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ものがたり

第6回 ことは、ピンチです! 新シリーズ『ノンストップ宣言! わたし、エリート男子校に転校!?』ためし読み

つばさ小説賞金賞受賞作『理花のおかしな実験室』作者・やまもとふみさんの新シリーズ『ノンストップ宣言!』が64ページもためし読みができちゃう!
中学1年のフツウの女子が、エリート男子校に転校することに……!?
くせが強い男子たちとドキドキハラハラの、最高の学園ラブコメ。おもしろさ保証!

わたし、町家(まちや)ことは。名門中学校に転校することになっちゃった! しかも、『男子校』って、どういうこと??? 学校は食事も部屋も豪華だけど、校則を破ると罰金を取られる!? 友だちになった優斗(ゆうと)は罰金100万円で退学って、ぜったいナットクできない‼ わたし、おかしな学校を変える! 笑えて、スカッとする、最高の学園ラブコメが始まる!



『ノンストップ宣言! わたし、エリート男子校に転校!?』
(やまもと ふみ・作 茶乃ひなの・絵)
好評発売中!



人物紹介


目次


※これまでのお話はコチラから

 第6章 ことは、ピンチです!


 英語の授業が終わるチャイムが鳴ったとたん、わたしは教室を飛びだした。

 と、とにかく急いでトイレに行きたい!

 じつは、授業中からずっと、ヤバかったんです。ガマンのゲンカイなんです!

 だけど、どれだけろうかを見まわしても、目に入るのは〈男子トイレ〉の表示ばっかり。

 うわああ、どうしよう……と、トイレの前でとほうにくれていたら、

「……どうした? もしかして、女子トイレの場所?」

 後ろに高砂(たかさご)くんがいて、話しかけてきた。

 ううう、ちょっとはずかしいよ〜〜。

 と思いつつも背に腹は代えられない!

 わたしが黙(だま)ってうなずくと、高砂くんが言った。

「女子トイレは急ピッチで作ってるよ。今は職員トイレと保健室が使えるけど、ここからだと保健室の方が近い」

 え、それ……最初に教えておいてほしかった!

「さっき、大谷(おおたに)先生が言ってなかったなって。すごく大事なことなのに」

「あ、ありがとう!」

 苦笑いする高砂くんに、お礼を言って、全力で——だけど走らずに一階までおりる。

「失礼します〜! トイレ貸してください!」

 やっとたどり着いた保健室のドアを開けると、白衣を着た、ふっくらとした女の先生がこちらを見て首をかしげた。

 名札には湯川(ゆかわ)って書いてある。

「あなたが町家(まちや)さんね? どうぞどうぞ」

 ホッとして、あわてて個室にかけこんだ。

 出てきて手を洗っていると、先生がニッコリ笑って言った。

「困ったことがあったら、えんりょなく言ってね。ひとりじゃ、心細いでしょ」

 やさしい声だった。

 ぎゅっと縮こまってた胸のあたりが、ふっとゆるんだ気がした。

 ああ、よかった〜! ここはわたしのオアシスだよ!


 なんとかピンチを乗りきったあとの、三時間目の理科の授業。

 なんと、校内にあるプラネタリウムを使った星座(せいざ)の勉強だった。

 って、学校の中にプラネタリウムっておかしいでしょ!?

 まるいドームに入ると、天井いっぱいに本物そっくりの星空が映しだされる。

 担当の前田(まえだ)先生——キリッとした若い女の先生だ——が星空を指し示して、問いかけた。

「この星の動きは、昔の人たちにはどう見えていたと思う?」

 プラネタリウムに、短い沈黙が流れる。

 その中で、すっと手をあげたのは、高砂くんだった。

「昔の人たちは、太陽や星が地球のまわりを回っていると考えていました。その考え方は、天動説(てんどうせつ)といいますが、あとから、地球のほうが動いていると考えたコペルニクスが、地動説(ちどうせつ)を唱(とな)えました」

 さらっと答えたその声が、静かなドームいっぱいにひびいた。

 天動説? 地動説? コペルニクス?

