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注目の最新シリーズ「お天気係におねがい! 運動会を晴れにせよ!」先行ためし読み連載 第2回

「神社に来る人間の願いをかなえるんだよ。というわけで、今すぐ雨をふらせろ」

「へっ⁈ ムッ、ムリ!」

 うでで、大きな×をつくる。

「そんなことできないよっ。わたし、逆にお願いしにきたのに……」

「だ・か・ら! 今はお前にしかできないんだって。つべこべ言わず――」

「ハレ、ちょっとしずかにしててくれる?」

 アメくんが、ハレくんを押しのけた。

「ぼくが教えてあげるよ、雨をふらせる儀式を」

「ぎ、ぎしき……? それって、わたしにできるの?」

「もちろんだよ。さっき、お願いしにきたって言ったよね。空ちゃんはどうして雨をふらせたいの?」

「それは……お花が大好きな友だちが、雨がふらなくてこまってるから、助けたくて」

「じゃあ、その友だちのためにがんばろう。だいじょうぶ、きっとうまくいくよ」

 アメくんは、ひろった石で、地面に手のひらと同じ印を描く。それから、「この印のまん中に立って」とわたしの手をとって引く。

「それじゃあ、両手を合わせて、目を閉じて。それから、友だちのために雨をふらせたいって思ったときの、やさしい気持ちを思い出して」

 やさしい気持ち? か、どうかは分からないけれど。

 かなしそうな顔の蘭ちゃんを見て、わたしもかなしくなって……。

 今朝の蘭ちゃんのしょんぼりした姿が頭に浮かんで、またむねが切なくなる。

「思い出したかな? じゃあ、こう言って。 〝雨よ、ふれ〟 って」

「雨よ、ふれ……?」

 言ってしばらくすると、足元の印が青く光りはじめた。そして、わたしの左の手のひらにも、足元と同じ印が光って浮き出る。

「なっ、なにこれ?!」

 ポツ――。

 とまどうわたしのほおに、つめたいしずくが落ちてきた。

 顔を上げて、目を丸くした。晴れたままの空から、小雨がふっている。

「……ウソ。これ、わたしがふらせたの? たまたまじゃなくて?」

「そうだよ。空ちゃんが、天気をあやつる力をつかって、ふらせたんだ」

 アメくんが、うれしそうな顔でうなずく。

 でも、ちょっとヘン。雨がふっているのは、なぜかわたしの周りだけ……。

「油断するなよ。まだカンペキに、願いをかなえたわけじゃない――きたぞ」

 ハレくんが、わたしのうしろを指さす。

 ふり返った空に、赤い竜巻が見えた。しかもこっちに、猛スピードで向かってきている。

「ここっ、こんどはなに……⁉」

「逃げずに、ふんばってたえろよ。二回も悪天蝶を逃がすわけにいかない」

 近づいてくる竜巻の中で、例の蝶がくるくる回っているのが見えた。

 逃げたらだめっていうか、足がすくんで逃げられない……。ぎゅっと目を閉じた。

「きゃあ!」

 わたしの体はすっぽり、竜巻の中に閉じこめられる。風はすごく強くて、熱い。

「あと少しのがまんだ!」

「少しって、なにが……‼」

 シュルルルルッ!

 目を開けると、赤い竜巻と蝶が、足元の印の中に吸いこまれていくのが見えた。

 風が、ぴたりと止む。足元の印は光ってないし、手のひらの印も消えている。

 何もなかったみたいに、しずかに小雨が……。

 ザアアアアアアアア!

 とつぜん、土砂降りの雨に変わった。

「あわわっ、ぬれちゃう!」

「パニックになってないで、鈴を拾うのを手伝えっ。建物の中に入るぞ!」

 みんなで鈴の破片を集めて、おさいせん箱のうしろの建物の中にかけこんだ。

「はあ、はあ……。なんで、こんな急に雨が? だいじょうぶなの?」

「これでいいんだ。悪天蝶を封印して、儀式を成功させた証拠だからな」

「ふ、封印? ただの蝶じゃないの?」

「悪天蝶は、オレたち天気の神さまの敵だ」

 ハレくんが、けわしい顔で言う。

「願いをかなえようとすると、どこからかあらわれてジャマをする。今回も、一週間前に雨をふらせてほしいって願いがあってから、異常なくらい天気を暑くしてジャマしていたんだ」

