おさいせん箱の前で、ハレくんは晴れの印を地面に描く。
「まずは、少しずつの範囲から晴れにしよう。よし、できた。入っていいぞ」
マンホールくらいの大きさの印の中に、ひょいっと飛びこむ。
「さいしょに、頭の中で、空が晴れている様子をイメージするんだ。てるてる坊主の事件を、解決したときみたいな」
「分かった」
手を合わせて、目を閉じる。そして、あのときのきれいな空を思いうかべる。
「つぎに、どうして晴れにしたいのか、心のなかで言うんだ」
どうして晴れにしたいのか……。
深沢先ぱいの願いをかなえたいから。中島先ぱいと、最高の思い出をつくってほしい。
真央ちゃんにもお願いされたから。おばあちゃんと初めての運動会、たのしんでほしい。
足元と手のひらの印が、赤色に光りだす。
わたしも、借り人競争で一位をとりたいから。ハレくんたちとがんばってきたこと、運動会で証明したい。
そして、アメくんを助けたいから。アメくんの笑った顔が見たい……!
印の光が、ぶわっと大きくなる。
「なかなか、いいな。じゃあ、こうとなえろ。〝空よ、晴れろ──〟」
小さく、息を吸いこむ。
「空よ、晴れろ──」
はじめは、なにも起こってない気がして不安になった。でもしばらくして、気づく。
雨の音が、聞こえなくなった……?
「あっ!!」
目を開けて、おどろく。
わたしの周りの雨つぶが、空中でぴたっと止まっている。
「なにこれ。魔法みたい!」
「感動してないで、息とめてろよ」
「えっ? 息って……うわっ」
止まっていた雨つぶが集まって、一つの大きなうずになる。そして一気に、足元の印の中に吸いこまれていく。
わたしはしばらく、水の世界に閉じこめられて息ができない。
「ぷはっ! はあ、はあ、はあ……」
うずはきれいに消えて、やっと息ができる。ぬれた顔をぬぐって、空を見た。
黒い雲のすきまから、太陽の光がまっすぐわたしに向かっていた。
まるで、光のトンネルみたい。
「晴れた……」
ザアアアアアアアアアアア!
「うわっ! また雨がふってきた!」
太陽が雲にかくれちゃった!
「集中を切らしたからだっ。太陽が完全に出てくるまで、油断するな」
「ごめん。つい、うれしくなっちゃって」
「まったく。もう一度、だいじなことを言うからな。よく聞けよ。まず……」
ハレくんはこしに手を当てながら、儀式でやっちゃいけないことを説明する。
天気を晴れにするって、こんなにたいへんなことなんだ。
でも、ハレくんは、お願いされるたびにがんばってきて……。
「ハレくん、ありがとう」
ポロッと、気持ちが言葉に出た。
「な、なんだよ急に」
「晴れにするって、すごくがんばらなきゃいけないんだなあって。だから、すごく、ありがとうって言いたい気持ちになったの」
「あっ、あー……。えっと……」
なぜか、ハレくんがしどろもどろになっちゃう。
「だ、だから油断するなって言ってるだろっ。いいから、特訓つづけるぞ!」
「えっ? あ、はい!」
また手を合わせて、集中する。
みんな、まっててね。わたし、ぜったいに成功させるから。
第11回へつづく