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ものがたり

『絶体絶命ゲーム』〈奈落編〉14・15巻 2冊無料ためし読み 第3回

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19    勇気をもって走りきれ!

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『邪魔が入ったばってん、気持ちを入れ替えて、ゲームを再開ばい』

 モニターのぺ・天使が言った。

「春馬、ゲームの前にちょっと話がある」

 クジトラがそう言って、春馬に話をする。

「ここで残るのは2人だけだ。だから、おまえとは、もう話す時間はないかもしれない」

「うん、そうだね」

「おまえのさがしていた上山秀介だけど、7カ月くらい前にⅠ区にきた。でも、いつの間にか、いなくなったんだ」

 クジトラが言った。

「知ってる」と春馬。

「……そうか、そうだったか」

「どうして、教えてくれなかったんだ?」

 春馬が聞いた。

「行方不明者が出たと知られると、ボスをやめさせられると思ってな。それで、康明たちに口止めした」

「そういうことだったか」

 春馬が納得する。

『準備はよかか? 決勝に残る2人ば決める競走ばい。……よーい』

 モニターのぺ・天使の声が言うと、有紀、クジトラ、未奈がロープの前にくる。

 春馬は、スタートの構えをとっている未奈に近よると、耳もとでささやく。

「ぼくたちは、走らない」

「えっ!? どういうこと?」

 未奈が聞きかえすが、春馬は前をむいたままうなずくだけだ。

『スタートばい!』

 ぺ・天使が言うと、4人の前に張られていたロープが地面に落ちる。

 有紀とクジトラが、駆けていく。

「春馬、どういうこと?」

 春馬とともに、スタート地点にとどまった未奈が聞いた。

「クジトラが優勝したら、このゲームがはじまる前と同じになるように要求する。そうしたら、閉じこめられている我雄もエマも康明も解放されて、Ⅰ区にもどされるだろう」

 春馬の説明を聞いて、未奈も合点がいく。

「有紀が優勝したら、Ⅰ区にいた人たちが、ここにくる前にいた場所にもどされる。我雄もエマも康明も解放されて、前の生活にもどされるということ?」

「そうだ。ぼくたちがここにきたことで、犠牲になる者を出したくないんだ」

「でも、それじゃ……」

 未奈がそこまで言うと、春馬がさえぎる。

「それと、有紀とクジトラの競走を見たいんだ」

 春馬は、競走路に目をむける。

 有紀とクジトラは、春馬と未奈がスタートしていないことに気づかずに全力で走っている。

 有紀は、残っている力をふりしぼって駆けていく。

 クジトラも、全力で駆けていく。

 力が弱くなったら、沈んでしまうので、2人とも必死だ。

「2人とも、がんばるんだ。ただ前だけを見て、力強く足をふみこんで走るんだ」

 春馬が応援する。

 有紀は足がからまりそうになるが、なんとか体勢をなおして走る。

 クジトラは息が上がってくるが、歯を食いしばって走る。

「うおぉぉぉぉ!」

 クジトラは最後の力で、台に飛び乗った。

「やった!」

 有紀も、なんとか台に乗った。

 クジトラと有紀はそこで、春馬と未奈が走ってないと気がつく。

「どうして!?」

 有紀がつぶやいた。

『はぁぁぁぁぁ? 春馬と未奈はどげんしたと?』

 モニターのぺ・天使が、あきれた顔で言った。

「ぼくたちはここでゲームを棄権だ」

 春馬が、しれっとした顔で言った。

『まぁ、よかばい。決勝進出は、鯨岡虎彦と宝来有紀ばい。2人には、そこで優勝決定戦をやってもらうばい』

 モニターのぺ・天使が言うと、数機のドローンがクジトラと有紀の前に飛んでくる。

『決勝は投票ばい。礼拝堂に残ってる25人に、クジトラと有紀の願いを聞いてもらうと、そして、2人の内のどちらかに投票してもらうばい。票の多かった者が優勝ばい』

 春馬と未奈は、クジトラと有紀に目をむける。

「これは、有紀が不利だな」

 春馬が言うと、未奈が首をかしげる。

「どうかな? みんな、本当はもどりたいんじゃないかな」

「……そうだろうか?」

 春馬はそう言いながら、きょろきょろあたりを見る。

『礼拝堂に残った者は、ここまでの2人の戦いぶりをモニターで見よったと。最後に、なにか言いたかことがありゃあ、有紀から話しんしゃい』

 ぺ・天使に言われて、有紀が話をする。

「わたしの願いは、Ⅰ区の人たちを、ここにくる前の場所にもどすことよ。中には、もどりたくない人もいるかもしれない。実際、わたしもその1人よ。わたしは、母の再婚相手の暴力に耐えかねて、その人を突き飛ばしたの」

