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【最新20巻発売記念・ためし読み】『世界一クラブ 動物園見学で大パニック!?』第2回


どの巻から読んでもおもしろい! 世界一の特技をもつ、5人の小学生が大活躍! 
事件と笑いがいっぱいの人気シリーズ「世界一クラブ」、待望の【20巻】が10月に登場! 発売を記念してトクベツに【1巻】と【19巻】を大公開! 期間限定でまるごと読めちゃうチャンスをお見逃しなく★(公開期限:2025年12月26日(金)23:59まで)



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5 似てない姉妹


 すみれは、父、母、妹と、二階建ての家に住んでいる。

 一階にリビング・ダイニング・キッチンと両親の寝室。二階に、すみれと春奈の部屋。

 裏に柔道の道場があること以外は、いたってふつうの家だ。

「ただいまー! は~、やっぱり家が一番!」

 すみれが、リビングのソファにどかっと腰を下ろす。

 光一は、少しつめながら、みんなと空いたソファに座った。

 五井家のリビングは、六人で入るには少し狭い。壁ぎわの小さな棚には、すみれが今まで取ったスポーツ大会のメダルやトロフィーが、所せましと並んでいる。

 最後に、和馬が壁に寄りかかって落ちつくと、すみれはじろりと光一をにらんだ。

「それで、どういうこと? あたしにちゃんと説明してよね。難しい単語は使わずに!」

「もう、お姉ちゃん落ちついて。光一くん、先にあらためて自己紹介をさせてもらえないかな? 日野さん、風早さん、はじめまして。わたしは、姉の──すみれの妹で、五井春奈と言います」

 お茶を運んできた春奈は、背筋を伸ばして丁寧におじぎした。

「今、小学校五年生で、みなさんと同じ三ツ谷小に通ってます。お二人のことも、お姉ちゃんからよく話を聞いていました」

「そうなんだ……なんだか、はずかしいな。春奈さんは、こうやって並んでいると、すみれとすごくよく似てるね。背も同じくらいで、双子みたいというか」

「……中身は、まったく違うみたいだがな」

「あ、あはは……よく言われます」

「春奈は、すみれより落ちついてるし、しっかりものだからな」

 光一は、横からつけたした。

「じつは、春奈は柔道もしてないんだ。どちらかというと好きなのは読書とかピアノとか、じっくり取りくむタイプのものだから、クリスのほうが趣味は合うかもな」

「そうなんだ。徳川くんは、春奈さんともつきあいが長いんだよね?」

「ああ。小さいときは春奈ともよく遊んでたからな。無茶をするすみれに、二人で振りまわされてたし。五秒で迷子になるすみれをさがしたり、忘れものを取りに戻るのにつきあったり──」

「こ~う~い~ち~~~~!」

 ──しまった!

 逃げようとした瞬間には、服のそでをつかまれ、腰に手を回されていた。

「げっ、この技は──」

 ぐいんっ!

 すみれが、腰に回した手を使って、体を抱えこんでくる。あっという間に床から足がはなれて、今度はその床が、目の前に迫った。

 どう考えても逃げられないだろ!

 ドシーン!

「光一くん、だいじょうぶ!?」

 春奈が、心配そうに立ちあがる。隣のすみれは、よく似た顔で光一の顔をビシッと指さした。

「大腰、一本! まったく。光一、過去の失敗を勝手にしゃべらないでよね。今は、あのころより千倍は成長してるんだから」

「それなら、そろそろ夏休みや冬休みの宿題も自力でやれよな!?」

 おれは、いつまで宿題を二倍やらなきゃいけないんだ!

「ま、春奈は、あたしの自慢の妹だから、ほめたくなる気持ちはわかるけどね。あたしよりかしこいし、あたしより器用だし、あたしが昼寝してたらタオルケットまでかけてくれるし!」

 けっきょく、いまだに、お世話されてるのか。

「そんなに自慢の妹なら、もう少し正直に春奈に話したらいいんじゃないか? こんなに複雑な事態になったのは、すみれが春奈について一人で悩んでたからだろ」

「ええっ、なんでわかったの!? そもそも、あたし悩んでるなんて言ってないのに!」

 それは、だれが見てもわかるだろ!

