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ものがたり

『絶体絶命ゲーム』〈奈落編〉14・15巻 2冊無料ためし読み 第2回

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9    絶体絶命ゲームに、参加しますか?

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 春馬は、オレンジジュースの入った大きなコップを手にすると、ごくごくと飲みはじめた。

 勝敗は、この1杯にかかっている。

 ぺ・天使は、小さなコップに入った青々汁をごくりと飲む。

 春馬は、1杯目のオレンジジュースを飲みながら、ぺ・天使をちらりと見た。

 未奈と勝負したときより、速いペースで青々汁を飲んでいるようだ。

 ぺ・天使は、2杯目の青々汁をごくりと飲んだ。

 春馬は、ようやく1杯目のオレンジジュースを飲みおわった。

 ──これで、ぎりぎりだけど、勝てる!

 春馬は、飲み終わったコップを逆さまに持ちなおす。

 ぺ・天使が、3杯目の青々汁のコップに手をのばすより先に、

「ぼくの勝ちだ!」

 春馬は、逆さまにした大きなコップを、ぺ・天使の3杯目の青々汁の小さなコップの上に、ふたをするようにおいた。

「あっ!」

 ぺ・天使はそう言って、手をとめる。

 礼拝堂にいた全員が、なにが起きたのか、すぐにはわからなかった。

 春馬は、ゆっくりと2杯目のオレンジジュースを飲みはじめる。

 ぺ・天使は、ただ立ちつくすだけだ。

「あぁ、そうか!」

 未奈が、ようやく気づいた。

「なるほど……。春馬のやつ、意外と悪知恵が働くようだな」

 クジトラが、くやしそうに言った。

「おい、ぺ・天使。どうして、最後の青々汁を飲まないんだよ!」

 我雄が、大声で言った。

「……飲まないんじゃない。飲めないんです」

 康明が横から言うと、「どういうことだよ?」と我雄が聞いた。

「このゲームには、対戦相手のコップにふれると反則負けになるというルールがあるのよ」

 横から、有紀が言った。

 青々汁の入った小さなコップに、ふたをするように、大きなコップが逆さまにしておかれている。

 ぺ・天使が最後の青々汁を飲むには、春馬のおいた大きなコップをとらなければならない。

 しかし、ぺ・天使がそのコップにふれると反則負けになる。

「そ、そんなの卑怯だろう!」

 そう言った我雄を、未奈がにらみつけて言う。

「だから、静かにしてって、何回言わせるのよ!」

 我雄は口をとがらせて、大人しくなる。

 2杯目のオレンジジュースを飲みほした春馬は、3杯目のオレンジジュースを取って飲みはじめる。

 ぺ・天使は、なにもできずにいる。

「ぼくの直感は正しかったね。春馬は優秀だ」

 虹子がつぶやいた。

 春馬が、3杯目のオレンジジュースを飲みほした。

「うちん負けばい」

 ぺ・天使が、素直に負けを認める。

「……勝った。春馬が、ぺ・天使に勝った」

 有紀が、目を丸くして言った。

「春馬、やったね!」

 未奈が、春馬に駆けよる。

「危ないところだったよ。ぼくが勝てたのは、虹子と未奈が、先に戦ってくれたからだ。虹子、未奈、ありがとう」

 春馬が、未奈と虹子に礼を言った。

「……ぼくは卑怯な手はきらいだ。でも、春馬はがんばったよ」

 虹子が、上から目線で言った。

「ぼくも、正々堂々と戦って勝ちたかったけど、今回ばかりは、卑怯な手を使わせてもらった」

 春馬が、はずかしそうに言った。

「ルール違反はしとらんけん、卑怯やなか。正真正銘、春馬の勝利ばい。クジトラがこの奈落のボスなのは、ここで終わりばい」

 ぺ・天使に言われるが、クジトラは平気な顔で言いかえす。

「わかってるよ。でもな、このあとの『絶体絶命ゲーム』でおれが勝ってもう一度ボスになればいいだけだ」

「それでは、裏口の扉を開けるばい」

 ぺ・天使が言うと、ガガガ……と音がして、裏口の大きな扉が開いていく。

 同時に、礼拝堂のドアがバタンと閉まり、外に出られなくなる。

 そして、天井から巨大なモニターが下りてくる。

「ゲームは公平ば期すため、クジトラが参加した前回とは内容を変えてあるばい」

「当然だな。どっちにしても、勝つのはおれだ」

 クジトラが、強気で言った。

「こんゲームで優勝した者は、願いを1つかなえてもらえるばい。ただし、これは『絶体絶命ゲーム』やけん、参加者に命の保証はなか。それでも、願いをかなえてもらいたか者は、扉から第1の部屋に入りんしゃい」

