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【最新20巻発売記念・ためし読み】『世界一クラブ 最強の小学生、あつまる!』第4回


どの巻から読んでもおもしろい! 世界一の特技をもつ、5人の小学生が大活躍! 
事件と笑いがいっぱいの人気シリーズ「世界一クラブ」、待望の【20巻】が10月に登場! 発売を記念してトクベツに【1巻】と【19巻】を大公開! 期間限定でまるごと読めちゃうチャンスをお見逃しなく★(公開期限:2025年12月26日(金)23:59まで)



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13 隠密! 学校潜入


 学校裏にあるマンションの三階通路から、和馬は校舎を見おろした。

 ここは、学校の裏口からほぼ真正面にある。クリスが起こした騒動と、脱獄犯たちの威嚇射撃のおかげで、学校の周囲を警備していた警察官は、さっきよりもまばらになっていた。

 徳川たちは、ちゃんと裏口の近くで待機しているだろうか。

 和馬は不安に思いながらも、あらかじめバッグから取りだしておいたパチンコを持ちなおした。大きな音が鳴る、特製の小さな花火玉をセットする。

 人通りがなくて、警察にもよく聞こえる……あそこがいいか。

「風早家の門外不出の花火玉だからな。確実に撃てば、引きつけられるはずだ」

 やや離れた電柱の根元に、狙いをつける。

 静かに目を閉じて、心を落ちつける。

 集中しろ。

 さっと目を開けたときには、狙うべき場所だけがはっきりと見えた。

 流れるように、びんとゴムをひく。寸分の狂いもなく、玉は地面めがけて飛んだ。

 バンッ!

「今度はなんの音だ!?」

「確認しよう」

 さっきの威嚇射撃で過敏になった警察官が、拳銃に手をかけながら、音がした方へと険しい顔で走っていく。


 よし、今だ。

 光一は、マンションのかげからさっと駆けだした。

 チャンスは一度。しかも、時間は稼げて、数十秒だ。

 狙うのは、人目に付きにくい薄暗いところ──裏門脇の壁。

 走りこんだ勢いのまま、壁に足をかけて飛びあがる。

 いつの間にかすぐ横に並んでいたすみれと、一気に上へ乗りあげた。

 振りむくと、数歩遅れて追ってきた健太が、壁に飛びつくところだった。

 すでに、もう息が上がっている。

 ……こんなので、登れるのか?

 思ったとおり、健太は壁に飛びついたものの、ずるずると重力に引っぱられて地面へ滑っていく。光一とすみれはちらりと目を合わせてから、健太の腕を、がしっとつかんだ。

「健太、なんかいつもより重いんだけどっ」

「バッグもポケットも、えらくふくらんでるけど……一体、何持ってきたんだっ……」

「ええっ、ただお菓子をたくさん入れてきただけだって~!」

「健太~!!」

 ヤバい、そろそろ警察が戻ってくる!

「これは遠足じゃないんだ」

 ぞ!

 かけ声の要領で、光一はすみれと調子を合わせて引きあげる。乗りあがった健太に押されて、三人はぐらりと壁の向こう側に落下した。

 辺りにかすかな土ぼこりが起きる。

「げほっ、警察は!?」

「なんとか、だいじょうぶそうっ……まだ、さっきの爆発音を確認しに行ってるみたい」

「いたた。そういえば、和馬くんは?」

「呼んだか」

 音もなく、長身の和馬が目の前に着地する。木の葉が落ちてきて、光一は、はっと上を見上げた。

 ……街路樹をつたってきたってことか。

 人間は、自分の目より上には注意が向きにくい。その特性を利用したんだろう。

 それにしても、すごい身体能力だな。

 光一は、和馬に最後尾につくよう頼むと、腰を落として花壇のかげを進む。一階の一番手前の教室に近づいて、窓に手をかけた。

「そこから入るの? でも、鍵がかかってるんじゃ……」

「委員会の後輩から聞いたんだけど、ここだけ窓の鍵が甘いらしいんだ。こきざみに動かすと、鍵が外れる──よし、こんなもんか」

 光一が慎重にスライドさせると、レバーがずれた窓は、音もなく開いた。

 四人は、外の警察官に見つからないように、すばやく中に入る。

 見慣れた学校の教室。他の部屋と同様に、そこもすべての電気が点けられていた。

 じっと耳をすます。

 人の気配はない……か。いや。

 自分のポケットから、ぼそぼそと声が聞こえて、光一はスマホを取りだした。

『ちょっと、聞いてるの? 本っ当に、本当に恥ずかしかったのよっ!?』

 クリスだ。

 他の人に聞こえないように押し殺しているのか、普段より声が小さい。

 光一は、スマホの音量を上げた。

「今、ちょうど学校に入ったところだ。そっちは?」

『警察のテントよ。聴き取りをする今井刑事が、ちょっと席を外して……』

「クリス、すごいノリノリだったよね!」

「そうそう、てっきりあっちが本物かと思っちゃったよ」

『だから、あれは演技でっ……!』

「わかったわかった。それで、警察のテントで何か情報は聞けたか?」

 クリスは恥ずかしそうに咳ばらいをすると、とっさに上げた声のトーンを落とした。

『まわりの刑事さんたちは、〈グニゴムは管理棟の一階にある職員室に捕まってるんじゃないか〉って言ってるんだけど……グニゴムってなんのことかわかる?』

「グニゴムは、警察用語で人質のことだ。橋本先生は、職員室か」

 光一は和馬から返してもらった図面を取りだすと、職員室に赤ペンで大きく丸を付けた。

「さっき威嚇射撃のあった職員用の玄関からすぐだし、妥当な読みだな」

『あと、犯人のうちの一人は管理棟の三階にいて、上から校内を見張っているらしいわ』

「職員室に黒田一人ってことは考えにくいから、最低二人はいるはずだ。ってことは、あとはその見張りと、もう一人は校内のどこかを回ってるってところか」

「ぼく、二人の話が難しくってわかんないよ……」

「あたしも……」

 いつの間にか、すみれと健太は持ってきたスナック菓子をばりぼりと食べていた。

「おい!」

「まあまあ。決戦前の腹ごしらえだって」

『さっきの威嚇射撃で、いったん突入は見送られたみたいだけど、風早警部は態勢を立てなおしたらすぐにでも突入させる気みたい。早めに……』

『クリスちゃん、どうかした?』

 突然、スマホから若い男の声が聞こえた。この気の抜けた感じは、裏口で会った今井刑事だ。

『いいえ、なんでもないんです。早く先生が救出されないかなって──』

 クリスの器用な言い訳に、すみれが口を押さえて笑いをこらえる。

 ひとまず、警察はクリスに任せておいて、だいじょうぶそうだ。

 光一がスマホをポケットにしまうと、クリスと今井刑事の声はほとんど聞こえなくなった。

「まずは、三階から行こう」

「徳川」

 腰をかがめたまま教室から顔を出そうとした瞬間、声がかかる。

 振りむくと、和馬が見おろしていた。

 いつもの無表情。

 いや、でもなんだか……。

「どうかしたのか?」

「──なんでもない。先を急ごう」

 なんだ、風早のやつ。言いたいことがあるなら、言えばいいだろ。

 でも、今日会ったばっかりなんだし、しょうがないか。

 光一は、そう自分に言いきかせると、和馬の視線を無視して図面を折りたたんだ。


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