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ものがたり

『絶体絶命ゲーム』〈奈落編〉14・15巻 2冊無料ためし読み 第5回

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9    見えない敵を捕まえろ!

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 春馬は、まわりをじっと見る。

 目が暗闇になれたようで、かすかにあたりが見えてくる。

「1分たったわ。ここで、大サービス。30秒だけ、部屋を明るくしてあげるわ」

 蘭々の声が聞こえてきた。

 そのとき、

パッ!

 部屋の照明が煌々と灯った。

「うっ……!」

 暗闇から、急に明るくなり、春馬はまぶしくて目をつむった。

「チャンスはたった30秒よ。さぁぁぁぁぁ、わたしを捕まえにきて!」

 蘭々の声を聞いて、春馬はゆっくり目を開けた。

 食事をしていた大きなテーブル、皿とスプーンなどの食器、全員の椅子が、いつのまにかなくなっている。

 がらんとした部屋の中央に、晩成が大の字になって倒れている。

 その横に、大器も倒れている。

 秀介は、春馬と未奈の数メートル前に倒れている。

「秀介! おい、大丈夫か!?」

 春馬が、秀介に駆けよった。

「心配しなくてもいいわ。3人は生きているわ、気を失っているだけよ」

 そう言った蘭々は、暗視スコープを目からはずしている。

「『鬼ごっこ』で、相手を失神させるなんて、聞いたことないぞ!」

 春馬が怒る。

「これが、わたしのやり方よ」

 蘭々は余裕の表情で言うと、室内を見まわす。

「あれ、どうしたのかな? 鬼さんたち、わたしを捕まえにこないのかなぁ?」

 ユウヤ、鏡一、アリス、七菜は、遠巻きに、蘭々を見ている。

「ねぇ、どうするの? もう一度、暗闇になったら、七菜たちに勝ち目はないんじゃない?」

 七菜が、すねたような声で言った。

「鬼さんたちみんなで、いっせいに、わたしに飛びかかってきたらどう?」

 蘭々が、挑発するように言った。

「いいや、1人で十分です。こうなったのは、ぼくの責任です。ぼくがいきます」

 ユウヤが、蘭々にむかっていく。

「さすがリーダーね。それじゃ、カモン、カモン、カモーン!」

 蘭々はそう言うと、ファイティングポーズをとった。

「ユウヤ、蘭々は柔術の達人だ……」

 春馬が伝えた。

「知っています。彼女は3カ月前まで、ぼくたちと同じ、このⅡ区にいました」

 ユウヤは言い終わると、蘭々に突進していく。

「暗くなるまで、残り5秒!」

 蘭々はそう言いながら、突進してきたユウヤを体を回転させてかわした。

 そして、すばやく背後に回ると、ユウヤの首に腕を巻きつけた。

「うぅぅぅぅ……」

 ユウヤは抵抗するが、すぐに力つきて失神した。

「はい、お疲れさま。ここで、チャンスタイムも終了よ」

 蘭々はユウヤを床に寝かせると、暗視スコープを目に当てる。

 同時に、照明が消えた。

 ふたたびあたりが暗闇になる。

「『鬼ごっこ』の残り時間は、1分30秒よ」

 暗闇の中から、楽しそうな蘭々の声が聞こえてきた。

「春馬、そこにいたら危険よ。こっちにきて!」

 未奈の声が聞こえてくる。

 春馬は、声をたよりに未奈の近くにもどって、背中を壁につけた。

「これで、うしろから襲われることはないけど……。ここでじっとしていても、勝てないな」

 春馬が、未奈の手をにぎって、くやしそうに言った。

「そうだけど、失神させられたら、終わりよ」

 未奈の声が聞こえてくる。

「なにか、手はないのかな」

 春馬は考えるが、蘭々を捕まえる策は思いうかばない。

 鏡一たちも、策はないのか、だれも動く気配がない。

 暗闇の中、静寂がつづく。

「このままだと、おれたちは負けだ」

 聞こえてきたのは、鏡一の声だ。

「なにか、作戦はないのか?」

 春馬が、鏡一の声のほうにむかって言った。

「1つだけあるよ」

 鏡一の声が返ってくる。

「えっ、なに?」と未奈の声がする。

「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって、言うだろ。みんなで動きまわって、とにかく、ぶつかった者を捕まえるんだ」

