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第4回 『サキヨミ!⑫ 大事件!?伝える気持ちとオドロキの真実』|完結巻発売記念★特別ためし読み連載!

14 真相


「そういえば。深谷先輩は、どうしてクラッカーを持ってたんだろう?」

 私が言うと、夕実ちゃんが「それはね」と説明してくれた。

 レイラ先輩から受けたサプライズのお返しとして、合格祝いのときに使おうと買ったものだったんだって。

 レイラ先輩が深谷先輩を追いかけたことが、ひったくりを目撃することにつながって。

 深谷先輩がレイラ先輩のためにクラッカーを買ったことが、ひったくりをつかまえることにつながった。

 あの二人のおたがいを思う気持ちが、私の見た未来を大きく変えたんだ……!

「僕がサキヨミで見たレイラ先輩の未来も、変わったと思いますよ」

 瀧島君が言う。「深谷先輩に告白される」っていうサキヨミのことだ。

「深谷先輩は、レイラ先輩の気持ちに答えようとしていたってことだよね。金曜も、今日も……そして、瀧島君が見た未来でも」

「美羽の言う通りだろうな。レイラ先輩にとって、深谷先輩からの告白がなんで『よくない未来』だったのかもわかった気がする」

「えっ、チバ先輩、ほんとですか? 教えてください!」

 夕実ちゃんに言われ、チバ先輩がレイラ先輩たちのほうを見やった。

「レイラ先輩としてはそんなつもりじゃなかったのに、合格祝いのカードを告白だとカン違いさせてしまったわけだろ。そのことに対するとまどいと、申し訳なさと、後悔と……そんな気持ちが、あの未来を『よくないもの』にしていたんじゃねえかな」

「そうですね。僕も、そう思います」

 瀧島君が言うと、叶井先輩もうなずいた。

「なるほど、そういうことか……」

「でも……うれしいって気持ちは、なかったのかなぁ……」

 夕実ちゃんが、悲しそうに眉を下げる。私は、そっと夕実ちゃんのとなりに立った。

「きっと、うれしさもあったと思うよ。でも、告白するのって、すごく勇気が必要なことだから。深谷先輩に告白させてしまって、『とんでもないことをしちゃった』って思ったんじゃないかな」

「レイラ先輩は、優しい人だからね。深谷先輩のことだって、絶対に大事に思ってるはずだ」

 瀧島君も、そう言ってほほえみかける。すると、夕実ちゃんがほわりと笑顔になった。

「そうだよね! きっとあの二人、うまくいくよね。雨宮さんに立ち向かった深谷先輩、すごくかっこよかったし。そもそもレイラ先輩、深谷先輩の顔を見て留学するのやめようって思ったわけでしょ? それってもう、自覚はないかもだけど、相当大事に思ってるってことだよね」

「おお、なるほど! 夕実、さすがだな」

「今日のことがきっかけで、レイラ先輩も深谷先輩のこと、異性として意識し始めるかもしれねえな」

 チバ先輩がうれしそうに目を細めた。

 たしかに。あの二人にとって、今日のできごとはすごく意味のあるものになったかもしれない。

「さて、深谷先輩や手紙の件は、これでスッキリと解決したな。次は、回収箱とクッキー事件の真相を解決せねば」

 叶井先輩が言うと、チバ先輩が「ああ!」と目を見開いた。

「忘れてた。あのクッキー、すみれからだったんだ」

「「「「え?」」」」

 チバ先輩以外の全員の声が重なった。意外な人物の名前に、しばらくの間ぽかんとしてしまう。

「すみれって……演劇部の佐藤さんのことか?」

「そうだよ、ヒサシ君! チバ先輩、すみれちゃんと仲よかったんですか?」

 夕実ちゃんがたずねると、チバ先輩は「あー……」と目をそらした。

「去年、帰りがいっしょになったことがあってな。ミミふわのこととか、漫画の話で盛り上がったんだよ。それから連絡取り合うようになったんだ」

「えっ、ミミふわ?」

 思わず言うと、チバ先輩は少しあわてたように、

「美羽のことじゃねえからな。あくまで、『ミミふわ』の話だ」

 声を落としてそう言った。

 そういえばすみれちゃんもチバ先輩も、ミミふわのファンなんだよね。

 二人が連絡を取り合う仲だったなんて、ぜんぜん知らなかった。すみれちゃんからチバ先輩の話、聞いたことなかったから。

「金曜の夜、『クッキーどうでした?』ってチャットですみれから連絡があったんだ。咲田先輩が差し入れで持ってきたクッキーがおいしかったから、レシピを聞いて自分でも作ってみたんだってよ」

