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第3回 『サキヨミ!⑬ 二人の絆に試練のとき!?』|完結巻発売記念★特別ためし読み連載!

10 迷いと決意


「あっ、小夜ちゃーん!」

 とつぜん耳に飛びこんできた声に、びくっと体が震えた。

(小夜って、遠野先輩? それに今の声って……)

 どこかで聞いたことのある声だった。階段を下り、声が聞こえた二階の廊下をそっと見やる。

 すると、朝海先輩が遠野先輩に駆けよっていくのが見えた。そっか、朝海先輩の声だったんだ。

 こちらをふりかえる遠野先輩に、あわてて体をひっこめる。

 彼女の顔を見たとたん、胸が締めつけられるように息苦しくなった。

「どうしたの。何か、めんどうごと?」

 それは、初めて聞いた遠野先輩の声だった。冷たい印象とはうらはらな、かわいらしい声。

「もうすぐ完全下校時間だから、朝海にかまってる暇はないんだけど」

「ひどいなあ。ちょっと、最終確認したかったんだよ。明日の、あれのこと」

「さっき、チャットで送ったでしょう。見てないの?」

「あれ、ほんと? 見てなかったよ」

「しっかりしてよね」

 遠野先輩の声を聞くたびに、ずきずきと胸がうずく。

「ていうか小夜ちゃん、ちょっと疲れてるんじゃない? なんか顔色悪いけど」

 その言葉に、顔を上げて遠野先輩を見る。たしかにちょっと、唇の色が薄いように感じる。

「べつに、平気。それより明日に備えて、ちゃんと段取りを確認しておいて」

「はいはい、オッケーだよ」

(……もう、行こう)

 そう思って、背を向けようとしたとき。

 ──じじじ……。

 はっと、足を止める。

(まさか、遠野先輩のサキヨミ……!?)

 おどろきととまどいの中、視界が変化した。

 そのサキヨミは、映像というよりまるで写真だった。


 ──ベッドで寝ている、制服姿の遠野先輩。後ろには白いカーテンが引かれていて、身長計が置かれているのが見える。──


 まばたきをすると、目の前が元の風景に戻った。

 あれは、学校の保健室だ。

 一瞬だったけど、制服は冬服だったし、髪の長さやスタイルも今の遠野先輩とほとんど変わっていないように見えた。ということは、近い未来のことなのかもしれない。

(でも……)

 正直、そこまで危険度が大きいサキヨミじゃない……よね。

 大怪我をしているようには見えなかったし、保健室にいるってことは、近くに保健の先生もいるはずだし。

 そのとき、朝海先輩の声が耳に届いた。

「もう仕事終わりなんでしょ? ひさびさにいろいろ話したいし、いっしょに帰らない?」

「……べつに、いいけど」

「おっ、やったあ!」

 カバンを持った二人がこちらに向かってくるのが見えて、私はあわてて階段を下りた。

 昇降口で急いで靴にはきかえて、なんとなくポーチの柱の陰に身を隠す。

「明日楽しみだねえ、小夜ちゃん。部活の演奏に参加できないのは残念だけどさ」

「まだ、定期演奏会があるでしょ」

 ならんで歩いていく二人を見て、私は静かに息をついた。

(今から帰るってことは、あのサキヨミは今日のことじゃないのかな)

 もしそうだとしても、朝海先輩がいっしょだから、大丈夫だよね。

 私はひとり、校門に向かって歩き出した。空には、どんよりとした厚い雲が広がっている。

 ふと、サキヨミで見た光景が頭に浮かんだ。あの保健室は、白がまぶしいほどに明るかった。もっと天気のいい日の、早い時間帯のことなのかもしれない。

(そういえば、今朝見た天気予報、「明日は晴れ」って言ってたっけ)

 はっとして、足が止まる。

 さっきのサキヨミが、もし、明日起こることだったとしたら?

 明日は、三年生を送る会の当日。

 遠野先輩が保健室で寝ていたことは、瀧島君が責められている未来と何か関係があるのかもしれない。

 もしかして、遠野先輩……送る会の途中で、倒れちゃう?

 それが原因で現場が混乱して、瀧島君がミスをしてしまう、とか?

 とたんに、背筋がぞっとした。

 正直、さっきまでは、べつに積極的に動かなくてもいいんじゃないかって思ってしまってた。このまま、現実になっちゃってもいいんじゃないかって。

 だけど、だめだ。それじゃあ、サキヨミを見ても怖がって何もしなかった、以前の私──瀧島君と会う前の私と、同じになってしまう。

 私は、サキヨミを見たら、相手がどんな人でも助けるって決めたんだ。

 それが瀧島君のことを好きな人でも、それが原因で瀧島君に意地悪をしているかもしれない人でも、関係ない。

 いくら危険度が小さくったって、サキヨミで見えたってことには、絶対に何か意味があるんだ。何もしないで何か起きてしまったら、たとえそこに瀧島君が関係してなくても、絶対に後悔する。

 そうだ。動かなきゃ。何か、しなくちゃ。

(といっても、どうしよう……)

「倒れないように栄養をつけてたっぷり休んでください」なんて直接言ったところで、あやしまれるだけだよね。

 瀧島君の顔がうかんで、あわてて首をふる。

 しばらくの間、サキヨミのことはひとりでやるって決めたじゃない。

 それに何より、これ以上遠野先輩のことで頭をなやませてほしくない。

(そうなると……「あれ」しかない、のかな)

 急いで家に帰り、クローゼットを開ける。紙袋に入ったミミふわの衣装を取り出し、スマホのチャットアプリを開く。

 瀧島君が送ってくれた、雪うさチャンネルのIDとパスワード。

 それを使って、動画サイトのアカウントにログインする。「マイチャンネル」の欄に、二週間ほど更新が止まったままの「雪うさの未来チャンネル」が表示されていた。

 必要なものは、ぜんぶそろってる。

(まずは、着がえて……あれ、動画って、どうやって撮るんだっけ?)

 今は家に私ひとりだけど、早くしないとシュウやお母さんが帰ってきてしまう。

 とにかく、考えるのは後!

 まずはミミふわに変身して、遠野先輩への「占い」動画を撮るんだ!


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