 ぺ・天使が言うと、礼拝堂に集まった者たちがざわめく。

 裏口の扉のむこうにある第1の部屋は、真っ暗で中が見えない。

「うわぁ、楽しそう。ぼくは参加だよ」

 虹子は、笑顔で第1の部屋に入っていく。

「春馬、いきましょう」

 未奈が声をかけるが、春馬は集まった者たちを見まわす。

 ほとんどの者は、その場に立っているだけだ。

「みんなは、いかないのかい?」

 春馬が聞くが、返答する者はいない。

「あいつらは、いかねぇよ。現状から逃げられるチャンスがあっても、なにもできずに震えているだけだ」

 クジトラはそう言うと、我雄たちに声をかける。

「おれはいくけど、おまえたちはどうする?」

「もちろん、おともしますよ」と我雄。

「わたしも、クジトラさまについていくわ」

 エマも、迷いなく言った。

「こわかったら、残ってもいいんだぞ。それでも、おまえたちの忠誠心は忘れねぇ」

 クジトラが言うが、我雄とエマの考えはかわらない。

「康明、おまえはどうする?」

 クジトラが聞くが、康明は答えずに、うなだれる。

「……それで、いい。おれが優勝したら、また雑用をやってくれ」

 クジトラはそう言うと、我雄とエマをつれて第1の部屋に入っていく。

 康明は、じっと考えている。

「いかないの?」

 未奈が聞くと、康明が心ぼそげな声で言う。

「この世界のままじゃ、ダメなのかな?」

「砂金の採取をして、食べて、寝るだけの生活よ」と未奈。

「それでも、毎日、いじめにあうよりはいいよ」

 康明の話を聞いて、有紀が言う。

「勝てば、願いをかなえてもらえるのよ。いじめられないところに、いかせてもらうこともできるわ」

「有紀はいくの?」

 康明の質問に、有紀はしっかりした声で答える。

「いくわ。わたしは、ここに逃げてきた。でも、もうやめようと思う。ゲームに勝って、願いをかなえてもらう」

「有紀の願いはなんなの?」

 康明が、興味津々の顔で聞いた。

 有紀は、康明の質問に答えずに、第1の部屋に入っていく。

「有紀……」

 康明は、さびしそうな表情をしている。

「彼女が気になるなら康明もいったら?」

 未奈に言われて、康明は真っ暗な部屋に目をむける。

「それは……」

 康明は、弱々しく首を横にふった。

「……ぼくには無理だ」

「未奈、ぼくたちも、もういこう」

 春馬が声をかけると、未奈がうなずく。

「どうしてなの? どうして、春馬たちはむこうへいくの?」

 康明が聞いた。

「親友が、この先にいるかもしれないんだ」

「……でも、親友がいなくても生きていけるよね」

「それは、生きていけるけど……」

「こんな、なにもないところまでやってきて、さらに危険なところにいこうとしている。それは、どうしてなの?」

 康明の質問に、春馬は少し考えてから答える。

「……ぼくたちは、前に進まないとならないんだよ」

「前に進んで、なにがあるの?」

「わからない。わからないから進むんだ。進んでみないと、わからないことがあるんだ」

 春馬の言葉に、康明はじっと考える。

「もういかないと」

 未奈に言われて、「そうだな」と春馬が答える。

 春馬と未奈は、第1の部屋に入っていく。

「進んでみないと、わからないこと……」

 康明がつぶやいた。

「それでは、そろそろ扉を閉めるばい」

 ぺ・天使が言うと、扉がガガガ……と音をたてて閉まりはじめる。

「……ぼ、ぼ、ぼくもいく」

 康明が閉まりかけた扉から、第1の部屋に入った。

 ぺ・天使は扉の前にいき、礼拝堂に残っている者を数える。

「ゲーム参加者が8人、残った者は25人やね」

 最後にぺ・天使が第1の部屋に入って、扉は閉まった。

 巨大モニターに、第1の部屋の様子が映る。

 残った者たちは、じっとそれを見ている。


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