6 動物園へ、ようこそ!
朝日が、じりじりと照りつけている。今日は一日、暑くなりそうだ。
光一は、動物園前の広場で、ぐるりとあたりを見まわした。
二つの学年が集まっているから、すごい熱気だ。
いつもと違うメンバーでのおしゃべりに、五年生も六年生も夢中になっている。
みんな、楽しそうだな──おれには、大きな心配事があるけど。
それは、もちろん。
「「レッツゴー、動物園!」」
「わっ!」
背後で上がったすみれと健太の声に、びっくりする。
二人とも、ピカピカの笑みを浮かべて、今にも走りだしそうだ。
「今日はいよいよ動物園! あ~、楽しみでもう興奮してきた!」
「たくさん動物を見ようね! ゾウさんに、キリンさんに、レッサーパンダさんに!」
……二人とも、まだ入り口にも着いてないぞ?
はあ、本当になんとかなるのか?
いちおう、あのあと、健太とクリスと和馬にも、すみれのフォローを頼んだけど……。
「みなさん。今日は、よろしくお願いします」
すみれが一人、広場をうろうろしはじめると、春奈がこっそりとやってくる。
まだ校外学習は始まってもいないのに、もう心配そうな顔だ。
「はあ……お姉ちゃん、家でも、動物園のマップを見て、ずっとニヤニヤしてたんです。昨日も、楽しみで眠れないって騒いでて。今日もどうなっちゃうのか……」
「……とんでもない姉を持つと、下が苦労するからな」
和馬が、ぽつりとつぶやく。
それ、姉さんの美雪さんのことだよな? 言葉に重みがあるな。
和馬の横で、健太が、のんきに笑顔で言う。
「気にしないでよ、春奈ちゃん。ぼくたちがいれば、だいじょうぶ! 困ったことがあったら、何でも言ってね。クリスちゃんや和馬くんや、光一でも!」
「どれくらい力になれるかわからないけど、わたしも、できるかぎり協力するね」
「みなさん、ありがとうございます。助かります」
春奈が、健太やクリスと目を合わせて、にっこりと笑いあう。
動物の下調べや打ちあわせで、健太だけじゃなく、クリスともだいぶ打ちとけたみたいだな。
これなら、六人でも、うまくやれそうだ。
あとは──。
「あ~、楽しみ! やっぱり今日は、このまま動物園ランニング十周から始めちゃう!?」
やっぱり、わかってない!
今にも走りだしそうなすみれを、光一はじろりとにらんだ。
「すみれ。今日は、みんなで見てまわるんだからな。絶対に一人でつっ走るなよ」
「わかってるってば。今日の校外学習は安全に、確実に。目指せ、完ぺきな動物園見学!」
腕をつきあげたすみれを見て、春奈が、深くため息をついた。
「はあ。お姉ちゃん、今日は、無茶せず、ゆっくり回ろうね。前に家族で来たときも、お姉ちゃんが迷子になって大変だったでしょ?」
「そうだっけ? あたしは楽しかったことしか覚えてないなあ。みんなでいろんな動物を見て、おみやげ屋さんに行って、最後に、入り口の正門で写真を──」
「あっ、もしかして、あの門?」
クリスが、広場の先に見えてきた大きな門を指さす。
門の上には、少し色あせた動物にはさまれて、大きな文字が入っていた。
〈日野原動物園〉
──ここか。
正門は古くなっているけど、よく手入れされて、きれいに磨かれている。
すみれは正門に駆けよると、持ってきた自分のカメラを向けて、パチリと一枚写真を撮った。
「まずは一枚! これじゃあ、ふつうすぎてコンテストに出せないけど、記念に撮っておかないとね」
「みんな、一度、集まってくれ。注意事項を説明するぞー」
先生たちの声で、グループごとに一列に並ぶ。
前に出た福永先生が、みんなに聞こえるように声を張りあげた。
「今日は、一般の来園者の方もたくさん来ています。迷惑にならないように注意してください。それと、動物園にはいろんな動物がいます。フラッシュを使った写真撮影や大きな声で、動物を驚かさないように。また、勝手にエサをやったり近づいたりしないでください」
「はーい」
みんなが、声をそろえて返事すると、福永先生は力強くうなずいた。
「注意は、ここまでだ。みんな、見学を楽しんでください」
「もっちろん!」
すみれが、元気よく手をあげる。
よく見ると、すみれだけじゃない。健太もクリスも、キラキラと目を輝かせている。
正門を見つめる和馬の奥で、春奈もノートとペンを取りだし、記録を取る準備をしていた。
心配事はたくさんあるけど──まずは、とにかくみんなで楽しもう。
光一も、正門を見上げて笑うと、正門へと一歩をふみだしたのだった。