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ものがたり

『絶体絶命ゲーム』〈奈落編〉14・15巻 2冊無料ためし読み 第5回


恐怖に支配された「子どもたちの地獄」――〈奈落〉。その地に送りこまれた春馬と未奈。
しかし春馬は、わざとゲームに負けて、ここにきたのだ、行方不明の親友を探して――。
〈奈落編〉の完結となる16巻の発売前に、一気読み! 「絶体絶命ゲーム」でしか味わえない、圧倒的なおどろきとスリル。大人気シリーズの最先端を、この機会にどうぞ!


【これまでのお話は…】
「奈落Ⅱ区」にいたのは、「選ばれし者たち」……?
春馬と未奈にむかって、Ⅱ区メンバーたちは「奈落」が目指すものについて語りはじめる――!

 





※これまでのお話はコチラから

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6    一風変わった自己紹介

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 春馬、秀介、ユウヤは、1階にもどってきた。

 秀介は自室にもどり、春馬はユウヤの案内で1階の客室にやってきた。

 6畳ほどの暖房のきいた部屋で、窓の外には雪景色が見える。

 ベッドとデスクと椅子しかない質素な部屋だが、Ⅰ区の部屋とくらべると天国だ。

「小さな部屋だけど、ここで休んでください。ベッドに、横になってくれてもいいです。それから、服が汚れているようなので、着替えを用意しました。研修生用の制服ですが、ここにいる間だけでも、着てください」

 ベッドの上に、ユウヤの着ている制服と色違いの服がおかれている。

「ユウヤはどうして、ぼくたちに親切なんだ?」

 春馬が、不思議そうに聞いた。

「……それは、下心があるからですよ」

「下心?」

「それは、いいでしょう。……それより、夕食まで休んでいてください。それから、未奈はとなりの部屋にいます」

 ユウヤは、そう言うと出ていった。

 下心とは、なんだろう?

 春馬はベッドに座って、手足をのばした。

 今日は、ずっと緊張していた。

 デスクにおかれた時計に目をやると、午後4時をすぎている。

 今朝、起きたのは何時だったかな?

 ゲームの案内人のぺ・天使に起こされ、いきなり彼女と勝負をすることになった。

 そのあと、『絶体絶命ゲーム』をやって、山の中を歩いてⅡ区にやってきた。

 ようやく秀介と会うことができたが、まだ、いっしょに帰ろうと言えていない。

 秀介は、どうしてⅡ区にいるのだろう?

 ここは、なにをやる場所なんだろう?

