
私、如月美羽は、未来が見える「サキヨミ」の力を持っているーーー!
角川つばさ文庫の大人気・学園ラブミステリー「サキヨミ!」シリーズが、6月11日発売予定の第15巻でついに完結! 発売を記念して、クライマックスにつづく11巻~14巻を大公開します! 期間限定でまるごと読めちゃう、このチャンスをお見逃しなく★
(公開期限:2025年7月25日(金)23:59まで)
※これまでのお話はコチラから
9 喫茶店で~ヒサシ君とチバ先輩と私~
「──だから、まずは夏休みをどう使うかがカギになる。それまでに苦手な部分をつぶしておくのも非常に大事だ」
そう言うと、深谷先輩はクリームソーダのアイスをていねいにすくって口に運んだ。
私・沢辺夕実は、ヒサシ君とチバ先輩、そして深谷先輩とともに、喫茶店のボックス席にいた。商店街の通りに面する窓ぎわの席で、チバ先輩とヒサシ君が窓側、深谷先輩と私が通路側に座っている。
(……レイラ先輩たちが、外を通りませんように……!)
本当は、もっと奥のほうの席がよかったんだけど。
ちょうどお店が混んできたところで、窓ぎわの席しか空いてなかったんだ。
「なるほど。夏は受験の天王山と言うのは本当なんですね」
「天王山?」
ヒサシ君の言葉に思わず首をかしげる。
「『山崎の戦い』があった場所のことだ。豊臣秀吉が明智光秀を破った戦いなんだが、天王山を占領したことが秀吉の勝利の決め手になった。つまり、運命の大事な分かれ目って意味だな」
「へえ! チバ先輩、さすがですね」
「ちなみにおれも知っていたからな、夕実」
そう言うヒサシ君の手元には、チョコレートケーキの載ったお皿。
どうせチョコなら、私の作ったトリュフを食べてもらいたかったなあ。
ヒサシ君の家を出るとき、おばあちゃんの許可をもらって、美羽ちゃんのチョコと私のチョコ、急いで冷蔵庫にしまってきたんだけど。
私はともかく、美羽ちゃんは今日じゅうに、瀧島君に渡せるかな。
フレンチトーストをナイフで切りながら、いやいや! と心の中で首をふる。
(今は、レイラ先輩のことが最優先なんだから。チョコやバレンタインのことは、今日が無事に終わってから考えればいいよね)
バレンタインは、来年もあるし。美羽ちゃんだって、バレンタインを利用しなくっても、いくらでも瀧島君に思いを伝えるチャンスはある。
(……でも……心配だなあ)
美羽ちゃんの「気持ちを伝えたい」っていう思いはすっごく尊いし、めちゃくちゃ応援したいけど。
かんじんの瀧島君のほうが、何を考えてるのかよくわからないんだよね。
瀧島君、絶対に美羽ちゃんのことが好きなんだって思ってたんだけどなぁ。
だいたい、「好きだった」って、何なのソレ。はっきりしろって問いつめたいけど、私がよけいなことして変にこじれちゃったら大変だし。
ううーん。美羽ちゃんと瀧島君がうまくいく、魔法の方法はないものかなあ。
「そういえば。深谷先輩、レイラ先輩の勉強も見てたらしいっすね」
チーズケーキをむしゃむしゃと食べながら、チバ先輩がたずねた。
「ほんと、仲いいっすよね。そうそう、前の書記から聞いたんすけど、深谷先輩の誕生日にレイラ先輩が生徒会室で待ち伏せしてたって話、ほんとっすか?」
「えっ? なんですか、それ!?」
「待ち伏せとは!? くわしく!」
思わず身を乗り出した私とヒサシ君を前に、深谷先輩は少しあきれたような笑みを浮かべた。
「本当だ。瀬戸はキャビネットの陰に隠れて、おれが部屋に入ると同時にクラッカーを鳴らしたんだ。おどろきすぎて、心臓が止まるかと思ったな」
うわあ。レイラ先輩らしい!
「いつか仕返しをしてやろうと思っていたが、その機会がないままここまで来てしまった。さっき雑貨屋の店先でクラッカーを見つけて、一応買ってはみたんだがな」
「せっかく買ったんなら、使いましょうよ! レイラ先輩の誕生日、来月っすよ。そのときにどうです? もしくは、合格祝いでもいいっすね」
「いい案だ、チバ。その際にはおれたちも協力しますよ、深谷先輩」
「レイラ先輩、おどろくだろうけど、きっと笑って喜びますよ!」
「なるほど。誕生日もいいが、合格祝いというのもいいな。無事に受かってくれればいいんだが」
「深谷先輩に勉強を教えてもらって、かなり成績が伸びたって聞いたっすけどね」
「そうだな。おそらく、大丈夫だとは思うんだが……最近、たまに瀬戸らしくない表情を見せることがあるから、気になっているんだ」
「レイラ先輩らしくない……と言いますと?」
ヒサシ君がたずねる。
「ふとひとりになったときなんかに、唇を引き結んで、こう……何かを考えこむような顔をしていることが、何度かあった」
そう言いながら、深谷先輩は眉間にシワを寄せた。どうやら、レイラ先輩の表情を再現してるつもりらしい。
「はじめは、あの瀬戸でもさすがに試験前は緊張するのだなと、ほほえましく思っていたが……今は、どうも受験とは違うことでなやんでいるのではないかと思うようになった」
「違うこと、ですか? それって、たとえば…………恋愛、とか?」
言ってから、しまったと思う。
深谷先輩のスプーンを持つ手が、ぴたっと止まったんだ。
「やはり……そうなんだろうか」
「やはりって、何か心当たりでもあるんすか?」
「いや……心当たり、というか……」
深谷先輩の顔が、みるみる赤くなってくる。えっ、何なにっ!?
そのとき。ヒザの上に載せていたスマホが、ぶるぶるっと震えた。──美羽ちゃんからのメッセージだ!
深谷先輩は、口をつぐんでうつむいてしまっている。私はスマホを手に取り、チャットアプリを開いた。
(……えっ!? 男の人を、見失った!?)
しかも、「見つけ次第連れていく」って電話で言ってたって……いったい、どういうこと!?
あの人、レイラ先輩の彼氏じゃなかったのかな。
「連れていく」って……もしかして、私たちが考えている以上のキケンが、レイラ先輩にせまっているのかも!
あわてて、となりのヒサシ君のヒザをつっつく。そうしてスマホの画面を見せ、美羽ちゃんからのメッセージをこっそりと読ませた。
「……おい、チバ。少し、いいか?」
ヒサシ君が、席を立とうと腰を浮かせた。そのとき、
「──君たち、月夜見中の美術部員だよね?」
そう声をかけてきたのは、私たちの席を見下ろすように立っている男性だった。
なみなみパーマに、全身真っ黒くろ。
それはまさしく、レイラ先輩といっしょにいた、あの男の人だった。