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ものがたり

『絶体絶命ゲーム』〈奈落編〉14・15巻 2冊無料ためし読み 第2回

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11    虹子の気まぐれ

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 我雄のこぶしがふりおろされる。

 瞬間、春馬は床を転がって、我雄のこぶしをよけた。

「おれのパンチをよけるなんて、なかなかの運動神経だな。でも、いつまで逃げられるかな」

 我雄は、春馬にむかっていく。

「やめろ!」

 ドアの前のクジトラが、大声を出して我雄をとめた。

 我雄が立ちどまって、クジトラを見る。

「そいつが必要になった」

 クジトラの言葉に、春馬はほっとする。

「……助かった」

「クジトラさま、どういうことです?」

 我雄が聞いた。

「そいつをつれて、こっちにこい」

 クジトラが命令する。

 我雄はふてくされた顔で、春馬をつれてドアの前にいく。

 2人を追うように、未奈もやってくる。

 ドアの前に、8人が集まる。

「どうしたの?」

 未奈が聞くと、有紀が答える。

「ドアはロックされていて、開かないわ。開ける方法は、これなんだけど……」

 有紀は、ドアの横の壁を指さす。

 壁には、ディスプレイが設置されていて、なにか表示されている。


ドアを開ける方法は、

参加者全員の、あ、い、う、え、お

 その下に、1辺2センチほどの正方形が8つ表示されている。

 春馬はそれを読んで、すぐにぴんとくる。

「なるほど、そういうことか」

「……あぁ、そういうことね」

 未奈も、すぐに答えがわかる。

「どういうこと?」

 有紀が、きょとんとした顔で聞いた。

「これは……」

 未奈が解説しようとすると、クジトラがさえぎる。

「答えは、もうわかってる。でも、あれがないんだ。おまえたちは、どう思う?」

 春馬は、クジトラと我雄に目をむける。

「ぼくを襲うんじゃなかったのかい?」

「今は協力してもらう。それに、こっちには我雄がいる。おまえたちは、いつでも倒せる」

 クジトラの言葉に、春馬は頭をかく。

 暴力ありの状況で、我雄の存在は脅威だ。

 殴り倒されて、この部屋に置き去りにされるだけで、脱落になる。

「どうだ、春馬、あれが必要だろう」

 クジトラが、あらためて聞いた。

「……そうだね。たしかに正式には、あれが必要だけど……」

 春馬がそう言って、部屋を見まわす。

「……さっきからなにを言っているの? わたしには、さっぱりわからないんだけど」

 有紀に質問されて、未奈が説明する。

「ディスプレイに表示されていた『あ、い、う、え、お』は、母音よ」

 それを聞いて、康明が気づく。

「そうか、8人の拇印が必要ということか」

「……ぼいん?」

 有紀は、まだわからないようだ。

「日本語には、母音と子音があるでしょう。『あ、い、う、え、お』は母音よ。それで、親指に朱肉をつけて、指定された場所に押すことも拇印というでしょう」

 未奈の説明を聞いて、有紀は頭の中で整理しながら言う。

「『ドアを開ける方法は、参加者全員の、あ、い、う、え、お』。つまり、参加者全員の拇印がいるということ?」

「そうよ。そして、さっきから『ない』って言っていた『あれ』っていうのは──」

 未奈がそう言ったとき、春馬がなにかを見つけて壁の前にいく。

 壁の水玉模様の中に、一カ所だけ盛り上がっている赤い円がある。

「これが、朱肉だ」

 春馬が、赤い円に親指を押しつけてもどってきて、その指をディスプレイの正方形の1つに押しつけた。

 指紋のついた正方形部分が、オレンジ色に変わる。

「正解のようだ」

 春馬が言うと、クジトラはご機嫌で言う。

「助かったよ。……我雄にKOさせなくてよかった」

 クジトラも、赤い円の朱肉に親指をつけて、ディスプレイの正方形に押しつける。

 未奈、有紀、我雄、エマ、康明が同じように親指を朱肉につけて、ディスプレイの正方形に押しつけた。

 8人中7人が拇印を押して、あとは虹子だけだ。

 春馬は、壁のタイマーに目をやる。

『……02:00……01:59……01:58……01:57……01:56……01:55……』

「残り1分55秒か、余裕で間に合いそうだな」

 春馬がそう言って、虹子に目をやる。

「……ぼく、指が汚れるのは、いやだな」

 虹子が、めんどうくさそうに言った。

 7人は、虹子の言葉に耳を疑う。

「虹子の拇印がないと、ドアは開かないんだよ」

 春馬が言うと、虹子は不機嫌そうな顔で言う。

「いやなものは、いやなんだ」

「ちょっと! 指が汚れても、あとで拭けばいいでしょう」

 未奈が言うが、虹子は大きく首を横にふる。

