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9月新刊『ウタヨミ!』先行ためし読み/第4回「現れた闇札」


「サキヨミ!」シリーズで大人気★七海まち・待望の新作『ウタヨミ! 呪いの百人一首を封印せよ!』は、闇の百人一首の封印をといちゃったヒメと、謎のクール男子・嵐(らん)がいどむ、和歌バトル×学園ストーリー! 9月9日(水)の発売にさきがけて、ドキドキの【ためし読み】を特別に先行公開するよ★



『ウタヨミ! 呪いの百人一首を封印せよ!』

(七海 まち・作 ぎんいろ・絵)

9月9日発売予定




4 現れた闇札(やみふだ)

 学校を出て、ひたすら道を走る。

 頭の中は、ずっと混乱しっぱなしだった。

「ハァ、ハァ……」

 息を切らして立ち止まると、わたしはポケットから数珠を取り出した。

 手首につけて、お母さんがやっていたみたいに、くるくるといじってみる。

 わたしの家は、「封じ手」の家で。この数珠といっしょに、力も引き継いできた……ってこと?

 でも、そんなの。

 とてもじゃないけど、信じられないよ。


 家に着いてもすぐ中に入る気にはなれなくて、わたしは裏庭に向かった。

(やっぱりここ、落ち着くなあ。昔より、だいぶ荒れてるけど)

 のびほうだいの草をながめていると、子どもの頃の記憶がよみがえってくる。

 お母さん、庭に生えている野草で、よく天ぷらを作ってくれたっけ。

 ヨモギ、タンポポ、イタドリ、ノビル。

 野草を摘むときに、お母さんがよく口ずさんでいた歌がある。

「きみがため はるののにいでてわかなつむ わがころもでにゆきはふりつつ」

 この歌を聞くと、お母さんの作ってくれた野草の天ぷらの味を思い出す。「ころも」が天ぷらのころもみたいでしょ?

 サクサクの熱いうちに食べると、口いっぱいに春の味が広がって、おいしかったな。

 庭に足をふみ入れると、奥のほうにしゃがんでいるお父さんの背中が見えた。

 そういえば。今朝お父さん、「今日は天ぷらにするか」って言ってたかも。

 お父さんは和食の料理人だから、野草の天ぷらはお手の物だ。

 よし。わたしも手伝おう!

「お父さ――」

 わたしが声をかけた、そのときだった。

 ヒュッと、とつぜん空気が冷たくなった。

 明るい春の日差しがスッと消え、あたりが薄暗くなる。

(何……?)

 びっくりして、数歩後ずさる。すると不思議なことに、あたたかい空気がもどってきた。

(庭だけ、寒い……? どうして?)

 ぼう然としていると、目の前にちらちらと白いものが降ってきた。

 ――雪? こんなぽかぽか陽気に?

 だけど、おかしいのはそれだけじゃなかった。

 雪が降っているのは、この庭だけだ。

 家、その前の道、おとなり、お向かい――どこを見ても、雪なんて降ってない。

 庭の四角い空間だけぽっかりと切り取られたみたいに、天気がそこだけ変わっている。

(何これ、どういうこと⁉)

「お父さん、見て! おかしいよ、ここだけ雪が降ってる!」

 庭に入って、さけぶ。けれど、お父さんはしゃがんだままふりかえらなかった。

「お父さん……?」

 おそるおそる近づいたわたしは、思わず足を止めた。

 お父さんは、素手でがりがりと土を掘っていた。

 真っ黒になった指の爪に、血がにじんでいる。

「お、お父さん……!」

 わたしの声が聞こえていないのか、お父さんは無表情のまま、ひたすらノビルのまわりの土を掘りつづけている。

 ぞっと、背筋がこおった。同時に、ぶるぶるっと体が震える。――寒い。

 いつの間にか、雪の勢いがさっきよりずっと強くなっているみたいだ。

 ――サワサワサワ……

 妙な音がして、びくっと身をすくめる。

 ――サワサワ……ザワザワザワ……

 気づくと、あたりの野草がヘビみたいにうねうねと動いていた。

 どんどん大きくなったかと思うと、庭全体の草が波のようにうねり出す。

「うわっ!」

 足元のノビルが体にからみつき、しりもちをついた。

 見上げるほどの大きさになった葉が、壁のようにわたしをおおう。とめどなく降ってくる雪で、体がどんどん冷たくなっていくのがわかった。

(寒い……動けない……!)

 指先がかじかんで、感覚がなくなっていく。

 これは何? 夢?

(夢でも、こんなのイヤ! お母さん、助けて……!)

 数珠をにぎりながら、心の中で祈る。

 そのとき、目の前が暗くなった。

 巨大化したヨモギのギザギザの葉っぱが、うねうねとわたしにせまってくる。

(やだっ!)

「きみがため、はるののに……っ!」

 震えるくちびるで、そうつぶやいたとき。

 ヨモギの動きが、ぴたっと止まった。

(……え? 何?)

 心なしか、こごえていた体も体温を取りもどしたような気がする。

 けれどすぐに、ヨモギはまたザワザワと動き出した。かと思うと、さっきよりも速い動きで、一気にわたしにおそいかかってきた!