「すみれの元気がなくなったのは日曜日のはずだから、原因は家族である可能性が高い。しかも、柔道の練習を早く切りあげるくらいだから、気になっているのはよっぽど大切な相手だ」

 光一は、お茶を一口飲んで言った。

「だから、春奈が通ってるピアノ教室でようすを聞いたり、駄菓子屋で春奈の好きなものを買おうとしたり、春奈の気持ちをさぐるために、図書館で本を借りたりしてたんだろ」

 さすがにあの本の選び方はどうかと思うけど。

 春奈が、きょとんと目を丸くする。

「……お姉ちゃん、そうだったの?」

「うっ! だって最近の春奈は、少し元気がなく見えたから……でも、自分からは話してこないしさ。しかも、気晴らしに日曜日に出かけようって言ったら、用事もないのに断ったでしょ」

 すみれは春奈を見たまま、ぶつぶつと言った。

「なのに、家にはずっといて……だから、避けられてるのかもと思って、仲直りの方法を探してたの。本の探し方がよくわからなかったから、動物と仲良くなる本とかになっちゃったけど」

「でも、すみれ。それなら、おれたちに相談すればよかったんじゃないか? おれはともかく、健太もクリスも和馬も、きょうだいがいるから参考になるだろ?」

「そ、それは~! だって、たった一人の姉としては、自力で解決したかったの! そのほうが、頼りがいのあるお姉ちゃんっぽいでしょ!?」

 その発言が、すでに頼りがいがないぞ。まあ……気持ちはわかるけど。

「とにかく、それで、みんなからの動物園見学の誘いも断ったの。校外学習は、五年生の春奈ともグループを組めるでしょ? だから、春奈と組んで、ばん回のチャンスを作りたくて……」

「もう、お姉ちゃん、心配しすぎだよ。でも、ありがとう」

 春奈が、やさしくほほ笑んだ。

「最近、元気がなかったのは、ちょっと気になることがあっただけなの。お姉ちゃんをきらいになったわけじゃないから、安心して」

「……ホント?」

「う、うん。それに、光一くんたちを追いかけたのも……うちの道場のようすをうかがってるところをたまたま見かけて、気になっただけだから。その、あまりにあやしくて」

「うっ!」

 そう言われると、何も反論できない!

「ホントに!? は~、あたし、めちゃくちゃ心配しちゃった」

「心配かけてごめんね。もうだいじょうぶだから──そうだ。今度の校外学習で、わたしをお姉ちゃんたちのグループに入れてもらえないかな。メンバーに空きがあればだけど」

「えっ」

 春奈が、おれたちのグループに?

 健太が、元気に飛びはねた。

「もちろん大歓迎だよ! ぼくたち、メンバーを五人集めてたから、あと一人参加してもらえると助かるんだ。春奈ちゃんが入れば、すみれもうれしいだろうし。ね、クリスちゃん」

「うん。わたしも、春奈さんのことをもっと知りたいな。風早くんは……それでいいかな?」

 クリスにたずねられた和馬は、ついと目をそらした。

「……かまわない。もともと、オレは校外学習のグループに……光一たちを誘うために来た」

「えっ」

 和馬が、おれたちを尾行してた理由はまだわかってなかったけど──。

 まさか、同じグループに誘うためだったのか!?

