「莉子ちゃん、どうして持ってるの?」
「あ、あの。これは……つ、つくりなおそうと思って……」
「そうなんだ~、なくなったかと思ってびっくりしたよお」
ほっと、むねをなでおろす。
「あっ、それなら、いっしょにつくる? 柴くんたちみたいに、わたしたちも大きいてるてる坊主をつくろう!」
莉子ちゃんといっしょにつくるなんて、たのしそう。
でも、莉子ちゃんの顔は暗い。様子が、いつもとちがう。
「……ねえ、空の天気予報は当たるんだよね?」
ふるえる声で、そう聞かれた。
「運動会の日、このまま雨にならないかな。あたし、雨で中止になってほしいの」
びっくりしすぎて、わたしはかたまった。
莉子ちゃんはあわてて、両手をふる。
「あっ、ごめん。ヘンなこと言っちゃった。気にしないで。じゃああたし、用があるから」
早足でわたしの横を通って、帰ろうとする。
かたまってる場合じゃないよ。とっさに、莉子ちゃんの手をつかんだ。
「まって! わたし、ちゃんと聞くから!」
莉子ちゃんには、なにか言いたいことがある。それなのに、必死にがまんしているみたい。
このまま、知らないふりなんてできないよ。
「ハレくんほどたよりにはならないかもだけど、聞くよ。莉子ちゃんが言いたいこと、なんでも言って」
「空……」
莉子ちゃんは、ぐっとくちびるをかむ。しばらくして、ふっと息を吐いた。
「あのね、あたし……ほんとうは、リレーに出たくないの……!」
「えっ……」
「種目決めでお願いされたとき、ことわりたかった。でもことわったら、みんなと気まずくなるかもって思って言えなかった。だってあたし、転校してきて一年も経ってないし」
話し合いのとき、「女子は莉子ちゃんに決まりだよね」ってみんなに言われて、莉子ちゃんも「がんばるね」ってふつうに答えてた。なんにも、問題ないって思ってた。
「でもね、太陽くんの、柴くんに向かって言った言葉を聞いたとき、ものすごく後悔した」
「そうだったんだ……。でも、なんでことわりたいの? 莉子ちゃん、足速いのに」
「いやな思い出があるの。あたし、前の学校の運動会でもリレーに出たんだけど、バトンを落として負けちゃって……。みんなに、すごくがっかりされた」
莉子ちゃんが、顔をふせる。
「ちゃんと練習したんだよ? あたし、本番のプレッシャーに弱いところがあるから。失敗しないように、何回も何回も練習したのに……」
わたしは、思い出してはっとする。
「じゃあ、もしかして。合同練習のとき、顔色が悪かったのは……」
「うん、体調が悪かったんじゃないの。また同じ失敗をしそうでこわかったの。てるてる坊主をとったのも、つくりなおしたいからじゃない。あたしは、みんなみたいに晴れてほしいって思ってないから……運動会なんてきらい。晴れてほしくない……!」
初めて聞く、莉子ちゃんの弱音。
いつも、いろんなことを、なんでもないようにこなしているように見えてた。それがかっこよくて、うらやましかった。
でも、かげでだれよりもがんばってた。そして、傷ついてたんだ……。
「ごめん、ごめんね。空は一位を目指してがんばってるのに、こんなこと言って。あたしのせいで空がこまったらいやだから、言わないって決めてたのに」
莉子ちゃんは、泣きながらあやまる。
「いいんだよ、いいんだよ。莉子ちゃん、話してくれてありがとう」
莉子ちゃんの背中を、一生けんめいにさすった。
運動会をぜったいに、晴れにする。深沢先ぱいのお願いを聞いてから、ずっとそのためにがんばってきた。
でも、心にブレーキがかかる。
わたし、明日を晴れにしていいのかな……。
第12回へつづく