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ものがたり

第2回 男子校なんて、聞いてません! 新シリーズ『ノンストップ宣言! わたし、エリート男子校に転校!?』ためし読み

つばさ小説賞金賞受賞作『理花のおかしな実験室』作者・やまもとふみさんの新シリーズ『ノンストップ宣言!』が64ページもためし読みができちゃう!
中学1年のフツウの女子が、エリート男子校に転校することに……!?
くせが強い男子たちとドキドキハラハラの、最高の学園ラブコメ。おもしろさ保証!

わたし、町家(まちや)ことは。名門中学校に転校することになっちゃった! しかも、『男子校』って、どういうこと??? 学校は食事も部屋も豪華だけど、校則を破ると罰金を取られる!? 友だちになった優斗(ゆうと)は罰金100万円で退学って、ぜったいナットクできない‼ わたし、おかしな学校を変える! 笑えて、スカッとする、最高の学園ラブコメが始まる!



『ノンストップ宣言! わたし、エリート男子校に転校!?』
(やまもと ふみ・作 茶乃ひなの・絵)
好評発売中!



人物紹介


目次


※これまでのお話はコチラから

 第2章 男子校なんて、聞いてません!


 「だ、男子校ってどういうことですかぁああああ!!」

 校長室に飛びこんだわたしは、机にのしかかる勢いで、目の前の校長先生につめ寄った。

 だけど、校長先生はのほほんとした顔で言った。

「いえいえ、男子校じゃありません。我が、東京栄正(とうきょうえいしょう)学園は今年から共学(きょうがく)になったんですよ」

「え?」

 あまりにあっさりした返答に、わたしは思わず間のぬけた声を出してしまう。

 校長先生は苦笑いしながら、机の上の書類をわたしに差しだした。

「とりあえず、この入学確認書にサインしてください。それで手続きは完了です。説明はそのあと、きちんとしますからね」

 言われるままにペンを取ってサインをすると、校長先生はコホンとせきばらいをして語りだした。

「えー、先日、とある方から多額のご寄付(きふ)をいただく代わりに、やや強引に――いえ、それは大人の事情(じじょう)なので省略(しょうりゃく)しまして、とにかく、四月から東京栄正学園は共学になりました」

 ……大人の事情って、なに?

「ただし、募集(ぼしゅう)を急にかけたせいか、今年の中等部女子の入学希望者はゼロだったんですよ。つまり、きみが第一号というわけですね。いやあ、記念すべき日だ! めでたいめでたい!」

「ぜんぜんめでたくないですからー!」

 思わずさけんだ。

 だってそれって、つまり名ばかりの共学ってことじゃん!

 実質、男子校じゃん!

「こんなのおかしいでしょ! ぜったい!」

 わたしは校長室を飛びだした。

「あ、ちょっと! 生徒手帳とか、カードとかわたすものが――」

 校長先生の声が後ろで聞こえたけど、ムシムシ!

 聞く余裕なんかあるわけない!

「女子ひとりとか! 聞いてないし!!」

 わたしはそのまま門へ向かって走りだした。

 とりあえず、いったん落ちつこう。そうだ、あのおばあさんにれんらくしなきゃ。

 西園寺桜子(さいおんじ さくらこ)さん。

 わたしにこの学校を紹介してきた、あのナゾめいた上品なおばあさん。

 わけわかんないこの状況について、説明してもらわなきゃ気がすまない。

「いくらなんでも、女子ひとりはないでしょ……!」

 学校のフンイキも、ルールも、今までとぜんぜんちがう。

 友だちなんてできるのかな。クラスでういたらどうしよう。想像すればするほど、心がざわざわしてくる。

「これじゃ、ほとんどサギだよ……!」

 わたしがちゃんと話を聞かなかったのも悪いけど、それにしたってひどすぎる。

 はぁ……とため息をついて、ポケットの中からスマホを取りだす。

「そうだ、れんらく用にってわたされてたんだった」

 画面をタップして、登録されている番号をおす。だけど……。

 ぷつっ。

「……え?」

 呼びだし音の途中で、切れた。

 え、なにこれ。

 もう一度おしても、今度はうんともすんとも言わない。

「新品のはずなのに、なんでこわれてるのーっ!」

 いかりと混乱がいっしょになって、わたしは思わず空に向かってさけんだ。

「条件が悪くたって、みんなのために、逃げるわけにはいかないのは分かってるけど……!」

 でも、これはさすがにあんまりだ。

「ほんと……あんまりだよ!!」

 わたしがやみくもにかけだした、そのときだった。

「ちょっと、きみ!」

 するどい声に立ちどまる。

 ふりかえると、かっちりしたスーツ姿の男の人がこっちにまっすぐ歩いてきていた。メガネにぴったり七三分けの髪型(かみがた)、いかにも〝お堅(かた)い大人〟って感じ。

「校内を走ってはいけません。校則違反です」

「え、えぇ!? あの、まだ入学したばっかで──」

「言いわけは結構(けっこう)。罰金(ばっきん)になります」

「……え、罰金? ってなに!?」

「言葉通りですよ。交通違反で警察につかまったら、罰金をはらったりするでしょう。あれです」

 はあ!?

「えええ、そんなの、学校でやっていいの!?」

「うちの学校は、保護者会(ほごしゃかい)で念入りに説明してますから、文句がある人は入ってこない……それにしても、あなた、口のききかたがなってませんね」

 ってこの人だれ。

 目をぱちぱちしていると、その人が名のった。

「わたしは教頭の山川(やまかわ)ですよ」

 どこかえらそうに言ったあと、じろりとわたしの手を見て、目を光らせた。

「あなた……もしかしてスマホを使おうとしてました? それも校則違反です」

 わたしはあわててスマホを背中にかくす。

「えっ、いや、でも、これこわれてるんで……」

「いえ、こわれているのではなく、学校エリア内では通話できないようにしてあります」

「そ、それじゃあ、スマホの意味がない――」

 文句を言おうとすると、先生の目つきがするどくなった。

「ところで、あなた、ハンカチ、持っています?」

「へっ?」

 なに? いきなり。

 わたしは冷や汗をかく。

 持ってきてない。

 って、もしかして……それも、違反、だったりするぅ!?

 青ざめたわたしの顔で察したのか、教頭先生はふっと笑った。

「ハンカチ不携帯(ふけいたい)——忘れ物も校則違反です。ですが転校してきたばかりですし、すぐに売店で購入(こうにゅう)すれば、さきほどの校則違反といっしょに今日だけは見逃しましょう」

「忘れ物!? そ、そんな理由で買わされるの!?」

 教頭先生はきっちりした七三分けの頭を手でなでつける。その手首で、高そうな時計がギラリと光る。

「〝身だしなみはエリートへの第一歩〟――これは本校の理念(りねん)ですので」

 ドヤ顔で言われても、ナットクいかない!

 でも、教頭先生は、ピシャリと指先で売店の方向を指した。

「では、早急に。売店はそちらです。どうぞ、校則違反の記録がつかないうちに」

 ええええ……!?

 入学早々校則違反とか、冗談(じょうだん)じゃないよ!





第3回へつづく


書籍情報

好評発売中!


作: やまもと ふみ 絵: 茶乃 ひなの

定価
858円(本体780円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323521

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