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【先行連載】第10回つばさ文庫小説賞《特別賞》受賞作『学校の怪異談 真堂レイはだませない』第11回2-2 呪われてしまったの! 怪文書が、こんなにも!


こわい話にはウラがある?
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アンケートもあるので、ぜひ、連載を読んで、みんなの感想を聞かせてね!
『学校の怪異談 真堂レイはだませない』は2022年12月14日発売予定です! お楽しみに♪

表紙・もくじページ

【2-2 呪われてしまったの! 怪文書が、こんなにも!】

「そう、ボクだ」

 そう言って、先輩は目を細めた。

 その美しい表情に、わたしも目を細める。前世がモグラのわたしには、あまりにもまぶしい。

 先輩の前世は天使だろうか。いや、いまも天使か。やっぱり、ここは天国?

「さがしたよ。ぜんぜん図書室に来てくれないもんだから、柊(しゅう)の教室にも行ったんだ」

「えっ!」

「柊はどこにいる? 居場所を知っていたら教えてくれ、って聞いてまわった。そしたら、きみのクラスメイトはなんて言ったと思う?」

「な、なんて言ったんですか?」

 先輩ほどの美少年が、わたしの居場所を聞くなんて、クラスメイトは混乱したはず。

 明日から、どんな顔で教室に行けばいいの。

「彼らはこう言ったよ、『柊ってだれ?』って」

「…………」

 クラスメイトに下の名前を知られていなかったおかげで、わたしだとバレずに済んだらしい。

「柊って、クラスではなんて呼ばれてるんだい?」

「やめませんか、その話は」

「気になるなぁ」

「うぅ、き、基本、『夜野目(やのめ)さん』です」

「夜野目って苗字(みょうじ)、カッコいいからね」

「あとは『アレ』とか『あの人』とか……」

「名前を呼ぶことさえはばかられているなんて、貴族みたいだ」

「小学校ではよく、『夜野目さんて空気だよねー』って」

「空気! 生きていくのに絶対必要な存在って意味かな!?」

 大げさなくらいおどろいてみせる先輩。この人、絶対からかってる!

「夜野目さん、こ、この人は? どういう関係?」

「めっちゃイケメンやん!」

 小山内(おさない)さんと水橋(みずはし)さんが目を丸くしている。そうだ、いまはふたりがいるんだった!

 どういう関係って……どういう関係なんだろ?

 とまどうわたしをよそに、先輩はマイペースに話をつづける。

「それで、柊はどうして仮眠室(かみんしつ)に?」

「保健室のこと、仮眠室って呼んでるんですね」

「ほかには、意外とベッド硬(かた)い室とか、ほんとうに具合が悪いときは行かない室とも呼んでる」

 サボる気満々だ。

「えっと、じつはわたし、倒れちゃったみたいで」

「ハハハ」

「笑いごとです?」

「怒られるよりマシだろ?」

「たしかに」

「おいおい、まてまて」

 めんつゆ入りのボトルを手にもったまま、まゆをひそめた富士築(ふじつき)先生が割りこんでくる。

「おしゃべりはその辺にしろ。彼女は安静(あんせい)にしなければならないんだ」

 しかし先輩は、どこふく風といった感じで平然としている。

「いや、柊はもう平気だよ。そうだろう?」

「あ、はい。富士築先生、わたしは平気です。その、ほんとに、ほんとです……! ほんとに、ほんとで、つまり、その……ほんとにほんとなんですっ……!」

 ほんとにほんとの一点張りをしてしまった。ほかに手札ないのか、わたし。

「それなら、いいが……」

 富士築先生はしぶしぶうなずいた。

 よかった。先輩のおかげで、気持ちを伝えられた。

「さて。柊、それじゃあ行こうか」

「図書室にです?」

「うむ。相談者がまってる」

「やっぱり、わたしも参加するんですね」

「当然。イヤだと言っても、逃がさないよ」

 小山内さんと水橋さんが「だからどういう関係!?」と、ヒソヒソ話しているのが横目で見えた。

 いや、ほんと、どういう関係なんだろう……。天使とモグラ。なんだか月とスッポンみたい。

 とりあえず、ベッドから降りよう。そうしないと、また手をつなぐことになりかねない。

「きみたちが、柊の友だちだね」

「「はいっ」」

 とつぜんの先輩からの問いかけに、小山内さんと水橋さんの体が、同時にビクッとはねた。

「柊を借りていくけど、いいね?」

「「はいっ」」

 ふたりの視線は、先輩の顔にまっすぐ向けられている。

 たぶん、質問の内容なんてまともに聞いちゃいない。

「柊を、ボクがずっとひとり占めしてもいいね?」

「「はいっ」」

 ほら! 案(あん)の定(じょう)! というか、なにを言ってるんだ!

「ちょっと先輩!」

「冗談さ、アフリカンジョーク」

「なんでアフリカン!? せめてアメリカンジョークでは!? いやアメリカでも変ですけども!」

「なんだ、大きい声出せるじゃないか」

 フッと笑う先輩。つくりものめいた顔がくずれて、生き生きとした表情がのぞく。

「そ、そんな、わたしに元気を出させるためだった、みたいな雰囲気出してもダメです……」

 笑顔にトキメキながらも、わたしは必死に抗議(こうぎ)する。

「べつに、そんなつもりはなかったさ。ジョークはジョークであってジョークでしかない」

「わ、笑えませんよっ」

「ボクのジョークはきっと、死後評価されるタイプなんだね」

 なんてうそぶきながら、先輩は保健室を出た。わたしがついてくるのを、みじんも疑っていないような足取りで。

「夜野目くん――だったか」

 声にふり向けば、富士築先生が心配そうにこちらを見ていた。

「きみは倒れたばかりなんだ。くれぐれもムリはしないでくれ。なにかあったら、遠慮(えんりょ)なく保健室へ来るんだ」

「は、はい、ありがとう、ございます」

 こんなに心配してくれるなんて、逆に申しわけない。わたしごときに。

「それと、冷却シートはそこに投げとけ」

 富士築先生はゴミ箱を指さした。……え、投げるの?


 スポーツテストのボール投げで、なぜかボールを後ろにそらし、マイナス記録を叩き出した、このわたしが?

 さすがにそれはマズいので、きちんとゴミ箱に捨てる。

「柊、まだかい?」

 しびれを切らしてもどってきたのか、保健室の扉から、ひょこっと顔を出す先輩。

「……えっと、それでは、行ってきます」

 富士築先生はだまってうなずく。

 小山内さんと水橋さんは、扉からのぞく先輩の顔をボーッとながめていて、わたしの声など届いていないようだった。

 

 

 

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<第12回は2022年12月9日更新予定です!>

※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・伝承等とは一切関係ありません。


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作:星奈 さき 絵:negiyan

定価
770円(本体700円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322104

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