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ものがたり

第6回 ことは、ピンチです! 新シリーズ『ノンストップ宣言! わたし、エリート男子校に転校!?』ためし読み

人気シリーズ『理花のおかしな実験室』作者・やまもとふみさんの新シリーズ『ノンストップ宣言!』
発売前に64ページもためし読みができちゃう!
中学1年のフツウの女子が、エリート男子校に転校することに……!?
ドキドキハラハラ、笑ってスカッとする、最高の学園ラブコメが始まる!


わたし、町家(まちや)ことは。名門中学校に転校することになっちゃった! しかも、『男子校』って、どういうこと??? 学校は食事も部屋も豪華だけど、校則を破ると罰金を取られる!? 友だちになった優斗(ゆうと)は罰金100万円で退学って、ぜったい納得できない!! わたし、校則を変えてみせる! 最高の学園ストーリー!



『ノンストップ宣言! わたし、エリート男子校に転校!?』
(やまもと ふみ・作 茶乃ひなの・絵)
10月8日発売予定!



人物紹介


目次


※これまでのお話はコチラから

 第6章 ことは、ピンチです!


 英語の授業が終わるチャイムが鳴ったとたん、わたしは教室を飛びだした。

 と、とにかく急いでトイレに行きたい!

 じつは、授業中からずっと、ヤバかったんです。ガマンのゲンカイなんです!

 だけど、どれだけろうかを見まわしても、目に入るのは〈男子トイレ〉の表示ばっかり。

 うわああ、どうしよう……と、トイレの前でとほうにくれていたら、

「……どうした? もしかして、女子トイレの場所?」

 後ろに高砂(たかさご)くんがいて、話しかけてきた。

 ううう、ちょっとはずかしいよ〜〜。

 と思いつつも背に腹は代えられない!

 わたしが黙(だま)ってうなずくと、高砂くんが言った。

「女子トイレは急ピッチで作ってるよ。今は職員トイレと保健室が使えるけど、ここからだと保健室の方が近い」

 え、それ……最初に教えておいてほしかった!

「さっき、大谷(おおたに)先生が言ってなかったなって。すごく大事なことなのに」

「あ、ありがとう!」

 苦笑いする高砂くんに、お礼を言って、全力で——だけど走らずに一階までおりる。

「失礼します〜! トイレ貸してください!」

 やっとたどり着いた保健室のドアを開けると、白衣を着た、ふっくらとした女の先生がこちらを見て首をかしげた。

 名札には湯川(ゆかわ)って書いてある。

「あなたが町家(まちや)さんね? どうぞどうぞ」

 ホッとして、あわてて個室にかけこんだ。

 出てきて手を洗っていると、先生がニッコリ笑って言った。

「困ったことがあったら、えんりょなく言ってね。ひとりじゃ、心細いでしょ」

 やさしい声だった。

 ぎゅっと縮こまってた胸のあたりが、ふっとゆるんだ気がした。

 ああ、よかった〜! ここはわたしのオアシスだよ!


 なんとかピンチを乗りきったあとの、三時間目の理科の授業。

 なんと、校内にあるプラネタリウムを使った星座(せいざ)の勉強だった。

 って、学校の中にプラネタリウムっておかしいでしょ!?

 まるいドームに入ると、天井いっぱいに本物そっくりの星空が映しだされる。

 担当の前田(まえだ)先生——キリッとした若い女の先生だ——が星空を指し示して、問いかけた。

「この星の動きは、昔の人たちにはどう見えていたと思う?」

 プラネタリウムに、短い沈黙が流れる。

 その中で、すっと手をあげたのは、高砂くんだった。

「昔の人たちは、太陽や星が地球のまわりを回っていると考えていました。その考え方は、天動説(てんどうせつ)といいますが、あとから、地球のほうが動いていると考えたコペルニクスが、地動説(ちどうせつ)を唱(とな)えました」

 さらっと答えたその声が、静かなドームいっぱいにひびいた。

 天動説? 地動説? コペルニクス?

