
男子にも女子にも大人気のシリーズといえば、これ!2人1組の正義の怪盗――「怪盗レッド」をやっている、アスカとケイの物語。最新28巻を、ためし読み!(この巻からでも読めるよ!)今回は、レッドの強敵である、有名な高校生探偵・白里響が、フェイク動画によっておとしいれられて、これまでつみあげてきた実績や信頼を、一気にうばわれてしまう――というショッキングな事件からスタート。いますぐGO!
(全3回、公開は2025年11月30日(日)まで)
3 たのもしきガーディアンたち
わたしは最大速度で階段をかけおりて、1年生の教室にむかう。
もちろん、人にぶつかったりなんかしない。
もしかしたら、みんなの目に留まることさえなかったかもね。──でも。
1階のろう下に出たとたん、わたしは、そこにいる人の多さに目を見ひらいた。
放課後だっていうのに、1年生の教室前のろう下は、生徒であふれかえっていたんだ。
「このクラスでしょ? 白里響の妹がいるのって」
「通してください、新聞部です! 白里響探偵の妹さんに、お話をききたいんですが!」
「あの動画って本当かな? 妹なら知ってるよね?」
奏(かなで)の教室のドアのまわりに、20人ぐらいが殺到している。
あの響の動画を見て集まった生徒たちだよね。
「だ、だから、奏はいませんって!」
「それに、奏は……っ」
ドアの前に立ちふさがっているのは、わたしも知っている顔だった。
奏の友だちの、たしか、佐緒里(さおり)と志野(しの)だ。
2人とは以前、奏を通して知りあって、何度か話したことがある。
「佐緒里っ、志野っ!」
わたしはかけていって、人垣のうしろから2人に声をかける。
「「アスカ先輩!」」
2人が泣きそうな顔で、わたしを見る。
「あれ、アスカじゃん!」「アスカ先輩だ!」
「紅月さんも白里探偵のこときいてきたの?」
教室のドアの前に集まっていた生徒たちも、いっせいにわたしのほうをむく。
さすがにその人数のいきおいに、わたしも一歩あとずさる。
「ちょ、ちょっと、落ちついて、みんな……!」
わたしは、両手を広げて伝える。
でも、ぜんぜん伝わっている気配がない。ど、どうしよ……。
「佐緒里、いま、どうなってる?」
わたしは、あとずさりながらきく。
「あの、放課後になって、少ししたら、こんな感じで、どんどん人が集まってきちゃって……」
「たぶん、動画のことだと思うんです」
佐緒里と志野が答える。
みんな、動画を見て、奏の様子を見にきたのにまちがいないよね。
それぞれに悪気はないのかもしれないけど……。
キュッと、わたしはくちびるをかむ。
「奏はっ!?」
「動画を見たとたん、走って帰っていきましたっ」
「そっか……」
じゃあ、ひとまず安心だ。
こんなところ、奏にいてほしくないし、見せたくない。
なにより、ここに奏がいたら、収拾がつかなくなっちゃうかもしれない。
「とにかく、この場をどうにかしないと」
わたしは、あとずさる足を止めて、その場にすくっと立つ。
集まる生徒たちのほうを、まっすぐに見わたした。
「みんな! 奏はもう帰ったし、いたとしても、教室に押しかけたりしないでほしいんだ!」
伝えて、帰ってもらうしかない。
「でも、なにか事情をきいてたりしないか、知りたいじゃない」
「アスカ先輩も、あの動画を見たんですか?」
「あれって本当だと思う?」
「アスカ先輩って、白里探偵と会ったことありますか?」
生徒たちが、わたしにどんどん詰め寄ってくる。
いつもなら、こんなふうに遠慮なしの行動をとる生徒なんて、あんまりいない。
それがこうなってしまっているのも、それだけ響の動画のことが、みんなにとってショックだったってことかもしれない。
名探偵白里響って、ずっと前からの有名人だしね。
たぶん、響を応援していたり、好きだったりする子もいるだろう。
この学園の1年生に、妹の奏がいるっていうことも、知られていたし。
奏がいないことがわかって、みんなの好奇心の矛先が、わたしにむいてる。
それはかまわないけど、さわぎをおさめないと、身動きがとれない。
わたしがここで逃げたら、また佐緒里と志野のところにいくかもしれないし。
どうしよう……。わたしがこまっていると――
「なにを集まっている!」
男子の鋭い大きな声がした。
ろう下が一瞬にして静まりかえり、声がした方向に自然とみんなの目がむく。
そこに立っていたのは、1人の女子と1人の男子。
女子のほうが、口を開く。