「じゃあ和馬くんは、ぼくたちを誘うためだけに、わざわざ追いかけてきてくれてたの!?」

「和馬が自分から誘ってくれるなんて、初めてじゃない!?」

 すみれと健太が、二人ですばやくハイタッチした。

「こんなレアなチャンス、絶対逃せない! じゃあ、動物園は、この六人グループに決定!」

「ぼく、今から楽しみでドキドキしてきたよ。しっかり準備していかなきゃ!」

「風早くん、よろしくね。その……いっしょに回れて、うれしいな。ね、徳川くん」

「ああ。よろしくな、和馬」

「……ああ」

 和馬が、そっけなく視線をそらす。

 せっかく自分から誘いに来たんだから、よそよそしくしなくてもいいのに。

 まあ、でもこれでグループの問題は解決だ。

 ──まだ一つ、気になってることがあるけど。

 春奈が、ソファからパッと立ちあがると、リビングの出口へ向かう。

「そろそろ習字に行かないと。みなさん、くわしくはまた明日」

「うん。春奈ちゃん、これから、よろしくね」「習字、気をつけて」

 みんなに見おくられながら春奈が出ていくと、光一は、黙ったまま立ちあがる。

 一人、春奈を追って玄関から外に出ると、門の前でなんとか呼びとめた。

「春奈」

「えっ……光一くん!?」

 振りかえった春奈が、光一を見て目を丸くした。

「どっ、どうしたの? わたしに何か用事?」

「ああ。少しだけ、春奈に話があって来た」

「わ、わたしに、話!?」

 なんだろ。やけに驚くな。

 ……まあ、人に聞かれたくない話だろうから当然か。

「勘違いだったら悪い。でも、気になったんだ。春奈がさっき言っていた〈気になること〉って……すみれのことなんじゃないか?」

「えっ。なんでそれを」

 やっぱりか。

「いくらようすがおかしいからって、春奈がわざわざおれたちの後を追ってくると思えなくて。でも、春奈の悩みの原因がすみれにあるなら納得できる。すみれを避けていた説明もつくし」

「……光一くんにはわかっちゃうんだね」

 春奈は苦笑いすると、ふうっと、小さくため息をついた。

「光一くんの言うとおり。本当は……わたし、お姉ちゃんの後をつけていたの。日ごろのようすを観察すれば、わたしの疑問が、はっきりするかと思って」

「疑問?」

 そこで、春奈は、ぐっと声をひそめた。

「……光一くん、知ってる? 最近、お姉ちゃんが……すごく危ないことをしていること」

「えっ」

 ギクッ!

 とっさに、言葉を飲みこむ。

 危ないことって……それ、もしかしなくても、世界一クラブの活動のことか!?

「えっと……何で突然、そう思ったんだ?」

「う~ん、変な話なんだけど。光一くんは、知ってるよね。お姉ちゃん、食後によくソファで寝ちゃうことがあるでしょ。風邪を引かないように、家ではいつもわたしが起こしてるんだけど、最近、寝言で、爆弾とか盗難とか危ない言葉を話してて」

 め、めちゃくちゃしゃべってる!

「さ、最近見た刑事ドラマの話なんじゃないか? それか、アクション映画とか」

「うーん。でも、そんなの見てなかったと思うの。それに寝言に質問したら、体験談みたいにいろいろ教えてくれて。『ハワイで窃盗団を百人投げとばした!』とか、『九千九百九十九個のダイヤを取りもどした!』とか」

「そ、そうなのか……」

 いや、すみれ。さすがに百人と九千九百九十九個は、話を盛りすぎじゃないか!?

「あっ、もちろん、ぜんぶ、ただの寝言だと思ってるよ。とんでもない話だし……でも、でもね。あのお姉ちゃんなら、それに近いとんでもないことをやってそうな気がしてきたの!」

「うっ」

 さすが妹。

 すみれのことをよくわかってる!

 春奈は、すみれとよく似た眉を困ったように下げて、光一を見つめた。

「やっぱり突拍子もないよね? でも、そう考えたら、今度の動物園見学でも大きなトラブルを起こさないか不安になってきて……そうだ! 光一くん。よかったら、お姉ちゃんが動物園で暴走しないように、いっしょにフォローしてくれない? 光一くんやみんなとなら、お姉ちゃんの暴走を止められると思うの!」

「すみれの暴走を止める!? それは」

 世界一クラブ、四人がかりでも無理だ!

 光一は、口をひくひくと引きつらせる。

 すみれは根っからのトラブルメーカーだし、おれたちの忠告だって素直に聞くとは思えない。

 和馬にロープで動きを封じてもらうか?

