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ものがたり

『絶体絶命ゲーム』〈奈落編〉14・15巻 2冊無料ためし読み 第4回

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1    Ⅱ区への扉を開くには?

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「えっ、どうして?」

 武藤春馬は、林の中で立ちつくしていた。

 廃墟の工場のような巨大な建物の前に、親友の上山秀介が見えた。

 春馬は手をふったが、秀介は無視して建物に入ってしまったのだ。

「いつまで、そうやっているつもりなの?」

 となりにいた滝沢未奈が、冷たい声で聞いた。

「未奈も、秀介を見ただろう。ぼくと目があったんだ。それなのに、秀介は……」

「見て見ぬふりをしたんでしょう。理由が知りたいなら、直接、聞いたらどうなの」

「……あっ、そうか。そうだね」

 春馬が、われに返る。

「秀介に会うために、わざわざここまできたんでしょう。早くいきましょう」

 そう言うと、未奈は巨大な建物にむかって歩きだす。

 春馬も、あわてて歩きだした。

「あの建物、学年対抗戦の『絶体絶命ゲーム』で見せられた、『奈落』の紹介映像に映っていたわね」

 未奈が言うと、春馬はうなずく。

 建物の大きなドアに、汚い字で『奈落』と書かれた看板がかかっている。

「あそこが、『奈落』のⅡ区でまちがいないな」

 2人が歩いていくと、建物の中から七色の髪の女子が出てくる。

 彼女も、『奈落』の紹介映像に映っていた。

「武藤春馬と滝沢未奈、いらっしゃい。わたしは『奈落』Ⅱ区のアイドル、林田七菜ちゃんよ」

 七菜のあいさつに、春馬と未奈は顔を見合わせる。

「なによ、その顔? 七菜がかわいすぎて驚いた?」

「そうじゃなくて、どうして、ぼくたちの名前を知っているんだ?」

 春馬が聞くと、七菜が意味不明な答えを言う。

「七菜は、なんでも知っているのよ」

「一応、確認だけど、この建物は『奈落』のⅡ区でいいのよね?」

 未奈が聞くと、七菜は「そうよ」と即答する。

「上山秀介に会いにきたんだ」

 春馬が言うと、七菜がとぼける。

「……そんな人、いたかな?」

「ここに入るのを見たんだけど……」

 春馬が、問いつめるように言った。

「……そうそう、いたわ。今、思いだした。上山秀介よね、ここにいるわよ。そうだ、案内してあげる。七菜って、親切でしょう?」

「うん、まぁ……」

「それなら、早くいきましょう」

 そう言って、未奈が先にドアの前にいこうとすると、七菜が立ちふさがる。

「あぁ、未奈はダメよ。ここから歩いて帰って。シッシッシッ……。あっち、いけ!」

 七菜が、春馬から未奈を遠ざけようとする。

「あたしは野良犬じゃないのよ。なにが、シッシッシッよ?」

 未奈が怒ると、七菜がおびえたふりをする。

「うわぁ、未奈ってこわい。春馬、助けて!」

「未奈はこわくないよ。それに、ぼくは未奈といっしょじゃないと、ここには入らない」

 春馬がぶっきらぼうに言うと、七菜が口をとがらせる。

「なーんだ。やっぱり、2人は仲良しなんだ」

「そうよ。すごーく仲はいいわよ」

 未奈が、言い捨てた。

「春馬だけなら、七菜の権限で顔パスで入れてあげたのに……。まぁ、いいわ。2人で『奈落』のⅡ区に入りたいなら、テストを受けてもらうわ」

 七菜の言葉を聞いて、未奈はむっとした顔で言う。

「また、ゲームをやらせるのね」

「さすが、『絶体絶命ゲーム』のベテランね。ものわかりがいいわ。こっちにきて」

 七菜は、春馬と未奈をドアの横に連れていく。

 建物はコンクリート造りだが、1階の壁はレンガ造りになっている。

「ゲームはこれよ」

 七菜が指さしたレンガの壁には、4本の黒い縦線が描かれていて、中央部が紙で隠されている。

 4本の線の上には右端から①、②、③、④と番号が書かれている。

 ①と②と④の線の下には、×印が描かれていて、③の線の下には〇印が描かれている。