「生徒会長の氷室(ひむろ)です。教室に押しかけるような行動はひかえてください。相手がどんな気持ちか、よく考えてください。我が校の生徒のみなさんには、それができるはずです」
きっぱりとした声は、実咲(みさき)だった。
となりにいるのは、副生徒会長の中小路(なかこうじ)先輩。
最初の一喝は、中小路先輩のものだったみたい。

「でも……」
「白里探偵のことが気になって……」
集まった生徒たちは、納得いかなそうにしている。
中小路先輩は、集まった生徒たちをジロリとにらむ。
「もし納得がいかないというなら、おれが生徒会室で、その話に付き合ってやる。いますぐいっしょにこい」
中小路先輩に言われて、集まっていた生徒たちが、1人また1人とその場をはなれていく。
何十人もいた生徒が、あっという間にその場からいなくなっていた。
中小路先輩がため息をつく。
「まったく。『好奇心は猫をもころす』という言葉も知らないのか。うちの生徒たちなのに、なげかわしいかぎりだ」
中小路先輩が、難しい言葉を使っている。
でも、この状態を止めなきゃいけないってことで、意見は一致してるんだよね? それに……。
「実咲!」
わたしは、中小路先輩のとなりにいる実咲にかけよる。
「アスカ、ここにいたの。中1の教室に生徒たちが押しよせてるってきいて、あわててきたの。それで、白里さんは?」
「動画を見て、すぐに帰ったって」
「そう……心配だね」
実咲は奏とも、よく話してた。
「話す」っていうか、だいたい奏が実咲にいろいろ注意されていたみたいだけど。
でも仲がよさそうだった。
──ちょうど、去年のわたしと詩織(しおり)会長みたいに。
だから、実咲も、とくに奏を気にかけるところがあるのかも。
響のことは気にかかるけど、奏が思いつめちゃわないかも心配だよね。
学校はこんな状態だし。
「しばらくは、学校でもさわがれちゃうかもしれない……生徒会も注意を呼びかけるけど」
「うん、心強いよ」
実咲が、生徒会長が言ってくれるなら、生徒たちも無茶なことはしないと思う。
「生徒の身を守ることも、生徒会の役割だからね」
中小路先輩が、腕を組んで言う。
実咲が、佐緒里と志野に目をむけて、
「あっ、2人もね。クラスメイトとして、奏のために、なにかこまったことがあったら、生徒会に声をかけてね。わたしに直接でもいいから」
「「はい!」」
2人はうれしそうに、顔をほころばす。
さっきから、ずっと心配でしかたないって暗い顔をしていたから、よかった。
学校の中に、たのもしい味方がいるとわかって、ほっとしたのかも。
「じゃあ、わたしたちはいくね」
「うん、また明日!」
実咲が言って、ろう下をもどっていく。
わたしは、佐緒里と志野にむきなおる。
「アスカ先輩っ、きてくれて、ありがとうございました!」
「わたしたち、どうしたらいいか泣きそうだったので、すごく心強かったです」
佐緒里と志野が、それぞれにお礼を言う。
「わたしは、なんにもしてないよ。2人が奏の友だちでいてくれてよかった。これからも、奏のことよろしくね。一番近くにいてあげられるのは、2人だから」
「はいっ!」「まかせてください」
佐緒里と志野の力強い返事をきいて、いそいで家に帰ることにした。
奏の家にいこうかとも思ったけれど、まずはケイに話をきくのが先だよね。
なにがどうなっているのか、ケイなら、なにかつかんでいるかもしれないから。
4 フェイク動画は危なすぎ!?
家に帰って、手洗いとうがいをすませ、すぐに部屋にいく。
「ケイ! 響の動画、見た!?」
部屋に入るなり、開口一番、わたしは声をかける。
ケイはいつものように、パソコンにむかっていて、見えるのはケイの背中だ。
「いま、調べている」
ケイはふり返らずに答える。
その間も、キーボードの上を目にも留まらぬ速さでケイの指は動きつづけている。
ケイの「いつもと同じ」様子に──かばんをおきながら、わたしの心も落ちつく気がする。
そうだ……わたしまであわててたって、しょうがないんだ。
わたしは、ベッドのはしにすわると、ケイのほうに視線をむける。
「わかっていることを教えて。あの動画は、なに? まるで響にしか見えないけど」
「ぼくにも、あの動画に映っているのは、白里響に見えた」
ケイが冷静な声で答える。
「でも! 響があんなことするわけないよ! でしょ!?」
わたしは、思わずベッドから腰をうかす。
「決めつけるのは、よくない」
えっ!?
