
恐怖に支配された「子どもたちの地獄」――〈奈落〉。その地に送りこまれた春馬と未奈。
しかし春馬は、わざとゲームに負けて、ここにきたのだ、行方不明の親友を探して――。
〈奈落編〉の完結となる16巻の発売前に、一気読み! 「絶体絶命ゲーム」でしか味わえない、圧倒的なおどろきとスリル。大人気シリーズの最先端を、この機会にどうぞ!
【これまでのお話は…】
「奈落Ⅲ区」の幹部・天真蘭々の案内で、絶体絶命ゲームがはじまった!?
※これまでのお話はコチラから
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12 額縁のパズル
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ふたたび照明が灯ると、部屋には春馬と未奈しかいない。
一瞬にして、鏡一と七菜と蘭々は消えてしまったようだが……。
「ほかの人たちは、どこにいったのかな?」
未奈に聞かれて、春馬は部屋を見まわした。
「あの3人が、どこかにいったんじゃない。ぼくたちが移動させられたんだ」
「えっ? ……あれ、本当だ。さっきまでと部屋がちがうわ」
最初は驚いた未奈だが、すぐに冷静になる。
「なにか、からくりがあるのかな」
そう言って、未奈はなにかをさがすように自分の頭部をさわる。
「未奈、どうしたんだ?」
「寝ている間に、VRのゴーグルをつけられたかと思って……」
「なるほど、VRなら、一瞬で場所を移動させたように思わせられるな」
春馬も自分の頭部をさわって確認するが、VRのゴーグルは取りつけられていない。
「なにもつけられてないようだね。ここは、実在する部屋だ」
「そうみたいね。……ここって、奇妙な部屋ね」
未奈が、まわりを見ながら言った。
教室の半分くらいの広さの部屋で、どこにも窓とドアがない。
壁に、文字の書かれた数枚の細長い板が貼られている。

そして、部屋の中央に、スマホのような装置と、それにつながれた透明な筒がある。
天井には、監視カメラとスピーカーが設置されていて、見られているのはまちがいない。
「これってスパイ映画とかに出てくる、爆弾みたいだな」
春馬が、スマホのような装置を見て言った。
「こっちにも、おかしなものがあるわ」
部屋の隅にある机の前で、未奈が言った。
机の上に、A4用紙ほどの文字の書かれた板がおかれている。
『春馬と未奈、「謎解き」の部屋にようこそ』
スピーカーから、蘭々の声が聞こえてきた。
『それでは、チャレンジの説明をするわよ。……あなたたちは、悪の組織を調査していたエージェント。それが敵に捕まって、その部屋に閉じこめられたのよ』
「……そういう設定のゲームということね」と未奈。
「ぼくたちは、映画『007』シリーズのジェームズ・ボンドとか、『ミッション:インポッシブル』のイーサン・ハントのような、エージェント役ということだな」と春馬。
『部屋の中央にあるのは、悪人が設置した細菌爆弾よ。わたしの説明が終わったら、5分後に爆発するわ。あなたたちが、爆発をとめないと、世界は大変なことになるのよ』
「ちょっと、爆弾は本物じゃないんでしょう?」
未奈が、大きな声で聞いた。
『そうね、死にはしないわ。でも、こんな感じよ……』
蘭々の声が聞こえてくると、装置につながった透明な筒から、シュッと霧が噴射される。
瞬間、魚がくさったような、強烈な悪臭が部屋にただよう。
「うっ……!」
未奈が、鼻をおさえる。
「うぅぅぅ……」
春馬はあまりの臭さに、頭がくらくらする。
部屋には窓もドアもないので、逃げ場はない。
『今のは筒に入っている液体の、1パーセントもないわ。爆発すれば、この100倍以上の量の液が部屋に噴射されるわよ』
春馬と未奈は、あまりに臭くて、蘭々の説明が頭に入らない。
「蘭々、少し待ってくれ……。臭くて呼吸が……」
春馬が、息もたえだえで言った。
『しょうがないわね。それじゃ、少し待ってあげる』
蘭々の声が、スピーカーから聞こえてきた。
悪臭は1分ほどで消えたが、春馬と未奈はぐったりしている。
ピッ!
そのとき、どこかで機械音が鳴った。
「……今の音はなにかな?」
春馬が、まわりを見ながら聞いた。
「あっ、あれよ!」
未奈が、スマホのような装置を指さした。
ディスプレイに『05:00』と表示されていて、すぐにカウントダウンがはじまる。
……04:59……04:58……04:57……04:56……
「蘭々、どういうことだ?」
春馬が、大きな声で聞いた。
『あれっ……、説明は終わってないのに、もうカウントダウンがはじまっちゃったわ』
スピーカーから、蘭々の声が聞こえてくる。
「カウントダウンをとめて!」
未奈が、大きな声でたのんだ。
『それは、できないのよ。こうなったら、早口で残りの説明をするわ』
と言うなり、蘭々は再生速度を倍にしたような早口になった。
『あなたたちを、そこに閉じこめた悪の組織のボスは、謎解き好きなの。それで、謎が解けたら、爆発をとめる方法がわかるようにしたのよ』
蘭々の言葉を聞いて、春馬が質問する。
「それで、その謎はどこなんだ?」
『机の引き出しの中に、空の額縁が入っているわ』
春馬と未奈は、急いで机を調べる。
天板の下に、引き出しが1つある。
春馬が引き出しを開けると、A4サイズほどの額縁が入っている。
額縁はフレームとガラスだけの簡単なもので、ガラスの右上に『爆』、その少し左に『宮』、中央あたりに『説のタ』、左下に『言う』と書かれている。

