2 ハロウィンはお祭りさわぎ?
全校集会の後。
先生が来るまでの短い時間は、絶好のおしゃべりタイムだ。
「あ〜、おかしかった。やっぱり、健太って最高!」
六年一組の窓ぎわの、後ろのほう。
顔をしかめた光一の前の席で、すみれは、何度目かの大笑いをした。
「校長先生の話の途中で寝ちゃってたけど、二人のハロウィン漫才で目が覚めちゃった。うちの全校集会って、おもしろすぎない? 台本なしのアドリブ漫才がいきなり見られるし!」
「だから、おれは漫才をしてるつもりはないからな!?」
光一のツッコミに、ななめ前の席で、健太が笑った。
「あはは。でも、みんな、大喜びだったね。全校集会からの帰りは、あっちもこっちも、ずっとハロウィンの話でもちきりでさ。ね、クリスちゃん」
「うん。仮装やお菓子をどうするかで盛りあがって……最高の宣伝になったんじゃないかな」
「うっ!」
たしかに、インパクトはあったよな。みんな、イメージもできただろうし……。
光一がため息をつくと、クリスが、ふふっと笑った。
「わたしも、ハロウィン・パーティーが楽しみ。でも、あらためて考えると、ハロウィンっていったいどんな記念日なのかな。仮装をしてお菓子をもらうっていうこと以外、知らなくて……」
「あ、あたしも知りたい! けっきょく、ハロウィンとハロウィーンとハローウィン、どれが正しいの? あっ、もしかして、ハ〜〜〜〜ロウィンが正しい言い方だったりする!?」
それはない。
光一は、心の中ですみれにツッコみながら、教室の壁にかかったカレンダーを見る。
十月三十一日に描かれているのは、小さなカボチャのマーク。
ハロウィンの定番の飾りだ。
「ハロウィンは、もともとは聖夜という意味なんだ。古代ケルト人――ヨーロッパ中・西部の先住民族が、秋の収穫を祝って悪霊を追いだす祭りをしたことから始まったと言われている」
「悪霊を追いだす……そのなごりで、オバケや怪物に変装する日になっているのね」
「そうだな。その風習がアメリカに移って、仮装してお菓子をもらう今の形になったみたいだ。それが伝わって定着したのが、今の日本のハロウィンだな」
「えええっ。光一、そうなの!? ぼく、ぜんぜん知らなかったよ〜」
健太が、感心したようにうなずく。
……ハロウィン・パーティーの企画者なのに、知らなかったのか?
まあ、ハロウィンの由来より、楽しいパーティーがメインだろうしな。
すみれが、口をとがらせる。
「それで、けっきょく、どの呼び方が正しいの? このままだと、三ツ谷小ハ〜〜〜〜ロウィン・パーティーにしちゃうけど?」
「その呼び方じゃ、みんなに伝わらないだろ!? あー、新聞やメディアでは〈ハロウィーン〉が使われてるけど、辞書や百科事典ではどの書き方もある。好きに呼んでいいんじゃないか?」
クリスが、うなずいた。
「そうなんだ……じゃあ、今回は一番短くて言いやすい〈ハロウィン〉がいいかもね」
「うん、そうしよ! それで、健太。具体的に何するの? 仮装して集まってバトルして、最後に勝った一人が全部のお菓子をひとりじめするとか?」
すみれ。それは、パーティーじゃなくて、バトルロイヤルじゃないか?
しかも、明らかにすみれに有利だし。
「ふっふっふー。そこは、もう考えてあるんだ。ずばり、これだよ!」
健太が、パーカーの下から、手のひらサイズの紙を引っぱりだす。
「健太、それが企画書なのか? さすがに小さすぎるような……」
って、どんどん大きくなってる!? さっきは折りたたまれて、小さくなってたのか!
