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9 久しぶりの再会
ガチャ
目の前で、動物医療センターの大きなドアが開く。
めずらしく先頭に立った和馬に続いて、光一も、ゆっくりと中に入った。
少し幅の広い廊下。青色の床はツルツルとしていて、まるで病院の通路みたいだ。
春奈が、感心して言った。
「ここは、また違った雰囲気だね。本で読んだことはあったけど、中に入るのは初めて」
「そうだな……」
おれも、初めて来た。
和馬の案内で、この動物医療センターまで来たけど、こんなにあっさり入れてもらえるなんて。
「和馬。なんで、アイがここにいるって知ってたんだ?」
「無人島での事件のあと、アイは保護センターに保護されただろう。そのときに……アイがオレになついていたこともあって、父さんを通じてセンターの人の連絡先を教えてもらっていた」
なるほど、風早警部を経由してたのか。
「この医療センターはこのあたりで一番大きな動物病院だ。アイと、アイの母親がくらしている保護センターは別の場所にあるが、健診は、すべてここで行われている」
「それで、センターの人が会えるように連絡してくれたってことか」
後ろからすみれが口をはさんだ。
「でも、医療センターに来るなんて、アイってどこか調子が悪いの? もしかして、何かよくないものを食べておなかを壊しちゃったとか……」
「いや、オレが聞いた話では、アイの体調に問題があるわけではないらしい。定期健診──体調を管理するために行う、定期的な健康診断だと聞いた」
「たしかに、動物の健康管理も、動物園の大切な仕事だからな」
動物園の中では目立たないけど、外せない施設だ。
「動物医療センターは、動物の検査や治療を行ってる。動物園の中につくることで、動物たちの病気を早く発見したり治療したりできるようにしてるんだ」
「ふうん。動物園って、意外といろんな仕事があるんだ」
ガチャ
つきあたりのドアが開き、顔を出した獣医師が手まねきする。
「みんな、おまたせ。こっちだよ」
「ありがとうございま──」
「わっ!」「ドアを閉めて、急いで!」
え!?
部屋に入った瞬間、中にいた獣医師たちの悲鳴が聞こえてくる。
たくさんの機械が並んだ部屋の中を、茶色いかたまりがものすごい速度で走ってくる。
少しずんぐりした体に、太めの耳。背中と尻尾には、きれいなシマ模様。
けれど、鋭いはずのひとみは──驚くほど丸い。
「──アイだ!」
すみれが叫ぶ。
ピョンッ!
小さな体全体を使って高く跳びあがったアイが、和馬の胸元に飛びこむ。
和馬は、一瞬ビクッとしたものの、すばやくアイの体を腕でしっかりと支えた。
──ナイスキャッチ。
「ミャッ、ミャ」
「……元気だったか?」
和馬が、親指でひたいをなぞると、アイはぐるぐると気持ちよさそうにのどを鳴らす。
会うのは久しぶりなのに、和馬のことは、しっかり覚えてるんだな。
和馬も……口元が少し笑ってる気がする。
「大きくなったな」
和馬が背中をなでてやると、アイは、くんくんと小さな鼻先で和馬のにおいをかいだあと、肩に飛びうつり、ゆっくり腰を落ちつける。
「すごい。ヤマネコは人になつきにくいのに」
「アイのこんな姿、初めて見たなあ」
目を丸くする獣医師たちに、健太とクリスが、笑顔で答えた。
「えへへ、そうなんです。和馬くんも、すごくかわいがってて」
「息がぴったりの相棒なんです」
すみれが、横からアイをのぞきこんで、ちょいちょいと人差し指を振る。
「アイ、元気そう! しかも、ちょっと大きくなった? ほら、ここ、このおなかのあたりとか成長したような──」
「シャーッ!」
「わっ!」
引っかかれそうになったすみれが、あわてて手を引いた。
「やっぱり、和馬にしかなついてな~い! 和馬、ズルい。また、もふもふをひとりじめ!?」
「……オレのせいじゃない」
アイを肩にのせたまま顔をそむける和馬を見て、獣医師がおかしそうに笑った。
「まあまあ。それにしても、アイと、アイを保護してくれたみんなを会わせる機会が作れてよかったよ。風早くんが提案してくれて、助かったなあ」
「どういうことですか?」
光一が聞きかえすと、和馬が、ぴくりと片眉を上げた。
「っ、それは──」
「いやあ、最初は、風早くんだけでも会わせられたらと思って連絡をしたんだ。そうしたら、ちょうど動物園見学があるから、他のみんなも連れてくると言ってくれてね」
「……そうなのか?」
そんな話は、少しも聞いてないけど。
「……アイの救出では、全員に協力してもらった。会わせるのが筋だろう」
和馬が、気まずそうに目をそらす。アイの背中をなでる動きも、ちょっとぎこちない。
もしかして……照れてる?