「ずっと暑かったのは、あの蝶のせいだったの? そんなこわいことができるんだ……」

「ほんとうは、地獄にしかいない蝶なんだけどな」

 ……今、ものすごーく不気味な言葉が聞こえたような。ううん、聞きまちがいだよね。

「だけど関係ない。悪天蝶がジャマしに来ようが、ほかにどんなトラブルがあろうが、失敗はゆるされない。もしも願いをかなえられなかったら、お前は死ぬ」

 衝撃の発言に、目が点になる。

「しっ……ウッ、ウソだよね? わたし、まだ小学生なんだよ?」

「年も関係ない。かなえられなかったら、神さま失格。お前もオレたちも、地獄に落ちる」

「聞きまちがいじゃなかった⁈ じっ、地獄って、あの世ってことだよね……?」

「あたりまえだろ。だから、死ぬんだ」

「そ、そんな! ああ……」

 ショックで頭がくらっとして、たおれそうになる。

 すかさず、ライくんが肩を持って支えてくれた。

「ハレ、おどすように言うな。不安になるだろ。……きみは、こわがらなくていい」

 ライくんに、しんけんなまなざしで見つめられる。

「俺が、きみを心配して守る。それが役目だから」

「なっ、なっ。そ、そんなこと言われるとはずかし……んごっ」

 とつぜん、ハレくんに口をふさがれた。

「しずかにしろ、客が来たぞ」

 いつの間にか、おさいせん箱の前に、ランドセルをかついだ男の子がいた。

 みんなで、姿が見られないように柱にかくれる。男の子は気づかないまま、おさいせん箱にお金を入れて手を合わせる。

「おれの名前は、深沢大地。お願いがあります!」

 あれ? 聞いたことある名前。そういえば、顔も見たことある……。

「あっ、深沢先ぱいだ。同じ学校の、六年生」

「知り合いか?」

「そんな話したことはないよ。でもよく、スポーツで表彰されてて有名だから」

 先ぱいは、パンパンッと強く手をたたいた。そして、大きな声でお願いごとを言う。

「六月六日の運動会の日を、ぜったいに晴れにしてください……!」

 そのときだった。床にある鈴の破片たちが、ぴかっと光った。

「今のはなに⁈」

「割れても、その力はあるのか……」ハレくんは、ぽつっとつぶやく。「今の光は、願いを引き受けたって意味だ。光ったらさいご、その願いごとは却下できない」

 ええ! そんな勝手に~!

 わたしの心の叫びも知らないまま、深沢先ぱいは何回もお願いする。そして元気よく、雨の中を走り去って行った。

 わたしは、ぷるぷるふるえがとまらなくなる。

「先ぱいのお願いをかなえられなかったら、じじじっ、地獄行き……」

「むずかしく考えなーい! 考えなーい!」

 フウくんが、すごーくむじゃきに笑う。

「そらりん、考えすぎだよ~」

「そ、そらりん……? わたしのこと?」

「もっちろん! ハレは、ハレハレで~。アメは、アメメで~。ライだけ、あだ名をゆるしてくれないんだよね」

「あたりまえだ、名前はちゃんと呼ぶものだ。それより、話がずれてるぞ」

「あ、そうだね。とにかく、お願いをかなえて、晴れにすればいいだけの話じゃん♪」

「そんなかんたんに言われても、ムリだよ~! その日がもし、ものすごい嵐になったら? 悪天蝶がめちゃくちゃジャマしてきたら? あわわわわっ……」

 あわてふためくわたしを見て、ハレくんが大きなため息をつく。

「はあ。この調子じゃあ、心の特訓が必要だな」

「今は、天気の話をしているんだよっ。心は関係ないよっ」

「めちゃくちゃ関係あるわ。天気の神さまは、いろんな心をつかって、天気をコントロールするんだ。心が、天気とつながっているからな。そして今、空の心も天気とつながっている」

「心が、天気と……? ごめん、よく分からない」

「空ちゃん。雨をふらせる儀式のとき、やさしい気持ちを思い出してって言ったよね?」

 アメくんがそっと、となりにならぶ。

「雨は、空ちゃんの『思いやる心』とつながっているからなんだ」

「晴れは、『熱くなる心』と」

「風は、『たのしい心』とつながってるよ♪」

「カミナリは、『ドキドキする心』とつながっている」

 ドキドキ……あっ。だから、わたしが落ちつけばカミナリも止むって言ったんだ!

