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ものがたり

『絶体絶命ゲーム』〈奈落編〉14・15巻 2冊無料ためし読み 第2回

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10    有紀の願いごと

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 第1の部屋の中に、明かりが灯った。

 教室ほどの広さの部屋で、白い壁に赤、青、緑、黄など色とりどりの水玉模様が描かれている。

 壁には数台の監視カメラがあり、参加者を撮影している。

 春馬たちが立ちつくしていると、ぺ・天使が部屋の中央にやってくる。

「今回の『絶体絶命ゲーム』の参加者は、武藤春馬、滝沢未奈、土黒虹子、宝来有紀、鯨岡虎彦、入来我雄、冨永エマ、平野康明の8人やな」

「見れば、わかるだろう。それよりも、早くゲームをはじめろよ!」

 クジトラが、横暴な態度で言った。

「さすが、ゲーム経験者は余裕やなあ」

 ぺ・天使が、クジトラにむかっていやみっぽく言った。

「うるせぇな、早くゲームをはじめろと言ってるんだ」

「まぁ、経験者いうても、前回は裏口の扉が開いたっちゃ、みんながこわがって入ってこんやったんね。唯一、入ってきたクジトラが、なにもせんで優勝やったんよね」

「優勝は優勝だ。文句はないだろう。それに、扉を開ける勝負では、問題に正解した」

 クジトラの話に、未奈が質問する。

「どんな問題だったの?」

「ようある、『あれ何時?クイズ』ばい」

「それって、最初に近くにあった適当な時計を指さして、『あれ、2時』と言って、そのあと、適当な場所を指さして『あれは、3時』とか、いくつか例をあげたあと、ほかの場所を指さして『あそこは、何時?』と質問する問題かな?」

 未奈が聞くと、ぺ・天使が「そうばい」と答えた。

「簡単な問題じゃない。最初に時計を指さすことで時間を聞いているように思わせる。でも、正解は『あれ』は2文字なので、2字。『あれは』は3文字なので、3字。答えは、文字数なのよね。だから、『あそこは』は、4文字なので、『4時』になるの」

「そうだよ。ただし、ぺ・天使が指さしたのは、適当な場所じゃねぇ。おれのまわりにばらまかれた、猛毒を持った数十匹の蛇だ」

「うわぁ……」

 未奈はその様子を想像して、ぶるっと体を震わせた。

 簡単な問題でも、そのシチュエーションによって答えるのが困難なことがある。

「昔ん話は、それくらいでよか。……今回の『絶体絶命ゲーム』をはじめる前に、みんなの願いごとを聞かせてもらうばい。最初は春馬ばい」

 ぺ・天使に指名されて、春馬が答える。

「ぼくの願いは、親友の上山秀介に会うことだ」

「そげんこと……。まぁよかばい。次は、未奈ばい」

 ぺ・天使に指名されて、未奈が答える。

「あたしが優勝したら、春馬を秀介に会わせてあげて」

「それって、春馬の願いごとと同じやないか。……まぁ、よかばい。次は、クジトラばい」

「おれの願いは、Ⅰ区のボスになることだ」

「前回と同じちゅうことね」

 ぺ・天使が言った。

「クジトラは、奈落にくる前の生活にもどりたくないのか?」

 春馬が聞くと、クジトラはなにかを思いだしたのか、顔をゆがめる。

「……あそこに、おれが休まる場所はねぇ。……おれには、ここしかないんだよ」

 クジトラが、思いつめたように言った。

「むだ話はやめんしゃい。……それじゃ、次は我雄ばい」

 ぺ・天使が話を進める。

「おれは優勝しねぇ。クジトラの兄貴を優勝させるために、ここにきたんだ」

 我雄の願いを聞いて、ぺ・天使があきれる。

「あんたには、欲がなかと?」

「あるよ。金持ちになって、好き放題してぇ」

「そげな願いでも、優勝すればかなえられるばい」

 ぺ・天使が言うと、我雄が鼻で笑う。

「……でもよ。この世界、金じゃないだろう。働くことに意味があるんだ。それに、おれみたいなバカが、金を持ってもろくなことにならねぇ。クジトラさまの下で働くのが賢明だ」

