
人気シリーズ『理花のおかしな実験室』作者・やまもとふみさんの新シリーズ『ノンストップ宣言!』
発売前に64ページもためし読みができちゃう!
中学1年のフツウの女子が、エリート男子校に転校することに……!?
ドキドキハラハラ、笑ってスカッとする、最高の学園ラブコメが始まる!
わたし、町家(まちや)ことは。名門中学校に転校することになっちゃった! しかも、『男子校』って、どういうこと??? 学校は食事も部屋も豪華だけど、校則を破ると罰金を取られる!? 友だちになった優斗(ゆうと)は罰金100万円で退学って、ぜったい納得できない!! わたし、校則を変えてみせる! 最高の学園ストーリー!
『ノンストップ宣言! わたし、エリート男子校に転校!?』
(やまもと ふみ・作 茶乃ひなの・絵)
10月8日発売予定!
※これまでのお話はコチラから
第5章 まぶしい世界でわたしひとり
そんな、あわただしい初日――手続きや案内だけで終わった一日がすぎて、わたしの東京栄正(とうきょうえいしょう)学園での生活が、いよいよ本格的にはじまった。
……のだけれど。
次の日の朝のホームルーム。
わたしは転校生として、クラスで自己紹介することになった。
教室にずらりと並ぶのは当然、男子ばっかり。
心臓が、バクバクする。
考えてきたセリフも、頭の中でぐるぐる回って、うまくまとまらない。
深呼吸して、なんとか声をしぼりだした。
「ま、町家(まちや)ことはです。よろしくお願いします!」
……声が、ちょっと裏返った。
教室はシン……と静まりかえって、ぴしっと制服を着こなした男子たちが、きちんとそろった姿勢で、無表情でこちらを見ていた。
え、なにこの圧(あつ)……。
手のひらにかいた汗を、そっと制服のスカートでぬぐう。
「町家さんの席は、あそこです」
大谷(おおたに)先生が指さしたのは、教室の真ん中あたり。
その少し前の席に、見覚えのある男の子が座っていた。
あ。
昨日、売店で会った、高砂理人(たかさごりひと)くんだった。
わたしが思わず立ちどまると、大谷先生はつづけた。
「ああ、そこの高砂くんが学級委員をしているので、何かわからないことがあれば、彼に聞いてください」
高砂くんはちらりとこちらを見て、ぴしっと姿勢を正したまま、かすかにうなずいた。
……知ってる顔がいて、ちょっとホッとした……かも。
わたしは小さく胸をなでおろしながら、自分の席へ向かう。
そして、わたしの席のとなりに座っていた子を見た瞬間、目を見開いた。
特徴的な、きれいな金色の髪(かみ)。
人なつっこい目をしていて、なんだか育ちの良い大型犬みたいなフンイキ。
昨日、ハンカチをくれた男の子——風間優斗(かざまゆうと)くんが、ニヤッと笑った。
「昨日は、あれからだいじょうぶだった?」
ひそっと話しかけられて、わたしは昨日の大変な事件(じけん)を思いだす。
苦笑いをしながら、うなずいた。
「えっと、なんとか。……ハンカチ、ありがと」
小声で言うと、風間くんはいたずらっぽく笑う。
その明るい笑顔を見るとちょっとだけ、肩の力が抜けた。
……でも。
授業が始まると、そんな安心感は、一瞬(いっしゅん)でふっとんだ。
「数学担当の松坂(まつざか)です」
一時間目は数学で、松坂先生はスラッとした男の先生。縁なしのメガネをかけていて、いかにも頭が良さそうだった。
先生が言うには、この学校では全員にタブレットが支給されていて、ノートも、ドリルも小テストも、全部それ一台ですませちゃうんだって!
松坂先生が黒板……じゃなくて、テレビみたいな大きなディスプレイだった! ——にタッチペンでサラサラと問題を書きこんでいくと、なんと、タブレットにそれが送られてくる!