 なにそれレベルだ。

 すごい……すごすぎる……。

 感動と、あこがれと――でも、それ以上に、胸の奥に、じわじわと不安が広がっていった。

 うわあ……わたし、本当に、この学校でついていけるのかな……?


 そして……午前中最後の授業は、体育!

 体育ならそこそこ得意だったし、なんとかなるんじゃない?

 そう思っていたわたしの口は、授業がはじまったとたんにぽかん、と開いてしまっていた。

 体育館は、びっくりするほど広くてきれいだった。

 ピカピカにみがかれた床に、最新式のバスケットゴール。

 天井には大きな空調設備(くうちょうせつび)もあって、体育館なのに空気がさらっとすんでいるように感じる。

 しかも、二階には観客席(かんきゃくせき)まである!

 こんな体育館、テレビでしか見たことないかも……!

「今日の授業はバスケットボールだ。すぐにゲームを開始するから、準備運動が終わったら、くじ引きでチームを組んで」

 体育の先生は、鈴木(すずき)先生。ガッチリしたいかにも体育会系の男の先生だった。

 くじを引くと、わたしは第三ゲーム。ちょっとホッとしつつ辺りを見まわすと、体育館のおくでは、上級生たちがバレーボールをしていた。

 ネット際(ぎわ)でジャンプする姿も、スパイクを打つフォームも、あざやかでかっこいい。

 こっちもすごいけど、あっちもすごい。

 っていうか、ここって進学校だよね?

 なのになんで、運動までできるわけ!?!?

 体育館じゅうが、キラキラとまぶしい光で満ちているみたいだった。

 ホイッスルが鳴り、ハッとしたわたしはコートに目を戻す。

 そこではバスケットボールの第一ゲームが始まっていて、息をのんだ。

 みんな、動きが速い。

 ボールを受けとる動きも、パスを出すタイミングも、プロの試合みたいにきびきびしている。

 背の高い男子たちが、軽々とジャンプしてボールをつかみ、ドリブルで華麗(かれい)にコートをかけぬける。

 速い!

「ナイス!」

「いけ、シュート!」

 走るフォームも、シュートを打つ姿も、あざやかでかっこよかった。

 その中で、とくに派手で目を引いたのは、風間くんだった。

 パスを受けると、華麗なドリブルで相手をかわし、ものすごいスピードでコートをかけぬける。

 そして――

「いっけー!」

 と、楽しそうに叫びながら、ディフェンスをかわしてジャンプシュート!

 ボールがネットに吸いこまれると、コート中がおおっとわいた。

「ナイッシュ! 優斗(ゆうと)!」

 チームメイトとハイタッチを交わして、笑っている風間(かざま)くんは、まるで映画の中のヒーローみたいだった。

 さらに、高砂(たかさご)くんも活躍していた。

 ドリブルしながら冷静にコートを見わたして、パスコースを読む。

 受けとったボールを、ムダのない動きで味方にパスして、すぐに自分も走りこむ。

 チームの仲間を助ける縁の下の力持ち、そんなイメージだなって思った、次の瞬間。

 パスを受けとった高砂くんが、サッとジャンプすると、スリーポイントシュートを放った。



 ボールは、きれいな放物線をえがいて、リングの中心を通過した。

「ナイスシュート!」

 仲間たちの声が上がった。

 高砂くんは、べつにガッツポーズも見せない。ただ、静かにうなずいて、すぐ守備に戻っていった。

 クール。

 それでいて、カンペキ!

 うわ……高砂くんって、学級委員で、あんなに頭よさそうなのに、運動までできるの!?

 ショックに近いおどろきで、わたしは思わず立ちつくしてしまう。


 そして、わたしはというと。

 第三ゲームが始まってからというもの、ボールがほとんど回ってこない。

 さっき――思いきって、手を上げてみたんだけど、飛んできたボールは……速すぎた!

