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11 奇策も奇襲も策のうち?
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「……それで? 蘭々、これから、どうするんですか?」
ユウヤが、聞いた。
「その前に、みんなに、あやまりたいことがあるんだ」
蘭々が、神妙な顔で言った。
「おいおい、今さらかぁぁ……。まともな人間だったらなぁ、おれたちの前にあらわれた瞬間に、土下座をして、あやまるものだぞ。この卑怯者!」
大器が、おどかすように言った。
「そうね、Ⅱ区のみんな、あのときはごめんなさい。……春馬と未奈は、なんのことかわからないだろうから、説明するわね。3カ月前、Ⅱ区からⅢ区にあがる者を決めるゲームがおこなわれたの。そのとき、わたし、ずるしちゃったの」
「ずるって、なにをしたんだ?」
春馬が聞いた。
「どうしても、Ⅲ区にあがりたかったから、研究目的と噓をついて集めた薬品で、催眠ガスを作ったの。そして、ゲームがおこなわれる日の朝、そのガスでみんなを眠らせちゃったのよ。それで、ゲーム参加者はわたしだけになって、不戦勝でⅢ区にあがれたの」
「それで、Ⅱ区のみんなは、蘭々に怒っているのね!」
未奈が言うと、蘭々は肩をすくめる。
「そういうことなんだ。あらためて、みんな、ごめんね」
「たしかに、卑怯だけど、よくそんな方法で、Ⅲ区にあがることを認めてもらえたな……」
春馬が、けげんそうに言った。
「『奈落』の代表は『奇策も奇襲も策のうち。だから、Ⅲ区にあがる資格がある』って認めてくれたのよ。歴史好きの代表が言うには、源義経や織田信長も、当時では卑怯と言われるような戦術を使ったんだって。とにかく、わたしは正式なⅢ区メンバーよ」
蘭々が勝ちほこったような笑顔で言った。
「その話はもういいです! これから、どうするんですか?」
ユウヤが、いらいらした口調で聞いた。
「決まってるじゃない、『絶体絶命ゲーム』について話をするのよ」
蘭々が、あっけらかんと言った。
「最初から、『絶体絶命ゲーム』をやることが決まっていたような口ぶりですね」
ユウヤが言うと、蘭々は「そうよ」と答えた。
「どういうことかな?」
鏡一が首をかしげて、聞いた。
「Ⅲ区のメンバーが言うにはね、『多分、おそらく、九分九厘、Ⅱ区のメンバーはおまえとの勝負に勝つだろうから、「絶体絶命ゲーム」をやる準備をしておけ』って……」
蘭々が、不満そうな口ぶりで言った。
「「「「なるほどね」」」」
ユウヤ、鏡一、アリス、七菜が同時に言った。
「あぁ、うるさいな。それじゃ、今回の『絶体絶命ゲーム』について話をするわよ」
蘭々が言うと、みんな、真剣な表情になる。
「今回の『絶体絶命ゲーム』は、Ⅱ区の7人対春馬と未奈の2人の勝負よ」
「……7人対2人じゃ、不公平じゃない」
未奈がつぶやいた。
「それくらい、覚悟の上でしょう」
アリスが、冷ややかに言った。
「そこは不公平にならないように、一つ一つのゲームは公平になるようにしたわ」
蘭々はそう言うと、ゲームについて説明する。
「ゲームは4つにしたわ。それで、春馬と未奈は、1つでも負けると終わりよ」
「ぼくたちが勝つには、4連勝しないとダメということか?」
春馬が聞くと、蘭々は「そうよ」と答えて、説明をつづける。
「1回戦から3回戦までは、春馬と未奈の2人対Ⅱ区のメンバーの2人のチーム戦よ。そして、最終戦は……、そこまで春馬と未奈が勝ち進んでいたらの話だけど……」
「勝ち進んでいるわ!」
未奈が、はっきりと言った。
「わかったわ。春馬と未奈が勝ち進んでいるとしたら、最終戦はⅡ区のリーダーのユウヤと、春馬か未奈のどちらかで、1対1の勝負よ」
「ぼくはそれでいいです」
ユウヤが言うと、Ⅱ区のほかのメンバーも同意する。
春馬と未奈も、「それでいい」と言った。
「Ⅱ区チームは、いまこの場で1回戦から3回戦のメンバーを決めて。ゲームは、1人1回しか参加できないわよ」
蘭々に言われて、鏡一が質問する。
「どういうゲームをやるかは、教えてくれないのか?」
「それは、お楽しみよ」
蘭々が、すました顔で言った。