『その額縁は、机の上におかれた板を入れるためのものよ。その板を、額縁にはめこむことができれば、爆発をとめる方法がわかるわ。爆発をとめられたら、『チャレンジ』は成功。春馬と未奈の勝ちよ。制限時間は、5分だったんだけど、もうあと4分しかないわね。……健闘を祈るわ』
蘭々の説明が終わった。
春馬はちらりと、装置についているディスプレイに目をやる。
……04:00……03:59……03:58……
「結局、なにが『謎』なのか、言わなかったわね」
未奈が、けげんそうに言った。
「なにが『謎』か、わからないのが、『謎』ということなのかな?」
「まぁ、いいわ。この板を、額縁にはめこめば、爆発をとめる方法がわかるのよね」
未奈は、机におかれていたA4サイズほどの板を見る。
「なにか書いてあるね」
春馬が板を見ると、文字が書かれている。

「この文字って、なにか意味があるのかな?」
未奈に聞かれて、春馬は板に書かれた文字を読む。
「……の小イ/ルほをかんせ/させて、大/で猫走道るとト/発をとめるい/うほうは、声/ざわけんじ……、か????」
「意味不明ね」と未奈。
「……まずは、板を額縁にはめこんでみよう」
春馬が額縁を持って、未奈がA4サイズほどの板をはめようとする。
横はぴったりはまるが、縦は額縁よりも板が1センチほど長くてはまらない。
「どういうこと?」
未奈が聞くと、春馬は首をひねる。
「……サイズがまちがっているのかな?」
「額縁って、これしかなかったよね」
未奈が、引き出しを開けて確認する。
引き出しには、なにも入っていない。
「なにもないわ……」
未奈が言うと、春馬は大きな声で聞く。
「蘭々、板は額縁にはまらないよ!」
しかし、蘭々からの返事はない。
少しして、スピーカーから蘭々の声が聞こえてくる。
『爆発まで、残り3分よ』
「板か額縁かが、サイズをまちがえていると思うんだけど!」
今度は、未奈が聞いた。
やはり、蘭々からの返事はない。
「……そういうことか」
つぶやいた春馬に、未奈が「なに?」と聞いた。
「板と額縁は、これでまちがってないんだ。これ自体が『謎』ということだ」
「あたしたちの『謎解き』って、この額縁にサイズの合わない板をはめるということ?」
「そういうことだろうな」と春馬。
「……額縁に仕掛けがあるんじゃない? どこかを押したら縦に長くなるとか……」
未奈は、そう言うと額縁を調べる。
がんじょうな木製の額縁で、縦にも横にものびない。
「どこにも仕掛けはないみたい」
「額縁に仕掛けがないなら、板のほうかもしれない」
春馬は、文字の書かれた板を調べる。
「こっちにも、仕掛けはなさそうだ。……板を切る?」
春馬は部屋の中を見まわすが、のこぎりやナイフなど、板を切れそうなものはない。
「あれ……?」
じっと板を見ていた未奈は、あることに気がつく。
「その板、うっすら切りこみが入っているみたい」
未奈に言われて、春馬が板を調べる。
「この板、バラバラにできるみたいだな」
春馬は板を持って、折りまげるように力を入れる。
バキッ!
板は簡単にわれて、6つにわかれる。
「そうか、この6つをバラバラにして、1つずつ額縁にはめこむんじゃない!?」
未奈が、大きな声で言った。
「いや、それは無理だよ。バラバラにしても、板の面積はかわらない」
春馬が言うと、未奈が天をあおぐ。
「あぁ、そうか……。そうよね」
「でも、これはなにかのヒントになるはずだ……」
春馬は、バラバラになった板をじっと見る。
『爆発まで、残り2分よ』
蘭々の声が、スピーカーから聞こえてくる。