「この放物線(ほうぶつせん)の式を答えなさい」とか、「この三角形の点の座標(ざひょう)を求めなさい」なんて、見たこともない問題まで、ふつうに出てくる。
先生が出した問題にタブレットで答えると、ディスプレイにはクラス全員の結果が映しだされていく。
うわあ、さっぱりわからない! 一問も解けないんだけど!?
「みなさん、きちんと予習してきてるみたいですね。結構結構(けっこうけっこう)」
よ、予習って何!? そんなの聞いてないよ〜〜!!
そう思っていたら、
「高砂、全問正解とかやべー」
だれかがささやき、全問正解!? と目をむく。
「まぁ、あいつ学級委員だし」
どういう意味だろ? って思っていると、風間くんがこそっと教えてくれた。
「学級委員は、クラスで成績が一番いいやつがなるんだよ」
うっわ、そうなんだ!
その風間くんも、すぐに授業に集中する。
さっきのほんわかしたフンイキとはうってかわって、キリッとひきしまった顔だった。
う、うわあ……ちょっとでもぼんやりしたら、置いていかれる!
二時間目は英語。
教室の前に立ったのは、金髪で青い目をしたオーストラリア出身のフレディ先生。
しかも、授業中は英語しか使っちゃダメ、というルールらしい。
「All right, let's start the class!(さあ、授業をはじめよう!)」
フレディ先生が、ニコニコしながら流れるような英語でそう言った。
えっ? って思ってると、先生は続ける。
「What's your favorite food?(好きな食べ物は?)」
すかさず、クラスのみんなが英語で答えた。
「Sushi!(すし)」
「Hamburger!(ハンバーガー)」
「Pizza!(ピザ)」
え、ちょっと待って!?
みんなふつうにしゃべれてる!? なんで!?
わたしなんて、「Hello(ハロー)」と「Yes(イエス)」くらいしか話せないのに! みんな、中一だよね!?
でも、ここでなにも言えないのはイヤだ。
せっかく転校してきたんだから、がんばらなきゃ……!
勇気を出して、手をあげる。
「マイ……フェイバリット……ふ、ふーど、いず……ライス……」
ええっと、なんていえばいいんだっけ?
うわっ、なんか変な空気……。
「ライスボール?」
先生がやさしくたずねてくる。
「い、いや、あの、ケチャップ味の、やつで……」
うまく言えなくて、声がしぼんでいく。
あ、日本語しゃべっちゃったし!
ああもう! なんで手をあげちゃったんだろ!
どこかから、くすっと笑い声が聞こえた気がして、わたしはうつむく。
あー、だまってればよかった!
「Hey!(ヘイ)」
そのとき、となりの席の風間くんが、立ちあがった。

「I like all kinds of food, but my favorite is the curry at our school cafeteria. It's spicy and super tasty──I eat it almost every week!(なんでも好きだけど、いちばん好きなのは学食のカレー! ピリ辛ですっごくおいしくて、ほとんど毎週食べてる!)」
まるで、ふだんから英語で話してるみたいな自然さ。
教室中が、「おおーっ、さすが」とざわめいて、わたしの失敗なんて、あっというまに忘れられていった。
……助かった。
わたしがホッとしたときだった。
風間くんが、ひょいっと身をかがめて、わたしにだけ聞こえる声でささやいた。
「Japanese ketchup rice is good too, right? ……ケチャップライスも、うまいよな。わかるよ」
えっ?
びっくりして顔を上げたときには、もう風間くんは、何事もなかったようにいすに腰かけていた。
わたしはというと、ただただ、ぽかんとしたまま。
――今の、もしかして……わたしへのフォロー、だったのかな。
なんかちょっとだけ、救われた気がした。
第6回へつづく(10月2日公開予定)
書籍情報
10月8日発売予定!
- 【定価】
- 858円(本体780円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046323521
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