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ものがたり

『絶体絶命ゲーム』〈奈落編〉14・15巻 2冊無料ためし読み 第5回

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11    奇策も奇襲も策のうち?

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「……それで? 蘭々、これから、どうするんですか?」

 ユウヤが、聞いた。

「その前に、みんなに、あやまりたいことがあるんだ」

 蘭々が、神妙な顔で言った。

「おいおい、今さらかぁぁ……。まともな人間だったらなぁ、おれたちの前にあらわれた瞬間に、土下座をして、あやまるものだぞ。この卑怯者!」

 大器が、おどかすように言った。

「そうね、Ⅱ区のみんな、あのときはごめんなさい。……春馬と未奈は、なんのことかわからないだろうから、説明するわね。3カ月前、Ⅱ区からⅢ区にあがる者を決めるゲームがおこなわれたの。そのとき、わたし、ずるしちゃったの」

「ずるって、なにをしたんだ?」

 春馬が聞いた。

「どうしても、Ⅲ区にあがりたかったから、研究目的と噓をついて集めた薬品で、催眠ガスを作ったの。そして、ゲームがおこなわれる日の朝、そのガスでみんなを眠らせちゃったのよ。それで、ゲーム参加者はわたしだけになって、不戦勝でⅢ区にあがれたの」

「それで、Ⅱ区のみんなは、蘭々に怒っているのね!」

 未奈が言うと、蘭々は肩をすくめる。

「そういうことなんだ。あらためて、みんな、ごめんね」

「たしかに、卑怯だけど、よくそんな方法で、Ⅲ区にあがることを認めてもらえたな……」

 春馬が、けげんそうに言った。

「『奈落』の代表は『奇策も奇襲も策のうち。だから、Ⅲ区にあがる資格がある』って認めてくれたのよ。歴史好きの代表が言うには、源義経や織田信長も、当時では卑怯と言われるような戦術を使ったんだって。とにかく、わたしは正式なⅢ区メンバーよ」

