19 世界一クラブ結成!?
「眠い……」
まだ三時間たってないのに。
光一は腕時計から目を離して、教室の机につっぷした。
窓側の一番後ろの席は、日射しがよくあたって、ますます眠気を誘われる。
今日は事件が解決してから、初めての登校日だ。
学校は、立てこもり事件の話題でもちきり。春休み明け最初の日ということもあって、いつもよりがやがやと騒がしい。
一昨日の夜に橋本先生を助けだした後、クリスとは公園ですぐに合流できた。そこで和馬と別れた光一たち四人は、急いで徳川家に帰ったのだ。
母親の久美にばれないように、物置の窓からまた家に入り、光一は自分の部屋、他の三人は男女別の客間で倒れこむようにぐっすりと眠った。
でもあれから、なんか生活リズムが狂ってるんだよなあ。
「おはよう、光一。ねえねえ、見た? 今朝の新聞!」
この声は、顔を上げなくてもわかる。すみれだ。
「お父さんから借りて、持ってきちゃった。光一も読まない?」
「すみれが新聞を持ってくるなんて、天地がひっくり返るな」
「……どーいう意味よ!」
ヤバい、投げられる!?
「まあ落ちつけって。で、新聞にはなんて書いてあったんだ?」
光一はすみれが差しだした新聞紙をあわてて受けとると、寝ぼけ眼をこすりながら目で追う。
『脱獄犯による立てこもり事件解決 犯人は大型窃盗事件に関与か?
一昨日、三ツ谷小学校で発生した脱獄犯による立てこもり事件は、機動隊の突入によって昨夜、解決した。犯人四人は逮捕され、人質となっていた職員はすぐに近くの病院に搬送されたが、けがもなかった。
警察の発表によると、脱獄犯のうちの一人、白井和則容疑者は世界的に有名な窃盗団〈レッドバタフライ〉の一員であり、その盗品であるブルーダイヤを三ツ谷小学校に隠し、その回収の際に、小学校職員とはちあわせし、立てこもり事件を起こした。
白井容疑者が、人質となった職員の携帯電話を使用し、外部と連絡をとった記録が残っていた。仲間と連絡をとっていた可能性もあることから、その線からも共犯者の洗いだしが行われる見込みだ。
警察はいまだ捜査の進んでいない〈レッドバタフライ〉の真相解明を進めるとともに、白井容疑者に余罪があるとみて、追及するものとみられる。』
「えっ、これだけ!? なんかこう、じつはナゾのスーパー柔道ヒロインが! とかの情報は載ってないの!?」
「機動隊が突入したときには脱獄犯が全員が伸びてたなんて、警察も発表できないだろ。おれたちは姿も見られてないし。かえってよかったじゃないか」
「橋本先生、ちゃんとヒミツにしてくれたんだ」
「ああ。今度こそ本を返却しようと思って朝一で図書館に行ってきたんだけど、何も言われなかったし」
やんわりと、「もうあんな危ないことはしちゃだめよ」って、再度クギを刺されたけど。
「改めて、今度全員にお礼を言わせてくれってさ」
「ふーん、鼻の下伸ばしちゃって。橋本先生、美人だもんね」
「はあ!? 変なこと言うなよ」
「おはよー。二人とも、どうしたの? またケンカ?」
健太が、クラス中のみんなにあいさつをしながら、光一の斜め前の席にやってくる。
光一は新聞を折りたたんで、すみれに突きかえした。
「なんでもない」
「そう? それならいいけど。そういえば、テレビ見た? ぼくたちが見つけたブルーダイヤが映ってたね! 持ち主の人はすっかりあきらめてたから、戻ってきて大よろこびだってさ」
「あーあ、やっぱり十億円もったいなかったかも。だって落とし物って、拾った人は何割か、お礼してもらえるんでしょ?」
すみれが、「あー、まいう~棒があ……」とつぶやきながら、ほおづえをついた。
「相場は一割だな。でも、もし白井の逮捕に関わったなんて知られたら、もっと違うお礼が待ってるかもしれないな」
「もっと違うお礼?」
「レッドバタフライは今までだれも捕まっていなかったんだ。でも今回、白井はおれたちのせいで捕まった。目を付けられて──狙われたりしてな」
「逆恨みされるかも、ってこと?」
「光一、そんなこわいこと言わないでよお」
「みんな席につけ。ホームルーム始めるぞ」
担任の福永先生が、元気よく声をかけながら、出席簿を片手に教室に入ってくる。
それまでおしゃべりに花を咲かせていたクラスメイトも、ばたばたと席についた。すみれは光一の前の席に、健太もその右隣に座る。
福永先生は、クラスを見まわしながら、にかっと笑った。
「みんな、五年生の終業式の日以来だな。春休みは元気にしてたか? まさか、宿題をしてない、なんて言わないよな?」
すみれと健太の肩が、ぎくんと跳ねる。
「二人とも、せっかく休みが延びたのにやらなかったのか」
