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ものがたり

『絶体絶命ゲーム』〈奈落編〉14・15巻 2冊無料ためし読み 第3回

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13    脱落者ゼロの方法

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「それで、康明はどうするんだ?」

 クジトラが、とうとつに聞いた。

「……えっ、ぼく?」

 康明が、けげんな顔で聞いた。

「よく考えてみろ。1本の薪を持っているだけじゃ、ここから出られない。ここから出るには、ペアにならないとダメだ。おれはエマとペアになる。春馬と未奈も、ペアになるだろう。残ったのは、おまえと虹子と有紀だ」

「有紀と虹子がペアになったら……。ぼくは、1人だ」

 康明が、弱々しい声で言った。

「そういうことだ。おまえは、ここで死ぬことになる」

 クジトラが、冷たく言った。

 春馬は、クジトラたちのやり取りをじっと聞いている。

「……ちがうよね?」

 未奈が小さい声でそう言うと、春馬がとめる。

「クジトラたちが、なにを考えているか知りたい。もう少しこのままで……」

 春馬が小声で言うと、未奈が口を閉ざす。

 クジトラは、上の空という顔をしている虹子の前にいく。

「虹子、たのみがあるんだ」

「なに?」

「康明とペアになってくれないか?」

 クジトラの提案に、虹子は興味なさそうな顔で言う。

「それって、有紀を脱落させるということ?」

 虹子に言われて、クジトラが苦笑いする。

「そういうことだ」

「ぼく、有紀にはかなりお世話になったんだけど?」

「わかっている。でも、閉じこめられている虹子に、食料を運ぶように言ったのは、おれなんだ」

「へぇ、そうなの。……ぼくは、だれとペアになってもいいよ」

 虹子が言うと、クジトラはうなずく。

「おれがボスになったら、虹子を自由にしてやる。……だから、康明とペアになってくれ」

「でも、ボスにならないかもしれないだろう?」

 虹子が聞いた。

「……それなら、虹子がまずい状況になったとき、おれが助けてやる。おれに貸しを作れ」

「貸しねぇ」

 虹子は、つまらなそうに言った。

「そこまでして、わたしを脱落させたいの?」

 有紀が、困惑の表情で聞いた。

「おまえにうらみがあるわけじゃねぇ。でも、おまえのあの願いは、いただけねぇ」

 クジトラが、首を横にふりながら言った。

「……やっぱり、もどるのがこわいのね」

 有紀は、さびしそうに言った。

「おれだけじゃねぇ。エマも康明も、元の生活にはもどりたくないんだ」

「クジトラさまの言う通りよ。わたしには、ここしかないの!」

 エマが言うと、康明も下をむきながら言う。

「ぼくも、もどりたくない。有紀だって、本当はここがいいだろう?」

「……最初はそうだった。でも、だんだんおかしいと思いはじめた。そして、わかったの。わたしたちは、ここを出ないとならないと」

 有紀が、きっぱり言った。

「そうか。……あとは、虹子がだれを選ぶかだな。康明と有紀のどっちにする?」

 クジトラが聞いた。

「ぼくは、どっちでもいいけど……」

 虹子がそっけなく言った。

「有紀を選んでも、いいことはないぞ。有紀は必ず脱落する。いや、おれが脱落させる」

 クジトラが言うと、虹子が少し考える。

「わかった。それなら、康明にするよ」

 虹子が、笑顔で言った。

「わたしは、ここで脱落なの……」

 有紀がくやしそうに言った。

「いや、そうじゃない」

 春馬が言うと、クジトラが舌打ちする。

「どういうこと? わたしが脱落にならない方法があるの?」

 有紀が、春馬に聞いた。

「うん、そうだ。有紀が脱落しない方法がある。みんな、惑わされているんだよ」

「やめろ」

 クジトラが、春馬にむかって言った。

「もしかして、クジトラも気がついていたのか?」

 春馬が聞くと、クジトラが険しい口調で話をする。

「いいか、よく考えるんだ。おれが、ボスをやっていた間、Ⅰ区のやつらは平和に暮らしていた。だから、おれがボスになれば、このままここでいられるんだ」

「砂金採取と寝るだけの生活が、平和な暮らしと言えるの?」

 未奈が疑問を口にする。

「春馬と未奈は1週間しかいないから、ここの本当の良さがわからないんだ」

 クジトラが言った。

 壁に設置されたカメラが、春馬たちのやり取りを撮っている。

 その映像は、礼拝堂の巨大モニターに映っていて、ゲームに参加しなかった25人が、ここでの戦いを静かに見ている。

「わたしは1年以上もここにいる。そして、出たいと思ったの」

 有紀が言うと、クジトラは首を横にふる。