 そんなことを考えると、頭がさえてくる。

「……気持ちが高ぶって、休めないな」

 つぶやいた春馬は、気分転換に部屋を出た。

 となりの部屋に未奈がいると聞かされたが、彼女は疲れているようだった。

 もしかしたら、寝ているかもしれない。

 未奈は、休ませておこう。

 春馬はベッドにおかれた服に着替えると、部屋を出た。

 1人で、長い廊下を歩いていく。

 机のならんだ教室のような部屋がある。

 さらに歩いていくと、たくさんの本がある図書室、高い天井の体育館、美術室のような部屋、食堂のような部屋、パソコンのおかれた部屋などがある。

「やっぱり、学校みたいだな……」

 建物内を歩いていると、ピアノの音が聞こえてくる。

 春馬が音のほうに目をむけると、音楽室の前に未奈がいる。

「未奈」と声をかけようとした春馬だが、言葉を飲みこんだ。

 未奈は目をつむって、ピアノの音に聴き入っている。

「………………」

 春馬は未奈に声をかけずに、部屋にもどった。

 急に疲れが出てきて、春馬はベッドに倒れこんだ。

 目をつむると、そのまま眠ってしまった。


コンコンコン

 ノックの音で、春馬は目を覚ました。

 デスクにおかれた時計は、午後6時になっている。

 春馬がドアを開けると、ユウヤが立っている。

「食事の用意ができました。そこで、みんなを紹介します」

 ユウヤが、やさしい声で言った。

「未奈は、どうしているのかな?」

 春馬が、ぼうっとする頭で聞いた。

「彼女は、もう食堂にきていますよ」

 ユウヤはそう言うと、春馬を食堂に案内する。

 食堂といっても、教室の半分くらいの広さの部屋に、長方形の大きなテーブルがおいてあるだけだ。

 そこで、未奈、秀介、七菜、アリス、瀬々兄弟が席についている。

「春馬、遅いよ」

 未奈が、いつもの明るい声で言った。

「ごめん。未奈は元気になった?」

 春馬は、空いている未奈のとなりの席に座る。

「少し休んだら、頭がすっきりしたわ」

 未奈の笑顔に、春馬は安心する。

「今日は、特製カレーだよ」

 鏡一がそう言って、皿に盛られたカレーライスをそれぞれの前においていく。

「これって、だれが作ったんだ?」

 春馬が、けげんな顔で聞いた。

「ここには、食材が送られてくるだけです。それを、となりにある調理室で自分たちで料理するんです。今日の料理当番は、鏡一でしたね」

 ユウヤが言うと、カレーライスを配っていた鏡一が笑顔をむける。

「おれの自己紹介は、さっきしたよね」

 鏡一に言われて、春馬と未奈も名乗った。

「みんな、お腹がすいているでしょう。早く食べましょう」

 ユウヤが言うと、みんな、静かにカレーライスを食べはじめる。

 春馬も、とまどいながらカレーライスを一口食べた。

「お、おいしい……」

 春馬が、目を丸くして言った。

 空腹だった春馬と未奈は、あっという間にカレーライスを完食した。


 食事が終わると、すぐに瀬々兄弟が席を立つ。

「話があるので、残ってください」

 ユウヤが、瀬々兄弟をとめた。

「おれはなにも話すことはない。晩成、いくぞ」

 大器が、反抗的に言った。

「いや、ダメです。これは、Ⅱ区のリーダーの命令です」

 ユウヤが、強い口調で言った。

 大器と晩成は、不満そうな顔をしている。

「リーダーに逆らうなら、ここを出て、もとの生活にもどりなさい」

 アリスが言うと、大器と晩成は苦々しい顔をして席にもどった。

「春馬と未奈がここにきたのも、なにかの縁でしょう。なので、Ⅱ区のメンバーを紹介します」

 ユウヤに言われて、春馬は顔をしかめた。

「ぼくは秀介と話ができれば、ほかの人と話す必要はないんだけど……」

「未奈も同じ意見ですか?」

 ユウヤが聞いた。

「……あたしは、ここが、どういうところか知りたいし、みんなのことも聞きたいわ」

 未奈の言葉に、春馬は「そうか……」と短く言った。

「せっかく知りあえたんです。みんなの紹介をさせてください」

 ユウヤが丁寧にたのむと、春馬はしぶしぶ「……わかった」と答えた。

「それじゃ、七菜から自己紹介するね。名前は、林田七菜。趣味はダンス、特技は歌をうたうこと……」

「七菜、そういう話ではありません」

 ユウヤが、七菜の話をさえぎった。

「……それじゃ、なにを話すのよ?」

 七菜が、頬を膨らませて聞いた。

「どうしてここにきたのかを話してください」

 ユウヤが言うと、七菜がため息をつく。

「……それって、マジなやつ?」

 七菜が聞くと、ユウヤが「そうです」と即答した。

「わかった、いいわ。リーダー命令なら、話すしかないわね」

 そう言うと、七菜の顔つきが変わった。

「……小学3年のとき、両親が事故で亡くなったわ。そのあと、親戚の家をたらいまわしにされた。七菜は明るい性格だから、どこにいっても大歓迎よ。手荒な大大大歓迎よ。ろくに食事ももらえず、あいつらの気分で、殴る、蹴る、切りつけるよ。体はいつも傷だらけ。それで、『絶体絶命ゲーム』に応募した……」

