「向井たち、追いこされたじゃん!」
「マジかよ! すげー!」
「天川さん、がんばってー!」
フウくんの速さに引っ張られて、そのままゴール。
向井くんは、信じられないって顔で後からやってくる。
「負けた……ウソだろ……」
「ほんとうだし。約束どおり、そらりんのビリは取り消しってことで! そらりん、やったね」
フウくんと、両手でハイタッチする。
「フウくんのおかげだよ!」
「そらりんだって、前に進もうってがんばって、風をふかせたじゃん」
「わたしが? あれは、たまたまだよ」
「ううん。風も、気持ちで形が変わるんだよね。もうだめだーって気持ちが暗くなると、ふきあれちゃう。逆に、たのしくてわくわくした気持ちでいると、のってくれる。速く走るコツは、走ることをたのしんで、風を味方につけること! 風といっしょに走るんだよ」
「風といっしょに……」
「あっ、そうだ。これあげる!」
フウくんが、ズボンのポケットから、手づくりの金メダルをとりだす。ひょいっと、わたしの首にかけてくれる。
「うんうん。一位は似合わないって言ったけど、似合うじゃん!」
フウくんが、むじゃきに笑う。神さまっていうより、天使みたい。
わたしが言ったこと覚えてて、わざわざつくってくれたんだ……。
「フウくん、ありがとう。わたし、メダルをもらったの初めてだよ。一生だいじにする!」
ぎゅっと、むねに抱く。
そこに、ハレくんたちがかけつける。
「空、フウ。よく勝ったな。いい走りだった」
「だけど、本気の競争なんて、フウらしくないっていえばらしくなかったな」
「たしかに。じぶんから勝負を申しこんだって聞いたけど」
「だって、そらりんを泣かしたから」
頭のうしろで手を組んで、すねたような顔を見せる。
「そらりんが泣いてるのを見るなんて、いやだし……。おれ、そらりんにはいつも、元気でいてほしいからね!」
「うんっ、すごく元気出たよ。向井くんにムリって言われたときは、一位の目標をあきらめかけたけど……」
「なんだって? あいつ、そんなこと言ったのか?」
ハレくんの目が、きゅっとつり上がる。
「オレ、言い返してくる!」
「ストップ」
アメくんが、ハレくんの服をつかむ。
「リベンジは、フウがしたんだから。もう十分でしょ」
「オレの気持ちがおさまらないんだよ! 空の目標を、勝手にムリって決めつけやがって」
「ハレのその気持ちは分かるけれど、言い合っても時間のムダだと思うよ」
「くっ……」
ハレくんは歯を食いしばって、じっと考える。
しばらくして、ふぅーって息をはいた。
「たしかに、アメの言うとおりだ。それより、つぎの心の特訓に進むべきだな」
「えっ」
とつぜんの話に、ちょっと身がまえる。
「つぎの特訓って、なにするの?」
「それはもちろん――ひたすら走る練習だ」
「……へっ?」
もっと、修行? みたいなスゴいことするのかと思っちゃった。
「走る練習って、こんな体育の授業みたいな? それでいいの?」
「めちゃくちゃ、だいじなことだぞ。熱くなる心は、だれかに言われて、すぐ冷めるようじゃあ意味がない。だから、練習をがんばって、自信をつけていく。そして、熱くなる心を強くするんだ。だれになにを言われても、だいじょうぶだって思えるように。そして運動会の日、みんなの前で、空はやればできるってところを証明するんだ」
ハレくん……。
向井くんの言葉におこったのは、わたしを信じてくれているからなんだ。
「じつはな、練習の計画も立ててあるんだ」
ハレくんはポケットに手を入れて、一枚の紙をとりだす。
時間割りみたいな表に、びっしりスケジュールが書かれていた。
「練習時間がいっぱい! 朝と放課後と……土日は、一日中!?」
やっぱり、特訓ってたいへん!
「運動会まで時間ねーんだ。これくらい、がんばんなきゃいけないってことだよ」
「おれも見せて! うわっ、ぜんぜんたのしくない計画……」
「ハレの計画は、つめこみすぎなんだ。もっと休む時間を入れないと、体がもたない」
「そうだよ。空ちゃんは、ハレの体とはちがうんだから」
ほかのお天気男子からは、ブーイング。
でも、ハレくんはわたしのために考えてくれたし。それに……。
「だいじょうぶ。わたし、がんばる……がんばりたいの」
メダルをにぎりながら言う。
ムリとか、できないとか、そういう言葉に引っ張られるのはもうやめたい。
それよりも、わたしを信じてくれる人の言葉を信じてみたい。わたしは、できるって。
チャイムが鳴って、合同練習の時間が終わる。
「あ、莉子ちゃんのところに行かないと! わたし、さきに行くね」
莉子ちゃんが元気になっていたら、メダルを見せて、競争した話をしよう。
どんな顔するかな? びっくりするかな? なんだか、すごくたのしみ!
保健室まで、わたしは、あったかい風といっしょに走った。
第7回へつづく