめは失敗ばかりで……?
 家族も城もうしない、敵の「人質」としてすごした幼少期から、織田信長(おだのぶなが)や豊臣秀吉(とよとみひでよし)との出会い、そして天下分け目の「関ヶ原(せきがはら)の戦い」まで。
 これを読めば、家康について、楽しく、そして深くわかることまちがいなし!(全8回予定)


 

秀吉のやり方では、「太平の世」は実現できない。
自らが立ち上がろうと決意する家康のもとに、ある知らせが届いて…?




 

 一五九九年八月――。
 豊臣秀吉は、京都の桃山(ももやま)にある伏見城(ふじみじょう)で最期のときをむかえていた。
 豪華な大広間も、金色の掛布も、医師がそろえた薬でさえ、もう秀吉には意味がない。
 ぐったりとふとんに横たわった秀吉が、見舞いに来た家康の手を握りしめた。
「家康殿か。よく来てくれた……」
「なんの。信長様の最期には、お互いお別れも言えませんでしたからな」
「まったくじゃ……昔がなつかしい……」
「後はおまかせください」
「家康殿だけが頼りじゃ。どうか秀頼のこと……くれぐれも頼みましたぞ」
「ご安心ください。できるだけのことはいたします」
 家康はそう答えた。
 攻撃を命じた秀吉が亡くなったら、朝鮮と戦う意味はない。真っ先にするべきなのは、朝鮮で戦っている大名たちの引き上げだろう。外国で戦っている場合ではない。
 秀吉が言った。
「これからのことだが、豊臣の世は、秀頼が大人になるまで……」
「わかっています。私や、前田利家(まえだとしいえ)殿、上杉景勝(うえすぎかげかつ)殿ら『五大老(ごたいろう)』が話し合って政治の方針を決め、石田三成(いしだみつなり)殿ら『五奉行(ごぶぎょう)』にそれぞれ動いてもらって、国を治めていきます」
「ありがたい。家康殿こそ、わしの一番の味方じゃ」
 苦しそうに息をしながら、秀吉がニッと笑った。
 見舞いを終えた家康は、別れの言葉を告げて部屋を出た。
 たぶん秀吉は、他の五大老の前田利家や上杉景勝にも同じようなことを言っているはずだ。
 それどころか、豊臣家の家臣の石田三成には、「家康の動きに気をつけろ。信用するな!」と指示しているにちがいない。
 秀吉殿のことは、私がだれより知っている……。
 あの人とはお互いにそんなことをしかけあって、それはそれで楽しくやってきた。
 信長のもとでともに戦い、ときには敵になり、天下を譲り――。
 無名の足軽から関白にまで出世した天才、豊臣秀吉――。
 だが、あれほど強引な天下人でも、死んだあとまでは思い通りにはならない。
 自分が去ったあと百年でも二百年でもその国を保ちたいなら、跡継ぎを決めるきまりや、争いの起きないきまり、そしてそれを破らせない強い仕組みが必要だ――。
 秀吉には、その時間が足りなかった。
 ついに、動くときがきたのだ。
 このままでは間違いなく五大老の間で争いが起こる。その矛先は、私に向くはずだ。
 しかけてくるのは、秀吉に忠実な石田三成……。
 三成は、なんとかして私を豊臣の政治から追い出そうとするだろう。
 こちらも準備を進めよう。
 五大老と五奉行から、少しずつ自分に反対する者をなくしていく……。
 秀頼君には、頼れるのは家康だけだと思ってもらわないと……。
 流れを見極め、我慢に我慢を重ねてきたのは、すべてこのときのため――。
 今こそ、だれもがおだやかに暮らせる、太平の世を実現するとき――。
 だが、ここで焦ってはだめだ。苦難にたえて生きのびて、ようやく「やり遂げたいことを実現する力」を手にいれようとしているのだから!




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ついに、天下取りに立ち上がる家康。
天下分け目の大合戦——「関ヶ原の戦い」がいまはじまる!


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つづきは下の本をぜひチェックしてね!

★第8回の配信は、2月25日を予定しています。


作:伊豆 平成 絵:kaworu

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322043

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