 有紀の告白を、春馬と未奈はつらそうに聞いている。

「その人は、それでけがをしたの。わたしは、あわてて逃げてしまった。それがニュースになって、気がつくと帰る機会を失ってしまった。そして、逃げて、逃げて……。たどりついたのが、ここだった。だから、前の場所にもどったら、わたしは警察につかまる。それでも、帰らないとならない。……ここにいることは、死んでいるのと同じ。……だから、生きるためにもどるの!」

 有紀は言い終わると、唇をかみしめた。

『次は、クジトラばい』

 ぺ・天使に言われて、クジトラが話をする。

「おれの願いは、ここのボスの地位だ。ようするに、このゲームがはじまる前の生活だ。……有紀があんなことを言うから、おれも言わせてもらう」

 クジトラの告白に、春馬と未奈も注目する。

「おれの父親は、鯨岡建設の社長だ。たくさんの違法な建物を作って、父親は捕まった。父親は刑務所に入ったからいいけど、おれと母親は父親のせいで、たくさんの人から嫌がらせを受けたんだ。そして、母親は行方不明、おれは命まで狙われた。おれは前の生活にもどったら、殺されるかもしれないんだ。……だから、ここにいるしかないんだ! みんなも、もどりたくない事情があるんだろう。だから、おれを支持してくれ」

 クジトラと有紀を、ドローンが撮影している。

『2人とも、つらか事情があったのね。……さぁ、これでいよいよ投票ばい』

 ぺ・天使が能天気に言うと、モニターに礼拝堂にいる25人が映る。

 25人は、その場に座ってじっと考えている。

『それでは、投票ばい。有紀ば支持する人は立ちあがって、クジトラば支持する人は座ったままばい』

 ぺ・天使が大きな声で言った。

 礼拝堂の25人は、だれも立ちあがらない。

 春馬と未奈は、胸がつぶれる思いで、モニターを見ている。

 だれも立ちあがらない。

 クジトラの顔が、笑顔になっていく。

「や、やった。おれの、おれの勝ちだ」

「待って、もう少し、待って」

 有紀はそう言って、祈るようにモニターを見る。

「お前も、もどらないほうがいい。ずっとここにいればいいんだよ。みんなの待遇をもっと良くしてやる。今までのおれは欲張りすぎた。砂金採取の時間も減らすし、部屋に電気がいくようにする。そうすればいいだろう」

 クジトラが、楽しそうに言った。

「あっ……」

 有紀がモニターを見て、言った。

 礼拝堂で、1人が立ちあがった。

「えっ……」

 礼拝堂で、もう1人が立ちあがった。

 そして、3人、4人、5人と立ちあがっていく。

「そ、そんな……」

 クジトラがモニターを見て、がくぜんとする。

 6人、7人、8人、9人とどんどん立ちあがる。

 そして、13人目が立ちあがった。

 クジトラはその場に座りこむ。

 14人、15人、16人……と立ちあがり、最後には全員が立ちあがった。

『見ての通り、優勝は宝来有紀ばい。全員、元の生活にもどるばい』

 ぺ・天使が言うと、クジトラはがっくりとうなだれる。

『これでゲームは終わりばい。ただ最後に一言言わしてもらうばい。……前の生活もどって、それでも、どうにもならんときは、もどってきんしゃい。ここには、いつでももどれるばい』

