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【最新20巻発売記念・ためし読み】『世界一クラブ 動物園見学で大パニック!?』第5回

19 記念すべき結果発表!?


「今日は、待ちに待った結果発表~!」

 道路を元気よく歩きながら、すみれが大声を上げる。

 横に並んだ光一は、まとめたレポートが入ったバッグを持ちなおした。

 今日は、フォトコンテストの結果発表の日だ。

 おれたちは、早く結果を教えてもらうために、朝一番に学校に集まることにした。

 明日は、校外学習のレポートの提出日だから、最後の確認もできてちょうどいいし──。

「あ~、よかった! 今回はラストだし、これから動物園の改装で忙しくなるから、早めに優勝を決めてくれたんだよね。福永先生も、すぐはりだしてくれることになったし」

「そうだな。今回は、福永先生にはたくさん心配をかけたから、ちょっと申し訳ないけど」

 犯人を捕まえて写真を撮ったあと、出口まで急いで向かったおれたちは、担任の福永先生にしっかりと注意された。

 でも、最終的には、みんなケガがなくてよかったと、なんとか安心してもらえた。

 もちろん、おれたちが遅くなった本当の理由は、うまくごまかしたんだけど。

「それで、犯人はちゃんと捕まったんだよね? あたし、最近忙しくって、あんまりニュースを見てなかったからさ」

 すみれは、そもそもニュースを見ないだろ。

 光一はあきれながら、スマホで検索した記事を、すみれに見せた。

「もちろん、逮捕された。動物園で倒れていたところを、サイのツノといっしょに警察に発見されたらしい。家宅捜索で犯人のパソコンからサイのツノの値段を調べていた履歴や、カメラバッグやカメラを購入したレシートも出てきたけど、その前に罪を認めたみたいだな」

「ふうん。あんなにえらぶってたのに、意外と素直に捕まったんだ」

「ああ。やってきた警察に、『サイのツノを盗もうとしたら、動物が化けた少年と動物に襲われた』って自白したらしい。もう動物園はこりごりで、早く連れていってほしいと頼んだって」

「ふふん。まあ、あれくらい驚かせれば当然だよね。あたしの投げも、きれいに決まったし!」

 防犯カメラがないところを選んだおれにも、感謝しろよな?

「でも、これで、もう動物に関わろうとは思わないはずだ。あとは──」

「すみれ、光一。おはよ~!」

 健太が、一番に大きく手を振る。後ろにはクリスと和馬、そして春奈が立っていた。

「光一くん、おはよう。お姉ちゃん、また朝ごはんをごちそうになったの? 家でも、食パンを三枚も食べてたのに」

「あれは、朝のランニング分。それだけじゃ、給食の時間まで、おなかがもたないんだもん。久美さんも、いつでも来てねって言ってくれるし!」

「おれは、いいって言ってないからな?」

 って、すみれは、どれだけの朝食を食べてるんだ!?

「とにかく、行こう。先生が、コンテストの結果をはりだしてるはずだ」

 みんなで、昇降口へ向かう。くつをはきかえて職員室の前に行くと、福永先生がちょうど掲示板に紙をはっていた。

「みんな、おはよう。今日は早いな。ああ、コンテストの結果を見にきたのか?」

「はい。せっかくだから、みんなで見ようと思って」

「ふふふ、福永先生、今はってるそのプリントが、もしかして結果発表の!?」

「ああ、きれいにはるから、心の準備をして少し待っていてくれ」

 福永先生がプリントを掲示板にはっていく。大きな背中でプリントの中身は少しも見えない。

 クリスが、すみれの肩にそっと手を置いた。

「すみれ……だいじょうぶ? 緊張してない?」

「ありがと、クリス。だいじょうぶ」

 そう返事しながら、すみれが胸の前で手を組みあわせる。自信満々の言葉とは反対に、きゅっとくちびるをかんだ表情は、少し不安そうだ。

 さすがのすみれも、緊張してるのか。

 たしかに、がんばれば、がんばっただけ、結果がこわくなるときもあるよな。でも。

「……だいじょうぶだ」

 光一は、はられていくプリントを見ながら、静かに言った。

 すみれは、全力でがんばったから、どんな結果が出てもだいじょうぶだ。

 それに──。

「撮ったおれも──いい写真だと思ったから」

 ペラッ

「みんな、はりおわったぞ」

 福永先生が横に移動すると、はられたプリントがかすかに風に揺れる。

〈日野原動物園・フォトコンテスト〉

 大きなタイトルの下には、写真とくわしい解説が並んでいる。

 中身も気になるけど……今は、結果が見たい!