「それは、ただの気の迷いだ。一時のホームシックだ。ここを出たら、絶対に後悔する」

 クジトラの言葉に、有紀は言いかえす。

「わたしは後悔しない。前に進むために、ここを出ると決めたの」

「有紀、よく考えろ。まだ、ここにいたほうが安全だ」

「クジトラは、自分がもどれないから、みんなを言いくるめて、ここに閉じこめているのよ」

 有紀の言葉に、クジトラははっとなる。

「おまえ、おれのことを知っていたのか?」

「わたしの名字もめずらしいけど、鯨岡もめずらしい名字よね」

 有紀の話を聞いて、春馬はクジトラが何者かわかる。

「クジトラは、もしかして、違法建築のビルや住宅を建てた鯨岡建設の……」

 春馬が言うと、クジトラが舌打ちする。

「あぁ、そうだよ。おれの親父は、日本中を騒がせた鯨岡建設の社長だ」

「それで、ここにいたいのか……」

 春馬は合点がいく。

「どういうことなの?」と未奈が聞いた。

「鯨岡建設は法律違反のビルやマンションを建てて、社長は逮捕されたんだけど、そのマンションを購入した人たちは、高額で購入したマンションに住めなくなったんだ」

「……そして、彼らの怒りは、逮捕された親父から、その家族にむいたんだ。嫌がらせは日常茶飯事で、母さんは行方不明になり、残されたおれは、親父をうらんでいる人に殺されかけた」

 クジトラは他人事のように、淡々と話した。

「……ごめんなさい。そこまでは、知らなかったわ」

 有紀が、つらそうに言った。

「今、日本にもどされたら、おれはまた命を狙われる」

 クジトラはそう言ったあと、気持ちを切りかえたように大きな声で言う。

「その話はもういい! 春馬、ここから出るからくりを話してやれ」

 春馬は、ふっと息をはいて話をする。

「うん、そうだね。そろそろ次の部屋にいこう。クジトラが言うように、2本の薪で2人がここから出る。それを4人でやると、3人が残ることになる」

「それだと、やっぱり1人が出られないよ」

 康明が言った。

「そんなことはない。例えば、ぼくと未奈と有紀が残ったとする。ぼくが前に立って、未奈は右うしろ、有紀が左うしろに立つんだ。そして、ぼくが右手で薪を持って、ななめうしろの未奈がその薪を右手で持つ。未奈は左手でもう1本の薪を持って、有紀はその薪を右手で持つ。有紀は左手でもう1本の薪を持って、その薪を前にいるぼくが左手で持つ。これで、3人とも両手で薪を持つことになる」

 春馬の説明に、康明が驚く。

「あっ、本当だ……」

「難しいからくりじゃない。冷静になれば、すぐに気がつく。ただ、ぺ・天使はそれを気づかせないように、条件を小出しにしたんだ」

「全員が、次の部屋にいけるのよ」

 未奈が、明るい声で言った。

「いや、まだそうと決まったわけじゃない。安心できないのが、1人いるだろう」

 クジトラはそう言うと、虹子を見る。

「ぼくのことかな?」

 虹子が、とぼけたように言った。

「第1の部屋のように、突然、次にいかないと言いだされたら困るからな」

 クジトラの不安は、春馬も同じだった。

 虹子は、なにを考えているか、わからない。

 それに、第1の部屋で我雄の様子がおかしくなる前、虹子がなにかをしたようだった。

「それで、ぼくはどうすればいいの?」

 虹子が、不機嫌そうに言った。

「……わかった。それなら、ぼくが虹子といっしょにここを出る。それで、どうかな?」

 春馬が言った。

「ぼくは、だれとでもいいよ」

 虹子がそう言ったので、春馬とのペアで部屋を出ることになった。

「まだ安心できないな」

 クジトラは、まだ虹子を疑っている。

「どうすればいいんだ?」

 春馬が聞くと、クジトラは「春馬と虹子のペアが、最初に部屋を出てくれ」と言った。

「電気ショックがこわいから、実験台として春馬と虹子を、最初にいかせるんでしょう」

 未奈が、冷ややかに言った。

「虹子が、油断できないからだよ」

 クジトラが、うそぶく。

「条件は満たしてるから、電気ショックはこないよ」

 春馬はそう言うと、虹子とペアになる。

 2人は縦に並んで、前の春馬が両手に1本ずつ薪を持ち、うしろの虹子がその薪を持つ。

 山小屋の外観は壁に映されたものだが、開いたドアは実際のもので、ドアのむこうには、第3の部屋がある。

 春馬は少し緊張しながら、ドアを通る。

 電気ショックはない。

 そして、虹子も無事に、ドアを通った。

 第3の部屋は、山小屋の中のような作りになっている。

 開いたドアから、第2の部屋に残る5人が見える。

 春馬は、胸騒ぎがする。

 なんだろう、ここではだれも脱落しないはずだけど……。

 ドアを見ていると、クジトラが1人で両手に薪を持って、第3の部屋に入ってくる。

「えっ、どういうことだ!?」

 春馬が、大きな声を出した。


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