でも、そのためにわざわざ尾行してまで、おれたちを誘いに来るなんてな。
最後まで理由を言わなかったところは、和馬らしいけど。
光一が笑うと、健太も満面の笑みを和馬に向けた。
「和馬くん、ありがとう! ぼくたちも、アイちゃんに会えてうれしかったよ」
「わたしも。また、いっしょに会えるチャンスがあるといいね」
「ね。あたしも、次こそ、もふもふしたい!」
すみれが、アイを見ながら手をにぎにぎと動かす。
いや、その動きをしてるかぎり、永遠に警戒されつづけるんじゃないか?
みんなでお礼を言って、医療センターから外に出る。静かだった医療センターから、活気のある見学コースに戻ると、光一は大きく伸びをした。
まさか、こんなところで大事な仲間に再会できるなんてな。
……おれも、うれしかった。
和馬のレポートのお題は、ツシマヤマネコで決定だな。
「さてと、そろそろ昼食にするか。みんなで広場に──」
「あの、一つ、きいてもいいかな?」
春奈が、小さく手をあげた。
「その……風早さんが、ツシマヤマネコのアイちゃんになつかれているのはわかったけど……どんなふうにアイちゃんと出会ったの? たしか無人島って……」
「あ、春奈には言ってなかったっけ。ほら、前にあたしたち、グランピングに行ったことがあったでしょ? そこで、めずらしい動物をねらう犯罪者を捕まえて、んぐっ!?」
光一は、あわててすみれの口を両手でふさぐ。
危なかった。あやうく、すべてが台無しになるところだった!
「光一くん、どうしたの? それに今、お姉ちゃんが『犯罪者を捕まえて』って言ったような」
「それは……あ! あのグランピングで偶然出会って『アイを捕まえて』保護したって言ったんだ。そのとき、和馬になついて」
「そうだったんだ。聞きまちがえてたみたい。でも、ツシマヤマネコと偶然出会うなんてすごいね。びっくりしちゃった!」
「あ、ああ……」
よかった。なんとかごまかせた……。
手を外すと、すみれは大きく息をして、光一に、ぐっとつめよった。
「ちょっと、あやうく窒息するところだったんだけど! しかも、せっかく、あたしの活躍を春奈に話すチャンスだったのに~」
「だから、世界一クラブのことは話すなって言っただろ!? これ以上、心配かけたら、春奈の心臓がいくつあっても足りないぞ!」
「うっ、それはそうだけど~! ああ~、ちょっとくらいなら、いいじゃん。光一のケチ!」
「誰がケチだ。すみれのわからずや!」
「あああ。光一、すみれ、落ちついて~」
「二人とも、こ、これ以上の騒ぎは──」
キラッ
──シュッ!
「きゃっ!」
すぐそばをかすめていった何かに、クリスが悲鳴を上げる。
みんなが目で追うように振りむくと、木々の間を気持ちよく飛んでいく鳥が見えた。
淡い灰色の翼に、赤いくちばしと足がまぶしい。
「……ユリカモメか。そういえば、この動物園には、野鳥が休める水場もあったっけ」
「ふうん。でも、なんで、あたしたちに近づいてきたんだろ。今はエサも持ってないのに──」
「「ああっ!」」
光一とすみれは、カモメの口元で光ったものを見て、大声を出す。
なんで、あれが──わかった、あれの輝きにひかれて持っていったのか!
クリスが首をかしげた。
「二人とも、どうしたの? 何か忘れものとか……」
「違う。クリス、あれ!」「鳥がくわえてるの、クリスの眼鏡!」
「ええっ!?」
バサッ!
驚いたクリスが振りむいた瞬間、地面にノートが落ちる音がする。
クリスの素顔を見た春奈が、あんぐりと口を開けて固まっていた。
「や、やっぱり……クリスさんって、本物の日野クリスちゃんだったんだ!」
「えっ、日野クリスちゃん?」「昨日も、CMで見た!」
「かわいい~! もしかしてプライベートで動物園!?」
春奈の声を聞きつけた来園者が、わっと声を上げる。
じわじわと人が集まりはじめ、クリスの顔が、まただんだんと青くなった。
「あ、あ……」
ああ、すみれが暴れなくても、やっぱりトラブルからは逃げられないのか!?
「早く行こう。このままだと、ここで今日の見学が終わる!」
光一は、みんなと走りだしながら、気持ちよさそうに飛んでいく鳥を力なく見上げた。