
恐怖に支配された「子どもたちの地獄」――〈奈落〉。その地に送りこまれた春馬と未奈。
しかし春馬は、わざとゲームに負けて、ここにきたのだ、行方不明の親友を探して――。
〈奈落編〉の完結となる16巻の発売前に、一気読み! 「絶体絶命ゲーム」でしか味わえない、圧倒的なおどろきとスリル。大人気シリーズの最先端を、この機会にどうぞ!
【これまでのお話は…】
やっとのことで「奈落Ⅰ区」をぬけ、「Ⅱ区」へやってきた春馬と未奈。
廃墟の工場のような建物の前に立って、2人を待っていたのは、あの秀介だった!
しかし、親友の春馬を見ても、秀介は口をきかないまま、行ってしまい――!?
秀介はなぜ、ここにいるのか? 春馬はそのナゾにせまっていく!
※これまでのお話はコチラから
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0 待ちかまえる7人
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パチッパチッパチッ……
暖炉から、薪のはじける音が聞こえている。
教室よりもひとまわり広い部屋に、おしゃれな応接セットがおかれている。
壁に設置された大きなモニターに、林の中を歩く武藤春馬と滝沢未奈が映っている。
「……いいですね。この2人は、優秀です。なかなかの逸材ですよ」
日焼けした肌に端整な顔立ちの青年、甲斐ユウヤがモニターを見ながら言った。
「ユウヤは、春馬と未奈に、Ⅱ区にきてほしいのか?」
長い黒髪に白い肌の少年、吉良鏡一が聞いた。
ユウヤと鏡一は、『奈落』Ⅰ区と色違いのポンチョのような服をはおり、中にはイギリスの近衛兵の制服のような、Ⅱ区の制服を着ている。
「そうですね。今、Ⅱ区に所属しているのは7人。あと2人くらいは、いてもいいですね」
「あの2人が仲間か……」
鏡一が、モニターの未奈をじっと見る。
「……滝沢未奈か。ここには、いないタイプだな」
「どうしたんです、鏡一は彼女が気になるんですか?」
「あぁ、そうだな。頭がよくて、度胸があって、かわいい。すごく気になるよ。春馬と付きあっているのかな?」
「それはわかりませんが、2人のきずなはかたそうですよ」
ユウヤが答えると、鏡一が楽しそうな顔をする。
「多分、付きあってないな。おれ、未奈と付きあっちゃおうかな」
鏡一の言葉に、ユウヤは顔をくもらせる。
「ここは交際禁止ではありませんが、強引なのはダメですよ」
「わかっているよ。女子には、やさしくしないとね」
「……それなら、七菜が春馬をもーらーおう」
2人の話を聞いていた大きな瞳に七色の髪の少女、林田七菜が言った。
七菜はメイド服を着ている。
「トラブルメーカーは、おとなしくしておいてくれ」
鏡一が言うと、七菜が眉をひそめて言う。
「七菜はトラブルメーカーじゃないわ。自由奔放なだけよ」
「それで、七色の髪にして、ここの制服を着ないで、メイド服を着ているのか」
鏡一は、あきれている。
「そんなことより、瀬々兄弟がきてないじゃない」
七菜が、口をとがらせて言った。
「あの兄弟も、おとなしく言うことを聞くタイプじゃないですから……」
ユウヤが、ため息まじりに言った。
「『あの兄弟も』の『も』って、もしかして、七菜もってこと?」
七菜に問いつめられて、ユウヤが苦笑いする。
「あぁ、ユウヤまで、ひどい!」
「ごめんなさい。悪い意味じゃないんですよ」
そう言ったユウヤを、七菜がにらみつける。
「どう考えても、悪い意味じゃない。まぁ、いいわ。そんなことより、重要なことがあるわ」
「……重要なことって、春馬のことですか?」
ユウヤが聞くと、七菜は機嫌をなおして言う。
「そうよ。七菜は、絶対、春馬をゲットしてやる。……ロックオン!」
「はぁぁぁぁ……」
聞こえよがしのあくびが聞こえてきて、七菜が目をむける。
茶色の髪に涼しげな瞳の美人、Ⅱ区の制服を着た藤木アリスが大きな口をあけている。
「なーに、アリス? 七菜に、なにか言いたいことでもある?」
「あなたたちがだれと付きあってもいいけど、わたしたちがここにいる目的は忘れないでよ」
アリスが、しっかりした口調で言った。
「わかってますよ、優等生のアリスちゃん」
七菜が挑発するが、アリスは相手にしないでユウヤに聞く。
「あの2人、Ⅰ区から出てこられたからって、簡単にⅡ区に入らせていいの?」
「そうですね。簡単なテストくらいは必要ですかね」
「はーい。その役目は、七菜にやらせて。春馬と未奈をリアルで見てみたい」
七菜が、手をあげて言った。
「まぁ、いいでしょう」
ユウヤが答えると、七菜が部屋を出ていこうとして立ちどまる。
「あれ、秀介って、ここにいなかった?」
「さっき、出ていったよ。どうせ、春馬と未奈が勝つよって、退屈そうな顔で言ってた」
鏡一が言うと、七菜が首をかしげる。
「……でも、優勝したのは宝来有紀じゃない」
「春馬と未奈は、いっしょに戦った平野康明たちを救うために、わざと優勝しなかったんです。そういうところも、ぼくが気に入ったところです」
ユウヤはそう言うと、モニターの春馬と未奈をじっと見る。
「あの2人、本当に仲間になってほしいですね」