「やらなきゃいけないことって……林間学校の準備かよっ」
お天気神社にもどってすぐ、ハレくんは不満を爆発させた。
「なんでこんないっぱい、準備しなきゃいけないんだよ? 山の中を歩くだけなのに!」
「ハレくん、ちがうって。スタンプラリーとかキャンプファイヤーとか、自然の中でいろんなことをするんだよ。それも、お泊まりして!」
明日から、莉子ちゃんたちと二泊三日! 想像しただけで、わくわくするよ~。
「神さまだったころは、どこに行くにしたって、準備なんていらなかったのに」
「ハレ。どんなに文句を言ったって、今はぼくたちは人間の小学生なんだよ。せっかく空ちゃんが、準備の仕方を教えに来てくれてるんだから、ちゃんとして」
ハレくんたちは元・神さまたちだから、いろいろ分からないと思って。
神社の中にある、夜雲さんやハレくんたちが住んでいるお家で、いっしょに準備しているんだ。
「だいたいなあ、空に教わるっていうのも納得いかないんだよ。見てみろ、あのパンパンにふくらんだ荷物を!」
ハレくんが、わたしの二つの持ち物を指さす。
着替えとかが入っているお泊まり用かばんと、活動中に持ち歩くリュック。
「あれこれ迷って入れ過ぎてるのが想像できる。ぜんぜん参考にならねーよ」
「そんなに入れてないもんっ。上着が四着でしょー、帽子が三つでしょー、予備の髪留めが十個でしょー、ハンドクリームは匂いがちがうのを四個でしょー、夜みんなで遊ぶ用のトランプが三種類……ほら、入れすぎてないよ。どれも必要だよ」
「どこがだよっ。ぜったい、へらせるだろっ」
「たしかに、持ち歩くには、ちょっと重すぎるかもね……」
ガーンッ! アメくんまで……。やっぱり、へらさなきゃだめかな?
「おれは、そらりんの気持ち分かるよ!」
ふわふわのみどり色の髪の男の子――風の神さまのフウくんが明るく言う。
「どれを持って行こうかなあって迷うよね~。でもそういうときは、ぜんぶ持ってっちゃえばいいんだよ♪ ほらっ」
うれしそうに、リュックの中を見せてくれる。入っているのは……大量のお菓子?!
「フウくん、お菓子はこんなにいらないよ。ほかの必要な物が入れられない……」
「だって、クラスのみんなと、分け合いっこするって約束したもーん♪」
風の神さまらしいなあ、どんなときも『たのしい心』を忘れない。
「約束は分かるんだけど。お菓子は、先生たちが決めた金額の分しか持って行っちゃだめなの」
「そうだよ、フウ。空ちゃんの言うとおりに……あっ、でも」
アメくんの顔が、かなしげな表情に変わる。
「どのクラスも児童数は三十人前後で、みんなに平等に分けることを考えたら、足りないかも……。ぼく、先生たちと交渉してくるよ。食べられない子がいたら、かわいそうだから」
雨の神さまの『思いやる心』が、ここで出ちゃった⁈
「まったく。みんな、心配する点がちがうだろ」
わたしの後ろから、クールな声が飛ぶ。
むらさき色の髪に、メガネをかけた男の子――カミナリの神さまのライくんだ。
「お菓子よりもなによりも、林間学校はケガが心配だ。やっぱり、ばんそうこう百枚だけじゃ足りないな。包帯とガーゼ、消毒液、体温計……」
ライくん……。それじゃあ、保健の先生の荷物みたいだよ。
カミナリは『ドキドキする心』とつながっているから、うっかりドキッとしないように、いろいろ心配するのは分かるんだけど。
「……って、ライくん! それはなに?!」
リュックに、丸い太鼓を入れようとしているのを見て、びっくりする。ワンホールのケーキくらいの大きさはあるよ。
「なんで、太鼓を持って行くの? 林間学校には、ぜんぜん必要ないよ~」
「分かってる。だけど、俺には必要なんだ。これはむかし、カミナリを願ったお客からもらったお礼の品で、遠出をするときにはいつも、お守り代わりに持って行くんだ」
へぇ、そんなことがあったんだ。興味がわいて、じっくり太鼓を見てみる。
「きれいで高そうな太鼓だね。ていうか、太鼓がお礼の品ってすごいね」
「たぶん、カミナリの神さまは太鼓を持っているイメージが強いからだろ。使い道はないが、それでもうれしかった。カミナリはこわがられることはあっても、必要としてもらえることはめったにないからな……」
ほんとうにうれしそうに話してくれたけど、さいごは少しだけかなしげに目をふせた。
ライくんはべつに、カミナリでみんなをこわがらせたいわけじゃないんだけどなあ。
気持ちを考えると、ちょっと切なくなる。
「ねえ、ライくん。わたしも、その太鼓をさわってもいいかな」
「ああ、かまわない」
ライくんから太鼓を受けとろうとして、ふいに指先がふれた。
バチッ。
「うわっ、静電気! ごめんね」
「いや。これは、空のせいじゃなくて……もしかして」
とつぜん、ライくんが部屋をとび出した。