「……まぁ、いいか」
ユウヤが言って、Ⅱ区のメンバーと話しあう。
「七菜は、目立つところで戦いたいなぁ」と七菜。
「おれは、晩成といっしょじゃないといやだからな」と大器。
「おれも、兄ちゃんといっしょじゃないといやだ」と晩成。
「七菜とコンビはいやよ。あの女、目立つことしか考えてないのよ」とアリス。
「おれは、だれとコンビでもいい。……というか、おれも戦うのか?」と鏡一。
「正直言うと、春馬とは戦いたくない」と秀介。
Ⅱ区の6人は好き放題に言い、ユウヤがため息をつきながら順番を決める。
「それじゃ、メンバーを発表します。1回戦は鏡一と七菜、2回戦は瀬々兄弟、3回戦は秀介とアリスです」
「あいかわらず、自己主張の強い人たちね。でも、これで順番は決まったわね」
蘭々はそう言うと、戦闘服のポケットをまさぐる。
「ゲームはいつから始めるんですか?」
ユウヤが聞くと、蘭々はポケットから防毒マスクを出して言う。
「あった、あった、これが必要なのよね」
「おい、なにをやるつもりだ!」
鏡一が、蘭々の手にしたマスクを指さして言った。
「じつはね、あなたたちを眠らせた催眠ガスが、まだ残っているのよ」
蘭々が言うと、ユウヤが頭をかかえる。
「それでは、『絶体絶命ゲーム』のスタートよ!」
蘭々は、防毒マスクを装着した。
天井にあいた穴から、シューッとガスが噴射される。
「あぁ、噓でしょう……」
七菜が、うんざりした顔で言った。
「未奈、眠らされるぞ……」
春馬が目をむけると、未奈は意識が遠のいてふらついている。
「危ない!」
春馬は、倒れそうになっている未奈を抱きとめた。
「また、眠らされるのね……」
「心配はいらない。ぼくたちなら、勝てる!」
「……そうよね」
そう言うと、未奈の意識がなくなる。
春馬がまわりを見ると、アリス、七菜、ユウヤ、鏡一、瀬々兄弟と、次々に倒れていく。
秀介が、床をはうようにして、春馬の横にやってくる。
「……どうして、こんなところまできたんだよ!」
秀介はそう言うと、気を失う。
春馬も、意識が遠くなる。
どれくらい眠っていただろう。
春馬と未奈は、目を覚ました。
眠る前と同じ部屋のようだが……。
少し離れたところで、鏡一と七菜も目を覚ます。
「ようやく、目を覚ましたわね」
部屋の中央で、床に横になっていた蘭々が言った。
「それじゃ、『絶体絶命ゲーム』の1回戦、春馬・未奈チーム対七菜・鏡一チームのゲームを始めましょう」
蘭々が、立ちあがりながら言った。
「待て、Ⅱ区のほかの者は、どうしたんだ?」
鏡一が、まわりを見ながら聞いた。
ユウヤ、秀介、瀬々兄弟、アリスのすがたが消えている。
「ゲームの控え室に移動してもらったわ。ちなみに、ほかの者は、モニターでこのゲームの状況を見ているわよ」
そう言った蘭々は、いつの間にか、手のひらくらいの大きさのサイコロを持っている。
「ゲームはなにをやるんだ?」
春馬が聞いた。
「これよ」
蘭々は持っていたサイコロを、4人に見せる。
サイコロの6つの面には、『謎解き』『力自慢』『持久力』という言葉が、2面ずつ書かれている。
「それをふって、出た面のゲームをやってもらうわ。未奈にふらせてあげるよ」
蘭々が言うと、春馬はサイコロを未奈にわたした。
未奈は、サイコロの6面を調べる。
「細工はしてなさそうね。それじゃ、ふるわよ」
未奈が、サイコロを床にころがす。
コロコロコロところがったサイコロの出た面は、『謎解き』だ。
「うわぁ、第1回戦のゲームは『謎解き』だわ。楽しみ!」
蘭々が、大喜びで言った。
「なんの謎を解くんだ?」
春馬が聞くと、蘭々はにやりと笑って言う。
「その前に、『謎解き』にチャレンジするチームを決めてもらうわ。どちらかのチームが、『謎解き』にチャレンジして、時間内に謎が解けたら、チャレンジした『チャレンジ』チームが勝ちで、チャレンジしなかった『スルー』チームは負けよ」
「『チャレンジ』チームが、時間内に『謎解き』の謎を解けなかったら、『スルー』チームが勝ちということか?」
鏡一が補足すると、蘭々は「そうよ」と答える。
「あぁ、思いだした! 蘭々は謎解きマニアだったわ。ミステリー小説を読んで、登場する謎をかたっぱしから解いていたのよ」