「つまり、こういうことだ」

 ハレくんが、ぴんっと人さし指を立てる。

「心がめちゃくちゃだと、天気もめちゃくちゃになる。お前は落ちつきがないし、しっかり者にも見えないから、かなりヤバいことになる。願いをかなえられるかも、あやしい」

「それじゃあ、地獄に落ちちゃうってこと?! い、いやだ!」

「安心しろ。オレたちがつきっきりで、ビシバシ心をきたえて、ぜったいに成功させる」

「ほんと? それならよかっ……ん?」

 ほっとしかけて、あることに気づく。

「つきっきりって、ずっとそばにいるってこと? わたし、学校があるんだけど……」

「じゃあ、おれたちも学校に通っちゃえばいいよ」

 フウくんが、かるーく言う。えっ、なに言ってるの?

「見た目は小学生だからあやしまれないし~。たのしそうじゃん♪」

「めずらしくイイこと言ったな。オレ、賛成」

「そうだね。まったく同じ生活をすれば、空ちゃんのことをもっと知ることができるよね」

 ハレくんとアメくんまで! そんなの、ムリに決まってるよ~!

「だけど、どうやって通うんだ? そんなかんたんに、学校には入りこめないだろ」

 ライくんだけが、冷静に意見する。わたしも、こくこくっとうなずく。

「そうだよっ。勝手にそんなことしたら、先生たちにおこられちゃう――」

 がたんっ。

 うしろで物音がした。みんなで、いっせいにふり向く。

 かげからあらわれたのは……。

「や、夜雲さん! いつからそこに?」

「雨がふって、もどってきたんだ。空ちゃんこそ、どうしてここに? その子たちは……?」

 首をかしげて、とまどっている。

 この状況はごまかせないよ~。もう、正直に言うしか……。

「あ、あのね。信じられないかもだけど、この男の子たちは天気の神さまで……」

「天気の神さまだって? じゃあ、もしかして――」

 夜雲さんは、目を見開く。迫るようにハレくんに近づいて、まっ先に左の手のひらを見た。

「やっぱり! 神さまの印がある。それに、とても神さまとは思えない子どもの姿……。本に書いてある言い伝えは、ぜんぶほんとうだったんだ」

 夜雲さんは、すっかり信じて、感心すらしている。

 ハレくんが、パッと手をふりはらう。

「もう十分だろっ。分かったなら、はなせ」

「あ、ごめん。まさか本物に会えると思わなくて……。でも、どうしてこうなったの?」

「それがね……」

 これまで起こったことを、ぜーんぶ話した。

 夜雲さんはおどろきながらも、うんうんってちゃんと聞いてくれる。

「――なるほどね。特訓のために、空ちゃんといっしょに学校に通いたいと……。それなら、ぼくにいい作戦があるよ」

「ええっ、夜雲さん⁈」

 こまった顔になるわたし。一方、お天気の神さまたちの顔はパッと明るくなる。

「作戦ってなんだ? はやく教えてくれ」

「うん。あのね――」

「まってまって! わたしは賛成してないよっ」

 間に飛びこんで、あわてて止める。

「神さまたちと学校なんて……ぜったい、たいへんなことになる!」

「まあまあ。これはぼくの考えだけど、悪いことばっかりじゃないんじゃないかなあ」

 夜雲さんはしゃがんで、わたしに目線を合わせる。

「天気の神さまになれば、当然これまでの生活はがらりと変わる。でもそれって、じぶんを変えられるチャンスなんじゃないかな? 空ちゃん、たまに話してくれるよね。もっと、ちがうじぶんになりたいときがある。莉子ちゃんみたいに、テキパキした子になりたいって」

「それは……そうだけど」

「天気の神さまたちとの出会いは、じぶんを変えるきっかけになるかもしれないよ」

 そうかなあ? でも、夜雲さんに言われると、そんなふうにも思えてくる。

「ん~、ん~。いいこともあるなら、いいけど……」

「じゃあ、決まりだね。空ちゃんなら心配ないよ。作戦を話すね」

 夜雲さんの話を、ハレくんたちはしんけんに聞く。特訓のこと、本気なんだ。

 ごくっと、つばを飲みこむ。

 わたしの生活、これからどうなっちゃうんだろう?


第3回へつづく(7月4日公開予定)


書籍情報


作: あさつじ みか 絵: しそこんぶ

定価
858円(本体780円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323736

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