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13 脱落者ゼロの方法
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「それで、康明はどうするんだ?」
クジトラが、とうとつに聞いた。
「……えっ、ぼく?」
康明が、けげんな顔で聞いた。
「よく考えてみろ。1本の薪を持っているだけじゃ、ここから出られない。ここから出るには、ペアにならないとダメだ。おれはエマとペアになる。春馬と未奈も、ペアになるだろう。残ったのは、おまえと虹子と有紀だ」
「有紀と虹子がペアになったら……。ぼくは、1人だ」
康明が、弱々しい声で言った。
「そういうことだ。おまえは、ここで死ぬことになる」
クジトラが、冷たく言った。
春馬は、クジトラたちのやり取りをじっと聞いている。
「……ちがうよね?」
未奈が小さい声でそう言うと、春馬がとめる。
「クジトラたちが、なにを考えているか知りたい。もう少しこのままで……」
春馬が小声で言うと、未奈が口を閉ざす。
クジトラは、上の空という顔をしている虹子の前にいく。
「虹子、たのみがあるんだ」
「なに?」
「康明とペアになってくれないか?」
クジトラの提案に、虹子は興味なさそうな顔で言う。
「それって、有紀を脱落させるということ?」
虹子に言われて、クジトラが苦笑いする。
「そういうことだ」
「ぼく、有紀にはかなりお世話になったんだけど?」
「わかっている。でも、閉じこめられている虹子に、食料を運ぶように言ったのは、おれなんだ」
「へぇ、そうなの。……ぼくは、だれとペアになってもいいよ」
虹子が言うと、クジトラはうなずく。
「おれがボスになったら、虹子を自由にしてやる。……だから、康明とペアになってくれ」
「でも、ボスにならないかもしれないだろう?」
虹子が聞いた。
「……それなら、虹子がまずい状況になったとき、おれが助けてやる。おれに貸しを作れ」
「貸しねぇ」
虹子は、つまらなそうに言った。
「そこまでして、わたしを脱落させたいの?」
有紀が、困惑の表情で聞いた。
「おまえにうらみがあるわけじゃねぇ。でも、おまえのあの願いは、いただけねぇ」
クジトラが、首を横にふりながら言った。
「……やっぱり、もどるのがこわいのね」
有紀は、さびしそうに言った。
「おれだけじゃねぇ。エマも康明も、元の生活にはもどりたくないんだ」
「クジトラさまの言う通りよ。わたしには、ここしかないの!」
エマが言うと、康明も下をむきながら言う。
「ぼくも、もどりたくない。有紀だって、本当はここがいいだろう?」
「……最初はそうだった。でも、だんだんおかしいと思いはじめた。そして、わかったの。わたしたちは、ここを出ないとならないと」
有紀が、きっぱり言った。
「そうか。……あとは、虹子がだれを選ぶかだな。康明と有紀のどっちにする?」
クジトラが聞いた。
「ぼくは、どっちでもいいけど……」
虹子がそっけなく言った。
「有紀を選んでも、いいことはないぞ。有紀は必ず脱落する。いや、おれが脱落させる」
クジトラが言うと、虹子が少し考える。
「わかった。それなら、康明にするよ」
虹子が、笑顔で言った。
「わたしは、ここで脱落なの……」
有紀がくやしそうに言った。
「いや、そうじゃない」
春馬が言うと、クジトラが舌打ちする。
「どういうこと? わたしが脱落にならない方法があるの?」
有紀が、春馬に聞いた。
「うん、そうだ。有紀が脱落しない方法がある。みんな、惑わされているんだよ」
「やめろ」
クジトラが、春馬にむかって言った。
「もしかして、クジトラも気がついていたのか?」
春馬が聞くと、クジトラが険しい口調で話をする。
「いいか、よく考えるんだ。おれが、ボスをやっていた間、Ⅰ区のやつらは平和に暮らしていた。だから、おれがボスになれば、このままここでいられるんだ」
「砂金採取と寝るだけの生活が、平和な暮らしと言えるの?」
未奈が疑問を口にする。
「春馬と未奈は1週間しかいないから、ここの本当の良さがわからないんだ」
クジトラが言った。
壁に設置されたカメラが、春馬たちのやり取りを撮っている。
その映像は、礼拝堂の巨大モニターに映っていて、ゲームに参加しなかった25人が、ここでの戦いを静かに見ている。
「わたしは1年以上もここにいる。そして、出たいと思ったの」
有紀が言うと、クジトラは首を横にふる。
「それは、ただの気の迷いだ。一時のホームシックだ。ここを出たら、絶対に後悔する」