 蘭々が勝ちほこったような笑顔で言った。

「その話はもういいです! これから、どうするんですか?」

 ユウヤが、いらいらした口調で聞いた。

「決まってるじゃない、『絶体絶命ゲーム』について話をするのよ」

 蘭々が、あっけらかんと言った。

「最初から、『絶体絶命ゲーム』をやることが決まっていたような口ぶりですね」

 ユウヤが言うと、蘭々は「そうよ」と答えた。

「どういうことかな?」

 鏡一が首をかしげて、聞いた。

「Ⅲ区のメンバーが言うにはね、『多分、おそらく、九分九厘、Ⅱ区のメンバーはおまえとの勝負に勝つだろうから、「絶体絶命ゲーム」をやる準備をしておけ』って……」

 蘭々が、不満そうな口ぶりで言った。

「「「「なるほどね」」」」

 ユウヤ、鏡一、アリス、七菜が同時に言った。

「あぁ、うるさいな。それじゃ、今回の『絶体絶命ゲーム』について話をするわよ」

 蘭々が言うと、みんな、真剣な表情になる。

「今回の『絶体絶命ゲーム』は、Ⅱ区の7人対春馬と未奈の2人の勝負よ」

「……7人対2人じゃ、不公平じゃない」

 未奈がつぶやいた。

「それくらい、覚悟の上でしょう」

 アリスが、冷ややかに言った。

「そこは不公平にならないように、一つ一つのゲームは公平になるようにしたわ」

 蘭々はそう言うと、ゲームについて説明する。

「ゲームは4つにしたわ。それで、春馬と未奈は、1つでも負けると終わりよ」

「ぼくたちが勝つには、4連勝しないとダメということか?」

 春馬が聞くと、蘭々は「そうよ」と答えて、説明をつづける。

「1回戦から3回戦までは、春馬と未奈の2人対Ⅱ区のメンバーの2人のチーム戦よ。そして、最終戦は……、そこまで春馬と未奈が勝ち進んでいたらの話だけど……」

「勝ち進んでいるわ!」

 未奈が、はっきりと言った。

「わかったわ。春馬と未奈が勝ち進んでいるとしたら、最終戦はⅡ区のリーダーのユウヤと、春馬か未奈のどちらかで、1対1の勝負よ」

「ぼくはそれでいいです」

 ユウヤが言うと、Ⅱ区のほかのメンバーも同意する。

 春馬と未奈も、「それでいい」と言った。

「Ⅱ区チームは、いまこの場で1回戦から3回戦のメンバーを決めて。ゲームは、1人1回しか参加できないわよ」

 蘭々に言われて、鏡一が質問する。

「どういうゲームをやるかは、教えてくれないのか?」

「それは、お楽しみよ」

 蘭々が、すました顔で言った。

「……まぁ、いいか」

 ユウヤが言って、Ⅱ区のメンバーと話しあう。

「七菜は、目立つところで戦いたいなぁ」と七菜。

「おれは、晩成といっしょじゃないといやだからな」と大器。

「おれも、兄ちゃんといっしょじゃないといやだ」と晩成。

「七菜とコンビはいやよ。あの女、目立つことしか考えてないのよ」とアリス。

「おれは、だれとコンビでもいい。……というか、おれも戦うのか?」と鏡一。

「正直言うと、春馬とは戦いたくない」と秀介。

 Ⅱ区の6人は好き放題に言い、ユウヤがため息をつきながら順番を決める。

「それじゃ、メンバーを発表します。1回戦は鏡一と七菜、2回戦は瀬々兄弟、3回戦は秀介とアリスです」

「あいかわらず、自己主張の強い人たちね。でも、これで順番は決まったわね」

 蘭々はそう言うと、戦闘服のポケットをまさぐる。

「ゲームはいつから始めるんですか?」

 ユウヤが聞くと、蘭々はポケットから防毒マスクを出して言う。

「あった、あった、これが必要なのよね」

「おい、なにをやるつもりだ!」

 鏡一が、蘭々の手にしたマスクを指さして言った。

「じつはね、あなたたちを眠らせた催眠ガスが、まだ残っているのよ」

 蘭々が言うと、ユウヤが頭をかかえる。

「それでは、『絶体絶命ゲーム』のスタートよ!」

 蘭々は、防毒マスクを装着した。

 天井にあいた穴から、シューッとガスが噴射される。

「あぁ、噓でしょう……」

 七菜が、うんざりした顔で言った。

「未奈、眠らされるぞ……」

 春馬が目をむけると、未奈は意識が遠のいてふらついている。

「危ない!」

 春馬は、倒れそうになっている未奈を抱きとめた。

「また、眠らされるのね……」

「心配はいらない。ぼくたちなら、勝てる!」

「……そうよね」

 そう言うと、未奈の意識がなくなる。

 春馬がまわりを見ると、アリス、七菜、ユウヤ、鏡一、瀬々兄弟と、次々に倒れていく。

 秀介が、床をはうようにして、春馬の横にやってくる。

「……どうして、こんなところまできたんだよ!」

 秀介はそう言うと、気を失う。

 春馬も、意識が遠くなる。


 どれくらい眠っていただろう。

 春馬と未奈は、目を覚ました。

 眠る前と同じ部屋のようだが……。

 少し離れたところで、鏡一と七菜も目を覚ます。

「ようやく、目を覚ましたわね」

 部屋の中央で、床に横になっていた蘭々が言った。

「それじゃ、『絶体絶命ゲーム』の1回戦、春馬・未奈チーム対七菜・鏡一チームのゲームを始めましょう」

 蘭々が、立ちあがりながら言った。

「待て、Ⅱ区のほかの者は、どうしたんだ?」

 鏡一が、まわりを見ながら聞いた。

 ユウヤ、秀介、瀬々兄弟、アリスのすがたが消えている。

「ゲームの控え室に移動してもらったわ。ちなみに、ほかの者は、モニターでこのゲームの状況を見ているわよ」

 そう言った蘭々は、いつの間にか、手のひらくらいの大きさのサイコロを持っている。

「ゲームはなにをやるんだ?」

 春馬が聞いた。

「これよ」

 蘭々は持っていたサイコロを、4人に見せる。

 サイコロの6つの面には、『謎解き』『力自慢』『持久力』という言葉が、2面ずつ書かれている。

「それをふって、出た面のゲームをやってもらうわ。未奈にふらせてあげるよ」

 蘭々が言うと、春馬はサイコロを未奈にわたした。

 未奈は、サイコロの6面を調べる。

「細工はしてなさそうね。それじゃ、ふるわよ」

 未奈が、サイコロを床にころがす。

 コロコロコロところがったサイコロの出た面は、『謎解き』だ。

「うわぁ、第1回戦のゲームは『謎解き』だわ。楽しみ!」

 蘭々が、大喜びで言った。

「なんの謎を解くんだ?」

 春馬が聞くと、蘭々はにやりと笑って言う。

「その前に、『謎解き』にチャレンジするチームを決めてもらうわ。どちらかのチームが、『謎解き』にチャレンジして、時間内に謎が解けたら、チャレンジした『チャレンジ』チームが勝ちで、チャレンジしなかった『スルー』チームは負けよ」