 プリントの中で、一番大きくのった写真を、みんなでのぞきこむ。

 ──縦長の写真だ。

 姉妹のパンダが、向かいあって、仲良く笹の葉をいっしょに食べている。その手前に──。

 すみれと春奈が、笑顔で立っている。

 笹の葉に見たてて持ったパンダのクッキーを、お互いに向けて、ぱくっと食べている。

 仲のいい姉妹の写真。

 仲のいいパンダと、よく似た姉妹の──楽しいひとときの写真だ。

 優勝「姉妹の思い出」 五井すみれ──

「……優勝だ!」

 すみれが、声を震わせながらつぶやく。

 大きなひとみいっぱいに写真を映すすみれに、健太がクラッカーを鳴らした。

 パパン! パン!

「すみれ、優勝おめでとう~! すごいよ、優勝するなんて!」

「ふふん、でしょ? でも、はずれ! みんな、応募者の名前をよく見て」

「ん?」

 どういうことだ? たしかに、五井すみれって名前が──。

「あっ、徳川くん。これ、見て!」

 発表の紙を指さしたクリスにつられて、光一は、もう一度、写真の下を見なおす。

 優勝、姉妹の思い出、五井すみれ──。

「と、ゆかいな仲間たち~!?」

「これ、ぼくたちのこと!?」

「オレは、五井のゆかいな仲間たちになった覚えはないが」

 健太と和馬の視線を受けて、すみれは優勝が発表されたとき以上にぐんと胸を張った。

「ふふん、びっくりした? けっきょく、コンテストにはグループ名で応募したの! 応募要項を確認したら、グループ可って書いてあったんだ」

「そうなんだ……でも、いいの? せっかくの優勝なのに」

「だって、けっきょく最後に撮ったのは光一でしょ? あれじゃ、あたしの名前で出せないし。なにより、あそこであの写真を撮れたのは……みんなの協力があったからだから」

 すみれが、弾けるような笑顔で言った。

「だから、みんなでフォトコンテスト優勝! これで、最高の動物園見学になったでしょ?」

 ……たしかに、他じゃ味わえない動物園見学になったな。

 光一は、みんなと顔を見あわせて笑う。

 福永先生も、うれしそうにうなずいた。

「みんな、優勝おめでとう。三ツ谷校区の掲示板にはりだされるのが、楽しみだな」

「よかったね、すみれ。いろんなところで、この写真が見られるんだ。みんなに自慢しなきゃ」

「ふふん。あたし、カメラの才能もすごすぎ? あっ! でも、この写真がはられるってことは、春奈の写真が、あちこちにはられるってことだから……春奈、だいじょうぶ?」

「……うん。少しはずかしいけど、いいよ。これは、お姉ちゃんががんばって撮った写真でしょ? 何より、お姉ちゃんとの新しい大切な思い出だから」

 春奈が、少し照れくさそうに笑った。

「お姉ちゃん、優勝おめでとう。そして……動物園では、わたしを助けに来てくれてありがとう。すごくかっこよかったよ」

「……えへへ。ありがと、春奈!」

 すみれが、春奈を笑顔で抱きしめる。

 春奈は、照れくさそうに、ほほ笑む。

 一方のすみれは、うれしい気持ちが咲いたみたいな、満面の笑みだ。

 顔は似てるけど、笑い方はちょっと違う──。

 でも、本当に二人ともうれしそうだな。

 健太も、ニコニコと笑っている。和馬は特に何も言わないけど……ちょっとうれしそうか?

 クリスが、そっと近づいてきて、やわらかな声でささやいた。

「これで、二人の問題も解決、かな?」

「……そうだな」

 すみれも、これで、少しは頼ってもらえるようになるんじゃないか?

 福永先生も、すみれと春奈に笑顔で拍手を送った。

「本当によかったな。これで、心置きなく、見学のレポートに打ちこめるだろう。みんな、準備は終わってるか? しめきりは、明日だぞ」

「はい、だいじょうぶです。もう担当する動物を決めて、今日、持ってくる予定にしていたので。みんな、準備できてるよな?」

 早く提出したいな。みんなもハシビロコウについての、あの分厚いレポートを読めば、おれには似てないってことがはっきりわかるはずだ。

 光一の言葉に、健太が元気にうなずいた。

「もちろん! 書きたいことがたくさんあって、大変だったけどね。家族にアドバイスをもらって超大作のフラミンゴレポートにしたんだ! 和馬くんは?」

「……最低限のことしか書いていないが、アイに関する必要な情報はすべて入っていると思う」

 それ、忍びの報告書みたいになってないか?

 そっけなく答えた和馬を見て、クリスがほほ笑んだ。

「ふふっ、風早くんらしいね。わたしも、ゾウについて調べておいたことと、実際に見て感じたことを合わせたら、思ったより長くなっちゃったかな。でも、楽しかった。春奈ちゃんは?」

「わたしも、パンダのいいレポートができたと思います。三日もかかっちゃいましたけど……そういえば、最近はお姉ちゃんも部屋にこもってがんばってたね。レポート、完成した?」

「え、レポート? あーうん、そうだね、ええっと……」

 ん?