「これって、あみだくじかな?」

 春馬が言うと、七菜はにやりと笑う。

「そうよ。春馬と未奈で1つ選んで、その先が×印だったら、Ⅱ区には入れません。2人とも山を下りて、帰ってもらいます」

「〇印なら、Ⅱ区に入れるんだな?」

 春馬が確認すると、七菜が「そうよ」と答える。

「あみだくじって、当たるも当たらないも運でしょう。テストとは言えない。納得いかないわ」

 未奈が不満を口にすると、七菜は腕組みをして考える。

「……いいわ。選んだあとに、隠している部分を見せてあげる。そのあと、1回だけ交換してもいいわ。それで、どう?」

 七菜に聞かれて、「それならいいわ」と未奈が答えた。

「ぼくも、いいけど……」

 春馬はそう言ったが、疑問に感じる。

 隠されている部分を見たあとに交換できるなら、簡単に×印をさけられるんじゃないか……?

「それじゃ、選んで」

 七菜に言われて、春馬は未奈と相談する。

 未奈は、あみだくじは運と言っていたけど、まったく運というわけではない。

 当たりの真上の線を選ぶと、当たりやすいという統計がある。

 今回の場合、〇印の線の上にあるのは③だ。

 春馬と未奈は話し合って、③を選んだ。

「へー、いいところを選んだじゃない。それじゃ、中央部分をオープンするわよ」

 七菜はそう言うと、あみだくじの中央部分を隠していた紙をとった。

 春馬と未奈は、壁の前に立って、あみだくじを見ている。

「はぁ!? な、な、なによ、それ!」

 未奈が、声をふるわせて言った。

 ③の線は途中で切れていて、その下に×印がついている。

 そして、×印の下からどこともつながっていない縦線が〇印にのびていた。

 どの線を選んでも、〇印にはいけない仕組みだ。



「あみだくじになってないじゃないか。こんないかさま、よく考えたな」

 春馬があきれると、未奈がむっとした顔で言う。

「どこを選んでも、×印になるじゃない」

「新しく横線を加えることは、できないんだよね?」

「残念でした。ペンを持ってきてないの」

 そう言うと、七菜は春馬にむかって言う。

「特別に、春馬1人ならⅡ区に入れてあげてもいいわよ。ただし、春馬が、七菜ちゃんとお付きあいするという条件付き……」

「断る」

 春馬はきっぱり言うと、壁に描かれたあみだくじを凝視する。

「……やっぱり、あやしいと思う?」

 となりにいる未奈が、首をかしげながら聞いた。

「うん、あやしいね。……ルールでは、1回だけ交換していいんだったよね?」

「『交換』って言葉、なにかおかしくない? 普通なら、『変更』よね」

「そうなんだ」

 春馬はそう言うと、あみだくじの描かれたレンガの壁をさわる。

「未奈、壁をさわってみて」

「なに?」

 未奈も、レンガの壁をさわる。

 レンガはガタガタ揺れる。

「これ!」

「うん、そういうことだ」

 春馬が言うと、七菜が不機嫌そうに聞く。

「……もしかして、わかっちゃったの?」

「ぼくたちは、ここにくる前にペテン師……いや、ぺ・天使が案内人のゲームをやったからね」

「こういう、引っかけ問題はお手の物よ」

 未奈が得意げに言った。

「それで、どうするの?」

 七菜が、投げやりに聞いた。

 春馬と未奈は、レンガの壁を見ながら相談する。

「こことここを交換すればいいんじゃない?」

 未奈が言うと、春馬はあみだくじを指でたどって確かめる。

「うん、それで〇印にいくね」

「③の線の下端の×印の描かれたレンガと、そこから右に2つ目のレンガを交換するわ」

 未奈が言った。

「……こういうこと」

 七菜は、③の線の下端の×印の描かれたレンガと、その2つ右のレンガを引きぬいて、2つのレンガを交換する。



 春馬と未奈の選んだ③は左に曲がり、下にいき、右にいき、下にいき、また右にいき、下にいき、左にいって、下にいくと〇印につく。

「…………こんな問題、簡単すぎたわね。まぁ、いいわ。2人とも、中にどうぞ」

 七菜が、『奈落』と書かれた看板のかかった大きなドアを開けた。


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