 鏡一の単純すぎる作戦に、春馬はがっかりしながら答える。

「そんなことをしても、暗視スコープをつけている蘭々を捕まえるのは無理だろう」

 そのとき、「残り1分よ」と蘭々の声が聞こえてくる。

「動かなければ、このまま負けね。それなら、鏡一の作戦でいきましょう」

 アリスの声が聞こえてくる。

「まぁ、いいんじゃない。七菜も、鏡一の作戦に賛成!」

 七菜も同意する。

「春馬と未奈も協力してくれ。もし、蘭々に捕まったら、大声で助けを呼ぶんだ」

 鏡一の声が聞こえてくる。

「────その手には乗らないわよ」

 聞こえてきたのは、蘭々の声だ。

「その手って、どういうことだ?」

 鏡一が聞いた。

「わたしがだれかを襲ったら、その人が悲鳴を出す。それで、ほかのメンバーがわたしの場所を特定して、捕まえるってことでしょう」

「いや、さすがⅢ区にあがった者はちがうな。作戦は、お見通しか」

 鏡一の声が聞こえてきた。

「その作戦って、いいアイディアだわ。蘭々、わたしを襲いなさい」

 アリスの声と同時に、足音がした。動きだしたらしい。

「七菜も、歩きまわるね」

 今度は、七菜の声が聞こえてきた。

「おれも、動くぞ」

 鏡一の声も聞こえてきた。

 暗闇の中、鏡一たちの歩く音が響いている。

「未奈、ちょっとこわいけど……」

 春馬が言いかけると、未奈がさえぎる。

「わかってる。Ⅰ区に逆もどりはいやよ。あたしたちも動きましょう」

「うん。そうだな」

 春馬はそう言って、未奈の手を離した。

「もし、蘭々に襲われたら、逆に捕まえてやるわ」

 未奈のやる気まんまんの声が聞こえてきた。

「ぼくもそうするよ」

 春馬はそう言うと、暗闇の中を歩きだす。

ドン!

 うしろから、なにものかに蹴られて、春馬はころびそうになった。

 春馬はふりかえって、すかさず手をのばした。

 しかし、そこにはだれもいない。

「そんな動きで、わたしが捕まると思うの?」

 蘭々の声が聞こえてきた。

「そっちか!」

 春馬が声の聞こえてきたほうにいくと、なにものかに腕をつかまれる。

「やった、捕まえたわ!」

 その声は、七菜だ。

「ちがう、ぼくだ。春馬だ」

「なんだ、春馬か。……えっ、春馬なの? それなら、離さないでおこうかな」

 七菜のうれしそうな声が聞こえてきた。

「そんなことより、蘭々を捕まえないと」

「あぁ、春馬って、まじめすぎるわね」

 七菜のすねたような声が聞こえてくる。

「残り30秒よ」

 蘭々の声が聞こえてきた。

「七菜、手を離してくれ」と春馬。

「い、や、よ。暗闇の中だから、だれにも見られないよ、春馬」

 春馬は強く彼女の手をふりはらった。

「ふざけている時間はないんだ!」

 春馬はそう言うと、暗闇の中を歩きだす。

 目の前を、だれかが横ぎった気配がした。

 手をのばすが、つかむことはできなかった。

パタ……パタ……パタ……パタ……

すたすたすたすた……

ドサッ!

 人の歩く音や、ぶつかるような音が聞こえてくる。

 鏡一たちも、部屋の中を歩きまわっているようだ。

「蘭々、残り何秒だ!」

 鏡一の質問する声が聞こえてきた。

「教えてあげない。……でも、残り10秒になったら、カウントダウンしてあげるわ」

 蘭々の話を聞いて、春馬は思いつく。

 カウントダウンの声が、蘭々を捕まえる最後のチャンスだ。

ドン!

 そのとき、春馬はだれかにぶつかった。

「もしかして、春馬?」

 未奈の声だ。

「うん、そうだ。未奈、カウントダウンはチャンスだ。その声をたよりに、蘭々を捕まえよう」

 春馬が言うと、「あたしも同じ考えよ」と未奈が言った。

 そのあと、春馬と未奈は立ちどまって、ラスト10秒になるのを待った。

 暗闇でなにも見えないが、鏡一やアリスや七菜が歩きまわっている気配がする。

「残り10秒よ」

 春馬と未奈は、聞こえてきた蘭々の声のほうに、慎重に駆けていく。

 この声をたよりに、蘭々を捕まえるんだ。

「9秒、8秒、7秒……」

 蘭々の声はすぐ近くで聞こえるが、そこにはだれもいない。

「あれ、これは小型スピーカーだわ! 春馬、ここに蘭々はいないわ!」

 未奈が、春馬に知らせる。

「この声は罠か……」

 春馬はつぶやくと、気持ちを切りかえる。

 声をたよりに居場所をさぐることは、蘭々も想定内なんだ。

 どうすればいいんだ、このままだとⅠ区に逆もどりだ。

「4秒、3秒……」

 蘭々のカウントダウンがつづく。

 土壇場で、春馬はあることに気がつく。

「2秒、1秒……」

 蘭々の声が聞こえてくる。

 春馬はまわりを見ながら、両手を広げる。

 終わる寸前が、本当のラストチャンスだ!

パッ

 部屋が、明るくなった。

 瞬間、春馬は目をつむりそうになるのを我慢して、あたりを見まわす。

 しかし、蘭々は近くにいない。

「終わ……!」

 宣言しようとした蘭々の声が、途切れた。


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