KADOKAWA Group
ものがたり

【先行連載】第10回つばさ文庫小説賞《特別賞》受賞作『学校の怪異談 真堂レイはだませない』第1回プロローグ 怪異潰し? それって実在する先輩?


こわい話にはウラがある?
大注目の【第10回角川つばさ文庫小説賞《特別賞》受賞作】をどこよりも早くヨメルバで大公開! 
アンケートもあるので、ぜひ、連載を読んで、みんなの感想を聞かせてね!
『学校の怪異談 真堂レイはだませない』は2022年12月14日発売予定です! お楽しみに♪

表紙・もくじページ

*********

 ねえ、知ってる?

 この学校にあるウワサ。
 怪異(かいい)のことで困ったら、図書室にいるイケメンが、助けてくれるんだって。

 そう。怪異。現実にはありえないような不思議なこと、怪しいこと。
 もしくは妖怪、化物、幽霊そのもの。
 それらの正体を、あばいて潰してしまうから、『怪異潰(かいいつぶ)し』って呼ばれてる。
 二年生の先輩に、そんな人がいるんだって。

 でも、会いに行くときは覚悟して。
『怪異潰し』が潰すのは、怪異だけとは限らないから。
 だって、怪異は――

 

【プロローグ 怪異潰し? それって実在する先輩?】

アグリさんて、知ってる?」

 

 お昼休みがはじまってすぐのこと。

 

 クラスメイトの水橋夢(みずはし ゆめ)さんが、お弁当の春巻をつまみながらたずねた。

 

「アグリさん?」

 

 アスパラのベーコン巻きをかみながら、同じくクラスメイトの小山内翠(おさない みどり)さんが聞き返す。

 

「……アグリ、さん」

 

 ワンテンポ遅れて、わたしもつぶやく。わたし、夜野目柊(やのめ しゅう)は、いつもワンテンポ遅い。

 

「そう、アグリさん。うちの中学には、アグリさんって霊がいるんよ」

 

「まあ、智聡中(ちさとちゅう)って古いし、霊の一匹や二匹、いてもおかしくないか」

 

「え、翠、霊を匹って数えるん?」

 

「ほかになにがあるの?」

 

「ひとり、ふたりとか?」

 

「でも人じゃないし」

 

「まあ、うーん、言われてみれば?」

 

「夜野目さんはどう思う?」

 

「ふえっ」

 

 急に話しかけられて、変な声を出してしまった。

 

「ごめんごめん。おどろかせたね」

 

 そんなわたしを見て、小山内さんが苦笑しながらあやまる。

 

 ……うぅ、あやまらせてしまった。

 

 わき腹に、じわっとイヤな感覚が生まれる。あやまらせてしまった。あやまらせてしまった!

 

 小山内さんは悪くないのに。悪いのはわたしなのに。

 

 あぁ、そうだ、はやく質問に答えなきゃ、なんだっけ、えっと。

 

「……………………わからない……です」

 

「そっか」

 

 ムダにためたくせに、おそろしくつまらないわたしの返しにあきれることなく、小山内さんはうなずいてくれた。

 

 私立智聡中学に入学して一ヶ月。

 

 わたしはいまだに、クラスになじめず浮いていた。

 

 いや、浮いていたというより、沈んでいたのほうが正しい。

 

 まるで、カップの底にたまったココアパウダーのように、溶けこまないで沈んでる。

 

 お昼だって、ひとりぼっちのわたしを見かねて、小山内さんが一緒に食べようとさそってくれただけなんだ。

 

「えっと、なんの話をしてたんだっけ?」

 

「アグリさんやね」

 

 仕切り直しをするかのように、会話がはじまる。

 

 うん、わたしにかまわず、ふたりでトークしてください。

 

「アグリさんてのは、学校に住みついている地縛霊(じばくれい)なんよ。もともとはうちの学校の一年生だったんだけど、ある日とつぜん、自ら命を絶ったんだって」

 

「あらまぁ」

 

「それからというもの、うらめしそうにすすり泣く幽霊が、学校に現れるようになったらしいんよ」

 

「ちなみに、アグリって苗字? それとも名前?」

 

「わからんね。安栗さんなのか、亜久里さんなのか。はたまたべつの漢字なのか。わかっているのは、その幽霊がアグリさんと呼ばれていて、生徒の両足を引き千切り、真っ暗闇の世界に引きずりこむらしいってことくらいなんよ」