 なにそれレベルだ。

 すごい……すごすぎる……。

 感動と、あこがれと――でも、それ以上に、胸の奥に、じわじわと不安が広がっていった。

 うわあ……わたし、本当に、この学校でついていけるのかな……?


 そして……午前中最後の授業は、体育!

 体育ならそこそこ得意だったし、なんとかなるんじゃない?

 そう思っていたわたしの口は、授業がはじまったとたんにぽかん、と開いてしまっていた。

 体育館は、びっくりするほど広くてきれいだった。

 ピカピカにみがかれた床に、最新式のバスケットゴール。

 天井には大きな空調設備(くうちょうせつび)もあって、体育館なのに空気がさらっとすんでいるように感じる。

 しかも、二階には観客席(かんきゃくせき)まである!

 こんな体育館、テレビでしか見たことないかも……!

「今日の授業はバスケットボールだ。すぐにゲームを開始するから、準備運動が終わったら、くじ引きでチームを組んで」

 体育の先生は、鈴木(すずき)先生。ガッチリしたいかにも体育会系の男の先生だった。

 くじを引くと、わたしは第三ゲーム。ちょっとホッとしつつ辺りを見まわすと、体育館のおくでは、上級生たちがバレーボールをしていた。

 ネット際(ぎわ)でジャンプする姿も、スパイクを打つフォームも、あざやかでかっこいい。

 こっちもすごいけど、あっちもすごい。

 っていうか、ここって進学校だよね?

 なのになんで、運動までできるわけ!?!?

 体育館じゅうが、キラキラとまぶしい光で満ちているみたいだった。

 ホイッスルが鳴り、ハッとしたわたしはコートに目を戻す。

 そこではバスケットボールの第一ゲームが始まっていて、息をのんだ。

 みんな、動きが速い。

 ボールを受けとる動きも、パスを出すタイミングも、プロの試合みたいにきびきびしている。

 背の高い男子たちが、軽々とジャンプしてボールをつかみ、ドリブルで華麗(かれい)にコートをかけぬける。

 速い!

「ナイス!」

「いけ、シュート!」

 走るフォームも、シュートを打つ姿も、あざやかでかっこよかった。

 その中で、とくに派手で目を引いたのは、風間くんだった。

 パスを受けると、華麗なドリブルで相手をかわし、ものすごいスピードでコートをかけぬける。

 そして――

「いっけー!」

 と、楽しそうに叫びながら、ディフェンスをかわしてジャンプシュート!

 ボールがネットに吸いこまれると、コート中がおおっとわいた。

「ナイッシュ! 優斗(ゆうと)!」

 チームメイトとハイタッチを交わして、笑っている風間(かざま)くんは、まるで映画の中のヒーローみたいだった。

 さらに、高砂(たかさご)くんも活躍していた。

 ドリブルしながら冷静にコートを見わたして、パスコースを読む。

 受けとったボールを、ムダのない動きで味方にパスして、すぐに自分も走りこむ。

 チームの仲間を助ける縁の下の力持ち、そんなイメージだなって思った、次の瞬間。

 パスを受けとった高砂くんが、サッとジャンプすると、スリーポイントシュートを放った。



 ボールは、きれいな放物線をえがいて、リングの中心を通過した。

「ナイスシュート!」

 仲間たちの声が上がった。

 高砂くんは、べつにガッツポーズも見せない。ただ、静かにうなずいて、すぐ守備に戻っていった。

 クール。

 それでいて、カンペキ!

 うわ……高砂くんって、学級委員で、あんなに頭よさそうなのに、運動までできるの!?

 ショックに近いおどろきで、わたしは思わず立ちつくしてしまう。


 そして、わたしはというと。

 第三ゲームが始まってからというもの、ボールがほとんど回ってこない。

 さっき――思いきって、手を上げてみたんだけど、飛んできたボールは……速すぎた!