クジトラの言葉に、有紀は言いかえす。
「わたしは後悔しない。前に進むために、ここを出ると決めたの」
「有紀、よく考えろ。まだ、ここにいたほうが安全だ」
「クジトラは、自分がもどれないから、みんなを言いくるめて、ここに閉じこめているのよ」
有紀の言葉に、クジトラははっとなる。
「おまえ、おれのことを知っていたのか?」
「わたしの名字もめずらしいけど、鯨岡もめずらしい名字よね」
有紀の話を聞いて、春馬はクジトラが何者かわかる。
「クジトラは、もしかして、違法建築のビルや住宅を建てた鯨岡建設の……」
春馬が言うと、クジトラが舌打ちする。
「あぁ、そうだよ。おれの親父は、日本中を騒がせた鯨岡建設の社長だ」
「それで、ここにいたいのか……」
春馬は合点がいく。
「どういうことなの?」と未奈が聞いた。
「鯨岡建設は法律違反のビルやマンションを建てて、社長は逮捕されたんだけど、そのマンションを購入した人たちは、高額で購入したマンションに住めなくなったんだ」
「……そして、彼らの怒りは、逮捕された親父から、その家族にむいたんだ。嫌がらせは日常茶飯事で、母さんは行方不明になり、残されたおれは、親父をうらんでいる人に殺されかけた」
クジトラは他人事のように、淡々と話した。
「……ごめんなさい。そこまでは、知らなかったわ」
有紀が、つらそうに言った。
「今、日本にもどされたら、おれはまた命を狙われる」
クジトラはそう言ったあと、気持ちを切りかえたように大きな声で言う。
「その話はもういい! 春馬、ここから出るからくりを話してやれ」
春馬は、ふっと息をはいて話をする。
「うん、そうだね。そろそろ次の部屋にいこう。クジトラが言うように、2本の薪で2人がここから出る。それを4人でやると、3人が残ることになる」
「それだと、やっぱり1人が出られないよ」
康明が言った。
「そんなことはない。例えば、ぼくと未奈と有紀が残ったとする。ぼくが前に立って、未奈は右うしろ、有紀が左うしろに立つんだ。そして、ぼくが右手で薪を持って、ななめうしろの未奈がその薪を右手で持つ。未奈は左手でもう1本の薪を持って、有紀はその薪を右手で持つ。有紀は左手でもう1本の薪を持って、その薪を前にいるぼくが左手で持つ。これで、3人とも両手で薪を持つことになる」
春馬の説明に、康明が驚く。
「あっ、本当だ……」
「難しいからくりじゃない。冷静になれば、すぐに気がつく。ただ、ぺ・天使はそれを気づかせないように、条件を小出しにしたんだ」
「全員が、次の部屋にいけるのよ」
未奈が、明るい声で言った。
「いや、まだそうと決まったわけじゃない。安心できないのが、1人いるだろう」
クジトラはそう言うと、虹子を見る。
「ぼくのことかな?」
虹子が、とぼけたように言った。
「第1の部屋のように、突然、次にいかないと言いだされたら困るからな」
クジトラの不安は、春馬も同じだった。
虹子は、なにを考えているか、わからない。
それに、第1の部屋で我雄の様子がおかしくなる前、虹子がなにかをしたようだった。
「それで、ぼくはどうすればいいの?」
虹子が、不機嫌そうに言った。
「……わかった。それなら、ぼくが虹子といっしょにここを出る。それで、どうかな?」
春馬が言った。
「ぼくは、だれとでもいいよ」
虹子がそう言ったので、春馬とのペアで部屋を出ることになった。
「まだ安心できないな」
クジトラは、まだ虹子を疑っている。
「どうすればいいんだ?」
春馬が聞くと、クジトラは「春馬と虹子のペアが、最初に部屋を出てくれ」と言った。
「電気ショックがこわいから、実験台として春馬と虹子を、最初にいかせるんでしょう」
未奈が、冷ややかに言った。
「虹子が、油断できないからだよ」
クジトラが、うそぶく。
「条件は満たしてるから、電気ショックはこないよ」
春馬はそう言うと、虹子とペアになる。
2人は縦に並んで、前の春馬が両手に1本ずつ薪を持ち、うしろの虹子がその薪を持つ。
山小屋の外観は壁に映されたものだが、開いたドアは実際のもので、ドアのむこうには、第3の部屋がある。
春馬は少し緊張しながら、ドアを通る。
電気ショックはない。
そして、虹子も無事に、ドアを通った。
第3の部屋は、山小屋の中のような作りになっている。
開いたドアから、第2の部屋に残る5人が見える。
春馬は、胸騒ぎがする。
なんだろう、ここではだれも脱落しないはずだけど……。
ドアを見ていると、クジトラが1人で両手に薪を持って、第3の部屋に入ってくる。
「えっ、どういうことだ!?」
春馬が、大きな声を出した。