「そこまででいいでしょう。……次は、瀬々兄弟です」

 ユウヤに指名されて、大器はじろりと春馬と未奈をにらんだ。

「それじゃ、おぼっちゃんとおじょうちゃんに、2人の知らない世界を聞かせてやるよ。……おれは、生まれてすぐに親から捨てられたんだ。だから、親の顔は知らねぇ。物心がついたときには、児童養護施設だ。それから、数年後、おれと同じように、親から捨てられた晩成がやってきた。だから、おれたちは実の兄弟じゃねぇ。大器と晩成という名前も、本名じゃねぇ」

 大器の話を、晩成は無表情で聞いている。

「おれたち2人は、毎日が地獄だった。先輩やクラスメイトから、凄絶ないじめにあっていた。でも、親のいないおれたちを、助けてくれる人はいねぇ。そんなクソのような世界から逃げだすために、『絶体絶命ゲーム』に応募した……」

「待って。つまり『奈落』のⅡ区のみんなも、Ⅰ区にいた人たちと似たような境遇ということ?」

 未奈が質問した。

「ほとんどがそうだけど、例外もいます」

 ユウヤはそう言って、鏡一に目をむける。

「おれが話す順番ということだな。……おれは、ほかの者とはちがうんだ。裕福な音楽一家に生まれ、不自由なく育った。ただ、ほかの兄弟たちとちがって、おれだけは音楽の才能がなかったんだ。それで親から愛されず、道を踏みはずした。気がつくと、有名な不良になっていたよ。このまま、悪の道をまっしぐらかと思ったとき、ユウヤがあらわれたんだ」

「ぼくは、偶然知り合った鏡一の才能に惚れこんで、協力をたのんだんです」

 ユウヤが言うと、鏡一は照れくさそうな顔で聞く。

「……おれの才能って、音楽の才能じゃないんだろう?」

「ぼくは音楽にはくわしくないから……。人としての才能です」

「音楽の才能もあると思うわ」

 未奈が、とうとつに言った。

「ありがとう。未奈は、おれのピアノの音を聴いてくれていたね」

 鏡一が笑顔で言った。

「すごくきれいな音色だった。あんなに心が癒されるピアノの音は、はじめて聴いたわ」

 未奈の感想に、鏡一は満足そうに微笑む。

「……話が横道にそれてるわ。わたしは自己紹介しなくていい?」

 アリスの言葉に、鏡一は顔をしかめる。

「いや、ダメです。アリスも、ここにきた理由を話してください」

 ユウヤに言われて、アリスは無表情で話しだす。

「……わたしは、病気で母親が亡くなったあと、5年間、父親の暴力に耐えて暮らしていたわ。そして、ついに我慢の限界をこえて、祖父母の家に逃げた。でも、裁判所の命令で、父親のもとに帰らなければならなくなったの」

「それで『絶体絶命ゲーム』に応募したのか?」

 春馬が聞くと、アリスが冷ややかな顔で言う。

「地獄にいくなら、自分で選んだ地獄にいきたいでしょう」

 短い沈黙のあと、ユウヤが口を開く。

「最後に、ぼくがここにくることになった話をしましょう」

「ユウヤも、『絶体絶命ゲーム』に応募したの?」

 未奈が聞いた。

「そうなんです。……ぼくは親友がいじめにあっているのをとめたことで、自分がいじめのターゲットになってしまったんです。ひどいいじめで、唯一の解決方法は、逃げだすことでした。それで、『絶体絶命ゲーム』に応募したんです」

 ユウヤの話を聞いて、未奈が質問する。

「みんな、最初は『奈落』のⅠ区にいたの?」

「鏡一は例外だけど、ほかのものは『奈落』のⅠ区にいました。といっても、最初はⅠ区しかなかったし、春馬たちのいたⅠ区とはちがって、ただの保護施設だったんです」

 ユウヤはそこまで言うと、深呼吸してからつづきを話す。

「……それが、ある目的のために、『奈落』はⅠ区からⅢ区にわかれたんです」

「ある目的とは、なんだ?」

 春馬が聞くと、ユウヤは口を閉ざした。


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