すると、ケイはくるりと椅子を回して、こちらを見た。
その目は静かで、いつものケイだ。
「─――――─が、ぼくもアスカと同意見だ。あの白里響が、偽の犯人を仕立てあげるとは。あいつには、そんなことをする理由も、必要性もない」
ケイがつづけた言葉に、わたしはほっと息をつく。
わたしと同じ考えで、よかったよ。
「だよね。なら、あの動画は、偽物?」
「本物と見まちがうような動画をつくることは、不可能じゃない。しかも、AIによって、それがより手軽になった」
「エーアイって……あの、映画とかマンガとかに出てきたりする、人工知能だよね」
「スマホにも入っているだろう」
「あ、それもあった。そのAIで、あんな動画をつくれるの?」
言われて思いだした。
そういえば、わたしの持っているスマホにも、今日の天気を教えてくれたり、道案内してくれる機能がある。
あれもAIだね。
「すべてのAIが、動画をつくれるわけじゃない。ただ、フェイク動画をつくることができるAIがあることは、たしかだ」
「フェイク動画……」
「AIを使ってつくった、偽の動画のことを、ディープフェイクと言うんだ。たとえば、写真をAIに読みこませれば、その写真に写っている人を、動画のように動かすことができたりする。それも、たったの数分で」
えっ……。
「そんなの……だれでもフェイク動画がつくり放題じゃん!」
なんだか、世界がぐるっとゆがんだ気がしちゃう。
いままで考えてきた「証拠」──写真を見たとか、動画を見たってことも、それが本当かわからないってことにならない?
「世間で見かけるディープフェイクは、動画でも写真でも、よく見れば違和感があることが多い。といっても、ほんのわずかなものだけど。出来がいいものなら、なにも情報がなければ、たいていの人はだまされる」
「じゃあ、今回の響の動画も!?」
「おそらくフェイクだ」
「なら、みんなの中にも、違和感を覚える人がいるんじゃない……って、あれ? わたし、ぜんぜん気づかなかった……」
さっき、ケイだって「映っているのは、白里響に見えた」って言ってたよね。
っていうことは……。
「白里響の動画を解析して、違和感を探している。が、いまのところ出てこない」
「違和感がないって……」
「いまのところ、この動画がフェイクであることを客観的に示す根拠は、見あたらない。だからこそだれにも疑われず、ここまで動画が広まったし、信じられてもいるんだろう」
「それでも、これは響じゃないよっ!」
わたしは、響を知ってる。
偽物だって、絶対に、言いきれるっ!
「──ああ。そうだな。ぼくらは白里響を知っている。だから、証拠がない状態でも、白里響を信じ、動画を疑うことができる。しかし、ほとんどの人にとって、白里響はその名前だけ、またはテレビの映像で見てきただけの人間だ。彼の人となりだって、表面的にしか知らない。そんなことをする人間だったのか、裏切られた──と考えるだろう」
「そんな……!」
そんなの、ひどすぎるじゃない!
しかも、写真1枚から映像がつくれるなら、だれだって、そのターゲットにされる可能性があるんでしょ?
こわすぎるよ!
「─――─わからないんだ」
ケイが考えこむ顔をする。
「わからないって、なにが?」
「これほどのフェイク動画は、かんたんにつくることはできない。完成度が高すぎるんだ。それに、動画の中で白里響と話しているのは、長崎の事件で捕まった犯人本人だ。だが、警察からは、事件の情報は『逮捕された』ということていどで、顔写真さえ出ていなかった。それが……1日もかからずにこんなフェイク動画がつくられているというのは……早すぎる」
「それって……つまりどういうこと?」
「この動画の制作者は、信じられないほど完成度の高いフェイク動画を、恐るべきスピードでつくることができる。そして、一般には知られていない情報を手に入れることができる。この2つの『ふつうではありえないこと』をしているんだ。それだけのことができる人間が、だれなのか。なんの目的で、白里響のフェイク動画をつくったのか。……それが、わからない」
「目的、かぁ……」
どんな目的があるのかまでは、考えてもみなかった。
響をこまらせたい……?
響にいやがらせをしたい……?
そんな単純な理由にしては、大がかりすぎるってことだよね。
「響自身は、なにも言ってないの?」
「とくになにも反応していない。白里響はSNSのアカウントなどは持っていないから、なにか発信するにしても、警察からの発表や記者会見になるかもしれない」
ああもう、そんなの待っていられないよ!
「やっぱりわたし、直接、奏の家にいく!」
奏にきけば、なにか手がかりがつかめるかもしれないし。
「やめたほうがいい」
ケイが小さく首を横にふった。
「えっ、どうして? たしかに、いまいったら迷惑かな、とは思うけど……」
「そうじゃない。これだけ動画が拡散されれば、白里響の家のまわりはマスコミだらけだろう。いまいけば、関係者だと思われて、かこまれることになる」
うっ……たしかに。
もうこれだけ広まってるし、響の家は警視総監の家でもある。
マスコミには、場所がわかっちゃうんだよね?
「アスカがマスコミにかこまれても、白里奏が家から出てくることはできないだろう。彼女を苦しめるだけになる」
「そう……だね。うん、ケイの言うとおりだよ」
あせって、深く考えられてなかった。
でも、だったら、どうしたらいいんだろう?
奏や響の助けになりたいのに。
「……アスカ。リビングのテレビをつけてくれ」
ケイは、キーボードをたたく手を止めて、ふと顔を上げた。
声が、どこかかたくなってる気がする。
「どうしたの?」
いやな予感に、体がざわつく。
ケイはこちらを見ると、静かに言った。
「警視総監─――─白里弦(げん)が、緊急で会見をするそうだ」
第3回につづく(9月5日公開予定)
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