「佐藤さんは、チバがくるみアレルギーであることは知らなかったのか?」

「ああ。アレルギーのことを伝えたら、すぐに電話がかかってきて謝られた。今度、くるみの入っていないクッキーを作ってくれるらしい。ちなみにあのクッキーは、兄が全部たいらげた」

「クッキーには、送り主がわかるようなものは何もついていませんでしたよね。佐藤さん、サプライズのつもりだったんでしょうか」

 瀧島君の問いかけに、チバ先輩は首をふった。

「いや、電話の後で改めてカバンを見たら、底からすみれの名前が書かれたメモ用紙が出てきた。マスキングテープで貼ってあったのが、はがれちまったみたいだな」

 さらに聞くと、すみれちゃんはあの日、図書委員の仕事を終えて帰ろうとしたところで、私たちが階段を下りるところを目撃したんだって。手紙で呼び出されたチバ先輩を見に行こうって、みんなで昇降口に向かったあのときだ。

 それで美術室をのぞいたらだれもいなかったから、ちょうどいいと思ってチバ先輩のカバンにクッキーを入れたということだった。

「本当はオレの靴箱に入れようと思ったらしいけど、食べ物だからカバンのほうがいいと思ったんだってよ。そんでその後、また図書室に寄ってから東階段を使って帰ったらしい。だから昇降口でも会わなかったし、美術室に戻るときも階段ですれ違わなかったんだ」

(うわあ……! そういうことだったんだ)

 あのとき私たちが使ったのは、校舎の中央にある階段だ。東階段を使ったすみれちゃんと、すれ違うはずなかったんだ。

 よかった。やっぱり、いやがらせなんかじゃなかったんだ。

 たまたまくるみが使われていたから、もしかしたら悪意なのかもって一度は思っちゃったけど。

 それは、単なる偶然だった。真相は、仲良しのすみれちゃんからのプレゼントだったんだ。

「な、なんと人騒がせな……! あのときおまえがカバンの中をもっとよく見ておけば、あんな大事にならずにすんだのに!」

「いやむしろ大事にしたのはオマエだろ、叶井」

「あ、あの! そのメモ用紙、なんて書かれてたんですか?」

 夕実ちゃんが興味しんしんな瞳でたずねる。

「えーと……『チョコは持ち込み禁止ですが、クッキーは禁止されていないので。よかったら食べてください』……だったかな」

(えっ!? それって……!)

 バレンタインチョコのかわり……ってこと!?

 思わず夕実ちゃんと目を見合わせ、うなずき合う。

「よかったですね、チバ先輩。うれしかったんじゃないですか?」

 瀧島君がほほえみながら言う。

「ん? まあ、真相がわかってスッキリしたし、またクッキーを作ってもらえるっていう楽しみができたからな」

「しかし、回収箱のナゾはまだ残っているというわけだな」

 叶井先輩のメガネがきらりと光った。

「よし! 明日からの調査に向けて、今日は英気を養うぞ! カラオケだ!」

「「えっ」」

 瀧島君と私の声が重なった。

 瀧島君に、カラオケはまずい。前に、瀧島君が歌とは思えない音波を発する、地獄みたいなサキヨミを見たことがあるんだ。

「……すみません。僕はカラオケ苦手なので、遠慮します」

「あっ、えっと、私も……!」

 とたんに顔色の悪くなった瀧島君とともに、じりじりと後ずさる。

「えーなんで? せっかくだから行こうよ、二人とも!」

「苦手なら、べつにムリして歌わなくていいぞ」

 夕実ちゃんとチバ先輩に言われるも、二人でぶんぶんと首をふる。

「いえ! みなさんで、楽しんでください!」

「じゃあ、僕たちはこれで」

 そう言って、瀧島君と私は夕実ちゃんたちに手をふって小走りに歩き出した。

「あっ、美羽ちゃーん!」

 呼びかける夕実ちゃんに向かって、笑顔でもう一度手をふる。

「如月さん、ごめん。付き合わせちゃって」

「えっ、いいんだよ! 私、カラオケ行ったことないから、よくわからないし。それに、瀧島君といっしょにいるほうが……」

 はっとして、言葉を止める。みるみる顔が熱くなってくるのを感じて、あわてて視線をそらした。

「そ、そういえば、コロッケ! お肉屋さんのコロッケ、食べる?」

 言いながら、さっきたこ焼きを食べたばかりだったことを思い出す。まずい、食いしん坊だと思われちゃうかも……!

 けれど瀧島君のほうから、「そうだった!」とうれしそうな声が聞こえた。

「コロッケがあるって、さっき言ってたよね。実は、如月さんといっしょに食べたいなって、前から思ってたんだよ」

「えっ、前から?」

「ほら、行こう」

 瀧島君の言葉について考える間もなく、手をつかまれる。

 少し遠慮がちなその手の感触を味わいながら、私は声も出せずにうなずいた。


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