 びゅんっと音がして、ボールは手の先をすりぬけていって、遠くへ転がっていった。

 わたしは、ぽかんとその行方を見つめるしかなかった。

 その後からは、もう、いないものあつかい。

 声もかけてもらえないし、パスも回ってこない。

 かといってやさしいパスを投げてたら、ボール奪われるしね、しょうがない……。

 役立たず感がすごくて、同じチームの男子に申し訳なかった。

 わーん! 足、みごとに引っぱっちゃってるよ!

 みんな、真剣で、楽しそうで、かっこよくて、まぶしくて。

 でも、その光の中に、わたしは入れない。

 せめてじゃまにならないように。

 コートのすみで立ちつくしながら、わたしはふっと目をそらした。

 ああ、ここでは、わたし、必要ないのかも――。

 そんな気がして、胸がきゅっと痛くなった。


 針(はり)のむしろの上にいるかのような授業が、ようやく終わる。

 みんなは、仲間同士で声をかけあいながら、楽しそうに校舎へ戻っていく。

 そんななか、体育館のすみで座りこむわたしを、だれも気に留めることはなかった。

 やっぱり、女子ひとりで男子ばっかりの学校でがんばるのって、ムリがある気がしてきた。

 体力、ぜんぜんちがうし。

 体格もぜんぜんちがうし。

 ただでさえ、わたし、背が低いのに!

 うつうつとしていると、

「これ」

 ふいに声をかけられて、顔を上げる。

 そこにいたのは、高砂くん。

 高砂くんはわたしに、ペットボトルの水を差しだした。

「え、これって……」

「水分とってないなって、気になってた。飲んだほうがいい」

 ピンとのびた背すじが、なんだかまぶしかった。

「……ありがとう」

 わたしは固く閉じたキャップをひねり、水を飲む。

 かわいたのどに、水があまくしみこんでいく。

 さらに、ひからびかけた心にもしみわたっていく。

「……体育、ぜんぜんついていけなかった」

 つい、ぽろっと弱音が出る。

「なんか、すっごく足引っぱっちゃったし……体力ちがいすぎて、もう無理って感じ」

 なんとか笑おうとするけれど、やっぱり顔がひきつっちゃう。でも、

「きみなら、すぐついていけるようになるよ」

 高砂くんが、あっさり言った。

 さすがに、そんなことないでしょ!

 適当なこと言わないでほしい! と思っていると、 

「そういえば、部活、もう決めた?」

 え、なに? いきなり。

「え? あ……まだ……」

「柔道部(じゅうどうぶ)には入らないの?」

 えええ、柔道!?

 心に残る古い傷に触(ふ)れられて、わたしは顔をしかめる。

「いや、ムリだよ」

「でも、経験者だよね」

「やってたけど……やめたんだ」

「やめた? なんで?」

 高砂くんはちょっと眉をひそめる。

「わたし小さいし、体力もないから」

 そこまでで、わたしは口をつぐんだ。

 正直にいうと、あんまり思い出したくないことだった。

 体が小さくて、力が弱くて、試合で勝てなくなって、にげだしたっていう……ちょっと、苦い思い出だったから。

 そもそも、男子との体力のちがいを今、まざまざと見せつけられたばっかりなんだよ!?

 男子ばっかりの柔道部になんて、入るわけない!

 それになんで高砂くんが誘ってくるわけ!?

 でも、高砂くんは気にした様子もなく、肩をすくめた。

「そうかな。きみ、強いと思うけど」

「ど、どこが!?」

 高砂くんは答えずに、ふっと笑うと、静かに体育館をあとにする。

 その背中を見送りながら、わたしはふと思った。

 あれ?

 今のって、もしかして、はげましてくれたのかな?

 そう思ったら、さっきまで胸につかえてたモヤモヤが、フシギとすうっと消えていった気がした。



この後は、いよいよ生徒会副会長や会長が登場! ことはは大変なことに……!?
続きは、『ノンストップ宣言! わたし、エリート男子校に転校!?』を読んでね!


書籍情報

好評発売中!


作: やまもと ふみ 絵: 茶乃 ひなの

定価
858円(本体780円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323521

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