 ぺ・天使が、やさしい口調で言った。

「ぼくたちは、もういこうか」

 春馬が、未奈に言った。

「いくって、どこに?」

「もちろん、秀介をさがしにだよ」

「でも、どうやって?」

「あのフェンスを越えていくんだ。あいつらが心配だから、できるだけ流体を走るよ。未奈、力は残っている?」

 春馬に聞かれて、未奈は「残っているけど……」と答える。

「それじゃ、いくよ!」

 春馬はそう言うと、駆けだす。

「あっ、待って!」

 未奈が、あわてて駆けだす。

 春馬と未奈は、非ニュートン流体のダイラタンシー流体を力強く駆けていく。

 有紀とクジトラが、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で見ている。

 春馬と未奈は競走路の半分くらいのところから、金網のフェンスをのぼる。

「外は危険よ」

 有紀が注意する。

「有紀、クジトラ、ありがとう!」

 春馬は、そう言うとフェンスから外に出る。

 未奈も、フェンスの外に出る。

 木々のむこうから、遠吠えが聞こえてくる。

「ここからは本気の全力で走るよ」

 春馬はそう言うと、未奈に手をさしだす。

 未奈はその手をしっかりと握る。

「春馬、どういうつもりなの?」

「あいつらは、襲ってこないよ」

 春馬と未奈は、手を握って走る。

 数匹のオオカミが駆けてくる。

「未奈、あいつらをよく見るんだ」

 春馬に言われて、未奈は追いかけてくるオオカミを見る。

「どうだい?」

「あれはオオカミじゃないわ。犬みたい」

「正解だ。あいつらは、犬だ。シベリアンハスキーあたりかな」

 春馬は、うしろをちらちら見ながら走っていく。

「でも、野犬よ。危険だわ」

 未奈が言うと、春馬が立ちどまる。

「あれ?」と未奈がきょとんとする。

 春馬と未奈を追いかけてきた犬は、いつの間にか、もどっていったようだ。

「やっぱり、そうか」

「ねぇ、どういうこと?」

「あの犬は訓練された番犬だよ。ぼくたちをおどかしたり、Ⅰ区から逃走者が出ないか見張ったりしていただけだ。襲うように見せかけるだけだ」

 春馬の説明に、未奈はまだ不満顔だ。

「虹子が逃げだす前、春馬になにか耳打ちしたでしょう。あれは、なんて言ったの?」

「そうだな。あの一言で、いくつかの謎が解けたんだ」

 春馬はそう言うと、ゆっくり歩きだす。

「ねぇ、なんて言ったの?」

 未奈が聞く。

「虹子はこう言ったんだ。『ここは、日本よ』とね」

 春馬の言葉に、未奈は目を見張る。

「食堂でごぼうが出ていただろう。料理で、ごぼうが出てくるのは日本くらいだ。あれは、ここは日本だというヒントだったんだよ。今、日本に野生のオオカミはいない。だから、ここが日本だとしたら、あれは犬だと気がついたんだ」

「それだけで、日本だって言えないでしょう」

「ほかにも色々あるよ。ここが海外なら、時差があるはずだろう。ぼくがこっちにきてから、時差ぼけはなかった。それに、ドクロ一族のヘリだよ。あの一族が力をもつのは日本の中だけだ。ドクロ一族のヘリがすぐにやってきたということは……」

「あぁ、もういいわ。それよりも……」

 未奈はそう言うと、林の先を指さした。

 廃墟の工場のような巨大な建物がある。

 そのドアの前に、見覚えのある人物がいる。

 春馬の親友の、上山秀介だ。

「秀介……」

 春馬は、秀介にむかって歩いていく。

 秀介はⅠ区の制服とは、色違いの制服を着ている。

「秀介!」

 春馬が手をふると、秀介と目があった。

 しかし、秀介は無視して建物に入っていく。

「えっ、どうして?」

 春馬が立ちつくす。

ここまでの話が『絶体絶命ゲーム⑭ 親友を追って!奈落Ⅰ区の戦い』に入っているよ!

第4回へ続く

書籍情報


作: 藤 ダリオ 絵: さいね

定価
814円(本体740円+税)
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新書判
ISBN
9784046322555

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作: 藤 ダリオ カバー絵: さいね 挿絵: チヨ丸

定価
814円(本体740円+税)
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新書判
ISBN
9784046322906

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〈奈落編〉の完結となる最新16巻は、4月9日(水)発売予定!


作: 藤 ダリオ カバー絵: さいね 挿絵: チヨ丸

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836円(本体760円+税)
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新書判
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9784046323347

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