
人気シリーズ『理花のおかしな実験室』作者・やまもとふみさんの新シリーズ『ノンストップ宣言!』
発売前に64ページもためし読みができちゃう!
中学1年のフツウの女子が、エリート男子校に転校することに……!?
ドキドキハラハラ、笑ってスカッとする、最高の学園ラブコメが始まる!
わたし、町家(まちや)ことは。名門中学校に転校することになっちゃった! しかも、『男子校』って、どういうこと??? 学校は食事も部屋も豪華だけど、校則を破ると罰金を取られる!? 友だちになった優斗(ゆうと)は罰金100万円で退学って、ぜったい納得できない!! わたし、校則を変えてみせる! 最高の学園ストーリー!
『ノンストップ宣言! わたし、エリート男子校に転校!?』
(やまもと ふみ・作 茶乃ひなの・絵)
10月8日発売予定!
※これまでのお話はコチラから
第3章 救世主(きゅうせいしゅ)、あらわる!
「うぅぅ……理不尽(りふじん)だ……」
ぶつぶつ言いながら、しぶしぶ売店へと向かう。
ちなみに手持ちは、園長先生から〝おせんべつ〟にもらった三千円だけ。
できれば使いたくない。
けど、罰金(ばっきん)とかつけられるのはもっとヤダ。
きっとハンカチのほうが安いはず……。
そんなこんなで学校の売店に着き、とびらをそっと開けた。
中にはすでに数人の生徒がいて、どの子もお金持ちそうなフンイキ。
売ってる物もなんか……ブランドっぽいロゴとかついてるし!
「ハンカチ、一枚ください……」
ひかえめに言ったわたしに、売店のお姉さんは、「こちらにありますよ」と売り場を案内してくれたけど――。
「えっ、三千円!?」
うそでしょ、ハンカチに三千円!?
全財産飛んじゃうじゃん!
思わず固まっていると、売店にふわっと風が吹きこんだ。
と同時に、すぐそばに人の気配を感じて顔を上げる。
そこには、やわらかそうな金髪(きんぱつ)に、きれいな青い目をした男の子が立っていた。
あれ、この人さっき追いかけられてた人じゃない?
と思っていると、
「もしかして、忘れ物? おれ、予備持ってるから、一枚あげるよ?」
横から差しだされたハンカチに、びっくりする。
「え、でも、悪いし……」
「いいよ、安物だし。あ、ちゃんと新品だから!」
気軽な口調でそう言って、わたしにハンカチをおしつける。
「え……ありがとう……」
とまどいつつお礼を言うと、彼はニッと笑った。
つぎの瞬間(しゅんかん)、
「風間優斗(かざまゆうと)、そこにいたか!」
ものすごい勢いで、売店のドアがバーンと開いた。
そこに立っていたのは、眉をキリッと寄せ、制服をかちっと着こなした、身長百八十センチ以上ありそうな大きい男子だった。
あ、この人!
さっき校庭で見かけたあの人――東郷正義(とうごうせいぎ)さんだ!
すごい気迫にわたしが固まっていると、
「うわっ、見つかった」
金髪の男の子――風間優斗くんは、ギョッとして、そそくさと後ろの非常口からにげだそうとする。
だけど、
「風間優斗、止まりなさーいっ!」
非常口のドアが開いて、つぎつぎと黒い腕章(わんしょう)をつけた男子たちがなだれこんできた。
腕章には【警察委員会】の文字。
「また校則違反か、風間優斗!」
「今度こそつかまえるぞ!」
「わっ、こっちもかよ! ってかヒマだよな、おまえら!」
風間くんはちょっとあきれたようにため息をついたけれど、
「おれ、今すっごい名案思いついた!」
と言って、袋の中から黄色いものをひょいっと取りだす。……って、バナナ!?
彼はニヤッと笑うと、その場でぱっと皮をむいた。
え、なにしてんの!?
あぜんとするわたしの前で、彼はつづけざまに、ばくばくっ! とバナナを食べた。
そして――残った皮を、ひらりと投げた!
皮はくるくる回りながら、床に落下。
「ちょ、なんでそんなもの持ってるの!?」
わたしがギョッと叫(さけ)んだときにはもう、バナナの皮が道をふさいでいた。
いやいや、バナナの皮で逃げようとか、ありえないでしょ!
とか思ってたんだけど!
「そんなもんで止まるか――ぎゃあっ!?」
「うわっ! 足が! すべるっ!」
見事にひとり、またひとりと転んでいく警察委員たち。
マンガかってくらい、きれいにすってんころりん。
えっ、なんで効果あるの!?
その間に、風間くんはすかさず棚のすき間をすりぬけ、非常口へと走りだした。
そして、非常口の前でふりかえると、ドヤ顔で言った。
「バイバーイ♪」
だけど!
「待てっ!」
東郷さんが風間くんを追いかけて、わたしの前を猛(もう)スピードで横切った。
わっ、危ない!
その瞬間、反射的に体が動いた。
左肩をとらえて、右足で相手のかかとを外側から軽く引っかけるようにして、体ごと一気に倒しにかかった。
バランスを失った彼は、勢いよく宙をまう。
ドスン!
「…………え!?」
わたしの目の前で、東郷さんが、見事に床に投げ落とされていた。
うわああ、つ、つい、やっちゃった……!
