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17 もうひとつのナゾ
「はあ……」
さすがに、冷や汗かいた。
すみれに手首の縄を切ってもらいながら、光一は息を吐きだした。
けがをした人質は、足手まといになる。だから、脅し以外でいきなり撃ったりはしない。
黒田がそう判断すると思ったから、使った手だったけど。
「あーもう、びっくりした。黒田を怒らせはじめたときは、止めに入ろうかと思ったじゃん」
すみれはぶつぶつ言いながら、光一から外した縄を放りなげた。
「悪い。すみれと風早が準備してくれてて、助かった」
「あたしたちが逃げちゃってたら、どうしたわけ?」
「たぶん、やられてただろうな」
「なにそれ? 光一にしては当てずっぽうすぎじゃない?」
それだけ、二人のことを信じてたってことだよ。
光一は少しバツが悪くなって、すみれから目をそらす。
「……ありがとな。戻ってきてくれて」
「もー、あったりまえじゃん!」
すみれが、ばーんと勢いよく光一の背を叩いた。
「痛っ!?」
だから、もう少し優しくしろよ!?
「お礼は和馬に言ったら? あの時、逃げられたのは、とっさに動いてくれた和馬の──」
「徳川、大変だ」
黒田をしばりあげた和馬が、光一に駆けよる。解放された健太も、暗闇の中よろよろと三人に近よった。
「橋本先生がいない」
「なっ! でも、今さっきそこに」
「それが、白井もいないんだよ! もしかして、先生を連れて逃げちゃったんじゃあ……」
「でも、白井ってこの中で一番弱そうだったじゃん。拳銃はもうなくなったんだし、大したことできないんじゃない? そんなに焦らなくても」
「いや、マズい。さっきの銃声を聞いて、機動隊が突入を早めるかもしれない。白井が学校に隠れると探すのに時間がかかる……!」
光一は、床に落ちていた自分のスマホを拾う。電源を入れた瞬間、着信の画面に切りかわった。
『みんなっ、無事!?』
通話ボタンを押すとすぐに、耳をつんざくようなクリスの声が辺りに響きわたる。
『突然、電話は切れるし、かけてもかけても通じないし……わたし、心配で……』
「ちょっとトラブってたんだ。悪い」
「いやあ、ホントひやひやしたよ」
「でもその代わり、黒田はもうやっつけたから」
すみれと健太が、横合いから茶々を入れる。
「青木も赤星も押さえたし、残りの白井は余裕──」
『白井……!?』
なんだ? この反応。
光一はきょとんとしながら、三人と顔を見あわせた。
「……何か問題なのか?」
『大問題よ。徳川くんの指示通り、今井刑事の質問をはぐらかしたり、話を引きのばしたりして、なんとかテントに張りついてたの。そしたら、大変なことを聞いちゃって……』
クリスは一呼吸おくと、思いきったように話しだした。
『今回の事件は、ただの立てこもり事件じゃなかったの。警察には、どうしても犯人を逃がせない事情があったのよ』
「そりゃ、黒田も赤星も危険人物だし、青木も余罪が」
『そういうレベルじゃないわ。あの白井は世界的に有名な窃盗団〈レッドバタフライ〉の一員だって疑われているの!』
「白井が!?」
「そんなふうには見えなかったなあ」
『証拠を押さえたわけじゃないし、本人も否認してるから、警察も、それ以上追及できなかったみたいだけど……』
レッドバタフライといえば、狙われたものは必ず盗まれると噂の、世界的窃盗団だ。
世界中の警察がレッドバタフライを追いかけているが、まだその全容はつかめていない。
なにせ、組織の規模も所属メンバーも、多くが謎に包まれているのだ。
数少ない容疑者は、警察も絶対に逃がしたくないだろう。
記憶をめぐらすように、光一はスマホの角を指でなぞった。
「白井は、逮捕されてから三年たってる。つまり、それよりも前に起きたレッドバタフライの事件と関連があるってことか。そういえば、ちょうど三年前に事件が起きてる」
『どんな事件なの?』
「都内の宝飾店から、世界最大クラスのブルーダイヤが盗まれた窃盗事件だ。白井が、交通事故で逮捕された日とも合致してる。窃盗事件が起きた数時間後に、白井は逮捕されているんだ」
「よくそんなことまで覚えてるな」
和馬が、眉をくもらせる。
おれとしては風早の身体能力の方が、不思議でしょうがないけどな。
「ん? 白井はブルーダイヤを盗んだ日に捕まったんだよね? でも、その時にはもうダイヤはなくなってたってこと?」
「証拠がないって言ってるから、そうなんだろうな」
白井がブルーダイヤを盗んでから捕まるまで、ほとんど間がない。
ダイヤを遠くへ持ちだすことはできなかったはずだけど……。
「ねえ、光一。ちなみに、そのブルーダイヤって、いくらくらいするの?」
「世界で一番大きいってことは、一億円くらい?」
すみれと健太が、じゅるりとよだれをたらす。
また、まいう~棒に換算してるな。
「いや、一億じゃくだらない。盗まれた当時でも、時価十億はしたはずだ」
「じゅじゅじゅっ、十億!?」
「つまり、まいう~棒が2740年分!?」
『お、おかしで計算しなくても……』
クリスのあきれた声が、スマホの向こうから聞こえた。
光一は、ウエストポーチにしまっていた図面を広げる。
「すぐに追いかけよう。手分けして──」
でも、どこから?
校舎の中を、一階から全部調べなおす? だめだ、そんな時間はない。
確実に白井を押さえて、橋本先生を助けるには、あいつが逃げこんだ場所を推理するしかない。
光一は腕を組んで、あごに手を当てると、静かに目を閉じた。
周囲の音が遠ざかって、思考がクリアになる。
白井はレッドバタフライの一員で、ブルーダイヤの窃盗事件を起こした。
ダイヤを盗んだ数時間後に白井は逮捕されたが、すでにダイヤを所持していなかった。
ブルーダイヤが盗まれたのは、三年前……、三年前?
目を開くと、三人が、かたずをのんで見守っていた。
「……白井が逃げこんだ場所が、わかった」
まさか、こんな大事件につながっていたなんてな。
光一は、図面を適当に折りたたんで、ポーチに押しこんだ。目的地に向かって、一目散に走りだす。
「ねえ、どこいくの!? 光一」
すみれが、光一を追いかけながら叫んだ。
「──十億円のブルーダイヤのところだ」
光一がそう言うと、すみれは、頭の上にはてなマークを浮かべたような、珍妙な顔をした。