「いやなの。……あぁ、なんか、やる気なくなった。ぺ・天使、ぼく、Ⅰ区にもどる」

「それは、できんばい」

 ぺ・天使が即答した。

「虹子、おまえ、ふざけてるのか!」

 我雄が怒鳴った。

「うるさいな。大きな声を出さないでよ!」

 虹子は、けろりとしている。

「ぺ・天使、こういうときはどうなるの? もう1回、教えて」

 未奈が聞いた。

「5分以内に、この部屋から出られないときは、全員ここに閉じこめられたまま、人生を終えてもらうばい。その前に、うちだけは、出してもらうばってんね。……ちなみに、餓死は相当に苦しいらしいばい」

 ぺ・天使の話を聞いて、我雄の形相が一変する。

「力ずくで押させてやる!」

 我雄が、虹子をつかまえようとする。

「いやだよ!」

 虹子はするりと我雄から逃げて、彼の足を蹴とばして駆けていく。

「あっ、こいつ!」

 我雄が、虹子を追いかける。

「待って、我雄も虹子も冷静になって!」

 春馬が、2人を追いかけていく。

 ほかの者は、ぼうぜんとしている。

 走りながら、春馬はちらりと、壁のタイマーを見る。

『……00:45……00:44……00:43……00:42……』

「なんとかしないと……」

 春馬はつぶやきながら、虹子と我雄を追う。

 虹子は、部屋の真ん中あたりで立ちどまった。

 追いかけてきた我雄が、虹子に襲いかかろうとする。

「力ずくはよくない。2人とも、話せばわかる!」

 春馬が声をかけた。

 すると、虹子に襲いかかろうとしていた我雄が、急に動きをとめた。

 そこに、春馬が追いつく。

「虹子、このままだと全員が……」

 春馬が言うと、虹子が笑顔でさえぎる。

「わかった。拇印を押すよ」

 虹子はそう言うと、あっさりと赤い円のほうにいく。

「?……まぁ、わかってくれたならいいけど」

 春馬は、首をかしげる。

「あれ?」

 なぜか、我雄がその場から動かない。

「ぼくたちも、いこう」

 春馬が声をかけると、我雄は床に座りこんだ。

「我雄、どうしたんだ?」

「は、は、は、は、は……」

 我雄が、不気味に笑っている。

「なにがあったんだ?」

 春馬がドアの前を見ると、虹子がディスプレイに親指を押しつけている。

 ドアが開いた。

「これで、この部屋を出られるよ」

 春馬がさらに声をかけるが、我雄は床に座りこんだままだ。

 虹子、クジトラ、エマ、有紀、康明が、部屋を出ていく。

「春馬、どうしたの? 早く出ないと!」

 未奈が呼んでいる。

 春馬が、壁のタイマーを見る。

『……00:15……00:14……00:13……00:12……』

「我雄、立って!」

 春馬がなにを言っても、我雄は動かない。

「春馬、早くして!」

 未奈が、叫んでいる。

『……00:11……00:10……00:09……』

「我雄、どうしたんだ!」

 春馬が、我雄の肩をつかんでゆする。

 すると、我雄はばたっと倒れてしまう。

「春馬!」と未奈が叫ぶ。

「どうなっているんだ!?」

 春馬が、タイマーに目をやる。

『……00:08……00:07……00:06……』

「あぁ、もう限界だ!」

 春馬は、我雄をその場に残して、ドアのほうに駆けだす。

「時間がないわ。早くして!」

 未奈がじりじりした気持ちで、春馬がくるのを待つ。

『……00:05……00:04……00:03……00:02……』

 春馬がやってきて、未奈と2人で第1の部屋を出た。

 タイマーが『……00:01……00:00』になって、ドアが閉まる。

「第1の部屋の通過者は、7人ばい」

 部屋に残っていたぺ・天使が言った。


 そのころ、Ⅰ区の礼拝堂に集まった者たちは、巨大モニターに映ったゲーム参加者の行動を見ていた。


第3回へ続く(3月26日公開予定)

書籍情報


作: 藤 ダリオ 絵: さいね

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322555

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作: 藤 ダリオ カバー絵: さいね 挿絵: チヨ丸

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322906

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〈奈落編〉の完結となる最新16巻は、4月9日(水)発売予定!


作: 藤 ダリオ カバー絵: さいね 挿絵: チヨ丸

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新書判
ISBN
9784046323347

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