全身が固まる。
昔やってた柔道の技。小外刈(こそとが)りだ。
もうやめていたのに、体が勝手に反応した。
投げられた東郷さんは、天井を見つめて、ぽかんとしていた。
「い、今の……なんだ……?」
「委員長が、転んだ?」
「いや、なんか宙にういたように見えたけど……」
ざわめきが売店の中に広がっていく。
ヤバい、よりによって一番エラそうな人を……!
わたしは青ざめる。
「す、すみませんっ、だいじょうぶですか……!?」
わたしはあわてて頭を下げた。
どう考えても、まずい相手を投げてしまった!
そのとき、背後から落ちついた声がした。
「バナナの皮で、すべってしまいましたね」
……え?
顔を上げると、いつのまにかとなりに男の子が立っていた。
整(ととの)った顔立ち、きちんと着こなされた制服、背筋がしゃんとのびた立ち姿。
なんていうか、品がよい王子さまみたいなフンイキ。
彼は、投げとばされた東郷さんへと、そっと手を差しのべた。
「東郷先輩、だいじょうぶですか? 打ったところ、痛まないですか?」
「あ、ああ……たぶん、だいじょうぶ……だと思うが……」
混乱しきっていた東郷さんは、その言葉につられるように素直に立ちあがった。
東郷さんは柔道(じゅうどう)はやったことなさそう。
でも、結構(けっこう)しっかり体を打ったというのに、ピンピンしている。
ちょっとだけホッとした。
「良かったです。それなら今日は〝ちょっとした事故〟ということでよろしいですね? 彼女も巻きこまれただけだから、責任はないということで」
静かな、でも有無を言わせぬ口調だった。
東郷さんはまだ少しナットクいかない顔をしていたけど、すぐにうなずいた。
「わかった、それでいい」

そのやりとりを聞いて、ようやくわたしもホッとする。
ひえええ、セーフ!?
と思っていると、王子さまっぽい男子が言った。
「きみ……町家ことはさんだよね。東京栄正(とうきょうえいしょう)学園へようこそ。歓迎(かんげい)するよ」
「えっ……あ、ありがとうございます……」
な、名前なんで?
って思ったけど、胸についた名札……かな?
わたしもその男子の名札を見る。
すると高砂理人(たかさご りひと)と書いてある。
高砂くんは、わたしのほうを向いてふっと笑った。
なんだかその顔にほっとしてしまう。
だけど、直後、高砂くんはわたしのそばにすっと寄って、低い声でささやいた。
「きみ、柔道やってたよね?」
「……!」
わたしは息をのんだ。
やさしい声。
でも、その目は、するどい。
この人、ちゃんとわたしの動きを見ていた。
あの一瞬で、わたしがただの〝まぐれ〟で投げたんじゃないことを見ぬいていた。
その観察力に背筋がスッと寒くなっていると、彼はふっと息をついた。
同時に、彼のまなざしがゆるむ。
「それにしても、風間はまたか……」
あ、そういえば。
そのころには、もちろん風間くんの姿はどこにもなかった。
「……にげた?」
速くない?
「うん。あいつ、にげ足だけは、ほんとにすごいんだ」
高砂くんはやれやれといった顔で肩をすくめる。
「風間優斗は校則違反の常習犯(じょうしゅうはん)でね。すでに罰金額は五十万円を超えてる」
「ごじゅう……万!? なにをどうしたらそんなになるの!?」
「軽度の校則違反で一万から。中度で三万、重度になると一回につき十万になる。彼の場合は、ほとんどが軽度だけれど、頭髪違反(とうはついはん)、遅刻(ちこく)、教室への菓子の持ちこみと……まあ、とにかく回数が多くてね」
一万? 三万!?!? 十万!?!?
罰金額(ばっきんがく)に青ざめつつも、頭髪と聞いて、きれいな金髪が頭をよぎる。
「でも、彼の髪……違反なの?」
髪はきれいに整ってたから、つまり問題は色ってことになる。
「そめてないって証明(しょうめい)できていないからね」
「証明って……そめてなかったらできないんじゃ」
思わずつぶやいた言葉に、高砂くんは、
「アクマの証明だね。ないものを証明することはむずかしい」
と言って、ふっと考えこむ。
アクマの証明? ってなんだろう。
そんなことを思っていると、高砂くんは続けた。
「この学園、校則はきびしい。違反者は罰金がとられるし、反抗(はんこう)すると委員会が動く。今の警察委員会がそう。罰金を支はらわなければ、退学もありうる」
「ええ……じゃあ、さっきの風間くんは……?」
「そろそろ〝レッドカード〟かな」
わたしは一気に背筋が冷えた。
五十万円って、そんなのお金持ちじゃないとムリじゃん。
ここに通ってる子ならだいじょうぶなの?
いや、いくらなんでもそんなわけ……。
「……それって、生徒みんな、だまって受け入れてるの?」
「まあ、〝ルールはルール〟だから。守っていれば、罰金ははらわずにすむからね」
高砂くんは静かに答える。
まあ……そうなんだろうけど。
とは思ったものの、なんだかモヤモヤする〜!
この学校、思っていたよりずっと『変』かもしれない?
第4回へつづく(9月18日公開予定)
書籍情報
10月8日発売予定!
- 【定価】
- 858円(本体780円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046323521
つばさ文庫の連載はこちらからチェック!▼