 びゅんっと音がして、ボールは手の先をすりぬけていって、遠くへ転がっていった。

 わたしは、ぽかんとその行方を見つめるしかなかった。

 その後からは、もう、いないものあつかい。

 声もかけてもらえないし、パスも回ってこない。

 かといってやさしいパスを投げてたら、ボール奪われるしね、しょうがない……。

 役立たず感がすごくて、同じチームの男子に申し訳なかった。

 わーん! 足、みごとに引っぱっちゃってるよ!

 みんな、真剣で、楽しそうで、かっこよくて、まぶしくて。

 でも、その光の中に、わたしは入れない。

 せめてじゃまにならないように。

 コートのすみで立ちつくしながら、わたしはふっと目をそらした。

 ああ、ここでは、わたし、必要ないのかも――。

 そんな気がして、胸がきゅっと痛くなった。


 針(はり)のむしろの上にいるかのような授業が、ようやく終わる。

 みんなは、仲間同士で声をかけあいながら、楽しそうに校舎へ戻っていく。

 そんななか、体育館のすみで座りこむわたしを、だれも気に留めることはなかった。

 やっぱり、女子ひとりで男子ばっかりの学校でがんばるのって、ムリがある気がしてきた。

 体力、ぜんぜんちがうし。

 体格もぜんぜんちがうし。

 ただでさえ、わたし、背が低いのに!

 うつうつとしていると、

「これ」

 ふいに声をかけられて、顔を上げる。

 そこにいたのは、高砂くん。

 高砂くんはわたしに、ペットボトルの水を差しだした。

「え、これって……」

「水分とってないなって、気になってた。飲んだほうがいい」

 ピンとのびた背すじが、なんだかまぶしかった。

「……ありがとう」

 わたしは固く閉じたキャップをひねり、水を飲む。

 かわいたのどに、水があまくしみこんでいく。

 さらに、ひからびかけた心にもしみわたっていく。

「……体育、ぜんぜんついていけなかった」

 つい、ぽろっと弱音が出る。

「なんか、すっごく足引っぱっちゃったし……体力ちがいすぎて、もう無理って感じ」

 なんとか笑おうとするけれど、やっぱり顔がひきつっちゃう。でも、

「きみなら、すぐついていけるようになるよ」

 高砂くんが、あっさり言った。

 さすがに、そんなことないでしょ!

 適当なこと言わないでほしい! と思っていると、 

「そういえば、部活、もう決めた?」

 え、なに? いきなり。

「え? あ……まだ……」

「柔道部(じゅうどうぶ)には入らないの?」

 えええ、柔道!?

 心に残る古い傷に触(ふ)れられて、わたしは顔をしかめる。

「いや、ムリだよ」

「でも、経験者だよね」

「やってたけど……やめたんだ」

「やめた? なんで?」

 高砂くんはちょっと眉をひそめる。

「わたし小さいし、体力もないから」

 そこまでで、わたしは口をつぐんだ。

 正直にいうと、あんまり思い出したくないことだった。

 体が小さくて、力が弱くて、試合で勝てなくなって、にげだしたっていう……ちょっと、苦い思い出だったから。

 そもそも、男子との体力のちがいを今、まざまざと見せつけられたばっかりなんだよ!?

 男子ばっかりの柔道部になんて、入るわけない!

 それになんで高砂くんが誘ってくるわけ!?

 でも、高砂くんは気にした様子もなく、肩をすくめた。

「そうかな。きみ、強いと思うけど」

「ど、どこが!?」

 高砂くんは答えずに、ふっと笑うと、静かに体育館をあとにする。

 その背中を見送りながら、わたしはふと思った。

 あれ?

 今のって、もしかして、はげましてくれたのかな?

 そう思ったら、さっきまで胸につかえてたモヤモヤが、フシギとすうっと消えていった気がした。



この後は、いよいよ生徒会副会長や会長が登場! ことはは大変なことに……!?
続きは、10月8日発売の『ノンストップ宣言! わたし、エリート男子校に転校!?』を読んでね!


書籍情報

10月8日発売予定!


作: やまもと ふみ 絵: 茶乃 ひなの

定価
858円(本体780円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323521

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