すみれが、広げるのを手伝いながら叫ぶ。
「あー、あたしたちの机がうまっちゃった!? でも、見やすくていいかも」
「絵も描いてあるね。ええっと……」
「「「放課後の、オバケ・パーティー?」」」
光一たちが声をそろえると、健太はイラストだらけの大きな紙をはためかせた。
「そう! ユーレイに吸血鬼に、カボチャに――とにかく、みんなでいろんなオバケの仮装をして集まるんだ。児童会室からスタートして、学校中を行進しながら先生たちからお菓子をもらうんだよ。でも、それだけじゃなくてね」
健太が、企画書の下のほうにある絵を指さした。
二匹のコウモリが、アメとクッキーを交換している。
「最後は体育館に集まって、こんなふうに参加者同士でお菓子を交換するんだ。そうすれば、いろんな人の、いろんなお菓子をゲットできるでしょ?」
「なるほど。それで、〈パーティー〉なのか」
たしかに、行列で歩くだけよりも、いろんな人の仮装が見られていいな。
クリスも、うなずいた。
「これなら、話すのが苦手な人も参加しやすいね。自分の仮装も見てもらえるし……他の人と交流すればするほど、交換でいろんなお菓子をもらえるしね。きっかけ作りにはぴったりかも」
「あー、あたし、もう楽しみになってきた!」
すみれが、大きくこぶしをつきあげた。
「せっかくだし仮装も本気でやりたい! ね、クリス。いっしょに考えない? あたし、いろんな仮装をしてみたいな。海賊に黒猫に、ミイラに……もういっそ、ぜんぶ混ぜちゃう!?」
いや、それをぜんぶ混ぜた衣装にしたら、ただのキケン生物になるぞ!
「わたしも、がんばりたい! じつは教室に戻ってくる間に、みんなの仮装を考えたの。すみれは小悪魔なんてどう? 絶対にかわいいと思うの。健太は動物もいいよね。うさぎに猫に……でも、一番迷うのは徳川くんと風早くん! 狼男と吸血鬼、どちらをどちらにしたらいいかな!?」
「クリス、おれと和馬には、その選択肢しかないのか!?」
それに、やけにまぶしいような……まさか、気合いが入りすぎて美少女オーラがあふれてる!?
「クリスちゃん、ぼくの衣装は自分でバッチリ準備するから、光一と和馬くんを手伝ってあげて。ぼく、二人のカッコいい仮装が見たいよ〜」
「わかったわ。お仕事の合間をぬって、仲がいいスタイリストさんにも相談してみるね。お菓子はどうする? 買うのも、作るのもいいね」
「あたしは、とにかく、たくさん準備したーい! 好きなお菓子をみんなにすすめる絶好のチャンスだもん。それに……ふふん。今のあたしなら、どんなお菓子だって作れそう!」
すみれのお菓子は……おれは、できれば食べたくない!
「作ってるところを監視するか、おばさんに協力を頼まないと……」
だけど、それ以上の問題は、こっちだ。
光一は、健太のカラフルな企画書を見下ろす。
学校を使うから、まず先生の許可がいる。
それに、参加者の受付、仮装行列のルート決めに、お知らせに……。
「これ、思ったより大変なんじゃないか?」
「だーいじょうぶ!」
すみれが、光一の肩をドンとたたいた。
「お菓子や光一の衣装は、あたしたちで準備しとくから。二人は、企画をがんばってよ」
「みんなも、すっごく楽しみにしてるみたいだから」
クリスが目をやった教室のあちこちから、ハロウィンの話題がひっきりなしに聞こえてくる。
「衣装は何で作ればいいかな?」「おそろいの仮装にしない!?」
……ここまで期待されてるなら、やってみるしかないか。
「みんな、授業を始めるぞー」
担任の福永先生が教室に入ってくると、みんながバタバタと席につく。
健太が、ななめ前の席から後ろを振りむいて、光一に向かって手を挙げた。
「じゃあ、光一。いっしょにがんばろうね!」
「ああ」
先生に見つかる前に、手をのばして健太と軽くハイタッチする。
三ツ谷小学校、児童会による――。
「ハロウィン企画、準備開始だ!」
先行ためし読み〈第4回〉につづく!
書籍情報
- 【定価】
- 968円(本体880円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046323934
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