 急に口ごもりはじめたすみれに、光一は首をかしげる。

 なんで、こんなに歯切れが悪いんだ?

 レポートが終わったかどうかなんて、イエスかノーしかないはず──。

 ……マズい。

 この反応は、今まで何度も見てきた。

 特に、夏休みや冬休みの終盤に!

「すみれ、もしかして!」

「ま……………………まだ、ぜんぜん書いてない」

「「「「「ええー!?」」」」」

 光一も、みんなも、福永先生まで声をそろえて叫ぶ。

 さすがの和馬も、驚いた顔で言った。

「五井、まさか一文字も書いてないのか!?」

「ええっと、その、あたしはフォトコンテストへの申し込み書類も準備したでしょ? 写真へ込めた気持ちについての説明文がすっごくむずかしくて、時間を使っちゃって──」

「すみれ、ちょっと待て。たしかに一生懸命に申し込み書を書いてたけど、提出は先週で終わってたよな? ここ数日、部屋にこもってたのは、なんだったんだ!?」

「それは! ……コンテストをがんばったご褒美に、大好きなマンガを一気読みしてて」

「お~姉~ちゃ~ん!」

 春奈が、半泣きで天井をあおぐ。

 すみれは、青い顔で光一の肩にバッと飛びついた。

「わ~、光一、助けて。このままじゃ、せっかく取りもどした頼れるお姉ちゃん像が~! それに、レポートが間に合わない! 今度、あたしのおやつと朝食を山分けしてあげるから~!」

「今まで、おれが山分けしてやった回数のほうが、だんぜん多くないか!?」

 だいたい、うちですみれが食べてる朝食は、もともとうちのだ!

 クリスが、青い顔で指を折った。

「ええっと、今日の休み時間、放課後……みんなで協力すれば、間に合うかな?」

「ぼく、もう動物の資料を持ってきてないよ! やっぱり、すみれのメモを中心にして……」

「だが……五井のメモを参考にできるのか? 動物園で見かけたときは、何が書いてあるのか解読できなかったが……」

 すみれのメモ!?

 光一は、すみれが床に落としたメモを拾って、パラパラとめくる。

 うわっ、急いで書いたからか、いつも以上に読みにくい!

 かろうじて読めるのは──。


・ゾウ、めっちゃ大き~~~~い! しかも生きててすごい! 何の技なら投げられるかな?

・光一の特製クッキー、おいしかった! あと三十枚(四十枚?)くらい食べられそう。

・サル山のサル、多すぎ。あたしの動体視力で数えたところだと、二十六匹いて、そのうち柔道に向いてそうなのが十匹!


 ぜんぜん、参考にならない!

「すみれ、本当に動物園でしっかり観察したのか? 細かな見た目や生態とか、そういうところをメモしないと使えないだろ!?」

「だって、どの動物も迫力があって、『すごい』しか書くことなくなっちゃってさ。あ~、どうしよ。今からやるなら一番近くで見た動物がいいよね? それならやっぱりトラ、もごおっ!」

「福永先生、おれたちはレポートの手伝い、じゃなくて、準備があるので!」

 光一は、すみれの口をあわててふさぐと、苦笑いをしながら後ずさる。

 ダメだ。

 トラとニアミスしたなんて、福永先生には絶対言えない。

 何より、もう時間をムダにできない!

 光一は、あわてて教室へ向かいはじめる。廊下を曲がったところで、やっとすみれの口から手をはなすと、すぐに文句が降りそそいだ。

「っぷは! ちょっと光一、このまま息ができないかと思ったんだけど! それに、せっかく間近で見たトラについて、福永先生に発表できるチャンスだったのに」

「間近でトラを見たなんて、どう言いわけするんだ!? それより行くぞ。一秒でも早く準備を進めないと!」

「お姉ちゃん……はあ。みんな、ごめんなさい。提出直前に、こんなことになるなんて」

「気にしないで、春奈ちゃん。ええっと、いつものことだし……でも、休み時間で間に合うかな。資料集めに、下書きに、修正に……」

「ととと、とにかく、みんなでがんばろう! 和馬くん、図書館で資料集めしよう。橋本先生が、いい本を紹介してくれるかも!」

「……五井は、まったく成長しないな」

 和馬が、渋い顔でため息をつく。

 ああもう!

 おれも、動物園で和馬がアイに協力してもらったみたいに。

「〈猫の手も借りたい〉!」


 けっきょく、ギリギリしめきりには間に合ったものの、直前まで準備で大あわて。

 一番多く手伝うことになったおれは、しばらく動物の夢ばかり見る羽目になったのだった。


作戦終了


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書籍情報


作: 大空 なつき 絵: 明菜

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322722

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