 いや、すみれのことだから、晃さんみたいにロープを引きちぎりそうな──。

「……やっぱり無理だよね。こんな、変なお願い。でも、やっぱり心配で。お姉ちゃんといっしょに行ける校外学習は、最初で最後だから」

 春奈の声が、だんだんと小さくなって消える。

 二人きりの道路が静かな沈黙に包まれると、光一は春奈の不安げな顔を、じっと見つめた。

 ……春奈は、すみれのことを本当に心配してるんだな。

 これ以上、よけいな心配をかけないために、世界一クラブのことは言わないほうがよさそうだけど──このまま放っておくわけにもいかないか。

「わかった。おれたちも、動物園見学が無事に終わるように協力する」

 すみれがトンデモないことをしでかしても、五人でなら、なんとかできるかもしれないし。

「本当に? ……ありがとう。やっぱり、光一くんはやさしいね」

 春奈が、はにかんだ笑みを浮かべた。

「あっ、もうこんな時間! ごめんね。じゃあ、行ってくる。みなさんにも、よろしく」

 うれしそうに走っていく春奈を見おくると、光一は、すみれの家へ引きかえす。

 こういうことは、最初が肝心だ。しっかり、要点を伝えないと。

 リビングに入ると、みんなと顔をつきあわせていたすみれが振りむいた。

「光一、おかえり。春奈の見おくりをしてきたの?」

「ああ。じつは……」

 ……さっきの話、すみれに直接しておいたほうがいいのか?

 言っても通じない気がするけど、いちおうクギを刺しとくか。

 光一は、すみれを真剣な顔で見つめた。

「すみれ、世界一クラブについての寝言を、春奈に聞かれてるみたいだぞ。春奈は信頼できるけど、これ以上、心配をかけないように、世界一クラブのことは言うなよ」

「え~っ、あたし、そんなことしてた!? ぜんぜん覚えてないんだけど」

 寝言を覚えてるほうが、おかしいだろ!

「あと、春奈が、今度の校外学習でも無茶をするんじゃないかって、心配してた。だから、今度の動物園では、あくまで安全に見学して──」

「えっ、春奈があたしのこと? ……そうなんだ」

 すみれが、ぐっと黙りこむ。いつもは見ないような、考えこんだ表情だ。

 やっぱり、すみれも春奈のこととなると本気になるのか。

 伝えておいてよかった。これで、すみれも動物園見学で無茶はしないはず──。

「──じゃあ、やっぱり、あたしが全力でがんばらないとね!」

「へ?」

 今、なんて──。

 顔を上げると、にんまりとした笑顔が目に飛びこんでくる。

 ヤバい。

 話を聞かなくてもわかる。これは、ろくでもないことを考えてるときの顔だ!

「そっかあ、春奈があたしを心配してくれてるんだ。なら、こういうときこそカッコいい姿を見せて、頼りがいを感じてもらわなきゃ。春奈に尊敬されるチャンス、目指せギャップの魅力!」

「なんだ、それ!」

 すばやくツッコんだ瞬間、すみれはフフンと楽しそうに鼻を鳴らした。

「こうなったら、ばっちりレポートを完成させつつ、フォトコンテストの優勝もかっさらうしかなーい! じつは、もう見学の計画を立てはじめてたの。ね、健太」

「せっかくだから、ハデにいきたいよね! 全員で動物の仮装をしていくのはどうかな。そうすれば、動物さんたちがぼくたちを仲間と思って、とっておきのポーズをしてくれるかも!」

「それじゃあ、校外学習じゃなくて、ただの仮装大会だ!」

 動物園に入る前に、全員追いかえされるぞ!

「すみれ。健太も落ちつけ、みんなで行くんだから、もう少し春奈のことも考えて──」

「やっぱり、ぜんぶの動物を見たいよね。見学では、まず、動物園内のランニングからやろうよ。動物園を十周すれば、動物園マスターになれるかも。ね、クリス!」

「えっ!? で、でも、動物園で走りまわったら、先生にも飼育員さんにも怒られるんじゃ……」

「楽しみだね、和馬くん! ぼく、動物園を何倍も楽しめるようにいろんな道具を持っていくよ。ふっふっふー。とんでもないしかけで、みんなも動物さんたちも、驚かせちゃおうかな!」

「……動物は驚かせないほうがいいんじゃないのか」

 クリスと和馬の声も、あっという間にすみれと健太の盛りあがりにかきけされていく。

 二人のツッコミも、これじゃあ焼け石に水だな。

「はあ……」

 すみれと春奈。

 顔は似てるけど、考えてることがぜんぜんかみあってない……。

「……今までのどんな動物園より、騒がしくなりそうだな」


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