「――けっきょく、なにを調べるかは決められなかったんだね」
「うん。わたしたちのグループだけ、話し合いのやり直し」
放課後。帰りながら、アメくんたちに、社会の時間に起きたことを話した。
アメくんはあきれた様子で、先頭を歩いているハレくんを呼んだ。
「ハレ、ちゃんとあやまったの?」
「なんであやまるんだよ。オレは悪くない」
「いや、悪いでしょ。いきなりケンカするんじゃなくて、ちゃんと話し合えばよかったのに。やっぱり、ぼくの特訓が必要かなあ」
「ほんっと、ハレハレってケンカするの好きだよねー。おれには分かんないや」
「だから言ったろ。ハレがちゃんと学校生活を送れるか疑問だって。いい証拠だ」
「あのなあ」
ハレくんは立ち止まって、ふり返る。不満そうに、ちょっとほおをふくらませている。
「オレは、柴のやり方に納得できなくて反対しただけだ。だいたいな、問題は空だ」
ふくれっ面の顔のまま、わたしを見る。
「どうして、途中であきらめたんだ? お前がなにか言おうとしていたの、オレは見てたぞ」
「そ、それは……」
がんばろうとしたけど、がんばりきれなかった。つい、柴くんにえんりょした。
わたしのこのくせって、もう直せないのかな……。
「空! 太陽くん!」
うしろから、莉子ちゃんの声が聞こえた。
ふり返ると、ランドセルをゆらしながら、こっちに向かってきている。
「莉子ちゃん! 帰ったんじゃなかったの?」
「どうしても言いたいことがあって……太陽くんに」
莉子ちゃんは息をととのえてから、まっすぐハレくんを見つめる。
「お前は……莉子か」
いきなり名前で呼ばれて、莉子ちゃんがびっくりする。
「小鳥遊莉子ちゃんだよ。いきなり、名前で呼んじゃだめだよ」
「空が、莉子莉子言うから、それでしか覚えられなくなったんだよ」
「あたしは、うれしいよ。太陽くんと仲よくなりたいし。今も、ありがとうって言いたくて来たから」
「「「「「えっ?」」」」」
わたしたちはそろって、声を上げる。
「柴くんに言ってたよね。転校生らしくってだれが決めたんだ。だれだって言いたいこと言って、なにが悪いって……。すっきりしたよ。あたしも転校生で、えんりょしてるところがあったから」
ハレくんはすぐに、アメくんたちを見た。
「今の、ちゃんと聞いたか? オレが、まちがったことを言ってなかった証拠だぞ」
「すぐ調子にのらない。……莉子ちゃん、だよね? ほんとうに、ハレは教室でめいわくをかけていない?」
「ぜんぜん。太陽くんが、クラスメイトになってくれてうれしい。でも、あんなことを言えるのって、ハレくんが、思ってることをちゃんと聞いてくれる人だからだよね。そういうのってすごく……かっこいいと思う」
莉子ちゃんは、ちょっとはにかんだように言った。
「とにかく、ありがとう。じゃあ、また明日ね。空も、バイバイ」
莉子ちゃんは、トントンと軽やかに走っていく。
そうだよ、莉子ちゃんの言うとおりだよ。
みんなには、「笑われるかも、信じてもらえないかも」ってこわくて言えないことも、ハレくんたちなら、ちゃんと受け止めてくれるかもしれない。
じぶんの気持ちを、まずは、ハレくんたちにかくさないことがだいじなんだ。
――わたしも、一位になってみたいよ。
――でも、だめ。足がおそいから、ぜったいムリ……。
わたしが心に思ってること、思い切って打ち明けよう。
「あ、あのっ。運動会の目標なんだけどね」
四人が、いっせいにわたしを見る。
「わたし、借り人競走に出るんだけど。いっ、一位になれたらいいなって……」
「なんだよ、ちゃんと見つけてるじゃん。なんで、だまってたんだよ?」
ハレくんが、顔をのぞきこんでくる。
「い、言えなくて。わたし、足がおそいから。それに、運動会だけじゃない。ほかでも、一番になれたことがないから自信もない。わたしには、一位は似合わない気がして……」
「それはちがうだろ」
ハレくんは、人さし指でぐっと、わたしのおでこを持ち上げた。
「なれないんじゃなくて、本気でなろうとしないだけだ」
「ハレくんは、わたしでも一位になれると思うってこと?」
「オレに聞くな。空はどう思うんだよ? なりたいのか? なりたくないのか?」
「それは……」
ぎゅっと、ランドセルの取っ手をにぎる。
言って、わたし。言ってもだいじょうぶ。ハレくんたちなら、きっとだいじょうぶ。
「なっ……なりたい! わたし、一位になりたい!」
「じゃあ、なるぞ」
ハレくんが、力強く返してくれる。
そのたったの一言が、まっすぐ、わたしの心の中に入ってきた。
わたしが、一位を目指す――心の奥にしずんでいた気持ちが、引っ張り上げられた気がした。
ドクンッ。
あれ? なんか……。そっと、むねのあたりに手を置く。
「ここが、熱い気がする……」
「ほら。お前にもあるじゃん、熱くなる心」
じわじわこみあげてくるこの気持ちが、熱くなる心なんだ。
「これで、天気を晴れにできるの?」
「言っただろ、お前の気持ち次第だって。一位になりたいって目標をかなえるために、運動会を晴れにする。その気持ちが、深沢の願いをかなえることにつながるんだ」
「空ちゃん。決まってよかったね、すてきな目標だね」
「計画的にがんばれば、ちゃんと達成できる」
「おれも、すっごいたのしみ♪」
アメくんたちも、賛成してくれる。
「一歩前進だな」
ハレくんが言った。
たった一歩。でも、わたしにとっては、すごく大きな一歩。
心が動きだすって、こんなかんじなのかな。
夜雲さんの言うとおり、ちがうじぶんになれる、そんな気がしてきた。
第6回へつづく