「『チャレンジ』チームが、時間内に『謎解き』の謎を解けなかったら、『スルー』チームが勝ちということか?」

 鏡一が補足すると、蘭々は「そうよ」と答える。

「あぁ、思いだした! 蘭々は謎解きマニアだったわ。ミステリー小説を読んで、登場する謎をかたっぱしから解いていたのよ」

 七菜が言うと、蘭々はまんざらでもないという顔で言う。

「まぁ、そうね。でもね、わたしは謎解きをやるより、作るほうがもっと好きなの。めちゃくちゃ、楽しめる謎解きを作ったわ。ぜひ、七菜にはチャレンジを選んでもらいたいわね」

「七菜は謎解きは、苦手なのよね。……ねぇ、春馬はどっちを選ぶの?」

 あまえたような口調で、七菜が聞いた。

「春馬に話しかけないで!」

 未奈が怒ると、七菜が大げさに震えるしぐさをする。

「うわぁ、こわいこわい! それって、七菜がかわいいから嫉妬してるんでしょう」

「そんなのじゃないわ。あたしたちは、これからゲームで戦うのよ」

 未奈が言うと、七菜が気のぬけた声で言う。

「戦うって言っても、『チャレンジ』か『スルー』を選ぶだけでしょう」

「まぁ、そうだけど……」と未奈。

「未奈と春馬、きみたちは『チャレンジ』と『スルー』のどちらを選ぶつもりだ?」

 鏡一が、丁寧な口調で聞いた。

「それは……。鏡一と七菜は、どっちを選ぶつもりだ?」

 春馬が聞きかえした。

「おれたちは、きみたちの選択を尊重するよ。きみたちが『チャレンジ』するなら、おれたちは『スルー』だ。きみたちが『謎解き』をしたくないなら、おれたちは『チャレンジ』だ」

 鏡一の言葉を聞いて、春馬は未奈に意見を求める。

「未奈、どうする?」

「当然、『チャレンジ』よ! 蘭々の考えた謎を解いてやるわ!」

 未奈は、すかさず言った。

「……そうか、うん。……そうだよな」

 少し悩んだように言った春馬に、未奈が聞く。

「どうしたの? 春馬は謎解きはしたくなかった?」

「そうじゃないけど……。蘭々が、謎解きマニアだというのを聞いて、少し迷ったんだ」

「今日の春馬は、弱気ね。『スルー』を選んで、鏡一と七菜が『謎解き』に成功したら、あたしたちは、なにもやらずに負けるのよ。そんなのはいやよ。……困難かもしれないけど、自分が『チャレンジ』して、道を切り開きたい。あたしと春馬なら、どんな難解なパズルでも解けるわ!」

「……そうか、うん。そうだよな」

 春馬は、笑顔で答えた。

「そうか、未奈と春馬は『チャレンジ』だね。それなら、おれたちは『スルー』だけど、それでいいかい?」

 鏡一が、七菜に聞いた。

「いいわよ。東京から、親友をさがして、はるばる『奈落』のⅡ区まできたんだもの、なにもしないで負けるのはかわいそうよね」

「あたしたちは、負けないわ」

 未奈が強い口調で言うと、七菜があきれたような顔で言う。

「もしかして、まだ気がつかないの?」

「なによ!」と未奈。

「サイコロに、『謎解き』『力自慢』『持久力』と3つのゲームが書いてあったでしょう。1回戦が『謎解き』なら、2回戦の瀬々兄弟との戦いは『力自慢』か『持久力』というパワー系よ」

 七菜に言われて、春馬と未奈は顔を見合わせる。

「どういうゲームをやるかはわからないけど、瀬々兄弟は2人とも力自慢で持久力もあるわ。それを考えると、春馬たちのチームは、未奈が女子で不利じゃないかな」

 七菜が言うと、蘭々が口をはさむ。

「あのね、わたしの考えた『謎解き』を解けるかが先でしょう」

「まぁ、そうだけど」と七菜。

「2人とも、それくらいにしたらどうかな。これから1回戦をやる春馬と未奈が、不安になるような話をするのは、フェアじゃないよ」

 鏡一が、落ち着いた口調で言った。

「ハイハイハーイ、わかりました。それじゃ、1回戦の『謎解き』は、春馬と未奈が『チャレンジ』で、鏡一と七菜が『スルー』でいいわね」

 蘭々が、最終確認をする。

 春馬と未奈は「いいよ」と言い、鏡一と七菜もうなずいた。

「それでは、第1回戦のゲームを開始するわよ」

 蘭々が言うと、部屋の照明が消えた。


第6回へ続く▶

書籍情報


作: 藤 ダリオ 絵: さいね

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322555

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作: 藤 ダリオ カバー絵: さいね 挿絵: チヨ丸

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322906

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〈奈落編〉の完結となる最新16巻は、4月9日(水)発売予定!


作: 藤 ダリオ カバー絵: さいね 挿絵: チヨ丸

定価
836円(本体760円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323347

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