「――ひゃあっ!」

 恐怖で、悲鳴を上げる。

 もうダメだ――と思った、そのとき。

 ヨモギがとつぜん、ビリビリッと電気にしびれるように硬直した。

 わたしの体にからみついていたノビルも、灰色になってくずれていく。

「おい、生きてるか!」

 野草が消えると、現れたのは東堂くんだった。

 制服姿のまま、先端に輪っかがついた不思議な棒を持っている。

「東堂くん? これは……夢?」

「現実だ! しっかりしろ!」

 東堂くんはわたしの前に立つと、おそってくる野草を棒で左右に切り払った。

(現実? うそ! でも、本当にこれが現実なら……)

 あわてて、お父さんのいたほうを見る。そこでは野草が固まって、大きな生き物みたいにうごめいていた。

「東堂くん、あそこにお父さんがいるの! 助けられる」

「――『闇札』の呪いにかかったな」

「え? 闇札って……」

 ほこらに封じられていたっていう、「百人一首の呪い」のこと?

「見ろ、あそこだ。普段は透明で見えないが、呪いを発動するとああして現れる」

 東堂くんが、ふっと空を見上げる。雪の中、四角い二つの何かが、きらりと光るのが見えた。

 もしかして、あれが「闇札」なの?

「このままだと、おまえの親父さんは『ウツロビト』になってしまう」

「ウツロ……? どういうこと?」

 説明しようと口を開いた東堂くんが、「いや」と一瞬目をそらす。

「とにかく、おまえは歌を読め。そうすれば、この呪いはおさまる」

「歌って……もしかして、百人一首のこと?

「そうだ。おまえがさっきつぶやいていた、あの歌だ。おれが合図をしたら、その歌を読むんだ」

 さっきの歌って、「きみがため はるののに~」の、野草の天ぷらの歌のことかな。

 そう思ったとき、ごうっと大きな風がわたしたちをおそった。

 吹雪だ。視界が真っ白になって、東堂くんの姿もノイズがかかったみたいに見えづらくなる。

「西園、大丈夫か!」

(だ、大丈夫じゃ……ない!)

 歯がガタガタと鳴る。全身がこおりついたみたいに、固まって動けない。

 吹雪のむこうで、ザワザワと音がする。東堂くんが野草を払う音も聞こえるけど、どこにいるのかわからない。

「おい……! 聞こえ……か!」

 東堂くん、と呼びたいのに、こごえてしまって声が出せない。

 冷たい雪が、肩や頭に降り積もっていく。

 だんだん、頭ももうろうとしてきた。まぶたが重くなり、視界も暗くなっていく。

 だめだ。もう、意識が――……

「――大丈夫か、二人とも!」

 遠くで、知らない男の子の声がした。

 次の瞬間、ふわっと寒さがゆるむ。

 目を開けると、七色に光るきらきらとしたオーロラのようなものが見えた。

 オーロラは、一枚のベールみたいに東堂くんとわたしをおおっている。そこに落ちた雪は、空中に溶けるように消えていった。

 やわらかい毛布をかけられたみたいに、体がじんわりとぬくもりを取りもどしていく。

「セイシロウ、フユキ、遅いぞ!」

 おそってくる野草を払いながら、東堂くんがさけぶ。

「待たせて悪かった! 僕はバリアを張るから、フユキは草のほうを頼む!」

「りょーかい!」

 今度は、女の子の声だ。

 と思うと、わたしと東堂くんの前に、二つの人影が飛び出した。背の高い男子と、ショートカットの女子だ。どっちも、まほろば中学の制服を着ている。

「安心して。僕が来たからには、これ以上手出しはさせないよ」

 ちらりとわたしを見て言うと、男子は手のひらを前に差し出した。

 すると、七色の砂が手のひらの上にあふれ、ぶわっと飛ぶように流れ出た。

 砂は庭全体をおおうように広がり、屋根のようになる。こごえそうな寒さもやわらいで、東堂くんやわたしの体に積もった雪も溶けはじめた。

「ヒャッハー! 初めての実戦! 血がさわぐぅ!」

 ショートカット女子が手首をこするようにすると、とつぜんヤリのようなものが現れた。くるっと回してそれをかまえると、ものすごい勢いでふりまわす。

「ひゃー! 楽しいー!」

 野草のかたまりが、次から次へと切り払われていく。ひとふりごとに、庭の空気がぶわっと動くのがわかった。

 東堂くんと同じ動きなのに、威力がまるでちがう。

 それにあの女の子、風みたいに動きが速い!

「今だ! 西園、いいか! おれが合図をしたら、さっきの歌を読め!」

「え? よ、読むって?」

「百人一首の読み手になったつもりで、ただその札を一気に最後まで読み上げればいい! いいか、つっかえるなよ!」

 言うなり東堂くんは、棒を手離した。棒はなぜかたおれることなく、地面から生えたように垂直に立っている。

 それからすぐに、ぱんっと両手を合わせた。ぴったり合わせるんじゃなくて、指をたがいちがいに組む形だ。


「六根清浄、四天結界、金剛不壊の印のもと、心の闇を浄め祓わん」


 東堂くんが不思議な言葉を唱えはじめると、まわりに金色の光のつぶが舞い上がる。


「悠久の思い、今ここに目覚めよ!」


 言い終えると、東堂くんは鋭い目をわたしに向けた。

(今のが合図? わけがわからないけど……とにかく、やるしかない!)

 お母さんが野草を摘む姿を思い出しながら、わたしはすうっと息を吸い込んだ。


★<ためしよみ・第5回>へ続く★

書籍情報


作: 七海 まち 絵: ぎんいろ

定価
880円(本体800円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046324221

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