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【最新20巻発売記念・ためし読み】『世界一クラブ 動物園見学で大パニック!?』第1回


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1 食欲大魔神の危機!?


 その月曜日も、ふつうの朝だった──朝食の時間までは。

 ピピピピッ ピピピピッ

「ふあっ……よく寝た」

 徳川光一は、ベッドに横になったまま、目覚まし時計を止めた。

 窓の外からは、明るい朝日が差しこんでいる。

 あたたかくて、気持ちのいい朝だ。

「今日は、すみれが起こしに来なかったな。どうりで、よく眠れた──」

 ……そういえば、朝食は、もらいものの高級食パンだっけ。

 もしかして、食パンをひとりじめするために、わざと起こしに来なかった!?

 ガバッ

 パジャマのまま、あわてて部屋を飛びだし、階段を下りる。

 一階のリビングに入ると、かっぽう着姿の母・久美のいるキッチンから、パンのあまい香りがただよってくる。

 よかった、まだ残ってた。

 久美は、トースターをのぞく光一を見て、ほほ笑んだ。

「光一、おはよう。ちょうど食パンが焼けたところよ。たくさん食べてね。今日は何をぬる?」

「えーっと、パンをしっかり味わいたいから、バターにする。あ、お皿出すよ」

 光一は食器棚から皿を取りだしながら、息をついた。

「はあ。もう、すみれに食べつくされたかと思った。いつもなら勝手に部屋に入って叩きおこしてくるのに、今日に限って来なかったし」

「ああ、それがね……」

 久美が、少し困ったように眉を下げる。

 ん? 母さんが口ごもるなんて、めずらしいな。

「そういえば、すみれは──」

「光一、おはよう……」

「うわっ!」

 なんだ、この亡霊みたいな声!

 耳元でボソボソと聞こえてきた声に、皿を落としそうになる。

 振りかえると、短めの茶色い髪に、赤いヘアバンドが目に飛びこんだ。

 見まちがえるはずもない。

〈世界一の柔道少女〉で、からあげを、ぺろりと二十個は食べる食欲大魔神。

 光一の幼なじみ──五井すみれだ。

 けれど、いつもはキラキラと輝いているひとみが、今日は、どんよりとくもっている。動きも鈍い。まるでやられかけのゾンビみたいだ。

「お、おはよう、すみれ。今日は起こしに来なかったんだな」

「え? ああ……うん。ちょっと、そんな気分になれなくて。ずっと座って待ってたの」

「すみれが、待ってた?」

 あの、ケーキを焼いてるオーブンの扉を何度も開けたがるすみれが?

 それは、さすがにおかしいような……。

 久美も、心配そうに声をかける。

「すみれちゃん、だいじょうぶ? 今、パンを出すからね。今日は何枚食べる? いただきもののおいしいパンだから、たくさん食べて」

「久美さん、ありがとう。でも……今日は一枚でいいかな。あんまり食欲がなくて」

「「食欲がない!?」」

 もらいもののお菓子は、どんなに大量でも、その日のうちにぜんぶ食べるすみれが?

 食べ放題に行ったら、お店をつぶされないか店長を毎回ヒヤヒヤさせる、あのすみれが!?

 驚く二人にもかまわず、ダイニングに戻ったすみれは静かにイスに座る。

 久美が、こんがり焼けたトーストを持ってきても、ぼうっとしたままだ。

「それじゃあ、食べましょうか。いただきます」

「いただきます……」

 すみれが、ゆっくりと食パンを口に運ぶ。

 いつもなら、あの大きさの食パンは三口で消えるけど……。

 ……ぱくっ

「ち」

 小さい。

 信じられないくらい、一口が小さい。

 きらいなこんにゃくだって、いつも一口でいってるのに。

 ──あっ、せっかくのパンが冷める!

「い、いただきます」

 あわててパンにかじりつくと、上品なあまさが口の中いっぱいに広がる。

 でも、目の前にどんよりしたすみれが座っているせいで、いまいち味がしない。

 ああ、バターも忘れてた。

 せっかく楽しみにしてた食パンだったのに!

「いったい、すみれに何が起こってるんだ!?」


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