「だって! あの事件があんまり楽しかったから、柔道のけいこをもっとしたくなっちゃって」
「ぼくも、テレビのチェックに忙しくてさあ」
「……おれは手伝わないからな」
「えー、そんなあ!」
「こら、五井に八木。静かにしなさい。今日は、みんなに転校生を紹介するぞ。日野、入って」
福永先生に声をかけられて、廊下からおそるおそる人影が入ってくる。
栗色の髪の毛は、再び大きな三つ編みにされている。
特徴的な、ピンクの縁眼鏡も健在だ。
クリスが教室に入ってくると、一瞬ざわめきが起こった。
「ねえ、あの子すごくかわいくない?」
「ほんと! それに、事件の時テレビに出てた子と似てる気がするんだけど」
「そう? でも雰囲気、違わない?」
あいかわらず、眼鏡の効果はてきめんらしい。
クリスはぎくしゃくした動きで教卓の横まで来ると、ややうつむき気味に立ちどまった。
「……日野、クリスです……。よろしくお願いします……」
「今日から、うちのクラスに転校してきた日野クリスだ。みんな仲良くな。席は……徳川の隣が空いてるな」
福永先生が、光一の右隣の席を指さす。クリスはうなずくと、ますます小さくなりながら光一の横までやってきて、黙ったまま静かにイスに座った。
先生が、今日の流れを説明しはじめる。すみれと健太は、クリスの方へ身を乗りだして、小さな声で話しかけた。
「一昨日はあたしたち、大活躍だったよね! クリスはいいなあ。あの後も、テレビのVTRに何回か映ってたし」
「言わないでっ。わたしは、がんばって忘れようとしてるの……」
「え~、そうなの!? ぼくだったら、絶対録画して百回は見るのになあ」
健太がそうするのは、今にも目に浮かぶ。
「ねえ。何か事件が起きたらさ、またみんなで解決しようよ。光一とあたしと、健太とクリス、和馬の五人で!」
「えええ。すみれ、本気!? 今回でじゅうぶん、あぶない目にたくさんあったのに……」
「もう、健太は根性ないわね。クリスは?」
それは、いやって言うに決まってるんじゃないか?
光一の横で、クリスは何秒か黙りこくったあと、ぽつりと言った。
「……もう少し、目立たないなら」
噓だろ……!?
光一は、健太と顔を見あわせる。すみれは、がたんとイスを鳴らした。
「やった!」
「五井、ホームルーム中だぞ! 静かに!」
福永先生の注意に、すみれはぺろりと舌を出す。
「おれは、またやるなんて言ってないぞ」
「光一だって、みんなでやるのも結構楽しいなって思ったくせに」
勝ちほこったような顔のすみれに向かって、光一はむくれて見せる。
「でも、風早はやりたがらないんじゃないか?」
「そんなことないと思うけどなあ。なんだかんだ言って、和馬も最後はまんざらでもなさそうだったし」
「……そうか?」
「まあ反対されたら、また光一が理由を考えるってことで。なんたって、リーダーだしね」
やっぱり、めんどうなことは全部おれに押しつけようとしてないか?
だいたい事件なんて、そんなにひっきりなしに起きないだろ。
まあでも……たしかに、結構楽しかったけど。
「また、事件が起きたらな」
そう言うと、すみれがうれしそうにガッツポーズをする。
福永先生の説明をぼんやり聞きながら、光一は引きだしからノートを取りだした。その1ページ目に、こう書きつける。
『風早へ
代々つたわる忍びであることは、絶対にみんなには秘密にする。
だから、また事件が起きたら手伝ってくれ』
「じゃあ、名前を決めようよ。あたしたちの名前!」
「名前? 急にそんなこと言われても……」
「あっ、ぼくいいアイディアあるよ!」
健太はふっふっふ、と含み笑いすると、大きく胸を張った。
「世界一のメンバーが集まった──その名も、〈世界一クラブ〉!」
「いいじゃん!」
すみれとクリスが、ふんぞり返る健太に向かって小さく拍手する。
へえ。
「世界一クラブ、か」
光一はページを破りとって、和馬への手紙を最初から読みなおす。
最後に、もう一文だけ書きたした。
『世界一クラブのメンバーとして、これからもよろしく。 光一』
作戦終了
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「あ~、おもしろかった~~!」ってキミへ!
「世界一クラブ」はどの巻からでも読めちゃうので、
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『世界一クラブ 忍びの試練でタワー爆破!?』もお楽しみに!
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