 

「うっ」

 

 小山内さんが顔をしかめる。

 

「それは、イヤね。そんなものが、この学校をうろついているだなんて」

 

「でも、ちゃんと対処法もあるんよ」

 

「どんな?」

 

「アグリさんにあってしまったら、『アグリアグリアグリ』って、名前を唱(とな)えればいいんだって。何度も何度も、はっきりと、相手に伝わるように、『アグリアグリアグリ』って。そうすれば、アグリさんはどこかに消えてしまうんだとか」

 

「ふーん、なんかその流れ、トイレの花子さんでもあったわね。ほら、花子さんも、なにかをすれば、いなくなるんでしょ?」

 

「ああ、なんだっけ……」

 

 答えが見つからないのか、しばらく沈黙(ちんもく)がつづく。

 

「……百点の、テスト用紙を、見せる」

 

 わたしのつぶやきに、小山内さんと水橋さんが同時にこちらを向いた。

 

 とつぜんの注目にたえきれず、わたしはふたりから目をそらす。

 

「そうそう。夜野目ちゃん、さすがやん」

 

「よく知ってたね。夜野目さんて、そういうのにくわしいの?」

 

「えっと、いやぁ、そんなことは」

 

 うつむいたまま、わたしは中途半端(ちゅうとはんぱ)な笑みを浮かべた。

 

 あぁ、変なヤツって思われた。ふだん話さないくせに、怪談の話題には参加するヤツ。

 

 わたしだったら、そんなクラスメイトはイヤだ。

 

「あ! そういうのにくわしい、といえば!」

 

 固まってしまったわたしを見かねたのだろう、水橋さんが話題を変える。

 

「うちの学校に、霊とか妖怪にくわしいイケメンがいるっていうウワサ、知ってる?」

 

「ほう」

 

 相づちをうつ小山内さんは、アグリさんの話題よりだんぜん乗り気だ。

 

「たしか、一学年上の先輩で。超絶イケメンだけど、かなり変人だって話」

 

「そりゃ、霊とか妖怪が好きなら、多少は変人でしょうね」

 

「それが、聞いたところによると、単純に好きって感じではないっぽいんよ」

 

「うん?」

 

「霊とか妖怪が好きってウワサもあれば、逆に毛嫌いしてるってウワサもあって」

 

「嫌いなのに、どうしてくわしいのよ」

 

「嫌いだからこそ、やん。退治するために、くわしくなったんだとか。だって、そのイケメン先輩のアダ名、〝怪異潰(かいいつぶ)し〟だよ?」

 

「怪異潰し……ねえ、それって実在する先輩?」

 

「だから、ウワサなんよ。幽霊とか妖怪におそわれたら、イケメンの先輩が助けてくれるってウワサ」

 

「なぁーんだ」

 

 小山内さんが肩を落とした。

 

「翠、ガッカリした?」

 

「したした。結局、アグリさんと同じ、根も葉もないウワサなのね」

 

 根も葉もない、か。

 

 わたしはそっと、ため息をつく。

 

 小山内さんは、ウワサをつくり話だと思っているんだ。たぶん、水橋さんも。

 

 根も葉もない、毒にも薬にもならない。

 

 そんな他愛もないウワサ話を、ふたりは楽しんでいるだけ。

 

 でも、わたしは知っている。

 

 この世には、根も葉もあるウワサがあるってことを。

 

 火のないところに、煙は立たないってことを。

 

「うん? どうしたの、夜野目さん」

 

 声をかけられて、ふとわれに返ると、小山内さんがフシギそうにわたしを見ていた。

 

 どうやら、わたしから、変な雰囲気が出ていたらしい。

 

 変な雰囲気を出すのは、わたしの得意技。というか、ふつうの雰囲気が出ない。

 

「……いえ、なんでも、ないです」


 

\小説賞受賞作を応えん/

この連載では、毎回感想を書きこめたり、
アンケートに答えたりできます。
あなたからの声が、新しい物語の力になります☆
つばさ文庫の新シリーズを、ぜひ応えんしてくださいね♪



<第2回は2022年11月4日更新予定です!> 

※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・伝承等とは一切関係ありません。


もくじに戻る


作:星奈 さき 絵:negiyan

定価
770円(本体700円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322104

紙の本を買う

電子書籍を買う


ヨメルバで読めるつばさ文庫の連載が一目でわかる!



この記事をシェアする

ページトップへ戻る