「そこまで考えられるなら、言うほどバカやなかね。まぁ、いいわ。次は、エマばい」

 ぺ・天使に指名されて、エマが答える。

「わたしの願いは、クジトラさまを『奈落』Ⅰ区のボスにすることよ」

「なんや、そん願いは……。まぁ、よか、次は有紀ばい」

 ぺ・天使に指名されて、有紀が言う。

「わたしの願いは……」

 有紀はそこまで言って、下をむいた。

「どげんしたと?」

「Ⅰ区にいる人たちを、ここにくる前にいた場所にもどすことよ」

「はぁ!? おまえ、勝手なことを言うな!」

 我雄が声を荒らげる。

「わたしたちは、希望してここにきたわけじゃない。みんな、強引に連れてこられた。だから、元にもどしてもらう。それだけよ」

 有紀が、ひるまずに言った。

「おれは……、元の生活だと生きていけねぇ。ここがおれの楽園なんだ」

 我雄が言うと、エマがつづく。

「わたしも、どこにも居場所がなくて、夜の街をさまよっていた。数えきれないくらい危険な目にあったわ。その生活とくらべると、ここは安全よ。有紀だって、似たようなものでしょう?」

 エマに言われて、有紀は鼻で笑う。

「わたしは……、もっとひどいわ。でも、ずっと、ここにはいられない。みんなも、わかってるでしょう」

「──宝来有紀か。めずらしい名字だから、目立つな」

 クジトラが意味深なことを言った。

 有紀は、クジトラをにらみつける。

「……はいはい、そこまでばい。有紀が優勝したら、その願いをかなえちゃるわ」

 ぺ・天使が言うと、我雄とエマが不満そうな顔をする。

「心配するな。優勝は、このおれさまだ」

 クジトラが言うと、我雄とエマは安堵の表情になる。

「次は、虹子ばい」とぺ・天使。

「ぼくは、退屈だからゲームに参加しただけなんだ。だから、願いごとはないけど……」

 虹子が、しどろもどろに言った。

「なんでも、よかとばい」

「……それじゃ、新しいスニーカーをもらおうかな」

 虹子の答えに、ほかの者は、ぽかんとなる。

「まぁ、よかばい。最後は、康明ばい」

 ぺ・天使に指名されて、康明はきまり悪そうに言う。

「ぼくは、まだ決めてないんだけど……」

「よか。願いごとは、優勝したあとに教えてくれたらよかばい。それまで、考えときんしゃい」

 ぺ・天使が言うと、康明は、ほっとした顔をする。

「それじゃ、ゲームの説明をするばい。みんなには、レースをしてもらうばい。この部屋がスタート地点で、いくつかの部屋を進んだ先が、『ゴール』ばい」

「ゴールは、Ⅱ区の手前なのか?」

 春馬が質問した。

「……どうやったかな? ……なんてね。そうばい、Ⅱ区の手前ばい。それから、このゲームには、禁止事項はなかばい」

「それは、暴力もありということか?」

 クジトラが確認する。

「そうばい」

 ぺ・天使が言うと、クジトラがにやりと笑う。

「それは、いいね。楽しいゲームになりそうだ」

「不公平よ。それって、力が弱いものが不利じゃない!」

 未奈が、不満を口にした。

「こん世界に、平等なんてなかとよ。それくらい、ここにいる者なら知っとるやろう」

 ぺ・天使が冷たく言った。

 未奈は、言いかえせない。

「それと、7人が脱落して、参加者が1人になったときは、残った者が優勝ばい」

「それはいい。クジトラさま、おれがこいつらを殴り倒しますよ」

 我雄が、腕を振りまわしながら言った。

「あせるなよ。まだ、ゲームははじまってもいないんだ」

 クジトラが冷静に言った。

「すいません」

 我雄があやまる。

「それじゃ、準備はよかね?」

 ぺ・天使が言うと、8人は緊張する。

「『絶体絶命ゲーム』のスタ──────トばい!」

 天井に設置されたスピーカーから、ピ──と音が鳴る。

「この部屋の制限時間は5分ばい。5分以内にこの部屋を出ないと、脱落ばい」

 ぺ・天使が言うと、壁に『05:00』と表示された大きなタイマーがあらわれる。

 春馬たちは、あたりを見まわす。

 みんなが入ってきた扉の、むかい側に白いドアがある。

 春馬と未奈がドアにむかおうとすると、クジトラが我雄に指示する。

「その2人をいかせるな!」

 それを聞いて、我雄が、春馬と未奈の前に立ちふさがる。

「おまえたちは、いかせねぇ!」

「1人で2人は、とめられないだろう」

 そう言って、春馬は右に動く。

 未奈は、それを見て左に動く。

 我雄は横にすばやく動いて、未奈を突き飛ばす。

「キャッ!」

 未奈が転ぶ。

 我雄はすぐに体を反転させて、春馬にむかっていく。

「なんだって!」

 一瞬、反応が遅れた春馬に、我雄は体当たりする。

「痛っ!」

 春馬がふっ飛ばされる。

 我雄は力が強いだけではなく、動きもすばやい。

 倒れた春馬に、我雄が襲いかかる。

「これで、永遠に眠らせてやる!」

 春馬にむかって、我雄がこぶしをふりあげる。


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