七菜が言うと、蘭々はまんざらでもないという顔で言う。
「まぁ、そうね。でもね、わたしは謎解きをやるより、作るほうがもっと好きなの。めちゃくちゃ、楽しめる謎解きを作ったわ。ぜひ、七菜にはチャレンジを選んでもらいたいわね」
「七菜は謎解きは、苦手なのよね。……ねぇ、春馬はどっちを選ぶの?」
あまえたような口調で、七菜が聞いた。
「春馬に話しかけないで!」
未奈が怒ると、七菜が大げさに震えるしぐさをする。
「うわぁ、こわいこわい! それって、七菜がかわいいから嫉妬してるんでしょう」
「そんなのじゃないわ。あたしたちは、これからゲームで戦うのよ」
未奈が言うと、七菜が気のぬけた声で言う。
「戦うって言っても、『チャレンジ』か『スルー』を選ぶだけでしょう」
「まぁ、そうだけど……」と未奈。
「未奈と春馬、きみたちは『チャレンジ』と『スルー』のどちらを選ぶつもりだ?」
鏡一が、丁寧な口調で聞いた。
「それは……。鏡一と七菜は、どっちを選ぶつもりだ?」
春馬が聞きかえした。
「おれたちは、きみたちの選択を尊重するよ。きみたちが『チャレンジ』するなら、おれたちは『スルー』だ。きみたちが『謎解き』をしたくないなら、おれたちは『チャレンジ』だ」
鏡一の言葉を聞いて、春馬は未奈に意見を求める。
「未奈、どうする?」
「当然、『チャレンジ』よ! 蘭々の考えた謎を解いてやるわ!」
未奈は、すかさず言った。
「……そうか、うん。……そうだよな」
少し悩んだように言った春馬に、未奈が聞く。
「どうしたの? 春馬は謎解きはしたくなかった?」
「そうじゃないけど……。蘭々が、謎解きマニアだというのを聞いて、少し迷ったんだ」
「今日の春馬は、弱気ね。『スルー』を選んで、鏡一と七菜が『謎解き』に成功したら、あたしたちは、なにもやらずに負けるのよ。そんなのはいやよ。……困難かもしれないけど、自分が『チャレンジ』して、道を切り開きたい。あたしと春馬なら、どんな難解なパズルでも解けるわ!」
「……そうか、うん。そうだよな」
春馬は、笑顔で答えた。
「そうか、未奈と春馬は『チャレンジ』だね。それなら、おれたちは『スルー』だけど、それでいいかい?」
鏡一が、七菜に聞いた。
「いいわよ。東京から、親友をさがして、はるばる『奈落』のⅡ区まできたんだもの、なにもしないで負けるのはかわいそうよね」
「あたしたちは、負けないわ」
未奈が強い口調で言うと、七菜があきれたような顔で言う。
「もしかして、まだ気がつかないの?」
「なによ!」と未奈。
「サイコロに、『謎解き』『力自慢』『持久力』と3つのゲームが書いてあったでしょう。1回戦が『謎解き』なら、2回戦の瀬々兄弟との戦いは『力自慢』か『持久力』というパワー系よ」
七菜に言われて、春馬と未奈は顔を見合わせる。
「どういうゲームをやるかはわからないけど、瀬々兄弟は2人とも力自慢で持久力もあるわ。それを考えると、春馬たちのチームは、未奈が女子で不利じゃないかな」
七菜が言うと、蘭々が口をはさむ。
「あのね、わたしの考えた『謎解き』を解けるかが先でしょう」
「まぁ、そうだけど」と七菜。
「2人とも、それくらいにしたらどうかな。これから1回戦をやる春馬と未奈が、不安になるような話をするのは、フェアじゃないよ」
鏡一が、落ち着いた口調で言った。
「ハイハイハーイ、わかりました。それじゃ、1回戦の『謎解き』は、春馬と未奈が『チャレンジ』で、鏡一と七菜が『スルー』でいいわね」
蘭々が、最終確認をする。
春馬と未奈は「いいよ」と言い、鏡一と七菜もうなずいた。
「それでは、第1回戦のゲームを開始するわよ」
蘭々が言うと、部屋の照明が消えた。
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046322906
〈奈落編〉の完結となる最新16巻は、4月9日(水)発売予定!
- 【定価】
- 836円(本体760円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046323347
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