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1 食欲大魔神の危機!?
その月曜日も、ふつうの朝だった──朝食の時間までは。
ピピピピッ ピピピピッ
「ふあっ……よく寝た」
徳川光一は、ベッドに横になったまま、目覚まし時計を止めた。
窓の外からは、明るい朝日が差しこんでいる。
あたたかくて、気持ちのいい朝だ。
「今日は、すみれが起こしに来なかったな。どうりで、よく眠れた──」
……そういえば、朝食は、もらいものの高級食パンだっけ。
もしかして、食パンをひとりじめするために、わざと起こしに来なかった!?
ガバッ
パジャマのまま、あわてて部屋を飛びだし、階段を下りる。
一階のリビングに入ると、かっぽう着姿の母・久美のいるキッチンから、パンのあまい香りがただよってくる。
よかった、まだ残ってた。
久美は、トースターをのぞく光一を見て、ほほ笑んだ。
「光一、おはよう。ちょうど食パンが焼けたところよ。たくさん食べてね。今日は何をぬる?」
「えーっと、パンをしっかり味わいたいから、バターにする。あ、お皿出すよ」
光一は食器棚から皿を取りだしながら、息をついた。
「はあ。もう、すみれに食べつくされたかと思った。いつもなら勝手に部屋に入って叩きおこしてくるのに、今日に限って来なかったし」
「ああ、それがね……」
久美が、少し困ったように眉を下げる。
ん? 母さんが口ごもるなんて、めずらしいな。
「そういえば、すみれは──」
「光一、おはよう……」
「うわっ!」
なんだ、この亡霊みたいな声!
耳元でボソボソと聞こえてきた声に、皿を落としそうになる。
振りかえると、短めの茶色い髪に、赤いヘアバンドが目に飛びこんだ。
見まちがえるはずもない。
〈世界一の柔道少女〉で、からあげを、ぺろりと二十個は食べる食欲大魔神。
光一の幼なじみ──五井すみれだ。
けれど、いつもはキラキラと輝いているひとみが、今日は、どんよりとくもっている。動きも鈍い。まるでやられかけのゾンビみたいだ。
「お、おはよう、すみれ。今日は起こしに来なかったんだな」
「え? ああ……うん。ちょっと、そんな気分になれなくて。ずっと座って待ってたの」
「すみれが、待ってた?」
あの、ケーキを焼いてるオーブンの扉を何度も開けたがるすみれが?
それは、さすがにおかしいような……。
久美も、心配そうに声をかける。
「すみれちゃん、だいじょうぶ? 今、パンを出すからね。今日は何枚食べる? いただきもののおいしいパンだから、たくさん食べて」
「久美さん、ありがとう。でも……今日は一枚でいいかな。あんまり食欲がなくて」
「「食欲がない!?」」
もらいもののお菓子は、どんなに大量でも、その日のうちにぜんぶ食べるすみれが?
食べ放題に行ったら、お店をつぶされないか店長を毎回ヒヤヒヤさせる、あのすみれが!?
驚く二人にもかまわず、ダイニングに戻ったすみれは静かにイスに座る。
久美が、こんがり焼けたトーストを持ってきても、ぼうっとしたままだ。
「それじゃあ、食べましょうか。いただきます」
「いただきます……」
すみれが、ゆっくりと食パンを口に運ぶ。
いつもなら、あの大きさの食パンは三口で消えるけど……。
……ぱくっ
「ち」
小さい。
信じられないくらい、一口が小さい。
きらいなこんにゃくだって、いつも一口でいってるのに。
──あっ、せっかくのパンが冷める!
「い、いただきます」
あわててパンにかじりつくと、上品なあまさが口の中いっぱいに広がる。
でも、目の前にどんよりしたすみれが座っているせいで、いまいち味がしない。
ああ、バターも忘れてた。
せっかく楽しみにしてた食パンだったのに!
「いったい、すみれに何が起こってるんだ!?」